サイレント・エンジェルは、オーディオ用NASメーカーの技術者によって設立された中国のメーカーで、ピュアオーディオ再生のためのネットワーク関連の製品を開発している。ここでも紹介するスイッチングハブはその優れた性能から有名オーディオメーカーのOEM製品としても発売され、世間の注目を集めてきた。そして、そのスイッチングハブのN8とN16、ミュージックサーバーのZ1、ミュージックストリーマーのM1のラインナップが日本に上陸した。大きな特徴は筐体内部で発生する電磁ノイズを除去する独自のEMTアブソーバーをはじめとする徹底したノイズ対策、そしてRoonほか各種音楽配信サービスに対応する、独自設計のOS「VitOS」となる。

Silent Angel Z1 オープン価格(実勢価格36万3,000円 税込)
●型式:ミュージックサーバー
●接続端子:デジタル音声出力端子1系統(USB)、LAN1系統 他
●SSD容量:1Tバイト
●寸法/質量:W200×H65×D200mm/3.75kg

ストレージ拡張用のUSBポートが3つ、HDMI端子はサービス用。またストレージなしモデルも用意している

 まずはミュージックサーバーZ1を単独でデノン DCD-SX1リミテッドのUSB入力に接続して聴いた。独自の「VitOS」により、AirPlay2やSoptify Connectなどのストリーミングサービスに対応するほか、RoonサーバーやDLNAレンダラーとして使用可能。筐体は削り出しのアルミ合金を使用し、美しい外観と外来ノイズの侵入に強い作りとしている。設定はスマホ用アプリの「VitOS Manager」で、操作は汎用のコントローラーアプリを使用。いつも聴く「チャイコフスキー:交響曲第6番」の第3楽章では、S/Nに優れた緻密なステージが再現された。奥行のある音場で、実に立体的な鳴り方だ。情報量の豊かさや音の粒立ちのよさで精緻な鳴り方でありながら、低音の伸びと力強さも突出したものがあり、緻密でしかも雄大な表現が印象的だ。人気アニメ『鬼滅の刃 遊郭編』の主題歌であるAimerの「残響散歌」では、スピード感のあるイントロをキレ味たっぷりに鳴らす。ややハスキーなヴォーカルもくっきりと浮かび上がる。大きな魅力は音の厚みとエネルギー感で、S/Nのよさや情報量の豊かさ以上に生き生きとした躍動感のある音だ。

Z1の設定はiOS/アンドロイドアプリ「VitOS Manager」で行なう。
今回は①DLNAレンダラーを選択してストレージの楽曲を再生②「VitOS Orbiter」はM1のコントロールに使用。TIDALやAmazon Musicなどハイレゾストリーミングにも対応している③現在、楽曲再生はフォルダーから選択する仕様のみでコントローラー側でアーティスト名などのソート操作ができない。Z1やM1がタグ情報を読んでないためと思われ、この点は注意したい

ハイレゾ音源を聴き比べ。
ハブの性能も見逃せない

 ミュージックストリーマーのM1も「VitOS」を搭載し、各種音楽ストリーミングに対応するほか、Roon Ready仕様となっている。DACにESSテクノロジーのSABRE9018Q2Mを搭載するほか、ディスクリート設計のヘッドホンアンプも備えるので、きわめてコンパクトなヘッドホン用ネットワークプレーヤーとしても使える。

Silent Angel M1オープン価格(直販価格22万9,900円 税込)
●型式:ヘッドホンアンプ内蔵ネットワークプレーヤー
●接続端子:デジタル音声出力4系統(AES/EBU、I2S、同軸、USB)、アナログ音声出力2系統(RCA、6.3mmヘッドホン)、LAN1系統
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜768kHz/24ビット(PCM)、〜11.2MHz(DSD)●寸法/質量:W155×H50.4×D110mm/1.63kg

NASやHDDに格納した楽曲の再生を担うM1。アナログ出力を排除したDAC非搭載モデルの「M1T」(直販価格12万1,000 税込)もラインナップしている

 再生操作は純正アプリ「VitOS Orbiter」を使用した。DAC内蔵ということもあり、よりまとまりのよい音と感じた。Z1のような凄みのあるキレ味やエネルギー感はややマイルドになるが、S/Nのよさや情報量の豊かさは共通するものがある。低音の響きは適度にリッチで、ヴォーカルの厚みもしっかりと出ていて聴き心地がよい。「チャイコフスキー:交響曲第6番」では、ステージ全体を俯瞰するような見通しのよい再現で、個々の音の粒立ちのよさや質感もていねいに描写する。Aimerの「残響散歌」では、スピード感のあるドラムやベースを実体感のある音で鮮明に鳴らし、ヴォーカルもぐっと前に出る。きめ細やかでありながら尖りすぎないバランスのよさがあり、価格を考えるとその実力はかなり優秀。

 最後にM1にスイッチングハブのN8を組み合わせて聴いてみた。音場の見晴らしがよくなるというか、音のフォーカスが上がって、より緻密さが出てくる。単なるS/Nのよさだけではない音の質感の向上を感じた。この状態でAmazon Musicに切り替えHD版の「残響散歌」を聴くと、雑味の少ないみずみずしい音で、手持ちで用意したハイレゾ音源との差をほとんど感じない。ハイレゾ品質のクォリティがよくわかり、ストリーミング配信とは思えない音の感触に驚かされる。N8はサイズもコンパクトで一見すると汎用のスイッチングハブとほとんど変わらない印象だが、その実力は確かなもの。価格も手頃だし、音楽サービスだけでなく、動画配信でも効果は期待できると思うので、注目度はひじょうに高いと感じた。

Silent Angel N8オープン価格(直販価格5万4,930円 税込)
●型式:スイッチングハブ
●ポート数:8ポート●寸法/質量:W154.5×H26×D85mm/350g
●問合せ先:完実電気(株)サポートセンター ☎050(3388)6838

汎用品よりも80%以上精度の高いオリジナルのクロック「Silent Angel TCXO」を開発・搭載し、正確なデータ転送とジッターの低減を実現した。電源を強化し16ポートに増やした「N16」(直販価格20万5,700円 税込)も用意している

 Z1、M1、N8ともに身近な価格とコンパクトなサイズも好ましいし、本格的なネットワークオーディオにふさわしい実力があるとわかった。同社の計画によれば2022年にはDCパワーサプライのF1も発売予定で、さらなる電源品質のグレードアップも期待できる。ネットワーク関連機器では、注目度ナンバーワンの新ブランドと言えるだろう。

▶︎本記事の掲載号は「HiVi」2月号