『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』(5月6日公開)と一緒に味わいたくなる。ボブ・ディランの息子でシンガーソングライターのジェイコブ・ディランを進行役に、1960年代ローレル・キャニオン周辺のフォーク・ロック・シーン、およびそれが現在の音楽会に及ぼした影響を、往年のフィルムや、現役ミュージシャンたちのレコーディング&ライヴ・セッションでたどってみようという気持ちのいい作品だ。

 実演シーンでは、ジェイコブに加え、ベック、フィオナ・アップル、キャット・パワー、ノラ・ジョーンズ、重鎮のスティーブン・スティルス、エリック・クラプトンらがフィーチャーされる。またインタビューではデイヴィッド・クロスビー、グレアム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウン、リンゴ・スター、ルー・アドラーらが登場。ジェイコブたちがレコーディング中、ふとビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが訪ねてきて、その瞬間、後進たちの体中から濃厚なリスペクトが発散される場面の、なんと生々しいことか。

 バンド内不倫でママス&パパスを追放されたミシェル・フィリップスが当時の奔放な恋愛事情について語ったり、ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』から受けた衝撃を何人ものミュージシャンが異口同音に説明したり、ロック好きなら「自分も収録現場にいたかった」と願わずにはいられない場面の連続。2017年に他界するトム・ペティもすこぶる元気だ。エンド・クレジットに出る“この映画を彼の思い出に捧ぐ”的なフレーズに、目頭が熱くなる。

 知り合って50数年になるが長いあいだ疎遠であるというスティーブン・スティルスとエリック・クラプトンのリモート・ツイン・ギター・セッションにも興奮を抑えきれなかった。個人的にはクラプトンの発言(有色人種やワクチンについて)にはまったく賛同できないのだが、なんだかんだいってもギターはとんでもなく絶品。「クラプトン、すげえ。なんでこんなに絶妙なニュアンスが出せるんだ」と興奮させられた。

 同好の士と一緒に見に行くと、朝までロック談議が止まらなくなるだろう。そんな魅力的な作品である。監督はアンドリュー・スレイター、5月27日から新宿シネマカリテ、ヒューマントラスト渋谷、アップリンク吉祥寺ほかで公開。

映画『エコー・イン・ザ・キャニオン』

5月27日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

出演:トム・ペティ、ブライアン・ウィルソン、リンゴ・スター、エリック・クラプトン、スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ジャクソン・ブラウン、フィオナ・アップル、ベック、ノラ・ジョーンズ、キャット・パワー、ジェイコブ・ディラン

監督:アンドリュー・スレイター 脚本:アンドリュー・スレイター、エリック・バーレット
2018年/アメリカ/原題:Echo in the Canyon/ビスタ/83分/5.1ch
日本語字幕:本田久乃 配給・宣伝:アンプラグド
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