完全ワイヤレスイヤホンの登場は、巷の音楽聴取風景を一変させ、ポータブルオーディオの世界にも大きな変革をもたらした。

 そのような中、デジタルオーディオプレーヤー(DAP)の定番ブランドとして多くのファンを持つ、Astell&Kernから、ブランド初の完全ワイヤレスイヤホン「AK UW100」が登場した。

 そのリリースを見た僕は、「AK UW100」にかけるAstell&Kernの本気度に驚いた。完全ワイヤレスイヤホンの利便性も求めつつ、彼らが重視したのはズバリ音質で、ワイヤレス環境でも原音を忠実に再現することを一番のコンセプトとしているのだ。

完全ワイヤレスイヤホン
Astell&Kern「AK UW100」
¥39,980(税込)

Astell&Kernブランド初の完全ワイヤレスイヤホンとして登場した「AK UW100」。同ブランドの持つアンプ・オーディオ技術を存分に投入し、さらに、Bluetoothチップ内蔵のDACとは別に、専用の32bitDACを搭載することで、原音に限りなく忠実な再現を目指した仕様にまとめられている。

AK UW100の主な仕様
Bluetooth規格:Bluetooth V5.2
Bluetooth チップセット:QCC5141
搭載DAC:AKM AK4332ECB
対応プロファイル:HFP、A2DP、AVRCP
対応コーデック:SBC、AAC、aptX Adaptive
ドライバー:Knowles社バランスド・アーマチュア・ドライバー×1(シングルフルレンジ)
音圧レベル(SPL):94dB (1mW@1kHz)
再生時間:イヤホン単体約6時間、充電ケース併用時合計約24時間
充電ケース:USB Type-C(急速充電対応)、ワイヤレス充電
ファームウェアアップデート:OTA(Over The Air) ※「AK TWS」アプリ使用
質量:イヤホン本体約7g、充電ケース約65g
付属品:充電ケース、シリコンイヤーピース(XS、S、M、L、XL)、USB Type-C充電ケーブル

 「AK UW100」を解説するには、まずは開発体制から話さなくてはいけないだろう。その開発には、なんとDAP開発のメインメンバーがそのまま投入されているというのだ。開発フローも DAPと同じで、製品のデザイン、機構設計、ハードウェア回路、ソフトウェアの開発、さらにサウンドチューニングに至るまで、各パートの有能な開発者たちが参画している。

 それに伴い、「AK UW100」には、Astell&Kernが独自に開発したオーディオ技術が多数搭載されている。

 この部分で最初に伝えなくてはいけないのは、Bluetoothチップセット内蔵DACとは別に、独自のDACチップ(32bit)を搭載していることだ。それは、旭化成エレクトロニクスの「AK4332ECB」で、Astell&KernのDAPにも採用されるアンプ・オーディオ回路技術と組み合わされている。

 ドライバーには、Knowles製BA(バランスド・アーマチュア)をフルレンジ構成で1基搭載するが、製品開発時にいくつかの種類のドライバーを比較試聴した結果、最もバランスの良い音を聴かせてくれたのが選択理由とのこと。

 Bluetoothコーデックは、SBC、AACに加えて、次世代高音質コーデックのaptX Adaptive(96/24)に対応している。本コーデックは、転送時のビットレートの自動可変機能を持ち、クアルコム社製SoCチップ「Snapdragon 865」以降を搭載した「Snapdragon Sound」をサポートするスマホ等では、圧縮フォーマットながら最高96kHz/24bitの伝送に対応する。

 デザインについては、多面体で構築されたハウジングも魅力で、人間工学を適用し耳へのフィット感を高めている。また、ハウジング側面には静電容量式タッチコントロールによる再生指示操作やボリューム調整も可能だ。質量は片側約7g。

▲Astell&Kernらしい多面体を感じさせるハウジング形状

 ハウジング内部の構造は凝っており、独自のアコースティックチャンバーを搭載する。これは3Dプリンターを利用して成型され、長さと厚さおよび形状を変えながら細密にテストを行なって開発されたという。そのチャンバー内部にBAドライバーを配し、周囲の影響を排除する仕組みにしていると聞く。

 BAドライバー搭載のモデルでは、ドライバーとチューブ(音導管)を接続する構造を採用することが多いそうで、すると、ドライバーと鼓膜の距離が離れてしまう。そこで「AK UW100」はチューブレスとし、ノズルに最も近い位置にドライバーを設置することで、ダイレクトにドライバーの音を耳に届けることができるという。

▲「AK UW100」の分解図。BAドライバーは3Dプリンターにて成型されたチャンバーに封入されている

 また、1点興味深かったのは、この金額帯のモデルで採用が増えているアクティブノイズキャンセリング(ANC)は搭載せず、その代わりにパッシブノイズアイソレーション(遮音性)を高めていることだ。

 そして、最終的な音質の肝となるサウンドチューニングについては、AK製品のすべてを担当しているがチーフサウンドエンジニアが行なうなど、徹底的に音質を高める体制を敷いているのだ。

 その他の仕様としては、2台までのマルチポイントへの対応、通話機能、内蔵マイクを使い外音を取り込む「アンビエントモード」などを搭載。充電ケース併用で最大24時間の再生が可能で、ワイヤレス充電にも対応する(サードパーティ等のワイヤレス充電器も使用可)。

 また、左右独立受信方式を採用したQualcomm TrueWirelessミラーリング機能を備え、接続安定性にも気を使っている(同方式に対応するスマホを利用することが必要)。

 また、スマホやタブレットにインストール可能な独自開発の専用スマートホンアプリ「AK TWS」を使用すれば、プリセットEQの変更も行なえるし、イヤーピースは5サイズ分付属するなど、完全ワイヤレスイヤホンの訴求ポイントはそつなくこなしている印象だ。

▲専用アプリ「AK TWS」。イコライジングや外音取り込み時のレべル調整が可能

「AK UW100」のサウンドは透明感が高く、専用DAC搭載の恩恵を感じるハイエンドなもの

 ここからは試聴に入りたい。充電(収納)ケースは若干大きめ。ブラックのハウジングカラーにガンメタリックのパネルが装着される独特の多面体のハウジングが、Astell&Kernの製品らしさを主張する。これはファンにはたまらないだろう。

▲イヤーチップは5サイズを同梱する

 Mサイズのイヤーピースを装着して耳にはめ込む。同社によると、装着した後に、本体を後ろ回しに軽く捻ると、より完璧な着用感を得られるとのこと。確かに、この状態でのフィット感は優れており、何より外音が大きく低減したことに感心する。狙い通り、パッシブノイズキャンセリング能力の高さが聞き取れて嬉しくなる。

 近年の完全ワイヤレスイヤホンは、アクティブノイズキャンセリング(ANC)機能搭載モデルも増えてきており、ANC適応時の音質低下は最小限に抑えられているものの、それでも若干の質感低下は聞き取れる。そのような中、あえて搭載しないという選択をしたことを尊重したい。

 まずはAstell&KernがラインナップするDAPの中でトップモデルの「A&ultima SP2000T」と「AK UW100」を「apt X」で接続して、ビルボードチャートで上位の人気ポップアーティスト、エド・シーランのアルバム「=(イコールズ)」からトラック4の『Bad Habits』を再生した。

▲試聴には同じAstell&KernのDAP「A&ultima SP2000T」を組み合わせた

 まず感じ入ったのは、予想以上の音質だということ。なんという透明感の高い音だろう。クリアーで空間の見通しが良く、独自DACチップ搭載の恩恵を実際に感じ取れる、分解能がひじょうに高い音で、ボーカルのフォーカスや距離感の表現がソースに忠実だ。さらに印象的なのは低域の表現力で、分解能が高く立体的、だからエレクトリックベースやドラムの音がかなりハイスピードなこと。帯域バランスについては、中低域はアキュレイト方向で、高域はごくわずかに上げ少しエッジを立てた表現、聴いていて気持ちの良さも感じる音。

 続いて聞いたアデルの「Easy on me」(44.1kHz/24bit)の音も良質だ。この楽曲でも低域は音圧に頼らず分解能が高く、ベースの距離感や表現がソースに忠実。サウンドステージの表現も立体的で、頭内で上手にまとめられている。各楽器の出現位置もソースに対してアキュレイトである。この音場表現の良さは、マルチウェイのように特性を乱す要因が無い、シングルドライバーのメリットを感じる。

 次にaptX Adaptive対応のメリットを確認するため、そのコーデックに対応したスマホ「Xiaomi 11T Pro」を用い、エド・シーランの楽曲を改めて再生した。

▲スマホには、スナップドラゴン サウンド対応のXiaomi 「11T Pro」を組み合わせ、aptX Adaptive(96/24)のサウンドもチェックしている

 実質的にSP2000Tとの比較試聴となるが、帯域バランスについてはほとんど変化なし。そして情報量についてはごくわずかに向上しているようだ。積極的で面白みのある音色も同様で、充分にいい音と言えるが、比較すればスマホから再生した音は若干ノイズフロアが高く、ディテイルの線が太い印象もある。つまるところ、SP2000Tのトランスポートとしての再生能力が、スマホの高音質コーデックを上回っている印象だった。

 最後は、映画作曲家である、ジョン・ウィリアムズが自らベルリン・フィルを指揮した「John Williams:The Berlin Concert」(96kHz/24bit)からトラック15の『Throne Room & Finale[From "Star Wars:A New Hope"]』を再生した。

 サウンドステージも広く反響音もしっかりと聴こえてくる。打楽器のアタック感も良質で、曲途中からコントラバスなどの低域楽器も加わり一気に盛り上がる抑揚表現への追従力も確かなものだ。トランペットなどの金管楽器はシャープな表現でグランカッサやコントラバスは適度な重量感がある。現代的な描写力を持つハイファイな音作りだ。

 いかがだったろうか、SoCチップ内蔵DAC回路に頼らない独自高性能DACチップの搭載や、音質を最優先するため、あえてのアクティブノイズキャンセル機能の不採用(その代わりのパッシブノイズキャンセル機能の追求)、さらにDAPチームと同じメンバーが徹底した音質チューニングを実施するなど、「AK UW100」はカッティングエッジ(最先端)な内容と音の良さが大きな魅力だ。

 それにしても、これが初代モデルのレビューなのだから、その完成度の高さには驚くほか無い。筆者は、Astell&Kern登場時に感じた勢いのようなものを本製品から感じ取った。ちなみにだが、「AK UW100」はソース機器の性能を明からさまに音に提示するので、導入した(する)皆さんはぜひ、高品位なDAPやスマホを使っていただきたい。

提供:アユート