ミュージックサーバー(NAS)の定番としてネットワークオーディオ愛好家に親しまれているDELA(デラ)の製品群。2021年12月1日に最新ファームウェア4.30がリリースされ、同社製サーバーのUSB DAC接続機能がRoon(ルーン)レディ対応となった。また、2019年12月発表のVer4.0では従来のトンキーメディアサーバーに加えてMinim(ミニム)サーバーのインストール機能が追加された。ここでは最新ファームウェアを実装したミュージックサーバーN1A/3を用いて、その使い心地等をリポートしてみたい。
その詳細をお伝えする前に、DELAがネットワークオーディオの世界でいかに重要な役割を果たしてきたかについて少し振り返ってみよう。
Music Server / Network Transport
DELA
N1A/3
¥198,000 税込(N1A/3-H30、HDD3Tバイト仕様)
●接続端子:LAN2系統(RJ45×2)、USBタイプB 5系統(USB2.0×1、USB3.0×4)
●サポートファイル形式(LAN配信):WAV、AIFF、FLAC、ALAC、DSF、DFF、AAC、MP3、WMA、OGG、LPCM
●サポートファイル形式(USB再生):WAV、AIFF、FLAC、ALAC、DSF、DFF、AAC
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:PCM・最大768kHz/32ビット、DSD・最大22.6MHz/1ビット
●寸法/質量:W436×H70×D352mm/約7kg
●ラインナップ:SSD2Tバイト(¥264,000 税込)、HDD6Tバイト(¥264,000 税込)
●カラリング:シルバー(写真)、ブラック
●問合せ先:バッファローサポートセンター TEL.0570-086-086
本格オーディオサーバーという新発想を生み出したDELA
ぼくは2008年にリンのクライマックスDSと汎用NAS(ネットワーク接続ストレージ)を購入し、輸入元のサポートを受けながらネットワークオーディオを始めたが、当初は問題続出だった。NASに新しい音源をコピーしたはいいが、データスキャンに膨大な時間がかかったり、いつまで経っても聴きたい音楽ファイルが操作画面上で見えなかったり。調べてみるとDSに罪はなく、ほとんどすべて汎用NASの至らなさによるトラブルだった。
そんな状況を劇的に改善してくれたのが、DELAのNAS(同社ではミュージックライブラリーと称している)のN1Aだった(HDDタイプ。同時に記録媒体にSSDを用いたN1Zも登場した)。コンピューター周辺機器大手のバッファローがDELAブランドを立ち上げたのが、2014年2月。N1A/N1Zはその第一弾モデルだった。
ぼくはクライマックスDSに音楽ファイルを供給するNASとしてN1Aを購入し使い始めたが、従来の汎用NASのような不穏な挙動がなくなり、ストレスなく快適にデジタルファイルが楽しめるようになったのである。真の意味でネットワークオーディオがぼくの音楽生活の中心になったのは、N1Aとの出会いからと言ってもいいだろう。
そして同年12月、DELAは革新的なファームウェア・アップデートを実現した。それが「USB DAC接続機能」の追加である。これによってN1AをDLNAレンダラー、つまりネットワークトランスポートとして活用できるようになり、当時お気に入りだったコード社の高級DACとN1AをUSB接続、リンが提供する操作アプリ「リン・カズー」を用いることで、クライマックスDSとは音調の異なるもう1系統のネットワークオーディオ再生が楽しめるようになったわけである。2015年にはリンがアプリ対応した高音質音楽ストリーミングサービスTIDAL(タイダル)に加入、ぼくのネットワークオーディオ生活は、いっそう豊かな色彩を帯びたものになったのだった。
その後、DELAのミュージックサーバーは世代を重ね、ラインナップを増やすことで多くのユーザーを獲得していくわけだが、2019年秋には入念な音質設計が施されたスイッチングハブS100が登場した。「ハブで音が変わる?」と半信半疑で従来使っていた汎用ハブと比較したところ、音の透明度やステレオイメージの向上が顕著となり、その音質向上ぶりに驚いたぼくは、すぐさまリスニングルームにS100を迎え入れたのだった。
S100を開発した同社エンジニアは、筐体剛性を強化し、独自設計のコンデンサーバンクを搭載して電源ノイズを抑制、転送品質の向上を徹底したと言う。通信機器周辺のローノイズ化を図ること、それがネットワークオーディオ高音質化のカギだということを強く自覚したS100との出会いだった。
Roon再生の魅力を実感。DELAでぜひ試してほしい
HiVi視聴室で最新ファームウェアを実装したN1A/3を用いてRoon再生を試してみた。RoonサーバーとしてMacBook Airを用意し、iPadに入れたRoonリモートアプリをコントローラーとした。N1A/3とUSB接続するのは、デノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1リミテッドである。
再生するのはN1A/3内蔵のライブラリーとTIDAL、Qobuz(クーバズ)音源だ。試聴日の数日前にIMAXスクリーンで観て音楽のすばらしさに感銘を受けたスピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』のサウンドトラックを探し出し、聴いてみた。
iPad上のRoonリモート画面で『ウエスト・サイド・ストーリー』の「ヴァージョン」をクリックすると、TIDALはMQA、QobuzはFLACでともにハイレゾファイルを用意していることがわかる。レナード・バーンスタインが書いた名曲を、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルがバーンスタインゆかりのニューヨーク・フィル(編註:一部LAフィルも参加している)を率いて、フレッシュで闊達な演奏を聴かせるこのサウンドトラック、それぞれを聴いてみたが、どちらも驚くほどの高音質で心が躍った。ドゥダメルならではというべきか、濃厚なラテン・フレイバーがそこかしこにまぶされ、観たばかりの映画本編を思い出しながら、陶然となって聴き惚れてしまった次第。
Roon画面上の「Gustavo Dudamel」の文字をタップすると、彼が振ったアルバムがズラリと表示される。その中からユジャ・ワンをソリストに迎えたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番をチョイス、ユジャ・ワンの超絶技巧に耳を奪われながら、今度は何を聴こうか? とアルバム・リストを眺める。すると次から次へと聴きたい演奏が出てきて、きりがない。
気分を変えて、最近改めてその魅力に気づいたマイケル・マクドナルド時代のドゥービー・ブラザーズの名盤『Livin' on the Fault Line(邦題:運命の掟)』(1977年)を聴いてみよう。Roon画面のヴァージョンを確認してみると、TIDALはMQA192k㎐/24ビットの、QobuzはFLAC192k㎐/24ビットのハイレゾファイルを用意していることがわかる。リマスタリングの巧さもあるのだろう、両ハイレゾで聴くこのアルバムは、ともにアナログLPで聴いた記憶を上書きする高音質が実現されている。
続いてその翌年に発表された『ミニット・バイ・ミニット』を聴き、音質は『運命の掟』が上だなとつぶやきながら、プロデューサーのテッド・テンプルマンの名前をタップ、すると彼が手がけたアルバムがズラリと表示される。この時代のウエストコースト・ロックをリアルタイムで聴き漁っていたぼくにとっては懐かしいお宝ばかり。その中からリトル・フィートやヴァン・モリソン、ニコレット・ラーソンの楽曲を次々にプレイ、しばし甘い追憶の時間を過ごした。
ことほど左様にRoonは危険な麻薬的魅力を持つ音楽再生・管理ソフト。どんなに締切原稿を抱えていても、音楽を聴くのが止められなくなるのだ。DELAのミュージックサーバーをお求めになった方は、最新ファームウェアをインストールして、ぜひ無料試用期間のRoonを体験してほしいと思う。
進化し続けるDELA
接続(Roon Ready再生)
接続(サーバーソフトの聴き比べ)
オーディオファンに向けて進化を続けるDELA
最後にN1A/3のライブラリー音源を用いて、新たにインストールしたMinimサーバーと従来のトンキーメディアサーバーの音質を比較してみた。短時間の試聴で音はどちらがいいかを決めるのは難しいが、たしかに音調の違いはある。Minimサーバーを用いたほうがワイドレンジで軽快、トンキーメディアサーバーは比較すると厚みと力強さを訴求する音調だと聴いた。
Minimサーバー採用の理由は、このサーバーを用いることを前提とした高級ネットワークプレーヤーが昨今増えたからとのこと。いずれにしてもDELAのミュージックサーバーが、多くのネットワークオーディオ・ユーザーにアジャストできるようになったわけで、これはさまざまなオーディオファンに向けて機能改善、仕様向上を続けているDELAらしい進化と言うべきだろう。
DELAの進化
DELAの現行ラインナップ(価格はすべて税込)
ミュージックライブラリー
ネットワークスイッチ(ハブ)
光ディスク(CD等)ドライブ
※そのほか、光LAN接続キット(OP-S100、OP-SFP)、Wi-Fiルーター(WMR-RM433W/A)、LANケーブル(C1AE)あり
【 本記事の掲載号は HiVi4月号 】