2020年9月、KEFは “MAT”(MetamaterialAbsorption Technology)と呼ぶ新技術を投入したブックシェルフ型スピーカー「LS50 Meta」をリリースした。MATは迷路のような構造を持つプレート状のデバイスを用いてスピーカーの排圧を逃すことで音の歪みを低減する技術で、LS50 Metaでは、その成果が結実した抜けのいいサウンドを獲得していた。

 この刮目すべき技術がいずれ他のモデルにも展開されるであろうことは容易に察しがついたが、このたび満を持して、同ブランドのトップモデル「Blade」と「THE REFERENCE」シリーズに搭載、一挙7モデルが発表された。この新世代スピーカーはどんなサウンドを聴かせてくれるのか、試聴前から気持ちの昂る取材が始まった。

理想の点音源再生を目指す「Blade」が、MAT搭載12世代Uni-Qの採用でさらに進化

225mmウーファー搭載の「Blade One Meta」(左)と、165mmウーファー搭載「Blade Two Meta」(右)

Blade One Meta ¥4,400,000(ペア、税込)
Blade Two Meta ¥3,300,000(ペア、税込)

「Blade One Meta」の主なスペック
●型式:3ウェイ5スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:25mmMAT搭載トゥイーター+125mmミッドレンジ・同軸Uni-Q、225mmウーファー×4
●再生周波数帯域(+-3dB):35Hz〜35kHz
●クロスオーバー周波数:350Hz、2kHz
●能率:88dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω(最低2.8Ω)
●寸法/質量:W363×H1590×D540mm/57.2kg

Bladeは本体カラー5色、Uni-Qの振動板が6色準備されており、それらの組み合わせから8種類の仕上げが選べる。この他に特色のオーダーも可能とのことだ

 Bladeは2009年に、それまでのKEFスピーカーにはない姿形を備え、かつ豊かなステレオイメージを再現するスピーカーとして誕生した。バッフル面を極力細くしたデザインは斬新だったが、他の同社製スピーカーと音の出方が異なる点に僕は少し戸惑った覚えがある。

 誤解のないように補足しておくと、僕はREFERENCEシリーズを始め、RシリーズやQシリーズの音が大好きである。Uni-Q同軸ユニットが音のフォーカス感を高めているし、カラレーションが少なく、それでいてよく歌う。LS50 Metaなどのコンパクトなスピーカーでも鳴りっぷりという点では申し分ないのだが、Bladeはこうしたモデルとはいささか趣が異なっていた。

 Bladeが目指したのは、全帯域を点音源にするという “Single Apparent Source Technology” の実現であり、同時により広く深い音場再現……ステレオイメージの獲得だ。そうした先取性を形にしたらBladeになったということで、そうでなければこんな画期的なデザインのスピーカーは生まれなかっただろう。

 そしてもうひとつBladeの特徴を挙げるとすればエンクロージャーに角がなく、どの面も曲線で仕上げられていることだろう。これは回析現象を抑えるとともに、音圧の平均化を狙ったもの。高密度のグラファイトとポリウレタン樹脂の複合材を用いて形状と塗色に対する自由度を得ている。

KEFサウンドをさらに進化させた、MAT搭載12世代Uni-Qドライバーとは

 「Uni-Q」は“原音再生”を目指すKEFのほとんどのスピーカーに搭載されているユニットで、トゥイーターをミッドレンジ/ベースコーンの音響中心部に配置した同軸型ドライバーだ。Uni-Qドライバーの第1世代は1988年に登場し、同社「C95」スピーカーに搭載された。

 以来KEFでは30年以上に渡ってUni-Qの改良を続けており、2018年には高域のレスポンスを改善した12世代ドライバーを開発、Rシリーズのフラッグシップモデル「R11」に搭載している。

 今回の新製品に搭載されたのは、12世代ドライバーにMATテクノロジーを組み合わせた最新仕様。ユニットの背面に取り付けられたMATデバイスがトゥイーターの背圧を吸収し、音の歪みを改善。背面リブの強化やトゥイーターギャップダンパーの再設計も行われている。

 MAT搭載12世代Uni-Qの搭載による各スピーカーの音の進化は潮さんが本文で紹介してくれている通り。その進化を自分の耳で体験したいという方は、KEFのサイトから試聴を申し込んでいただきたい。4月上旬から受付が始まる予定だ。

ドライバーの背面、図の一番下にあるのが、複雑な構造を持ったMATデバイス。トゥイーターから後に漏れる空気や音をこの部分で吸収する。MAT搭載12世代Uni-QにはMATの他にも様々な改良が加えられている

 ニューモデルの「Blade One Meta」「Blade Two Meta」は、中域と高域を受け持つUni-Qに、MATを取り入れた新開発12世代ドライバーを搭載した。ウーファーはそれぞれ前作と同じ225mm口径と165mm口径ユニットを本体側面に各2基、合計4機装備している。なおウーファーユニットは前モデルから変更されていない。

 12世代Uni-Qドライバーは、25mmトゥイーターと125mmミッドレンジで構成されており、この点も前モデルと同様だ。トゥイーターの振動板は硬化処理を施したアルミニウムを継承しているが、ギャップとダンパーの形状と素材を変更し、さらにバックスペースの拡大と形状の最適化を図って多孔質のリングを配置することで、MATの効果を最大限に引き出している。

 ミッドレンジ部についても、ボイスコイルのギャップに銅製のリングを埋め込み、インダクタンスの変化を抑えて高調波歪みの低減と能率の向上を促していることも大きな特徴だ。

 こうしたUni-Qドライバーの刷新に合わせて、ウーファーとのつながりを改善すべく、ネットワークも新規に設計されている。信号経路の最適化やパーツのグレードを高めるなど、改良できる部分はすべて手が加えられているそうだ。

 さらにBlade One Meta、Blade Two Metaで注目したいのが、本体のカラリングだ。あらかじめ用意された5色が選べる他、特色(パントーン・カラーサンプル)によるカスタマイズも可能。加えてUni-Qの振動板も6色から選べるので、世界にひとつしかない組み合わせを作ることもできるわけだ。

KEFスピーカーのベンチマーク「THE REFERENCEシリーズ」も、新たな次元に進んでいく

写真左から「Reference 5 Meta」「Reference 3 Meta」「Reference 1 Meta」

Reference 5 Meta ¥2,618,000(ペア、税込)
Reference 3 Meta ¥1,958,000(ペア、税込)
Reference 1 Meta ¥1,089,000(ペア、税込、スタンド別売)

3ウェイ5スピーカーの「Reference 4 Meta」と3ウェイ3スピーカーの「Reference 2 Meta」

Reference 4 Meta ¥1,122,000(1本、税込)
Reference 2 Meta ¥880,000(1本、税込)

「Reference 5 Meta」の主なスペック
●型式:3ウェイ5スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:25mmMAT搭載トゥイーター+125mmミッドレンジ・同軸Uni-Q、165mmウーファー×4
●再生周波数帯域(+-3dB):40Hz〜35kHz
●クロスオーバー周波数:450Hz、2.1kHz
●能率:88dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω(最低3.2Ω)
●寸法/質量:W323×H1402×D467mm/60.2kg

Reference 1 Metaのリアパネル。THE REFERENCEシリーズには大型のスピーカー端子が搭載され、中央のレバーでバイワイアリングとの切り替えも可能。バスレフポートは交換式で、部屋の広さに応じて長さを選べる

 続いて新REFERENCEシリーズも紹介しておきたい。ブックシェルフ型の「Reference 1 Meta」、フロアー型の「Reference 3 Meta」と「Reference 5 Meta」、センタースピーカー「Reference 2 Meta」「Reference 4 Meta」の合計5モデルがリリースされた。

 この中で意表をつかれたのが、Reference 2 MetaとReference 4 Metaだ。これまではセンタースピーカー用のラインナップだったが、縦設置すればブックシェルフスピーカーとしても使えるようになり、選択の幅と悩みの種が増えたといえるかもしれない。

 REFERENCEシリーズも、Bladeと同じくMAT技術を取り入れた12世代Uni-Qドライバーが全機種に採用されているが、Bladeとはチューニングが異なり、それぞれに最適な特性になるよう追い込まれている。なお、低域用のウーファーは前作と同じユニットだ。

 チューニングで興味深かったのが、クロスオーバー周波数だ。前作ではBladeが320Hz、REFERENCEシリーズは420Hzだったものが、それぞれ350Hz、450Hzに変更されたという。中高域のユニットの性能が上がればクロスオーバーは下げるのが一般的だが、この点について開発者に聞いてみたところ、「音のつながりを重視した結果で、物理特性だけでなく聴感を大切にしています」との答が返ってきた。

新製品の内部構造。左の「Blade One Meta」は筐体内に細かい区切りが複雑に配置されている。右の「Reference 5 Meta」はドライバーごとに個別のチャンバーに区切られ、不要な共振等を排除している

 逸る気持ちを抑えてBlade One Metaの試聴に臨んだ。最初にアデルのCD『30』をかけてみたが、中高域の歪感が減っていることがていねいな音の描写からもよくわかる。量感を湛えた安定感のあるサウンドだが、ヴォーカルの定位が前作より明快になっている。そして驚いたことに、耳の後ろまで音が拡がる。アルバムの音作りにもよるが、逆相成分をふんだんに盛り込んだトラックでは、2ch再生なのにサラウンド感のあるサウンドがたっぷりと味わえた。

 トニー・ベネットとレディ・ガガのデュエットアルバム『ラヴ・フォー・セール』では二人の姿が眼前に浮き上がるし、リズム楽器の切れがよくなっているのも嬉しい。クラシックでもS/Nの向上が認められる。ステージの広さもよく描き出すし、金管の音色にも艶がのる様子まで伝わってくる。全体のバランスが整って、ていねいに音を拾い上げる大人の味わいを持ったスピーカーに仕上がっている。

 次にREFERENCE 5 Metaのサウンドを聴いた。一聴して、このモデルも声の表情が豊かになっていることがよくわかる。クリアネスが高く明快な歌い方は、MAT搭載12世代Uni-Qドライバーの恩恵がもっとも現れている部分だ。無理をした感じがなく、のびのびとしていて、ひとつひとつの音を細かく描き出す。

取材は東京・有明にある「KEF Music Laboratory」で行った。ソースにはハイレゾファイルやCDを使い、アキュフェーズのセパレートアンプでスピーカーをドライブしている

 クラシック楽曲ではディテイル表現にも優れているし、一本筋の通った音になったといっていい。音場の描き方はBlade One Metaとは異なるが、いずれもていねいさという点では共通した部分があるように感じた。

 最後に聞いたブックシェルフ型のREFERENCE 1 Metaも、まとまり感があって、素直なサウンドを聴かせてくれたことを付け加えておこう。

 MATを採り入れた新製品の素晴らしさを体感した試聴だったが、いずれこの技術がウーファーに展開される時がくれば、より豊かな音楽再生の道を切り拓いてくれることだろう。MATという技術には、スピーカーに対する大きな可能性がたくさん詰まっている。