今年1月開催予定の来日公演がコロナ禍で中止になり、気分が盛り下がっていた皆さんに朗報だ。

 と同時に、1980年代、日本人がまだ洋楽をごく普通に聴き、人気歌番組にも当たり前に来日アーティストが出ていた頃の、なんともいえない芸能の輝きを個人的に思い出し、「この時代の持つキラキラ感を、次世代にも疑似体験してほしい」と強く思った。そのとっかかりのひとつとしても、『a-ha THE MOVIE』は歓迎される一作といえるのではなかろうか。しかもこの2022年は、a-haの結成40周年にあたるのだ。

 数多くの代表曲を持つa-haだが、その頂点として圧倒的に光り輝いているのが、「テイク・オン・ミー」(1985年)だ。チャーミングなイントロ、空に駆けあがるようなヴォーカルのクリアな高音、甘く華やかなシンセサイザーの音色。どこをとっても、地球的な大ヒット曲になるために生まれてきたようなナンバーだが、この映画はもちろん彼らの“成功譚”だけを描いたものではない。メンバー3人の出会い、ユーライア・ヒープなど数々のロック・バンドからの影響、ひとりが子供の頃に肉親の不幸を経験していること、グループをまとめあげていくうえで必須だったポジションチェンジ(担当楽器の変更)などなど。ノルウェーから英国に渡ってからも、いきなりヒットを飛ばしたわけではなく、「テイク・オン・ミー」にしても、辣腕プロデューサーのもと、何度も何度もアイデアの変更が重ねられ、ようやく、世界のファンが知る、あの「テイク・オン・ミー」になっていったのだ。

 本人たちの予想をはるかに超えたに違いないヒット(ミュージック・ビデオの広まりともシンクロしていた)、アイドル~社会現象化していく過程。その中で3人の男たちが神経をすり減らしていく様子も細やかに描かれる。一度は解散という道を選んだ彼らが、2015年に再結成を決めて以降のステージングやリハーサルの模様も収められている。黙っていても80年代洋楽リスナーは観に行くだろう。だからぼくは次世代にこの映画を、a-haの存在を気に留めてほしい。コールドプレイやオアシスにも影響を与えたといわれる、今なおスタジアム・クラスでワンマンライブができるユニットがa-haなのである。

映画『a-ha THE MOVIE』

5月20日(金)より、新宿武蔵野館 ほか全国ロードショー

出演:モートン・ハルケット、ポール・ワークター=サヴォイ、マグネ・フルホルメン
監督:トマス・ロブサーム、アスラーグ・ホルム
2021年|ノルウェー・ドイツ|112分|16:9|ノルウェー語・英語・ドイツ語|5.1ch |レイティング:G
原題:A-HA: THE MOVIE|日本語字幕:大嶋えいじ|字幕監修:勝山かほる
配給:クロックワークス