テクニクス近年の傑作スピーカーSB-G90M2は、HiVi誌の2021年グランプリにおいてスピーカー部門賞を獲得した(ステレオサウンドグランプリ2021でも受賞)。その選考時の試聴で私が感じた本機の魅力は、同軸2ウェイドライバーによる点音源ならではの音像定位の明確さだ。また、堅牢な構造のエンクロージャーが共振/共鳴を巧みに抑えている証として、3次元のステレオイメージが立体的に展開することにも感心した。しかも本機はハイプライスではないミドルレンジのスピーカーである。つまり、誰もがちょっと頑張れば手の届く価格帯でそうしたパフォーマンスを実現している点が素晴らしいとも感じた。
 今回改めてSB-G90M2を試聴し、その辺りがまたどう感じられたかをリポートしたい。

テクニクス SB-G90M2 ¥596,000(ペア)税込

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色艶のある声が自然な音場空間に浮かぶ

 準備したシステムは別掲の2通り。システム1は、デジタル伝送を軸とした同ブランド統一システム、システム2は、HiVi視聴室リファレンスのデノンPMA-SX1 LIMITEDである。

 

今回用意したエレクトロニクスは2システム。まずはテクニクス純正のプレーヤー プリメインアンプの組合せを核としたシステム1だ

システム1の接続図。プレーヤーとアンプは、テクニクス製でネットワークオーディオ対応SACDプレーヤーSL-G700(¥308,000税込)と、プリメインアンプSU-G700M2(¥298,000税込)。ミュージックサーバーはデラのN1A/3(¥198,000税込 HDD3Tバイト仕様)を使っている

 

 

 まずはシステム1で聴いてみた。ハイレゾデータについては、SACD/CDプレーヤーSL-G700のUSB端子にUSBメモリーを差し込んで試聴している。なお、ディスク再生時はSL-G700の高音質機能のひとつ「Pure Disc Playback」モードをオンとし、SACD/CD再生に不要な回路の電源供給を遮断する状態とした。

 SACD『Higher/パトリシア・バーバー』から「ハイ・サマー・シーズン」を聴く。しっとりとした潤いと湿り気を帯びた声がくっきりとスピーカー間に音像を結び、それがグラマラスになり過ぎず、適度な色艶を保ちながら浮かび上がった。伴奏のガットギターのアルペジオの響きも実にナチュラルで、ヴォーカルに寄り添うように背後に定位するのがわかる。ギターの胴鳴りも絡み、とてもリッチな余韻だ。まさに同軸2ウェイユニットの本領発揮と大いに唸らされたプログラムソースの再現力であった。

 SACD『Silver Lining Suite/上原ひろみ』からは、アルバムタイトル組曲の第2章「Silver Lining Suite: The Unknown」を試聴。弦楽カルテットの力強いボウイングが鮮明に現われる。上原ひろみのピアノは左手の打鍵が特にパワフルで、ドシン、ガツンとリズムを刻む。このクラスのスピーカーで本盤のピアノをここまで屈強に再現するのは稀だ。また、アンサンブルの中でベースの代わりにリズムを執るチェロのふくよかな響きもよい。スタッカートのメロディはしなやかに流れるようなニュアンスをはらみ、とかくきつく聴こえがちな旋律も有機的に奏でられ、実に優雅。演奏全体のスケールも大きく、ダイナミクスがしっかり感じられる。

 ベースソロのCD『Overpass/マーク・ジョンソン』から「Nardis」を再生。アコースティックベースの倍音が美しい。その豊満な響きはダブルウーファーの賜物とはいえ、この決して大きくはないトールボーイ型のエンクロージャーから繰り出される様子には大いに驚かされた。ピッチの正確な再現は音量を上げても崩れることはなく、弦を指で弾く際のアタック音はおろか奏者の息遣いまで生々しく細密に再現。ハーモニクスの膨らみと余韻がとても豊かである。

 ヒラリー・ハーンのCD『PARIS』からは、「ショーソン:詩曲 Op.25」を聴いた。オーケストラの雄大な立体感を背にして、ハーンのヴァイオリンの音像が克明に屹立する様子がわかる。オーケストラとヴァイオリンの音量バランスが絶妙で、ヴァイオリンの独奏部でも線が細くなることがなく、しっかりとした芯をイメージさせる。背景の静粛さも相まって、旋律の強弱が美しく響いた。

 

SB-G90M2サウンドの中心になるのがこの同軸ユニット。テクニクスの最新技術がふんだんに盛り込まれている。500Hzからなんと90kHzまでの7オクターブを超える帯域を受け持つ超ワイドレンジ設計だ

 

SACD/CDハイブリッド『Higher/パトリシア・バーバー』(Impex Record)※SACD 2ch層を再生

SACD/CDハイブリッド『Silver Lining Suite/上原ひろみ』(ユニバーサルミュージック)※SACDを再生

CD『Overpass/マーク・ジョンソン』(ECM)

CD『パリ/ヒラリー・ハーン』(グラモフォン)※輸入盤を再生

 

 

伸びやかで、キレッキレのハイレゾ再生

 ハイレゾは、山田和樹の指揮、読売日本交響楽団による『マーラー:交響曲第1番<巨人>』の第4楽章を聴いた。フォーマットは96kHz/24ビット/FLAC。畳み掛けるような打楽器群の咆哮が、これでもかこれでもかと迫ってくる勢い。グランカッサやティンパニの凄まじい連打を低い重心でがっちりと再現した。弦の合奏で怯むことなく、重厚な管のパワーも天井を突き破るような伸びやかさで舞い上がる。もちろん力だけで押す一辺倒な様子でなく、緩急の描き分けも頼もしい。SB-G90M2を聴いていると、もっと大きなスピーカーが朗々と鳴っているような錯覚を覚える。

 上原ひろみはSACDで聴いた『Silver Lining Suite』の同曲を192kHz/24ビット/WAVでも試聴。まさにキレッキレの再現だ。SACD(DSD)の滑らかさに比べ、クリアネスと歯切れよさ、音の粒立ちが抜群にいい。ステレオイメージは左右にワイドな展開を見せたうえ、奥行き方向もより深く感じられる。その音場の中に各楽器が颯爽と屹立しているかのよう。演奏やハーモニーの流麗さではSACD再生だが、音の鮮明さではハイレゾPCM音源に歩があるようにも感じられる。そうした違いを鋭敏に描写するSB-G90M2のポテンシャルにも改めて感じ入ったところである。

 これほどの再生能力を有しているのだから、アナログはアナログの持ち味、気軽に楽しめるストリーミングのよさなど、コンテンツそれぞれの魅力もしっかり出してくれるに違いない。

 

 

アンプの違いもきっちり描き切る、高い表現力

 最後にデノンPMA-SX1 LIMITEDを使ったシステム2でも試聴を実施。プレーヤーは引き続きSL-G700を使用した。

 デジタルアンプのSU-G700M2に対し、純粋なアナログ増幅回路によるPMA-SX1 LIMITEDは、いい意味で音の肌合いが柔らかい。それでいてがっちりとした駆動力を抱かせるところは、デノンが長年熟成してきたUHC-MOSシングルプッシュプル回路の特徴といえる。とりわけ低域の安定感は頼もしく、SB-G90M2のダブルウーファーがより強力に制動されているような印象で、あたかももっと大きな口径のウーファーでの再生を彷彿させるのだ。

 上原ひろみでは、リズムを取るピアノの低いキー、その左手の打鍵が一層パワフルに感じられる。しかも芯があってズシリと響き、スタッカートのチェロの旋律も相まって演奏全体を引き締めている印象だ。実に力強い筆致でピアノカルテットが描写されるのである。

 パトリシア・バーバーのヴォーカルは、音像がよりグラマラスになった感じで、わずかに色艶も濃い印象だが、そうした微妙な違いを克明に表すSB-G90M2もたいしたものだ。また、音像が一歩手前に迫り出してくる感じも受けた。他方、伴奏のガットギターはより鮮烈な響きを奏でる。ネックを滑らす指の擦れる音、そのニュアンスが生々しく伝わってきて、空気感が実にリアルだった。

 

システム2は、アンプをHiVi視聴室のリファレンス(標準使用機器)であるデノンPMA-SX1 LIMITED(¥902,000税込)で鳴らした

 

 

接続はシングルワイヤリングで高域側端子に行なった。スピーカーケーブルは、ステレオサウンド・リファレンスを用いている(生産完了)

 

世界に誇る素晴らしいスピーカーだと断言しよう

 以上、2つのシステムで試聴したテクニクスSB-G90M2は、前編で紹介した同社伝統のスピーカーのアプローチが最新の成果として実にわかりやすく音に出ていると感じた。

 オーディオ分野のエレクトロニクス製品は世界市場で評価されても、日本メーカーのスピーカーシステムはいまひとつ特徴がないといわれて久しいが、ミドルレンジにこうした素晴らしい製品があるよと、私は声を大にして言いたい心境である。

提供:パナソニック

 

スピーカーシステム
テクニクス
SB-G90M2
¥596,000(ペア)税込

主なスペック
● 型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
● 使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター+160mmコーン型ミッドレンジ/同軸、160mmコーン型ウーファー×2
● クロスオーバー周波数:500Hz、3.4kHz
● 出力音圧レベル:86dB/2.83V/m
● インピーダンス:4Ω
● 寸法/質量:W292×H1,114×D366mm(スパイク使用時)/約35kg