グランツのトーンアームが他と一線を画した音質で魅了するのは、曖昧さを嫌った動作精度の追求と硬いステンレススチール材を採用するアームパイプの剛性によるものだ。それはすなわち、設計者でビルダーの濱田政孝氏が考えるトーンアームの理想像なのである。ミタチ音響(グランツ)でフォノカートリッジとトーンアームの設計に従事していた氏は、同社が2003年に解散してからグランツのブランドを引き継ぎ、高級トーンアームの製造を始めることに。そして現在、その音の確かさから、新生グランツの愛用者は世界中に存在するようになった。筆者もそのひとりに数えられる。

グランツ
MH1000S
¥790,000(税別)

●型式:スタティックバランス型
●スピンドル・ピボット間:239mm
●オーバーハング:15mm
●針圧調整範囲:0g~10g
●適合カートリッジ重量:16g~45g(ヘッドシェル含む)
●高さ調整範囲:41mm~70mm
●備考:ヘッドシェル付属。写真のカートリッジ、アームベース別売
●問合せ先:(株)ハマダ TEL.055(963)8712

 ここで聴いたのは、新しいSタイプの10インチ長であるMH1000S。シリーズには、他に12インチのロングアームと9インチのショートアームのタイプがある。管球王国試聴室リファレンスのテクニクスSL1000Rへの装着は別売専用アームベース(MH10S1000R)を使っている。このベース、素材は当然ながらステンレススチール製で、1.7キロの重量級である。

 Sタイプのトーンアームは、剛性の高い単一素材(ステンレススチール)で統一されており、共振しやすいアームパイプの内部は徹底した制振処理(ダンプ)が施されている。そして、垂直方向と水平方向の動きは超高精度のベアリング・ユニットが担当してガタつきや甘さを排除。伝送経路にゴムや異種金属を挟むべきではないという思想から、付属するヘッドシェルは根元のコネクター部分から一体で切削されているステンレススチール製だ。ヘッドシェル部分に必要以上の重量を与えていないことも特徴といえよう。

 MH1000S+別売アームベースをSL1000Rに装着して、管球王国誌のリファレンス環境で音を聴いてみた。フォノカートリッジはフェーズメーションPP2000。必要に応じてSL1000Rに装備の純正トーンアームとも音質を比べている。昇圧トランスはエアータイトATH3s使用。

 グランツのトーンアームは鋼のような逞しい音と形容されることがある。このMH1000Sはまさにその形容そのものの音で、アンセルメ指揮「三角帽子」は鋭角的な音の立ち上がりと明確な音の描写による説得力に満ちた音で聴き手を圧倒してくる。ダイレクト盤のデイヴ・グルーシンも同様で、爽快感をもたらす生々しい音が感動的だ。SL1000Rのトーンアームと比べると、グランツは男性的な筋骨隆々な音といえる。不用意に膨らまずにピシリと締まった音像の構築は、一聴に値する見事さ。同じフォノカートリッジと出力ケーブルなのに音量がアップして感じられるのは、トーンアームの剛性が効いているからなのだろう。フワッとした開放的な音を求める人には、私はグランツをお薦めしない。MH1000Sは聴き手と対峙するような、鮮やかで力強い音が身上なのである。

 大型のカウンターウェイトは調整範囲が広く、音の安定感にもひと役買っている。

トーアームの支柱部は4つの大口径ベアリングで支点を支える構造。縦軸方向下部には回転軸受けとなるスラストベアリングを配して、重量級アームが高感度で動作するように設計されている。

付属ヘッドシェルは単売のMH4S(¥47,000・税別)とほぼ同じ細身のボディで、コネクター部まで一体のステンレス削出し。取付けねじもステンレスと徹底している。

プレーヤーのテクニクスSL1000Rに取り付けるためのグランツ10インチアーム用の専用ベースMH10S1000R(¥120,000・税別)。ステンレス削出しにより重量は1.7kg。同社12インチモデル用にはMH12S1000R(¥120,000・税別)も用意されている。

MH1000Sを操作してレコードに針を下ろす三浦氏。ツインアーム仕様としてSL1000Rの後ろ側に取り付ける形になる。

試聴に使用した
カートリッジ
フェーズメーション
PP2000
¥440,000(税別)

【 本記事の掲載号は 管球王国 Vol.102 】