映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第75回をお送りします。今回取り上げるのは、Jホラーの新たな境地を開いた『N号棟』。心理的に追い詰められていくさまをぜひ、劇場の大スクリーンで、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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『N号棟』
4月29日(金・祝)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

 真夜中に誰もいない部屋から聞こえるざわめき。チャンネルが勝手に切り替わってしまうテレビ。何者からのメッセージのように、勝手に開閉をくり返すドア。

 2000年に岐阜県のある団地で起き、野次馬や警察、霊能者らを巻き込んで大騒ぎになったといわれる怪異現象に材をとったオカルト・ホラー映画。

 主演は『佐々木、イン、マイマイン』や昨年末公開の『成れの果て』で注目される新進女優・萩原みのり。彼女演じる詩織は元カレの啓太(倉悠貴)と真帆(山谷花純)にくっついて、啓太が卒業制作に撮影するというホラー映画のロケハンに出かける。

 廃墟だと思っていたその団地には何人かの女や男、子どもたちが暮らしていた。住人たちは詩織らを歓迎しようと食事会を開くが、激しいラップ音につづいて怪異現象が起こる。そして……。

 よくあるホラー映画だと思っていたら、直接のショック描写はそれほどでもない。POV(一人称撮影)方式の見せ場があるわけでもない。それよりも生と死の合間に落ちてゆく主人公たちの戸惑いがエロティックで、同時にたいへん気味が悪いのだ。

 「死の瞬間、ひとはこれ以上ない幸せを感じるのです。新しい世界があなたを待っているんですよ」

 住人たちをまとめるリーダーの女・加奈子(『淵に立つ』の筒井真理子)や、『富江』『クロユリ団地』などホラー映画の出演も数多い諏訪太朗の気色の悪いニヤニヤ顔も光っている。

 演出はTV「世にも奇妙な物語」の恐怖譚「ががばば」などで注目され、劇場映画『リトル・サブカル・ウォーズ~ヴィレヴァン!の逆襲』を発表した後藤庸介。

 今回も怪異団地の静けさをとらえるロングショットや暗がりでうごめくものなど、観る者の想像力に訴えかける描写が光っている。

 こう書くとそれに足を引っぱられるのが心配だが、クリストファー・リー主演の『ウィッカーマン』やアリ・アスター監督の『ミッドサマー』にも似たフォークロア的なニュアンスを感じるホラー映画。ネガティヴな個性が強みに思える萩原みのりの持ち味も最大限に活かされている。

映画『N号棟』

4月29日(金・祝)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

監督・脚本:後藤庸介
出演:萩原みのり、山谷花純、倉悠貴 / 岡部たかし、諏訪太郎、赤間麻里子 / 筒井真理子
配給:SDP
2021年/カラー/シネスコ/5.1ch/103分
(C)SPD

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