本機は、超短焦点プロジェクター専用設計の電動立上げスクリーンで、両サイドからワイヤーで引っ張るタブ(サイド)テンション構造付きがセールスポンイト。高い平面性を確保することで、超短焦点プロジェクターでとかく問題視されることの多い歪みをスクリーン側で少しでも緩和できるよう配慮された設計だ。

 エリートスクリーン社は、米カリフォルニア州に本社を置き、全世界への販売ネットワーク構築、欧州とアジアにサテライトオフィスを持つプロジェクター用スクリーンの専業メーカーである。ちなみに販売は直販体制で、価格には配送費(126インチ以上)も含まれており、保証期間を2年としているところも頼もしい。

 では実機を見ていこう。素材の詳細は明らかにされていないが、同社では「スターブライトCLR」と命名されている。表面に多層光学構造(いわゆるレンチュラー)を施すことで、シーリングライト等の外光を95%除去したシルバー系スクリーンだ。裏地には黒系の硬質素材を採用することで光の透過をなくして優れた反射率も達成している。4Kはもちろん、アクティブ3DやHDR対応も謳う。視野角が180度と広いのも特徴だ。

 写真でわかるように、未使用時は金属製のキャビネット内にスクリーン面を格納しており、付属のリモコンにて電動での昇降が可能。駆動モーターは耐久性が高く、素早い昇降が可能なチューブモーター。さらに「シザーバック」クロススプリングメカニズムがその一助となって、正確な昇降を実現している。いっぽうで、指が挟まるなどのアクシデント発生時に緊急停止する機構も盛り込まれている。また、5〜12Vのトリガー入力も備えており、スクリーンの昇降とプロジェクターの電源の連携操作も可能である。

 

スクリーンの上部。両脇のワイヤーで横方向にテンションをかけ、平面性を高める仕組み。なお、スクリーンの左右にはブラックマスクはされていない

 

床に置いたスクリーンボックスから、電動でスクリーンが立ち上がるという珍しい仕様。昇降は付属リモコンで操作可能だ

 

 

テレビのように使うならば幕面周辺の照明を落とせばOK

 視聴にあたって使用したプロジェクターは、オプトマG1だ。その組合せでの第一印象は、とても明るく、平面性が抜群に高いというもの。ハイライトがピーンと素直に伸び、ディテイル描写も精密。色再現にも偏りがないようだ。

 全暗環境で観た4Kエアチェック『浮世の画家』では、屋内シーンで障子の枠に歪みがないことが確認できた。高い平面性の何よりの証である。オプトマG1の画質パラメーターがデフォルトでも広末涼子の顔色に違和感はないが、輝度を若干下げ、シャープネスも下げ、ガンマは「標準(2.2)」のままで色温度を「Warm」に変更したところ、暗部の見通しが向上するとともに、より良好な肌色が得られた。

 ここでリビングルームを模して、カーテンを引いた程度の照明の明るさに調光。すると画面に光が入り、暗いシーンでは暗部が浮いてしまって見えにくい。ただし明部は問題なく、屋外の紅葉も鮮やかだ。

 次に画面周辺は照明を消し、手元のみダウンライトを照らした状況では、全暗状態とさほど変わらない印象だ。屋内の暗い部分の奥行は見通せるし、暗部が浮いてしまうこともない。全暗にできない環境でテレビライクな使い方(見方)をしたい場合、画面周辺の照明を落とせば大いに使える。

 BD『ドライブ・マイ・カー』は「シネマ」モードで観た。SAABの赤いボディや夜の高速道路のトンネルを連続して抜けていくシーンを観ながら、デフォルト値から若干のイコライジングを試みた。具体的には、輝度を「⊖9」から「⊖11」、コントラストを「11」から「13」、シャープネスを「10」から「8」。ガンマは「フィルム」のままだが、これで明暗の調子や色再現が整ったように感じた。

 UHDブルーレイ『8K空撮夜景』を「HDR」モードで観ても、カメラが水平にパンニングする映像で高層ビル群が上下に揺れることがない。オプトマG1は元より歪みの少ない投写レンズを採用しているが、このケストレルテンション2CLRとの組合せでそのポテンシャルがいかんなく発揮された感じがする。レイボーブリッジの橋桁のライトアップの眩しさも充分に出ているし、海の水面の反射や波の様子もしっかり認識できる(手元に照明を残していても)。お台場付近の色とりどりの照明は実に鮮やかに映し出され、まったくストレスを感じなかった。

 サイドテンション機構付きの電動立上げ式の専用スクリーンが、この価格で導入できるのは吉報。超短焦点プロジェクターの価値を改めて見出だす機会をもたらしてくれるものとして、実に頼もしい相棒候補の日本市場デビューである。

 

ELITE SCREENS
ケストレルテンション2CLR
●幕面:スターブライトCLR
●寸法/質量:W2,505×H1,884×D200mm/32.56kg
●問合せ先:エリートスクリーンジャパン(株)

PROFILE
エリートスクリーンの電動立ち上げスクリーン「ケストレルテンション2」に超短焦点用の幕面「スターブライトCLR」を組み合わせたモデル。表面がレンチキュラーレンズになっており、下方向から入ってきた光(映像)を視聴ポジションへ反射してくれるいっぽう、天井からの照明の影響を受けづらい仕組みだ。同じ幕面を使った電動巻き上げスクリーンとして、「セイカータブテンション2 CLR」をラインナップ。タブテンション構造を採用して、平面性を確保することはケストレルテンションと同様で、100インチ(16:9)モデルは¥278,000 税込。張り込みタイプとしては、75インチ(16:9)モデルの「AEON CLR」が税込価格¥161,000で用意される 

 

 

エリートスクリーン主なラインナップ

スペクトラム
スタンダードな電動巻き上げタイプとして展開されるのが「スペクトラム」シリーズ。幕面は「マックスホワイトFG」(ピークゲイン1.1)と呼ばれるマットタイプが組み合わせられる。裏面をファイバーグラスで補強、平面性を確保できるよう工夫されているという。100インチ(16:9)モデルの税込価格は¥52,000

 

セイカータブテンション2
ホームシアターユースのハイエンドモデルとして位置づけられるのが「セイカータブテンション2」シリーズ。幕面の基本はPVC素材の「シネホワイト」(ピークゲイン1.1)で、100インチ(16:9)モデルの税込価格は¥235,000。両サイドからワイヤーでテンションをかけるタブテンション構造で平面性保つことが特徴だ。幕面を超短焦点用の「スターブライトCLR」とした製品や、「アコースティックプロUHD」(ピークゲイン1.0)という合成繊維織物によるサウンドスクリーンもラインナップする

 

 

 

※本記事は「HiVi」5月号に掲載されています。