映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第71回をお送りします。今回取り上げるのは、フランスはパリを舞台にしたほろ苦い青春作『GAGARINE/ガガーリン』。往年の東京の原風景を思い出せるような、幻想的な仕上がりを、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『GAGARINE/ガガーリン』
2月25日(金)新宿ピカデリー、HTC有楽町 ほか全国ロードショー!

 今年の4月に行なわれるフランスの大統領選挙はどうなるのだろう。大勢は2期目のエマニュエル・マクロンの再選に落ちつくのだろうけれど、対抗馬の共和党ヴァレリー・ぺクレスと、極右の旗をいくぶん穏健派に変えて支持の拡大を狙うマリーヌ・ルペンの女性候補ふたりの伸長はまだわからない。

 新型コロナ対策、気候変動問題と並び、移民や難民の流入が悩ましい問題だ。フランスは1970年代に経済危機を乗り切るため、また寛容なる国家の理想を求めるため移民の受け入れに舵を切り、現在では国民の1/6程度が移民をルーツに持つといわれている。

 一方でルペンらが唱える反移民、反イスラムの主張も一定の支持を集めている。2015年にはパリで同時多発テロ事件も起きた。ロシアのウクライナ侵攻問題もますます予断を許さないし、ヨーロッパはぐらぐらと揺れながら歩みをつづけているのだ。

 本作はパリ郊外にあったガガーリン団地を舞台にした物語。もともとは中産階級が暮らす公営団地だったが、いつしか移民の集まるスラムと化し、2024年のパリ・オリンピックに向けての再開発のために取り壊された。近い将来、エコロジーに留意した新たな集合住宅に生まれ変わると言われている。撮影は同団地の撤去、倒壊を利用して進められた。

 主人公のユーリ(アルセニ・バティリ)は最後のその日までひとり団地に残り、消えゆく場所に夢を追う孤独な黒人少年。母親は彼を残して恋人のもとに去り、建物の最期のときが近づいてくる。

 低所得者層の集合住宅が並ぶパリ郊外地区を舞台にした『レ・ミゼラブル』(2019年)という実録調の犯罪サスペンス映画があったが、この作品はそれよりはファンタスティックな仕上がりになっている。けれどもパリのいまの顔を移す映画として似た手触りを持つ一本なのだ。

 監督はペルー出身のファニー・リヤタールとコロンビア出身のジェレミー・トルイユ。いい意味で異邦人が撮った気配に満ちており、ユーリはやがて住む者がいなくなった団地の自室で植物を育て、建物が宇宙空間を進む船であることを夢想する。

 彼は自分が育ったこの場所しか知らないし、愛着のある空間から離れたくないのだ。やがてロマの少女、ディアナ(『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンバス・イヴニング・サン別冊』のオートバイ少女、リナ・クードリ)と知り会った彼は、未来への道すじを見つけるのだが。

 フランス映画はいまこんな風景になっていることがわかる興味深い青春映画。夢想的な撮影もとてもいい。団地全体が虚空に浮かぶ孤独な宇宙船に思えてくるのだ。

 『ボーイ・ミーツ・ガール』などレオス・カラックス作品の常連男優ドニ・ラヴァンが廃品回収業者役で特別出演。出番は少ないが、その老いた顔には味わいがある。

映画『GAGARINE/ガガーリン』

2月25日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国ロードショー

監督:ファニー・リヤタール、ジェレミー・トルイユ
出演:アルセニ・バティリ、リナ・クードリ、ジャミル・マクレイヴン、フィネガン・オールドフィールド、ドニ・ラヴァン
原題:Gagarine
配給:ツイン
2020年/フランス/シネスコ/5.1ch/98分/映倫G
(C)2020 Haut et Court ? France 3 CIN?MA

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