音質だけでなく映像のS/N改善にも。

 オーディオビジュアル機器の生命線である電源。日本の場合、壁面に設置された商用電源のコンセントから100Vの電力を供給すれば機器は動作する。しかしながらオーディオビジュアル機器への給電は、ままならないことが多いのも事実だ。深夜帯は安定する電圧も夕方になると下降するケースもある。加えて問題となるのが、ノイズである。照明器具やエアコン、さらにはパソコンなど家庭内にあってもノイズ源はいたるところに存在する。とりわけ厄介なのがインバーター装置を持つ照明器具やエアコンである。また集合住宅では、自宅だけ気を付けていてもよそからノイズが舞い込んでくることもある。

 そうした電源事情を少しでも改善しようとオーディオビジュアル・ファンの中にはノイズの影響を受けづらい電源ケーブルを導入したり、アクティブ型の電源生成器やパッシブ型のノイズ抑圧製品を使用している人も多いことと思う。

 今回紹介するアイソテックのパワー・コンディショナーはパッシブ型のモデルだが、その内容はパッシブ型とは思えないほど手が尽くされたきわめてユニークなものである。同社は2001年クリーンパワーを作り出すことを目的に英国で設立された企業で、電源周りの製品開発に特化し、とりわけノーマルモードノイズとコモンモードノイズの除去に幾多の技術を盛り込んできた点に注目したい。

 

【アイソテック】IsoTek
パワーコンディショナー

V5 AQUARIUS
¥456,500 税込

● 入力電圧:AC100V、50/60Hz
● 出力電圧:AC100V、50/60Hz(入力と同一)
● 出力コンセント:IEC 3P×6系統、パワコン×1系統
● 出力容量:最大1600VA
● 出力電流:【高出力】IEC 3P/16A×2系統(各系統最大16A/2系統合計最大16A)【低出力】IEC 3P/6A×4系統(各系統最大6A/4系統合計最大6A)
● 寸法/質量:W450×H110×D350mm/9.22kg

 

V5 TITAN
¥770,000 税込

● 入力電圧:AC 100V、50/60Hz
● 出力電圧:AC 100V、50/60Hz(入力と同一)
● 出力コンセント:IEC 3P×3系統、パワコン×1系統
● 出力容量:最大1600VA
● 出力電流:3系統合計最大16A
● 寸法/質量:W220×H147×D350mm/12kg

 

 

 ここで言うノーマルモードノイズとは電源から回り込んでくるノイズで、コモンモードノイズは空間を飛び交うノイズを指す。ノーマルモードノイズの主なものは前述した家庭用の電気製品が発生するものであり、コモンモードノイズは昨今必需品となる携帯電話やWi - Fiなどの電波がもたらすもの。

 アイソテックでは、こうしたノイズに対するフィルターを自社で開発し、それぞれ「デルタフィルター」、「DCDフィルター」と呼んでいる。いずれも特許絡みの理由で組成や形状の詳細は明かされていないが、ノイズ除去に対する飽くなき探求心が生み出した種類の異なるコイルを用いたフィルターである。

 新製品のV5 AQUARIUS(アクエリアス)とV5 TITAN(タイタン)はともにコイル状のフィルターとコンデンサーを多用した構成で、入力電圧がそのまま出力電圧になる方式を取っている。したがって100Vを入力すれば100VのAC電源出力を得ることができる。また、一般的にパッシブ型はその回路を通過させると音の勢いがなくなると言われているが、彼らはそうしたネガティブな意見に真っ向から異を唱える。

 

上が6出力のV5 AQUARIUS。大電力用を2系統、小電力用を4系統備える。下が大電力用3系統の出力を備えるV5 TITAN。いずれの端子も独立したフィルターを搭載し、相互干渉を抑える工夫がされている

 

 

各出力に独立フィルターを備え、2種のノイズの低減を図る

 それではV5アクエリアスからその特徴について触れてみよう。本機は筐体の中に独立したフィルターを6個装備し、ふたつのブロックに分けて電力を出力する。前述したようにフィルターの詳細は不明だが独自の組成と特殊な形状のコイルが使われている。そしてこのコイルを複数個組み合わせてコモンモードノイズとノーマルモードノイズの低減を図っている。出力は6系統。そのうち4系統を電力容量の少ないソース機器用に、2系統を電力容量を多く必要とするパワーアンプなどの機器のために用意している。また6個のフィルターは出力ごとに独立しているため出力端子間の干渉が少ないことも特徴だ。

 さらにこのモデルでは過電流防止用に、それぞれリセットが可能な6Aと16Aのサーモマグネットヒューズを用いて安全性にも配慮されている。ここで使用されるヒューズは一般的な溶断型のものに比べて千倍以上の接触面積を持ち、抵抗値も少ない。その他、アイソテック独自のアダプティブ・ゲート技術を取り入れ、接続された機器の負荷を自動的に感知して電力消費量に応じたクリーンな電力の配分を可能にしている。

 内部配線材には銀メッキを施した単線の高純度OCC(銅)を採用。加えて耐熱特性に優れたフッ素系樹脂のFEPによる絶縁を行なって安全性を高めているほか、電流が通過する基板の銅箔を厚くするとともに最短配線を心掛けることで直流抵抗を低減して通過電流のロスを防いでいる。

 V5タイタンも、基本的な思想はV5アクエリアスと同様だが、こちらはパワーアンプやプロジェクターなど電力容量の大きな機器のために用意された。内部には3つの独立したフィルターが内蔵され、それぞれが3つの出力コンセントに対応している。出力端子には16Aの過電流防止型のサーモマグネティック・ヒューズを装備して安全性に配慮するとともに、回路基板やワイヤリングについても同様にエネルギーロスを防ぐつくりがなされている。V5アクエリアスとの違いは、いずれの出力コンセントからも同時に大電流が取り出せる仕様になっていることだ。

 

V5 AQUARIUS、V5 TITANどちらにもオリジナルの電源ケーブル(1.5m)が付属。取材時もこのケーブルを使用した

 

V5 AQUARIUSは本体下部(裏)にブレーカーを搭載。大容量出力端子は合計16A、小容量出力端子は合計6Aを超えるとそれぞれのブレーカーが落ちる仕組み。V5 TITANは本体背面に同様のブレーカーを搭載。合計容量は16Aだ

 

 

雑味が減り、音の透明感が増す。この効果は予想以上だ

 ここからはV5アクエリアスを使ってテストした印象からお届けしよう。比較の意味で汎用的なタップから電源をとった際とも比較してみたので、その違いを交えてお伝えしたいと思う。使用機材はパナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000ジャパンリミテッド、デノンのAVセンターAVC-X8500HA、スピーカーはモニターオーディオのPL300IIである。

 最初にプレーヤー、AVセンター共に6Aの容量を持つアイソテックで言うところの前段ソースコンポーネント用から給電してみた。試聴には情家みえのCD『エトレーヌ』。HiVi視聴室は電源事情も悪くないし、正直なところそれほどの違いは出ないだろうと高を括っていたが、汎用のタップをV5アクエリアスに代えると、細かい情報が浮き上がってきて響きが綺麗になる。ノイズの低減効果は予想以上で、背景が静かになることで情家のヴォーカルの息遣いもよく描き出すし、テンションも上がるようだ。アイソテックがその特徴として挙げる出力端子間の干渉が少ないことも、音の表情を引き締めているのだろう。

 次にプレーヤーはそのままでAVセンターを高電流用コンセントにつないでみた。電力の取り方を変えただけだが、全体にしとやかなイメージになる。音の描き出しがていねいになるといってもいいが、中低域に少し厚みが増し、ヴォーカルにも安定感が生まれた。

 それならばとV5タイタンも加えて、V5アクエリアスのソースコンポーネント用端子からプレーヤーの、V5タイタンからAVセンターの電源を供給すると、さらに輪郭のはっきりとしたサウンドを聴くことができた。キリっと攻める印象ではなく上質感も備わっている点で、こうした方法も有効である。コンディショナー内部の回路は同じでも、分けて給電するとよりニュアンスも豊かになる印象だ。いずれにしても汎用タップから給電した時に比べて、雑味感が減ったように感じる。透明感というか音の純粋さを得られる点がアイソテックのコンディショナーの魅力だろう。

 

おすすめの接続方法は?

V5 AQUARIUSをAVシステムに組み込む場合、上記のようなパターンが想定される。あくまでHiVi視聴室での試行の結果ではあるが、ディスプレイ、AVセンターは大容量用端子から、UHDブルーレイプレーヤーは小容量用端子から電源を取る形が望ましいのではないかとのこと

 

V5 TITANでもAQUARIUS同様に音質・画質の向上が感じられたとのこと。もともとの製品企画としてはパワーアンプ用とのことだが、上のように各種製品をつないでも問題なし。本文では特に音質向上に触れていただいたが、用途や必要端子数に応じて選び分けたい

 

 

ノイズ低減は映像信号にもプラス。明るさが増し、S/N感が向上する

 続いてレグザの有機ELディスプレイ48X9400Sを加えてAV視聴を行なってみた。使ったソフトは映画から『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』、音楽タイトルからエリック・クラプトンの『ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー』。いずれもUHDブルーレイである。

 最初にV5アクエリアスのソースコンポーネント用出力からディスプレイを含むすべての機器に給電してみた。汎用タップと比べて、まず変化が見て取れるのが輝度表現力のアップである。暗部における変化はさほどなかったが、明るさが増してS/N感の改善も認められる。

 次にディスプレイを高電流用コンセントから給電すると、違いは少ないものの輪郭が明瞭になり全体のトランスペアレンシーが上がったようなクリアーな映像になる。ノイズの低減効果は映像信号にもプラスに働くようである。またこの組合せでも音に変化が表れ、映画ソフトにおける効果音がしっかりするし、音楽ソフトではヴォーカルの表情が豊かになる。

 ここでもV5タイタンからすべての機器へ給電する方法も試してみたが、汎用タップとの比較では映像のS/N感がアップして絵に優しさが生まれ、音はダイナミクスが向上し厚みも増す。ただ、こちらは映像よりも音の変化量の方が大きかった印象である。

 最後にプロジェクターではどうなのか、HiVi視聴室に常設されているJVCのDLA-V9Rで試してみた。プロジェクターは電流容量が多いのでV5アクエリアスの高出力用とV5タイタンにつなぎ替えてチェックしている。

 最初にV5アクエリアスから給電してみると、S/N感の向上は直視型ディスプレイの時と同様。暗部階調の表現力が高まるという恩恵もあった。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に登場するアストンマーティンの塗色に反射する光や血色のいいフェイストーンを鮮やかに描き出す。続いてV5タイタンから給電すると、コントラストレンジ、ハイライトの伸び、暗部階調の表現力にわずかではあるが優位な点を見つけることができた。

 本レポートからも電源の重要性については充分に理解していただけたことと思うが、電源のコンディショナーは、あくまで使用する機器の動特性をサポートするものであって、積極的に脚色するものではないということを忘れないでほしい。

 電源事情は人それぞれなので、アイソテックのV5アクエリアスやV5タイタンを導入すれば必ず音質や画質が向上するという保証はないが、HiVi視聴室のような電源に関してケアされた場所でもこれだけの違いが出ることを考えれば、現状に満足できないオーディオビジュアル・ファンにとって、こうした製品は試してみる価値のある貴重な存在だと思う。気になる人はぜひ一度輸入元に問い合わせてみてほしい。

本体色の基本は本ページに掲載したシルバーだが、受注生産でブラックにも対応する

 

取材で比較用に使用したのは、写真の汎用的な電源タップ。いわゆる「OAタップ」と呼ばれるタイプだ

 

 

 

本記事はHiVi 2022年6月号に掲載されています