オーダーメイドイヤホン、カスタムIEM(イン・イヤー・モニター/通称イヤモニ)メーカーとして知られるNoble Audioが「音質最優先」で開発した話題の完全ワイヤレスモデル、FoKus PRO(フォーカス・プロ)。コンセプトは「カスタムIEMを無線化する」こと。完全ワイヤレスの場合、どうしても音質面のハンディが伴ないがちだが、持ち前の技術、ノウハウによって、高級カスタムIEMと真っ向勝負できるサウンドクォリティを目指した。

 

本体と充電ケースは、落ち着いたマット調のブルーとブラック。本体外側は貝殻模様があしらわれている

TRUE WIRELESS EARPHONE
FoKus PRO
オープン価格 (実勢価格5万3,900円前後)

● 型式:完全分離式ワイヤレスイヤホン
● ドライバー:8.2mmダイナミック型ドライバー+バランスド・アーマチュア型ドライバー×2
● Bluetoothバージョン:5.2
● Bluetooth対応コーデック:SBC、AAC、aptX、aptX Adaptive(上限48kHz/24ビット)
● 連続使用時間:7.5時間(音量50%時)
● 付属品:充電ケース、ポーチ、イヤーピース(ノーマル:S/M/L、ダブルフランジ:XS/S/M)、充電用USBケーブル、ほか
● 問合せ先:Noble Audio Japan

 

 

ノイズキャンセリング機能はあえて割愛。音質最優先を貫く

 流行りのノイズキャンセリング機能はなし。これは内蔵アンプの負担が軽減され、同時にノイズを拾うマイクを搭載する必要がなく、音質優先の設計が可能となるため。防水機能についても、こちらも音質優先の設計とするため、採用が見送られている。

 外部からのノイズには無防備なのかと心配になるが、そこはカスタムIEMメーカーとしてこれまで培ってきた技術・ノウハウがものをいう。シェル形状自体で物理的な遮音性を高め、さらに膨大な耳型のデータを元に、耳の中にしっかり収まるような工夫が施された。

 いったん装着したら落ちにくい形状、重さに仕上げることで、周囲からのノイズを軽減するという考え方で、付属のイヤーピースもダブルフランジや横長のものなど、より耳の形状にフィットしたタイプが選べるようにしている。

 音源の伝送は、左右独立の高品質な伝送が可能な「TrueWireless Mirroring」。本機の場合、左右でひとつのBluetoothアドレスが共有できるため、ペアリングは1回で完了する。

 ちなみにコーデックは高音質のaptX HDや低遅延のaptX LLなどの技術要素を統合し、環境に応じて転送時のビットレートを自動可変させるaptX Adaptiveをサポートしている(最高48kHz/24ビット信号の伝送が可能)。

 ドライバーユニットは低域用ダイナミック型1基と、中・高域用バランスド・アーマチュア型2基を用いたハイブリッド構成。前者は8.2mm径マグネシウム・アルミニウム合金製の豪華仕様だ。

 

自分自身の耳の特性に合わせ込む。パーソナルモード搭載の専用アプリにも注目

 本機には専用アプリが用意されており、再生/停止/曲送り/曲戻しなどのタップ操作のカスタマイズが可能。また音楽ジャンルに合わせてプリセットされたイコライザーカーブを選び、好みの音質に切り換えて楽しむこともできる。

 さらに注目されるのが、ユーザーの聴力に合わせた音質補正機能だ。あらかじめ用意されたテストトーンをユーザーが確認していく作業を行ない可聴域と特性を測定。その分析結果に基づいてFoKus PROの再生特性を自動チューニングする機能だ。

 Aazon Musicからイーグルス、ジェニファー・ウォーンズなど聴き慣れた楽曲で、実際の効果を確認してみたが、微調整のレベルで最適化することもあって、音質傾向が劇的に変わるという印象はない。

 ただ何度か測定を繰り返すことでイコライザーの精度が高まるのか、声のニュアンス、アコースティックギターの響き、ベースのリズム感と、音楽の聴こえ方に変化が感じられるようになる。作成されたイコライザーカーブをさらに調整することも可能なので、じっくりと時間をかけて自分の好みのサウンドを見つけ出すのも楽しいだろう。

 

まずはお手持ちのスマホとペアリングしよう。FoKus PPRのLEDが、「片方が点灯、片方が点滅している」ことを確認したうえで、ペアリングする。写真はOPPOのReno5 Aとペアリングしている状態。「aptX Adaptive」コーデックでつながれていることが確認できる

 

高度なイコライジング機能が組み込まれたFoKus PRO専用アプリが用意されているので、ぜひ活用したい

 

プリセットモードは6種類用意されている

 

パーソナルモード測定中の画面。周波数ごとの信号が何回聞こえたか(あるいは聞こえなかった)かを、画面の指示に従って答えていく形で、最適な特製を図っていく流れだ

 

 

高級イン・イヤー・モニターに通じる静けさと低音の浸透力が圧倒的

 オッポモバイルの最新スマホReno5Aとの組合せで、Apple Musicから、ヴォーカル、ピアノ、オーケストラとさまざまな楽曲を確認してみたが、まず声のニュアンス、楽器の響き、そして空間の大きさ、厚みと、目の前に拡がる風景の見通しのよさに驚かされる。

 配信限定シングルとしてリリースされた宇多田ヒカルの「君に夢中」の再生では、かすかにリバーブがかった切ないピアノの旋律をていねいに描きつつ、微妙なゆらぎを感じさせる彼女の歌声が浮かび上がる。

 一定のレンジまで落ち着きのある地声で歌い、あるポイントでファルセットに変化するが、この歌声は息の成分が比較的多く、ややもするとノイジーに聴こえてしまうケースがあるが、このFoKus PROではそんな心配は皆無。

 中域、高域と、ザラつきのない澄んだ歌声がスムーズに拡がり、しかもストレスなく、縦横無尽に躍動する。その背景に重く、うごめくように拡がるバスドラが響くが、その低音についてもけっしてオーバーにならず、細かく震えるような声の響きを消してしまうようなことがない。ここまでの表現力を備え持った完全ワイヤレスも貴重だ。

 ワイドレンジ志向で、音のテイストはしなやか。反田恭平が弾くリストの「ラ・カンパネラ」。空間の静寂さ、スケールまで感じ取れるほどの高いS/N感にハッとさせられ、しかも厚く、繊細な響きが聴き手をやさしく覆い包むように拡がる。そしてペダルのリリース音がホール全体にズンと低く響く様子が実に生々しい。

 この静けさと低音の浸透力こそ、高級カスタムIEMだけが備えていた表現力に通じる音の世界だ。いま世の中には完全ワイヤレスイヤホンが数多あり、それぞれが独自の魅力、機能で競っている。そんな中、FoKus PROの特徴をひと言で表すのならば、「完全ワイヤレスイヤホンの常識、制約を超えたクォリティの音」と言っていいだろう。

 

ノーブルオーディオと深い協力関係にあるKnowles Electronics(1946年設立のアメリカ・イリノイ州にある大手メーカーで、バランスド・アーマチュア[BA]ドライバーの基本特許を持つ)製BAドライバー2基を中高域用に搭載、さらに低音用に8.2mm径マグネシウム・アルミニウム合金ドライバーを採用。この豪華な構成のマルチウェイドライバーを使い、著名なオーディオロジスト(聴覚学者・聴覚専門医)であり、「Wizard」(音の魔術師)とも呼ばれる、ジョン・モールトン博士が「音質最優先」で徹底的に音を磨いている点が最大の特徴だ

 

通勤・通学に使われるケースが多い日本は、電波状況が複雑になりがち。完全ワイヤレスイヤホンにとって、接続安定性の点で厳しい環境といえるが、日本で発売されているFoKus PROでは、新たなアンテナを搭載した特別仕様となり、電波が途切れにくくストレスなく音楽が楽しめる