リアルアシストが輸入代理店を務める中国のケーブルブランド「HAKUGEI」、およびそのサブブランド「TACable」から注目の新作ケーブル――HAKUGEIブランドの「URIEL」(¥53,900税込)、TACableブランドの「AMBER」(¥10,900税込)――が発表された。ここではその2製品の最速インプレッションをお届けしたい。(Stereo Sound ONLINE)

 有線タイプのイヤホンは、ハイレゾ音源などのアナログ音声信号をそのまま伝送できることから、原理的にワイヤレスタイプのイヤホンよりも音質面で有利であり、音質にこだわる人には多く愛用されている。ラインナップも、安価なモデルから、デザインや音質にこだわった高級機、カスタムIEM(インイヤーモニター)と呼ばれるプロユース機まで、幅広い製品が登場している。そんな有線イヤホンユーザーの間で注目されているカスタマイズが、「リケーブル」だ。

 これは、イヤホンとポータブルプレーヤーを接続する“ケーブル”を交換することで、音質を自分の好みのものへとカスタマイズできるようになる。もともとは、イヤホンケーブルの断線などに対応するため、ケーブルを容易に交換できるよう着脱式としたのが始まりだが、社外メーカーからも交換用のケーブルが多数発売されるようになり、音質チューニングの手法のひとつとして普及している。今では、交換用ケーブルを発売するメーカーやブランドも数多くなってきている。

 今回紹介するのは、「HAKUGEI」、そして「TACable Powered by HAKUGEI」(以下、TACable)の交換用ケーブルだ。

リケーブル
HAKUGEI URIEL
¥53,900(税込) 4月23日発売

HAKUGEIブランドのハイエンドリケーブル。素材には、金メッキを施した銀線、パラジウムメッキした6N OCC線、銀メッキ銅線+シルバー合金という3種類の線材を用い、それらを組み合わせたハイブリッド仕様としている。コネクターは、今回テストしたカスタム2ピンのほかに、MMCXもラインナップする。プラグも2.5mmバランス、4.4mmバランス、3.5mmアンバランスを揃える。販売はフジヤエービックのみ。

リケーブル
TACable AMBER
¥10,900(税込) 4月23日発売

HAKUGEIのサブブランドで、主にエントリークラスの製品をラインナップする。今回テストした「AMBER」は、金・銀メッキしたOCC、および6N OCCを組み合わせたハイブリッドタイプの製品で、コネクターはカスタム2ピン、MMCXを揃える。プラグは交換式で、2.5mmバランス、4.4mmバランス、3.5mmアンバランスを同梱する。

 HAUGEIは2013年に設立されたケーブル専業メーカーで、徹底した品質管理体制を敷いた自社工場でケーブルを製造しているという。中国系をはじめとする、多くの高級ブランドへのケーブル供給実績も豊富と聞く。一方のTACableは、HAKUGEIのサブブランドであり、価格を抑えたエントリークラスの製品をラインナップし、より手軽にリケーブルを楽しんでもらうためのブランドとなる。

 試聴では、HAKUGEIの「URIEL」、TACableの「AMBER」ともに、用意された製品が、IEMで多く採用されているカスタム2ピンタイプのコネクターだったので、リアルアシスト取り扱いのTin HiFiブランドのフラッグシップ有線イヤホン「P2 Plus Commemorative Edition」(¥69,900税込)を組み合わせて、テストを行なった。

 そのTin HiFiは、2010年設立のZhongshan Dongting Electronics Technologyが展開するブランドで、もともとはOEM/ODM製品の製造から始まり、2017年に自社ブランドTin HiFiを立ち上げ、オリジナル製品の製造を開始した。今回お借りしたP2 Plus Commemorative EditionをはじめとするPシリーズ(平面ドライバーモデル)のほかに、ダイナミック型やハイブリッド型のTシリーズもラインナップしている。ちなみに、搭載ドライバーは独特な12mm平面式となる。

 まずは、P2 Plus Commemorative Editionの実力を確認すべく、付属ケーブル(2.5mmバランス端子)にて、手持ちのAstell&Kern「A&Ulitima SP1000」と組み合わせて聴いた。クルレンツィス指揮ムジカエテルナによる『チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」』の第3楽章では、音場が広く情報量も豊かなサウンドが奏でられ、かなりの実力を持つことが分かった。オーケストラの個々の楽器の音を粒立ちよく再現し、力強さもしっかりと出ている。比較的新しいブランドではあるが、実力の高さはなかなかのもの。あえて気になった点があるとすれば、個人的な好みからすると低音がタイトで、オーケストラの雄大さやスケール感がもう少し欲しいと感じたくらいだ。

 また、『Aimer/残響散歌』では、疾走感のあるイントロのキレ味や勢いの良さがしっかりと出る。パワフルなドラムスもやや細身ではあるがエネルギー感はあり、力不足な感じにはならない。ボーカルも厚みのある音像がくっきりと浮かび上がる。なかなかに聴き応えのある音だ。

 以下、このモデル(イヤホン)を使って、2種類のケーブルを交換しての音の違いを確かめてみた。

▲試聴に用いたリファレンス機器。プレーヤーはAstell&Kern「A&Ulitima SP1000」、イヤホンはTin HiFiの「P2 Plus Commemorative Edition」、4.4mm→2.5mm変換アダプターはddHiFiの「DJ44B」を使用した

TACable「AMBER」は、エントリークラスでありながら、かなりの実力。バランス端子など3種のコネクターも付属する便利な仕様

 まずは、価格も手頃なTACableの「AMBER」から。約1万円という手の届く価格のケーブルだが、線材はゴールド・プレイテッドのOCC(無酸素銅)、シルバー・プレイテッドのOCC、6N OCCの3種の線材を組み合わせたハイブリッド構造のケーブルとなる。安価ながら、なかなかに凝った作りだ。金色に輝く導体がきれいに編まれていて、質感もいい。見た目にも作りがしっかりとしているのが分かる。

▲プラグは交換式で下に掲載した3種類のプラグを同梱する

 また、大きな特徴として、プレーヤーとの接続端子部分が着脱式となっていることが挙げられる。「3.5mmステレオミニ(アンバランス)」、「2.5mmバランス」、「4.4mmバランス」の3種のアダプターが同梱されていて、プレーヤーに合わせて交換可能となっている。購入時に、自分が使っているプレーヤーの端子をいちいち確認しなくてもいいのはありがたい。

▲TACable「AMBER」のプラグは交換式で、2.5mmバランス、4.4mmバランス、3.5mmアンバランスを同梱。組み合わせるプレーヤーに合わせて自由に挿し替えられる

 まずは、イヤホンの付属ケーブルと同じ2.5mmバランス接続で聴くと、音場の広さやホールの響きもしっかりと再現した上で、個人的にもう少し欲しかった低音の厚みが増し、オーケストラの迫力がしっかりと出たことに感心した。低音が厚くなると、量感が豊かになる反面、低音域が膨らみすぎたり、低音楽器の音階が不明瞭になるなど、解像感や情報量が犠牲になることがあるのだが、このケーブルの低音は絶妙なバランスで、力強さや音の厚みを確保しながら、低音がダブつくようなことはない。ドロドロと不明瞭になりがちなティンパニの連打もキレ味よく、雄大で、しかもスピード感のある再現だ。

 Aimerもイントロのリズムはスピード感と力強さが両立し、実にエネルギッシュな演奏になる。声の音像も厚みがあって彫りが深く、ニュアンスもよく出る。低音から高音までの全域で、パワフルで情報量が豊かだが、かといってやり過ぎというか力任せな演奏にならず、弱音や力を抑えた演奏のニュアンスもしっかりと出る。

 アンバランス、バランスの接続端子に対応する利便性も含め、自分でも手に入れようかと思うほどの良い出来だ。

HAKUGEI「URIEL」は、質感の高さ、音色というよりも、音楽としての表現力が1ランク向上する印象。高級ケーブルにふさわしい実力を持つ

 次に、HAKUGEIの「URIEL」を聴く。HAKUGEIは、ハイエンドケーブルを擁するブランドで、こちらは約5万と高価なこともあり、線材もゴールド・プレイテッド・シルバー(シルバー925)とパラジウム・プレイテッド・OCC線(6N OCC)、シルバー・プレイテッド銅とシルバー合金、の3種を組み合わせたハイブリッド仕様というゴージャスさ。線材もより太くなり、品の良い青紫のシースのケーブルが編まれた作りも質感が高い。こちらは、試聴機のプラグが4.4mmバランス端子だったので、SP1000と接続するための変換アダプターとして、ddHiFiの「DJ44B」(¥5,590税込)を使用して、2.5mmバランス接続で聴いている。

▲収納ケースの装丁は凝ったもので、辞典にも見える豪華な仕上がり

 クラシックのチャイコフスキーを再生すると、音色やホール感の再現は、かなり生演奏を聴いている感触に近づいたと感じる。低音域はより厚みを増しているが、コントラバスの低音の音階が鈍るようなことはない。このあたりはHAKUGEIとTACableに通じる低音の質の高さだ。個々の楽器の音色、金管楽器と木管楽器の音の質感の違いなどもより自然かつ鮮明に描き出し、それらが一斉に音を出したときの音色の綾が美しい。

 これは試聴ではおなじみの楽曲で、聴きどころだけをかいつまんで聴くこともあるのだが、このケーブルではついつい第3楽章をすべて聴いてしまった。クライマックスを迎えた全奏による音のエネルギー感の高まりや主旋律の高揚感など、聴き惚れてしまうほどの素晴らしさだ。

 Aimerの『残響散歌』も素晴らしい。ぐっとボディ感を増したドラムスはパワフルだがキレ味は鈍らないし、声は目の前に居るかと思うほどリアル。ややハスキーな声質をありのままに出しながら、高い声の伸びも描ききる。この曲は低音がパワフルな音調のものだと、伴奏の楽器の音が混濁しがちになるのだが、「URIEL」ではパワフルな低音でありながら、その音の分離感や個々の音色のリアルさと熱気が見事。イヤホンの実力が1ランク上がったと実感できる素晴らしい音で、お気に入りの高級イヤホンの実力をすべて引き出したいと思う人には、ぜひおすすめしたい。

ケーブルの面白さを、ぜひとも一度試してみてほしい

 ケーブルでそこまで音が変わるのかと、疑問に感じる人も少なくはないだろう。しかし、ケーブルの音質への影響はかなり大きいし、試してみれば、多くの人は音の変化を実感できると思う。ただし、それが好みに合うかどうかは保証できない。必ず試聴して、好みに合う音の変化であることを確認することが大事だ。その点でも、HAKUGEI、TACableともに、厚みがあってしかも弛むことのない低音は、多くの人に好ましいと感じられるものだし、中高域も音色に強い個性をつけることがなく、好みによる差が出にくいとも感じた。

 強い個性のあるケーブルは好みも分かれるし、組み合わせるイヤホンとの相性も出やすいので、ハマれば最高だが、合わない場合は、価格の割に良くない……と感じてしまうこともあるだろう。そういう意味でも、今回試聴した2製品は使いやすいケーブルだと感じた。

 特にTACableは比較的安価なので、初めてリケーブルに挑戦しようという人にも試しやすく、その効果も実感しやすいと思う。