株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス(Imagica EMS)は、同社の新しい拠点となる「竹芝メディアスタジオ」の設備概要を公開した。

 IMAGICAは映画やドラマ、アニメ、テレビ番組、CM等の制作を手がけるポストプロダクションとして、五反田で70年にわたって営業を続けてきた。Imagica EMSはIMAGICA GROUPの子会社で、映画・ドラマ、アニメ、フィルム・アーカイブなどエンタテインメントコンテンツの制作と流通に特化した事業体として、2021年1月に創立された。

 Imagica EMSでは、「世界中で生み出される物語をありとあらゆるメディアを通じて視聴者にお届けする」というポリシーを掲げており、IEMSでも「創る」→「届ける」→「残し、繋げる」という作品づくりの各工程で、海外に拠点を構えるグループ会社(Pixelogic、PPC)と協業しながらビジネスを展開していくという。

 竹芝メディアスタジオはその拠点として昨年12月13日から稼働をスタートした。その主なポストプロダクション設備は、ビルの1階から6階に配置されている。

1階:第1/第2試写室

第1試写室は、100+4席を備える

映写室には4Kデジタルプロジェクターに加え、35mmフィルム用のプロジェクターも準備

35mmフィルムのメインテナンスができる設備は今や貴重です

こちらはドルビーシネマの上映もできる第2試写室

 まず1階、エントランスを入った両側にふたつの試写室を備える。

 第1試写室は、100+4席を備え、4K DCPと35mmフィルムの上映が可能。サウンドは最大7.1ch(デジタルは最大48kHz/24ビット、35mmはドルビーA/ドルビーSR/ドルビーデジタルEX/DTS-ES)に対応している。デジタルプロジェクターはバルコ、スピーカーにはJBL製が使われている。スクリーンはスチュワートのSnoMatte100で画面サイズは幅8.4×高さ3.5mm。

 その正面にある第2試写室は座席数が51+4と第1試写室の半分ほどの大きさで、ドルビーシネマの再生にも対応(ドルビービジョンとドルビーアトモスが再生できる)。プロジェクターはクリスティ、スピーカーは第1試写室と同じくJBL製が使われている。スクリーンはSnoMatte100で、画面サイズは幅6.1×高さ2.6m。

 ちなみに編集部は以前開催されたドルビーシネマの試写会で完成したばかりの第2試写室にお邪魔したことがあるが、まさにドルビーシネマの実力発揮という印象だった。

 その際は40年ほど前のアニメーション作品のドルビーシネマ版が上映されたが、映像はクリアーで色も鮮明、サウンドは派手さこそないが、自然な包囲感が再現されていた。五反田の試写室も絵と音のよさが評判だったが、竹芝メディアスタジオはそれ以上に高い評価を集めそうだ。

3階:MA/ダビングステージ

303号室ではドルビーアトモス・ホームのミックスにも対応

Procella Audioのスピーカーは壁や天井に埋め込まれている

303号室の隣には大型ブースを準備

302号室は劇場用予告編などの制作に対応した空間

302号室隣のブースでは、ナレーション等の収録が可能

 作品作りに関わる施設は3階〜6階に配置されている。3階にはMA、ダビングステージを6室準備。なお3階は防音にも配慮して、フロアー全体に二重床を採用するという配慮もなされている。

 303号室のMAスタジオは、ドラマなどの本編音声をゼロから作れる他、“何でもできるスタジオ”として、ドルビーアトモス・ホームの7.1.4にも対応済みという。さらにPro Toolsを3基備えており、多人数で作業する場合でも自由なアサインができるそうだ

 スピーカーにはProcella Audioのパッシブタイプが使われているが、これは癖のないモデルでモニターにも使いやすいということで、今回のスタジオ設置に合わせて導入されている。駆動するアンプはLAB.GRUPPENを使用。

 その隣には2〜3名が入れるブースを備えており、パッケージメディアの音声解説等ならここで収録できるそうだ。なお303号室と同じサイズの305号室もあるが、こちらは5.1chまでの対応という。

 同じく3階にはダビングスタジオも準備される。301/302号室は劇場予告編のミキシングやアフレコ収録が主な用途として考えられており、最大で7.1chのミックスダウンが可能。

 スピーカーにはJBL製が使われているが、これは予告篇等を1階の試写室で確認することも多く、その際に音の印象が変わらないようにとの狙いだそうだ。設置やチューニングも同じ担当者が行っている。

 竹芝メディアスタジオでは映像、音声ともすべてのデータは6階にあるサーバーに保存されており、作業の際には各スタジオのワークステーションからここにアクセスする仕組みという。こうすることで、作業する部屋が変わった場合でもまったく問題ない作業環境が確保できるわけだ。

4階:編集&カラーグレーディングルーム

402号室は劇場作品のカレーグレーディングに対応する。プロジェクターはNEC製のDLPモデル

4K/HDRコンテンツのグレーディングや編集を行う409号室。写真右側が家庭用テレビの「KJ-55X9500H」

 4〜5階は編集やカラーグレーディングなどの映像関連の施設が並んでいる。401/402号室は劇場作品などのスクリーンカラーグレーディング用で、4Kの映像制作にも対応する。プロジェクターはNEC製、スクリーンはスチュワートSnoMatte100(幅4.8×高さ2.0m)。

 なおここではDCP用のSDR映像を想定しており、ドルビーシネマ(ドルビービジョン)作品のグレーディングを行う場合は、第2試写室にて対応可能とのことだった。

 一方409号室はモニターベースの部屋となり、4K/HDR素材の編集&カラーグレーディングができるスタジオとなる。同社によると、最近は配信やテレビ放送でHDRコンテンツを扱うことが多いそうで、そのためにHDR対応の部屋も増えているのだろう。HD/SDRの編集&カラーグレーディングの部屋が5階にも4つ準備されている。

 409号室のビデオモニターはHDR対応のソニー「BVM-HX310」で、家庭用テレビとしてブラビア「KJ-55X9500H」も設置されている。これは最近の一般的なリビングでは液晶テレビが使われることが多いだろうという判断で選ばれているそうだ。

6階:QCルーム&サーバー

QCチェックを行う部屋も5室準備される。写真は604号室で、家庭用有機ELテレビ、ソニー「KJ-65A9G」も準備される。

ドルビーアトモス・ホームの再生も可能で、スピーカーはジェネレックのアクティブ型を使用

6階にはサーバールームを配置

 Imagica EMSではコンテンツ制作業務の他にQC(クォリティチェック)の作業も行っている。ある作品について、ノイズや映り込みなどのミスがないかといった確認から、アニメーションなどで人物の影の書き忘れなどはないか、絵と音のタイミングにずれはないかといった細かいチェックまで対応してくれる(3段階のレベルがあり)。

 ここでも配信用コンテンツを中心としたQCの依頼が増えているそうで、五反田では3部屋だった施設を5部屋に増やし、業務を拡充している。なお604号室にはビデオモニターとしてソニー「BVM-HX310」と家庭用テレビの「KJ-65A9G」が準備されている。家庭用として有機ELテレビが使われているのは、クライアントの細かい要望(映像モードが指定されることもあるとか)に応えるためとのことだ。ドルビーアトモス(7.1.4)の再生環境も準備されている。

 先述の通り、竹芝メディアスタジオでの映像、音声データはすべてサーバー集約され、各スタジオから社内ネットワークを通じてここにアクセスする環境が整えられている。この1年でクライアントからデータを受け取る場合も、完成したコンテンツを納品する場合もオンライン経由が増えており、それを踏まえての対応という。

 ただしそのためにはセキュリティが重要で、今回もその点には最大限の注意が払われている。ビルそのもの有人警備や機械警備、入退室管理システムといった物理的なセキュリティはもちろん、サーバーについては論理的セキュリティも組み合わせることで安全を確保している。

竹芝メディアスタジオの外観

 カラーグレーディングやQCの部分でも書いた通り、最近は配信コンテンツが増えていることもあって、ポストプロダクションの業務も変わってきているようだ。映像では4K/HDRに、音声ではドルビーアトモスのような3D立体音響に対応する必要も出てきている。今回の竹芝メディアスタジオはそういった需要に応える施設として、注目されることだろう。

 そして竹芝メディアスタジオのような設備が充実していくことで、配信やパッケージメディアの品質も向上していくはずだ。実際にImagica EMSでは昨年KADOKAWAから発売された『「犬神家の一族」4Kデジタル修復Ultra HD Blu-ray【HDR版】』のような高品質ディスクの制作も手がけているので、今後は竹芝メディアスタジオからさらにハイクォリティな作品/パッケージが登場してくれることを期待したい。(取材・文:泉哲也)