自分にとって最高の音楽鑑賞体験を与えてくれるアーティストのひとりがフランク・ザッパだ。さまざまな音楽の要素がグツグツと煮込まれて、開いたことのない扉へと案内してくれる。

 ザッパの名を聞くとすぐ、反射的に「ダンスに服はいらない」、「水を黒くしよう」、「シャリーナ」、「グレッガリー・ペッカリー」、「オー・ノー」等のメロディが頭をかけめぐる。英語ネイティブのひとにいわせると、ザッパは歌詞がメロディと同じように重要らしいから、自分はその魅力の半分しか味わえていないことになるのかもしれないが、それでも充分気持ちいい。ポール・マッカートニーやエルトン・ジョンみたいに、世界を魅了するようなロマンティックなヒット曲を持っていないザッパに、“俺にはヒットがない”と語る内田裕也が大いに惹かれて、唯一の来日公演(1976年)への橋渡しをしたのも、なんだかいい話だ。

 この映画は、まさしく“ザッパ一代記”。両親が記録好きだったのか、子供の頃の映像にも事欠かなかったようで、坊やザッパ、少年ザッパ、青年ザッパ、大人ザッパと、殻を破るように成長していく過程もわかりやすく描写されている。ロックよりも先に現代音楽に開眼したこと、歌って演奏するパフォーマーよりも作曲家志向であったこと、といった“ザッパのイロハ”も映像付きで説明されるとよりヴィヴィッドだ。

 自宅に保管されている無数のマスター・テープが映されると「これを全部聴いてみてぇ」と思い、断片的に挿入されるライヴ映像を見ると「この場所にいたひとは、なんて幸せなんだろう」とうらやましさを隠せなくなる。『俺たちは金だけのためにやっている』ジャケット撮影時のツインテール、ぜひ今のコスプレイヤーに再現してほしい。

 娘のムーン・ユニットをフィーチャーした(おそらくザッパ史上、最も売れたシングル)「ヴァリー・ガール」誕生の逸話も心暖まるし、あまりにも先鋭的なセンスを持っていたプロデューサーのトム・ウィルソン(サン・ラー、セシル・テイラー、サイモン&ガーファンクル、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド他も手がける)の動く姿を拝めたのも収穫だった。

 交流のあったキャプテン・ビーフハートやワイルド・マン・フィッシャー等への突っ込んだ描写は、今後の作品に期待したい。なにしろ大ザッパである。彼にまつわる映画など、100本あっても200本あってもいい。それほど掘りがいのある英知の持ち主が、フランク・ザッパなのだ。

 亡くなって今年で30年目、エブリデイ、オールウェイズ、フランク・ザッパなのだと声を大にして言いたい。監督はアレックス・ウィンター。4月22日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて公開。

映画『ZAPPA』

4月22日(金)よりシネマート新宿・シネマート心斎橋にて、ほか全国順次公開

出演:ブルース・ビックフォード/パメラ・デ・バレス/バンク・ガードナー/デヴィッド・ハリントン/マイク・ケネリー/スコット・チュニス/ジョー・トラヴァース/イアン・アンダーウッド/ルース・アンダーウッド/スティーヴ・ヴァイ/レイ・ホワイト/ゲイル・ザッパ

監督:アレックス・ウィンター/製作:アレックス・ウィンター、グレン・ジッパー/プロデューサー:アーメット・ザッパ、ジョン・フリッゼル/製作総指揮:ロバート・ハルミ、ジム・リーヴ、セス・ゴードン/編集:マイク・J・ニコルズ/撮影:アンゲル・デッカ/音楽:ジョン・フリッゼル
キングレコード提供|ビーズインタナショナル配給
2020年|アメリカ映画|128分|原題:ZAPPA
(C)2020 Roxbourne Media Limited, All Rights Reserved.