IIJ(インターネットイニシアティブ)では、4月19日まで上野の東京文化会館を中心に11会場で開催されている「東京・春・音楽祭2022」の全プログラム65公演のインターネット・ライブ配信を行っている。今回はそのために飯田橋にあるIIJ本社に配信センターを設置、昨日プレスに向けてその全貌が紹介された。

 同社ではこれまでも「東京・春・音楽祭」のライブ配信を担当しており、昨年の「東京・春・音楽祭2021」では上野の文化会館に配信センターや中継車を設置、現場でオペレータが収録・中継作業を行っていた。しかしそれでは人手やコストも増えてしまうことから、今回はより効率的な体制を整えたそうだ。

2021年と2022年の「東京・春・音楽祭」配信の流れ。昨年は配信センターを上野に設け、そこでスイッチングなどを加えた信号をインターネット回線経由でデータセンターに送っていた(上)。今年は上野の会場で収録した素材そのものをインターネット回線で飯田橋の配信センターに伝送している(下)

 今回のライブ配信では、各会場に設置するカメラは1台とし、その映像素材をインターネット回線でIIJ本社の配信センターへ伝送、オペレータがリモートで各会場に設置された機器の操作、音量調整、映像スイッチング、トランスコード(変換)などの中継作業を行っている。

 そこでのポイントは、カメラがリモートタイプで、事前にきちんと設置をしておけば、ライブ中は配信センターからアングルやズーム、さらには画面の明るさなども操作できるということだ。

 カメラはパナソニックの4K解像度のリモートタイプ「AW-UE100K」で、これにリモートアクセスサーバーとしてSEIL「X4」を組み合わせることで、現場ではLANケーブルをつなぐだけで遠隔操作が可能になるという。事前にシステムを構築しておくことで、現場での設置トラブルや時間のロスを抑えようという配慮だろう。

上野の会場に設置された4Kリモートカメラ(右)とリモートアクセスサーバー(左下)。会場にはレコーダー(左上)も持ち込んで、映像素材を録画している

 なお実際の配信の際には、各会場と配信センターのスタッフ間でコミュニケーションツール「slack」のチャンネルを使って、リアルタイムにやりとりすることで情報の共有を図ったそうだ。音声通話が必要な場合は「Teams」を使うなど、グループでの意思統一を常に心がけている。

 そうして収録した映像は、別ラインから提供される音声信号とカメラでミックスし(カメラの外部入力に音声信号をつなぐ)、インターネット回線を通じて放送センターに送られる。こうすることで映像と音声にずれがほとんど生じないので、リップシンクの調整といった手間も抑えられるようだ。

 その伝送では4Kクォリティと、バックアップ用のHD品質×2の3つのルートが使われている。まず4K映像+音声はフレッツのIPv6折り返し回線(30Mbps前後)で伝送、HD映像+音声は通常のインターネット回線と、LiveUのシステムを使ったモバイル回線となる(どちらも最大で15Mbps前後)。

4K+音声とHD+音声を3種類の回線を使って伝送している

 もちろん専用回線を使えれば一番簡単なのだが、それでは通信のためのコストがかさんでしまう。今回は配信の安定性と経費の最善のバランスを探すという狙いもあったようだ。ちなみに映像はH.265、音声はAAC256kbpsで圧縮伝送している。

 なおLiveUの伝送では送信機器を会場のどこに置くかでも転送レートが変わっていたそうで、上記のslackを活用して現場と配信センターで状態を確認しながら、最適な設置場所を探したそうだ。

 こうして送られた映像・音声信号に対し、配信センターで時間に合わせてタイトル画面を挿入したり、映像をモニターしながら4KとHD映像の切り替えを行うなどの処理を加えて、各家庭に向けて配信されることになる。

飯田橋の配信センターでは、信号の状態をモニターしながらスイッチング処理(左)を加えている。写真右が4Kカメラの操作用で、これ一台で4台のカメラのズームやパンニング、明るさ調整等が可能とのこと

 こうして制作された「東京・春・音楽祭2021」のライブ・ストリーミング配信は、PC、タブレット、スマホで楽しめる(アカウントの登録が必要)。対応ブラウザはGoogle Chrome、Firefox、Microsoft Edge、Safariなど(Internet Explorerは非対応)。

 説明会の会場にもMac miniを使ったシステムが準備されていた。映像はHDMI経由で有機ELテレビに、音声はMac miniからUSBケーブルでUSB DAC内蔵プリメインアンプに送って2chスピーカーで鳴らすという構成だ。

 65インチ画面に4K映像が再生されていたが、ソプラノの独唱シーンなどは緻密さもあって、彼女の衣装やピアノの光沢なども充分満足できるクォリティと感じた。

飯田橋のIIJ本社で、パナソニックの65インチ有機ELテレビや、B&Wのスピーカーを使って配信の内容を確認させてもらった。再生にはMac miniを、音声はソニーのUSB DAC内蔵プリメインアンプを使用

 なお今回の配信では、基本的にフィックスでステージ全体を捉えているが、アプリ上でユーザーが見たい場面をズームアップできる機能も準備されている。デジタルズームなので映像は甘くなるが、ピアノの指使いをじっくり確認したいという場合などには便利だろう。

 IIJでは、今回の「東京・春・音楽祭2022」ライブ・ストリーミング配信について、チケットの販売から撮影、配信まで担当している。さらに今後はこのスキルをブラッシュアップして、コンサートだけでなく演劇や芸能、勉強会などの配信パッケージとして提供していきたいと考えているようだ。

 「東京・春・音楽祭2022」については、4月19日まで毎日1〜2本のライブが配信されている。興味のある方はぜひ大画面で楽しんでみていただきたい。音楽祭の内容は関連リンクのサイトで確認を!(取材・文:泉 哲也)