アーティストが意図しただろう音を肌合いよく描くシンプルシステム。ATOLL 「 HD120」「MA100」／DYNAUDIO「Emit M10」【スマホで始めるオーディオ&ネット動画】

　1997年、ステファーヌとエマヌエル・ドゥブルーイユという兄弟によって設立されたフランスのオーディオブランドAtoll（アトール）。彼らが目指したのは、音質的に優れたハイエンドオーディオ機器を、リーズナブルな価格で提供すること。

　コンデンサー、抵抗、トランジスターと、各種部品を慎重に吟味しつつ、低フィードバックレート、配線長の最小化、内部保護など、スペックよりも品質すなわち音質重視の設計思想を明確に打ち出し、熱心なオーディオファンを中心に広い支持を得ている。

A4サイズの上質な外観に本格的内容を盛り込んだ

　ここで紹介するのはD/Aコンバーター内蔵プリアンプ／ヘッドホンアンプHD120と、ステレオパワーアンプMA100の組合せだ。いずれもA4サイズのスタイリッシュな外観が特徴的なAtoll Miniシリーズの一員だが、そのポテンシャルの高さは折り紙付きだ。

　HD120はアナログ入力のほか、光/同軸のデジタル入力と、パソコンあるいはスマホとの接続が可能なUSB Type B端子も装備した本格派で、デジタル入力は192kHz/24ビットまで対応。トランスを投じたリニア電源回路を備え、8基のレギュレーターで各ステージに安定した電源を供給する仕様だ。SBCコーデックでのBluetooth接続にも対応している。

　MA100も170VA容量のトロイダルトランスを投じたリニア電源を採用。MOS-FETによるプッシュプル増幅システムで、出力は60W×2（8Ω）を発揮する。またブリッジ接続によるモノーラル使用も可能だ。

自然体で落ち着いた音が新鮮。芳醇な響きも魅力的だ

　Lightning/USB Type B変換ケーブルを用意してiPhone 12ProとHD120を接続したところ、スマホ画面上に「Cannot Use Accessory This accessory requires too much power」の表示。そこで信号伝達とスマホへの電源供給が同時に行なえる「Lightning - USB 3」カメラアダプタに変更してみると、この現象は解消され、安定した伝送が得られた。ちなみにAndroid端末については、USB Type C / USB Type B変換ケーブルで問題なく接続することができた。

　ディナウディオの人気小型ブックシェルフスピーカーEmit M10で、そのサウンドを確認したが、威圧感がなく、素朴に、自然体で聴かせるという、落ち着いたサウンドが新鮮だ。特定の色づけを感じさせない、ニュートラルなタッチは、肌合いのいい綿の風合いに通じるもの。

　ドゥービー・ブラザーズ「Echoes of Love」（192kHz/24ビット）はよく弾み、躍動するサウンドが楽しい。細かな情報を根こそぎ拾い上げるようなタイプではないが、渋みのある芳醇な響きもなかなか魅力的。ただ必要以上に響きが拡がることはなく、音源の持ち味を素直に描き上げていく冷静さもあり、長時間、聴き続けてもまずストレスを感じることはないはずだ。

　過度な演出をしない音調であるため、聴き始めはやや大人しい調子に感じられるかもしれないが、これはいわばアーティストが意図する音。この特定の色づけのない、肌合いのいいサウンドこそ、アトールの真の価値と言っていいだろう。