リビングルームにセットしたテレビに不満あり……
山中湖畔に移り住んで早2年。築30年ほどの平屋の古民家を改修して、家内と2人、生活できる空間とゲストルームを造り、仕事用の視聴ルーム(月刊HiVi誌では山中湖ラボと呼んでいます)も確保した。
住環境が一変したことで、テレビとの関わり方も大きく変わった。リビングのテレビは70インチの液晶。大きめのソファーに身を沈めて、画面の正面から大画面を楽しむという正攻法の視聴スタイルだが、実際に生活の中では、この教科書通りのやり方がちょっと窮屈に感じてしまうことが多々ある。
当然ながら視野角の問題があり視聴位置は限定されるため、軽い食事をとりながら横のダイニングテーブルに座った位置から見ることはできないし、続き間の和室に設えたコタツに入ったら、もう大画面テレビの楽しみは、完全にお預け。山中湖畔での生活を始めて早々に、固定されているテレビの不自由さ、制約の大きさを痛感させられることとなった。
試行錯誤の末に思いついたのが、車輪(キャスター)付きテレビスタンドの活用だ。その時、その時の状況に応じて、テレビが自由に移動できれば、放送、録画、ネット動画がより快適に楽しめるようになるし、リビングという空間がもっと自由に、有効に使えるようになるではないか。
55インチの有機ELテレビを使い、このスタイルを実践してみると、予想していた以上に快適で楽しい。シーン、シーンで、多彩な視聴スタイルに無理なく対応できるだけでなく、画面との距離(視距離)が自由に決められるし、見ないときは邪魔にならない場所に片付けておける。テレビが動かせるようになっただけで、その関わり方、時間の過ごし方が、大きく変わってしまった。
反面、テレビが移動自由な状態になって初めて気づく不都合なこともあった。具体的には、電源ケーブルだけでなく、アンテナ線の接続が必要なことと、BDレコーダーも一緒に移動せざる得ないこと、さらにケーブルが乱雑になりやすく、ほとんどデザインされていないテレビ本体の裏側が露呈してしまうことなど、快適さの代償としての悩みは多い。
こんな話をHiVi誌定例の連載コラムで紹介したことがあったためか、つい先日、編集部から「藤原さんにぴったりのテレビがあるんですが、ご自宅で試してみませんか」という連絡をもらった。
パナソニックの「レイアウトフリーテレビ」(型番はTH-43LF1)という製品で、専用のキャスタースタンドに設置した43インチの4K液晶モニター部と、録画用の2TバイトHDDを内蔵したコンパクトなチューナー部をワイヤレス接続できる製品だ。基本的な操作性については、通常のテレビと何ら変わらず、4K放送の受信、伝送も可能だという。
別体チューナーであれば、テレビ側でアンテナ線を接続しなくてもいいし、レコーダー部は、テレビと一緒に動かす必要もない。「ぜひ自宅で使ってみたい!」。ふたつ返事でレイアウトフリーテレビを試してみることにした。
組み立てや設置も簡単。背面の美しさにも注目
43インチの液晶テレビとしては、やや大きめの段ボールが届いたが、これはキャスター付きスタンドと、モニター本体、チューナー部をひとつの箱に分解された状態で収めているため。組み立ては、モニターをスタンド上部にはめ込み、付属ビス4本で止めるだけの簡単さだ。スタンドは組み立て済のため、特別な作業は必要なく、取り付け時に注意したいのは、画面をスタンドに傾きなく固定することくらいだ。
スタンドに予め組み込まれた電源ケーブルをモニターに接続するが、本体裏側のクランパーで固定していくと、すっきりと納まるという賢い設計。背面カバーを取り付けると、美しいバックシャンの完成だ。後ろから見ても、ケーブル類がいっさい見えない完璧なデザイン。43インチというサイズだけに、テレビを見ない時は、黒い画面の存在を完全に消してしまえるメリットも大きい。
スタンド下にはケーブルの収納スペースが用意されている。この部分を引き出して、電源ケーブルを必要な長さ分だけ取り出すという仕組みで、ちょうどいい長さに調整可能。またコンセント接地部にはマグネット式プラグが採用されているため、電源ケーブルを足に引っかけたとしても、ケーブルとコンセント接地部は簡単に外れて、本体が倒れる心配はない。
洗練されたリアデザイン、スマートな電源ケーブルの処理、簡単に外れるマグネット式プラグと、どれもレイアウトフリーテレビならではの細かな気遣いだが、この時点で我が家の“移動型テレビ”で感じていた不満は、ほぼ解消されてしまったことになる。
モニター部とチューナー部のワイヤレス接続は、基本は1対1のダイレクト接続となる(状況によって無線LANアクセスポイント経由も可能)。「設定が難しいのでは」と不安に思う方もいらっしゃるかもしれないが、そこは心配無用。両者の電源を入れるだけで、自動的にペアリング(機器の紐付け)が完了し、そのまま使用可能だ <手動で細かい設定も可能>。
電源コンセントさえあれば、無線LANが届く範囲ならばどこでも使える。背面から見ても美しくデザインされている点にも注目したい
本体に電源ケーブル収納用引き出しがあり、必要な長さだけ取り出して使える。ケーブル先端はコンセント側とケーブルが磁石で固定されていて、ケーブルに足が引っ掛けた場合でもすぐに外れる設計で安心だ
チューナー部。光ディスクドライブは搭載していない。筐体サイズは幅21.5cm、高さ8cmで「おうちクラウド4Kディーガ」シリーズで展開している製品群とほぼ共通
内蔵チューナーは地デジ3系統、BS/CSデジタルが3系統、BS4K/CS4Kが2系統と豊富だ。録画用HDDも2Tバイト内蔵している
放送視聴からネット動画、ディーガ連携まで実に快適
気になる実際の使い心地だが、これがすこぶる快適だ。電源オン/オフ、放送チャンネルの切替え、あるいはNetflix、Amazon Prime Video、YouTubeといったネット動画の呼び出し/再生と、付属リモコンでの操作性は、通常のテレビとほとんど変わらない。
別の部屋にあるディーガシリーズのBDレコーダーやビエラの「録画済みの番組を再生する」ことや、「放送チャンネルを転送する」ことが可能な <お部屋ジャンプリンク> は4K放送まで対応済み。パナソニックのお家芸とも言える便利機能だ。
<お部屋ジャンプリンク> の場合、たとえば、「録画済みの番組を再生する」場合は、転送元のレコーダー/テレビを指定、転送先の画面に表示された録画番組からコンテンツを探して再生するわけだが、ディーガやビエラが複数ある場合でも「家じゅう録画(録画一覧表示)」という機能により、<お部屋ジャンプリンク> で接続されたディーガで録画された番組を横断して、検索/再生できる。「レイアウトフリーテレビ」(TH-43LF1)の場合では、チューナー部との連携で、録画リストを呼び出し、そこから「家じゅう」のタブを選びクリックすると、ネットワーク上にある対応ディーガすべての録画番組が表示される。
家じゅうのディーガで録画した番組を、2K、4Kに関わらず、素早く呼び出して再生できる……。しかもそのモニターの設置位置を使い手が自由に移動できるとは――。これこそまさに初めての体験だ。
なお、放送視聴ではデータ放送がストレスなく呼び出せるし、青/赤/緑/黄色ボタンを使った放送中の番組参加も可能だ。加えてモニター部には2系統のHDMI端子(1系統はARC対応)が装備され、レコーダーやパソコンのダイレクト接続に対応している。
チューナー部と無線電波の受信レベルも具体的に数値で示してくれる。レベルが低い場合は、取扱説明書に従って、無線LANアクセスポイント経由にするなどの措置を講じたい
モニター部とチューナー部の接続パターンは様々な方法が可能だ。それも本体メニューでわかりやすく説明してくれる
無線設定で接続可能な無線ネットワークが表示できる。一般的にいって5GHz帯は、データ通信速度は速いが接続範囲が狭く、2.4GHz帯は接続範囲は広いものの5GHz帯に比べて速度は遅い
録画一覧画面。「家じゅう」のタブでお部屋ジャンプリンク対応のディーガ/ビエラ内の録画済番組のリストが表示される
付属リモコン。中央の十字キーの周辺に「ホーム」「番組表」「録画一覧」のほか、「Netflix」「Amazon Prime Video」「Disney+」のネット動画サービスへのダイレクトボタンを配しているのが新しい
明るく、抜けのいい画質が楽しい。音も聴きやすい
最後にTH-43LF1の画質について。液晶は視野角による画質の影響が少ない4K仕様のIPSパネルで、LEDバックライトには新開発の広色域タイプを投入。様々な明るさで安定した色再現を約束する色調制御技術「ヘキサクロマドライブ」も採用済みだ。HDR(ハイ・ダイミックレンジ)関連では、基本となるHDR10とHLG(ハイブリッド・ログガンマ)のほか、HDR10+とドルビービジョンもサポートしている。
見る角度によって色調や階調性が変わってしまうのが液晶テレビの弱点だが、本機の場合、そうしたクセっぽさが気にならず、明るく、すっきりとした、抜けのいい映像を楽しませる。
特にディープラーニング技術を駆使し、シーン、シーンで最適な画質に調整していく「オートAI画質」がなかなか効果的で、よりメリハリが効いて、人の表情をがぜん生き生きと描き上げてみせた。
映画はNHK BS4Kでオンエアした『スーパーマン 劇場版 4K』を観たが、細い輪郭でディテイルを浮き上がらせるような細密なタッチはなかなか魅力的で、階調性も癖っぽさがなく、なめらかだ。色再現も豊かで、健康的な肌を基準にして、ニュートラルな色調に仕上げられていた。
スピーカーはフルレンジユニット2個+10W×2アンプによるシンプルな構成だが、一定のダイナミックレンジが確保され、声の明瞭度も高い。定位も自然で、音量を下げても声がこもることなく、すっきりとして聴きやすい。高解像度の音ではないが、気張らず、馴染みのいいサウンドは好印象だった。
リモコンの番組表ボタンをモニター部に向かって押したところ(当然だが、チューナー部にリモコンを向ける必要はない)。ビエラ・ディーガでおなじみのパナソニックデザインが採用されている
モニター部に備わる端子は、HDMI端子2系統と給電用のUSB端子とイヤホン/ヘッドフォン用の3.5mm端子のみになる
「お部屋ジャンプリンク」機能を活かしてディーガに保存した録画番組のTH-43LF1での転送再生も試している。ディーガ最新モデルDMR-4T402(写真上)はBS4K/CS4K番組の転送にも対応。パナソニックでは、4K録画番組の転送に2019年モデルからサポートしている。4K録画番組の転送は非対応だが、4Kチューナー搭載ディーガ第一世代機のDMR-SUZ2060(写真中)も併用している
結論「このまま手元で使い続けたい」画期的テレビだ
画質/音質を高いレベルに確保したうえでの、レイアウトフリーテレビTH-43LF1が実現した使い勝手のよさはお見事。冒頭に述べたようなリビングルームにおける「第二のテレビ」としての機能性は抜群だし、山中湖ラボの視聴ルームに持ち込んでの様々なシーンで活躍できそうだ。
ホームシアターファンなら同意してもらえると思うが、スクリーン/プロジェクターをわざわざつけて、部屋を暗くして、パッケージソフトやネット動画などの各種コンテンツの内容確認するのは少々面倒だ。部屋を明るくしたままテレビを活用したいシーンは日常的に多くある。そんな場面でもTH-43LF1なら実に使える存在だし、大画面スクリーンで映画鑑賞する際にも部屋の隅にさっと片付けることができる。
「このまま手元に置いて、使い続けたい」。これが約1週間使った結論だが、そんな気持ちにさせるクォリティと使い勝手を兼ね備えたレイアウトフリーテレビ。生活のシーン、シーンで、自由に移動して、好みのスタイルで楽しめる、そんな新しい提案には、画質/機能/操作性のどこかに、何らかの言い訳が伴ないがちだが、私の見る限り、これという欠点は見当たらない。それどころかハイビジョンはもとより4K映像まで、安定して快適に楽しめる高度なワイヤレス伝送まで実現してしまったのは驚く。
「レイアウトフリーテレビ」TH-43LF1。そのコンセプトはテレビとしての品位訴求だけに止まらない。趣味とテレビがどう関わっていくのか。限りあるスペースの中でテレビをいかに活用していくのか。そして家具・インテリアの中でのテレビという存在がどうあるべきなのか。こうした使い手に寄り添った開発されたエポックメイキングなテレビ。日々の暮らし方を大きく変えてしまう、こんな魔法のようなテレビは初めてだ。
提供:パナソニック
スタンドにキャスターがついているので実に簡単にリビングルームから視聴室まで移動できる。しかもキャスターの転がりもよく、一人でらくらく動かせる
リビングルームでの「2台目のテレビ」としてはもちろん、ホームシアタールームでの活用もおすすめしたい。スクリーン/プロジェクターをつけて照明を消すのは映画や音楽ライヴを楽しむ、ここぞのときだけにしたい、と考えているAVファンは多いはずだ
4K液晶テレビ
パナソニック
TH-43LF1
オープン価格
主なスペック
● 解像度:水平3,840×垂直2,160画素
● 内蔵チューナー:地上デジタル×3、BS/CS110度デジタル×3、BS4K/CS4K×2
● 接続端子:[ディスプレイ]HDMI端子2系統、[チューナー部]HDMI出力端子1系統(設定用)、LAN1系統、ほか
● HDR対応:HDR10、HLG、HDR10+、ドルビービジョン
●ネット動画対応サービス:Netflix、Amazon Prime Video、Disney+、Apple TV+、YouTube、Hulu、U-NEXT、dTV、DMM.com、デジタルコンサートホール、YouTube Music(以上4K画質対応)、ABEMA、Paravi、TELASA、TVer、Rakuten TV、SPOOX、DAZN、NBA Rakuten
● HDD容量:2Tバイト
● 消費電力:[ディスプレイ]117W(待機時0.3W)、[チューナー部]26W(待機時9W)
● 寸法/質量:[ディスプレイ]W980×H1,182×D492mm/24.5kg、[チューナー部]W215×H80×D225mm/1.8kg