地域発信型映画として、東京は葛飾区を舞台に制作された『この街と私』。自らの想いと現実とのギャップに悩む様子を、番組制作に携わる若手ADに重ね合わせて映像化した注目作だ。主演は、映画、ドラマで活躍、昨年第22回TAMA NEW WAVEコンペティションでベスト女優賞を獲得した上原実矩。初主演として挑んだ本作への想いなどについてインタビューした。

――よろしくお願いします。まずは公開が決まった今の心境をお聞かせください。
 思えば、撮影をしていたのは3年前ですから、コロナ禍で上映が延期されていたものが、ようやく公開されることになって嬉しいです。

――出演は、オーディションで決まったそうですね。
 監督が、私の出演した作品を観てくださった時に、(私の)芝居を見てみたいということで、オーディションに呼んでいただいたのが始まりでした。結構とんとん拍子で出演が決まったこともあって、当時のことはあまり覚えていないんですけど、資料に300人から選ばれたと書いてあるのを見て、私がびっくりしています。

――出演が決まってからはいかがでしたか?
 決まってから撮影までが、結構短期間だったこともあって、記憶もあいまいなんですけど、衣装合わせをして、(キャストの)顔合わせをして、トントントンって進んでいって、初主演を噛みしめる時間もそれほどなく(笑)。

 ただ、(初)主演であるからには、きちんとしなくてはいけないという意識を持って現場に臨んだのは覚えています。主演という立ち位置をいただいて、意識が変わったというか、今までとは違う視点で見られるようになったと思います。

――意識が変わったというのは。
 一歩上に登って、(現場)全体を見ようという感覚でしょうか。主演とか、(舞台の)座長とかをされた方々から聞いてきた立ち居振る舞いみたいなものを思い出して、全体を見るようにしたり、一つひとつ細かいところまで気を配るということを意識するようにしました。まあ、できているかいないかは別として、そういうことを考えながらの現場は、とてもいい経験になりました。

――台本を読んでの、演じられた村田美希の印象は?
 同世代の女の子のお話でしたし、美希は突飛な性格をしていたり、何か大きなものを抱えているというわけではないので、どちらかと言えば、作り込むというよりは、書かれている姿をそのまま演じるようにと思っていました。ポイントとなるADの仕事や、(劇中での)時間の流れ、あるいは、お笑いの天竺鼠の川原(克己)さんに対する思いというのは、監督の心を現したものですから、そういうところは受け継ぎつつ、監督自身が持っている価値観や距離感、あるいは街の見方みたいなものは、監督から直にお話を聞かせてもらって役作りに活かしました。

――ADとしては冒頭から大変でしたね。
 テレビのお仕事はあまり経験がなかったこともあって、実はADの仕事にはそれほど詳しくなくて……。ただ、全く違う世界のお話というわけではないので、製作の時間軸(スケジュール)的なものは意識していました。実際の撮影も結構タイトではあったので、劇中と現場のスケジュールのリンクを感じながらの撮影になったかなって思っています。

――疲れ切って帰宅してからの、彼氏との喧嘩のシーンはリアルでした。
 いやー、本当に寝る3秒前ぐらいの眠たさだったので、カメラが回ってないところでは、意識が飛んでいるかもしれません。おかげで、とことん疲れている雰囲気が出せたと思います。

――若手AD役を演じられていましたが、現場ではどんな雰囲気でしたか?
 現場では一番下の役回りでしたから、主演として頑張りたいと思っている私にとっては、いろいろな人にいろいろなことを言われるばかり、というのはギャップもありましたけど、ある意味、役とリンクしている部分もあって、いい雰囲気を出せたんじゃないかなって思います。

――登場シーンから、ザ・ADという雰囲気がよく出ていました。
 いつも隅っこにいるし、言われっぱなしだし(笑)、私も、本当にADの仕事をしているなって感じていました(笑)。

――セリフには結構、アドリブっぽい雰囲気がありました。
 基本、台本のセリフ通りなんですけど、監督は、あまり芝居芝居していない生っぽさを求めていたので、そう感じてもらえたのなら、演出として成功していると思います。

――実際にカメラを持って街頭インタビューもしていました。
 たいへんでしたね。撮影に入るまでの期間が短かったので、インタビュー番組などを見て勉強はしていましたけど、そうしたテクニック的なものとは別に、面白い瞬間(インタビュー)を撮るのは、思うほどやさしくないと実感しました。本当に、面白い瞬間を撮るために、スタッフの皆さんがどれだけの時間を費やしているのか! 実際に監督からお話を聞いて、0から1を作り出していく作業の大変さや苦労を思い起こしながら頑張りました。

――インタビューでは葛飾の名所(?)をいろいろ周っていましたが、記憶に残っているところはありますか。
 “矢切の渡し”は、エキストラの方々に、(渡し舟以外、営業時間外に行っても)何もないよって言われていたんですけど、行ってみたら本当に何もなくて(笑)。何もなかったです、っていう会話をしたのは覚えています。とは言え、どこへ行っても下町のフレンドリーさのような雰囲気を感じて、楽しい撮影になりました。中でも、お風呂屋さんのシーンでは実際に入浴できたので、疲れも流せたし、寛げました。

――本作では、想いと現実がマッチしないという状況が描かれていますが、上原さんは、演じられた村田美希に共感した部分、あるいはそういう経験、思い出はありますか?
 そうですね、二十歳になりたてのころは、若者特有のもやもやした感じはあったように思います。同世代に比べて、一足先に社会(芸能界)に出たこともあって、やりたいことやビジョンはあるんだけど、そこに到達できない自分のもどかしさというか、葛藤のようなものは感じていました。それは今もあるんですけど、当時は霧の中にいるような状況だと思っていました。

 でも、そうした状況も、周囲(上司とか)の人のちょっとした一言が、(自分の)モチベーションを高めてくれたり、自分を見つめ直すきっかけになると思うんです。ヒーローは出てきませんけど、この作品を観て、自分を支えてくれる人たちの存在に気付いてもらえればいいなって思います。

――本作の撮影から、実際には3年経っています。ご自身の中での成長は感じますか?
 当時は、それこそ現場に立つのが精一杯で、今思えば、考えをうまくまとめられなかったなとか、視野が狭かったなという思いもあるので、そうした気持ちを言葉にできるようになったことが、自分の成長だと感じています。役とも実際にリンクする部分だったのかな、と。当時は、うまくいかないことを、ただただ怒りでぶつけていましたけど、それから3年経って、笑って観られるようになったのは、自分の中でも熟成された感覚はありますね。

――そうした成長を踏まえて、今後の抱負をお願いします。
 そうですね、作品ごとに持っているメッセージを、しっかり伝えられるお芝居をしたいですし、もちろん、目の前にあることに全力で取り組むことをこれからも続けたいです。

 今回の『この街と私』のほかにも、過去に出演して、公開が延期されていた作品がほぼすべて公開を迎えるので、その中の自分を超えて、さらに上に行くにはどうしたらいいのか。手を抜かす、自分に負けずに頑張っていきたいです。

映画『この街と私』

3月4日(金)より アップリンク吉祥寺にて 他全国順次公開

<キャスト>
上原実矩
佐野弘樹 宮田佳典 伊藤慶徳 LiLiCo 川原克己(天竺鼠) ですよ。 大西ライオン 大溝清人(バッドボーイズ)

<スタッフ>
監督・脚本・編集:永井和男
協力:東京都葛飾区
制作:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
配給:アルミード
2019年/日本/カラー/16:9/43分
(C)地域発信型映画「この街と私」製作委員会

衣装:ORANGE GERBERA