東映といえば映画のほかにも『非情のライセンス』(1973〜80)、『特捜最前線』(1977〜87)、現在では『相棒』(2000)や『刑事7人』など多くの人気・名作ドラマを世に送り出している。そして1971年に始まった『仮面ライダー』シリーズ、1976年に始まった『スーパー戦隊』シリーズという特撮ヒーロー・ドラマも制作している。

 2000年の『仮面ライダークウガ』からは『スーパー戦隊』シリーズの2本を制作し続けており、VFXの本場であるハリウッドのスタッフをして「どうやったら毎週2本の特撮ドラマを20年以上も放送し続けられるのか」と驚嘆の声をあげるほどだ。

 そこでこの2作を制作し続けている東映テレビ・プロダクションの代表取締役社長の日笠 淳さん、技術運営部 部長代理の川崎秀彦さん、そしてポスト・プロダクションの東映(株)デジタルセンター ポスプロ事業部 センター営業部長の薄井洋明さんに、『仮面ライダー』シリーズと『スーパー戦隊』シリーズを中心に、沿革から業務内容、4KやHDRなどへの取り組みや将来への展望をお聞きした。
編集部注:東映東京撮影所では、一般見学は受け付けていません

インタビュー取材の様子。今回は、東映テレビ・プロダクションが手かけてきた作品や歴史についてお話をうかがった後、実際のスタジオを見学させてもらった

日笠 東映テレビ・プロダクションは1959年に創業しました。映画の制作をしてきた東映がテレビ作品にも業務を拡大しようということで、大泉撮影所内に作られた会社でした。

 当初は大人向けのドラマも子供向けの特撮作品もすべて東映内部で作っていて、京都撮影所にもテレビ・プロダクションが作られたりと、多いときで4〜5社のテレビ制作の部所や会社がありました。それが吸収合併し、大泉撮影所内に別会社としての東映テレビ・プロダクションという形になったわけです。

 現在制作している作品は、『相棒』や『特捜9』『刑事7人』などの60分の刑事ドラマを年間で5〜6クール分、それと今は固定した枠はなくなってしまったのですが、2時間スペシャルのサスペンスドラマなども年間に10数本。特撮作品では『仮面ライダー』シリーズと『スーパー戦隊』シリーズを、年間それぞれ50本世に送り出しています。

川崎 だいたい年間で190本くらい、放送時間にして120時間分のドラマを作っていることになります。

―― 年間190本ものドラマを制作していることだけでも驚きだが、『仮面ライダー』と『スーパー戦隊』という手間のかかる特撮ドラマ2本を毎週、20年以上も続けているという事実は驚くしかない。しかも近年のVFX技術はハリウッドの大作に見劣りしないクォリティを誇っている。

日笠 「それだけの本数をどうやって作っているんだ?」とよく訊かれるのですが、自分たちもどうやってこなしているのかわからないんです。というか、これが日常なのでスゴイということがわかっていないという側面もあります(笑)。

川崎 VFXに関しては日本映像クリエイティブさん、特撮研究所さん、そして東映デジタルラボさんというメインの3社と、他にも多くの皆様のご協力、ご尽力によるものです。そして20年以上続いているというところが大きく、各社さんが長年の経験と実績でそういう体制を作っていただいていることに尽きると思います。

日笠 各社さんとは長いお付き合いなので、かなり協力していただけているのだと思います。もし新しいところに年50本、このクォリティの作品を作ってほしいと頼んでも、引き受けてくれるところはないでしょうね。

東映東京撮影所内のいくつかのステージは、東映テレビ・プロダクションの作品用として使われている。写真のV2やとなりのV1ステージもそのひとつとのこと

―― 前回の東映デジタルラボの取材で、日本で初めて連続ドラマに高性能デジタルビデオカメラのレッド・ワンを使ったのは『侍戦隊シンケンジャー』(2009〜10年)という話が出てきたが、その前年に放送された『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008〜09年)までは伝統的に16mmフィルム撮影だった『スーパー戦隊』が一足飛びに最新のレッド・ワンに切り替わった理由は、まさかのハリウッドだった。

日笠 『スーパー戦隊』はずっと16mmフィルムで撮影していて、デジタル放送で画面がワイドになったとき、横長のスーパー16のフィルムになりました。そのフィルムを毎回ビデオ変換して編集していたんです。でもこのタイミングで、一気にレッド・ワンになったわけです。

川崎 プロデューサーだった鈴木(武幸)さんから聞いた話では、レッド・ワンを採用したきっかけは『パワーレンジャー』だったようです。アメリカでは1993年から『スーパー戦隊』の特撮パートなどを使った『パワーレンジャー』という番組を放送していました。

 変身前のドラマパートはアメリカで撮影しているのですが、その撮影がレッド・ワンに切り替わるとのことで、特撮パートだけフィルム撮影では映像の質感が合わなくなる。それで、日本でもレッド・ワンの導入を検討してくれないかとの話があったそうです。今後のワールドワイドビジネスを考えたときに、そういう対応はしていくべきだろうと、導入したのだと思います。

薄井 フィルムからいきなりレッド・ワンに変えたのは事実ですが、現場のスタッフとしては『仮面ライダー』でのHD撮影の経験と実績があったので、混乱はしましたが、対応できたのだと思います。

日笠 レッド・ワンにした理由のひとつは、映像にフィルム感を残したかったという点があります。『仮面ライダー』は基本的に等身大のアクションですが、『スーパー戦隊』は巨大ロボットのミニチュアを使った特撮シーンがあるので、通常のビデオカメラよりレッド・ワンのほうが違和感のない映像になったというのが大きいですね。

川崎 普通に考えれば単発ドラマなどで試験的に使い、後に連続ドラマにという順番だと思いますが、東映は昔からまずやってみようというのがありました(笑)。ダメだったら元に戻ればいいじゃないというフロンティア・スピリッツのある会社で、『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』でまず試してみるということも多かったと思います。

 レッド・ワンを導入した頃には劇場用映画もドラマもすべてHD撮影になっていて、2017年の『宇宙戦隊キュウレンジャー』からは最新のレッド・エピック-Wを採用して、3K品質(水平2880×垂直1620画素)で撮影しています。デジタルシネマの場合、4Kとは水平4096×垂直2160画素なのですが、見た目の差がほとんどないということと、テレビ番組という限られた製作時間の中で、データ容量も含めて負担をなるべく減らしたいという思いから、この解像度に落ち着きました。

 また『スーパー戦隊』はメンバー5人が横並びになって、そこにズームで寄るといったカットが多く、アクションシーンの撮影では機動性も求められますから、スーパー16時代のレンズを大事に、大事に使っています。でもこのレンズを使って映画用の4Kで撮影すると、四隅が黒くなるケラレという現象が起きてしまうんです。それもあって、水平3840画素で使っているのです。

日笠 『仮面ライダー』と『スーパー戦隊』の劇場版を再開したのが2001年でした。その時は、『劇場版 百獣戦隊ガオレンジャー 火の山、吠える』は16mmフィルムではなく35mmフィルムで、『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』はデジタルカメラで撮影しましたが、劇場用映画をデジタルで撮ったのはこれが最初でした。『スーパー戦隊』用にレッド・ワンを導入するまでは、この状態が続きました。

薄井 撮影はフィルムやデジタルカメラですが、最終的にはHD(水平1920×垂直1080画素)のデータに変換してビデオ編集するので、作品の仕上げはHD品質になります。

日笠 撮影が4Kになることで、見えてほしくないものが見えてしまったり、ビデオ撮影にありがちな違和感や、ミニチュアがミニチュア然として見えてしまったりということがありました。これはHDでも同様だったのですが、でもそこはスタッフや小道具さん、メイクさんの努力と工夫で解決していきました。あとは人間特有の“慣れ”が大きかったかもしれません(笑)。

薄井 フィルムからビデオに切り替わった当初は照明さんがたいへんだったと聞いたことがあります。というのも、フィルムとビデオでは、照明の色味や質感が変わってくるんです。そもそもフィルムで撮影してきたスタッフばかりなので、どうしてもフィルムのニュアンスを出したくなってしまうんです。おその意味では、『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』は1年という長尺なので、いろいろ試す時間があるのはよかったですね。

撮影所内の様々な場所がドラマの中に登場しているとのこと。写真の階段も特撮作品や刑事ドラマの事件発生現場として使われることがあるとか

―― 近年、増えてきているという4Kでの撮影だが、『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』ではどの程度採用されているのだろうか。

川崎 『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』で4Kを使うのは主にグリーンバックでの合成用素材を撮るときと、爆破などの大仕掛けな撮影の時ですね。合成用の素材はマスクを切り抜きやすいように被写体のエッジの精度を上げるためで、他にも後処理でデジタルズームをするときに使っています。現在のところ、4K撮影は全体の2割程度です。

日笠 4Kは、高画質というより特殊効果のために使うことが多いと思います。合成チームから要請があれば使うという感じです。全編を4Kで撮るとなると合成などの作業も4K品質になるので、これを毎週1本仕上げていくのは現時点では難しいと思います。

 ただ4K撮影の映画としては、水谷豊さんの監督第2作『轢き逃げ 最高の最悪な日』を弊社で製作しています。水谷監督から『相棒』で培ったスタッフで撮りたいとの意向があり、主に弊社で行ないました。

―― コンテンツ自体は、視聴者は“東映作品”として見ているが、実際には東映本社、東映テレビ・プロダクション、東映デジタルラボ、東映デジタルセンターなど多くの会社の共同作業によって作り上げている。東映テレビ・プロダクションは制作のどの部分を担っているのだろうか。

日笠 企画やキャストなどは東映本社の企画・制作部が行ない、弊社は脚本と予算を戴いた段階から担当して仕切る感じです。ポスプロ作業はデジタルラボさんなどにお願いしますが、最終的に仕上げて納品するのはテレビ・プロダクションになります。

 大泉地区には16棟のステージがありますが、そのうちの8棟を『仮面ライダー』『スーパー戦隊』と、『相棒』などのドラマで使っています。そのうちの1棟は『スーパー戦隊』のロボット戦用のミニチュア・セット専用です。

―― 『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』といった特撮ドラマを制作するときに、ほかのドラマとは違う重要なポイントがあるという。それはまさに子供たちの憧れであるヒーロー作品ならではだった。

川崎 撮影したものと実物では、光の加減などで違う色や質感に映ってしまうことがあります。通常のドラマではそこまで気にはならないのですが、特撮ドラマの場合は玩具やグッズ化されますので、お子さんたちが手に取ったものとテレビに映っているヒーローの色やイメージが違って見えたり、違和感がないよう充分に配慮しながら、フラットに映るよう撮影しています。

ライブ合成での撮影の様子。スタジオのグリーンバック前で俳優さんが演技をすると、その横にあるモニターに背景を合成した映像がリアルタイムで映し出されていた

―― 東映のテレビ作品はただでさえ一分の隙もないスケジュールの中で作られているが、新型コロナウィルスの影響で状況はさらに厳しいものになっている。『仮面ライダーゼロワン』はコロナの影響で2ヵ月近く撮影が休止したともいわれている。だがその危機的状況が新たな技術を生み出していく。

日笠 コロナ禍にあって制限されることが増えました。まず人流や移動を抑えなければなりませんし、撮影許可が出るロケ先がほとんどない。撮影場所が見つかったとしても、移動の車も席を空けて乗るので、自動車の台数も倍になってしまう、といったことが起きています。

川崎 ある作品では、1週間のうちロケに出たのは1日だけで、あとはすべて撮影所内で撮ったこともありました。

薄井 監督やスタッフがアイデアを出して、同じ場所でもそう見えないように撮っていました。

川崎 『仮面ライダーリバイス』や『ゼンカイジャー』をご覧になっている方はお分かりいただけると思うのですが、変身や必殺技のプロセスもどんどん複雑になっていて、合成部のキャパシティを超える状況になっているんです。

日笠 今は、ロケに出かけなくてもそんな映像に仕上げる、ライブ合成という技術があります。弊社としてはこのライブ合成をいかに活用できるかに重きを置いています。

薄井 グリーンバック合成は、あらかじめグリーンバックで撮った映像に後から背景を合成しますが、ライブ合成は俳優さんをグリーンバックの前で撮りながら同時に背景を合成する技術です。

日笠 素材だけ撮ってポスプロに回すというのは申し訳ないので、現場でなるべく完成版に近いものを撮って、ポスプロの負担を減らそうと考えました。ライブ合成のメリットは他にもあって、グリーンバック合成はあとで背景を入れるので、演者さんたちは自分がどんな場所にいるのかがわからないのです。でも、ライブ合成はその場で背景映像が一緒に映し出されるので、演者さんたちにとってもやりやすいのです。そんなこともあり、ライブ合成をもっと推し進めていこうというのが、今の我々の方向性です。

川崎 『仮面ライダーセイバー』の頃に合成が飽和状態になっていて、それならライブ合成を本格的に取り入れようということになったんです。

―― 以前はVFXといえば特撮作品というイメージだったが、最近のドラマでは普通にCGやVFXが使われるようになってきて、需要は増える一方だ。

川崎 VFXの需要は増えてきてはいるのですが、とにかく『仮面ライダー』と『スーパー戦隊』が溢れるほどの合成の数なので、一般のドラマから合成の依頼が来ても「ああ、ドラマって合成のカット数はこんなもんなんだ」と逆に思ったりしています(笑)。とはいえ今ではどのドラマでも合成カットが必要なので、それぞれ担当がついて作業にあたっています。

日笠 通常、自動車に乗っているシーンは実際に道路に出て撮っていますが、最近のコロナ禍ではそれも難しい場合があります。しかし、先ほどお話ししたライブ合成を使うとスタジオ内で撮れるので、普通のドラマでも少しずつ試してもらっています。

川崎 大泉撮影所としては、全社をあげてバーチャルスタジオやライブ合成に取り組んでいます。そのための大きな問題はアセット、資産です。つまり背景に使う素材や資料をいかにして集めていくかですね。

 合成で肝心なのは、いかにたくさんの背景を準備できるかです。それをライブラリー化していくことで、様々な作品に恒常的に使えるようになっていくと思っています。テレビ番組の場合は、「こんなシーンが撮りたい」と言われてからアセットを作っていたら、出来上がる頃には放送が終わっているということにもなりかねませんので。

取材に協力いただいた方々。左から株式会社 東映テレビ・プロダクション 代表取締役社長 日笠 淳さん、同 技術運営部 部長代理 川崎秀彦さん、東映株式会社 デジタルセンター ポスプロ事業部 センター営業室長 薄井洋明さん

―― テレビ放送については、音もステレオが当たり前になり、さらによりクリアーに楽しめるようになってきている。だが音に関して、歴史ある番組ならではのこだわっている点があるという。

日笠 レッド・ワン撮影となった『シンケンジャー』から映像も変わりましたが、実は音も変わったんです。それまでオール・アフレコで、撮影後にセリフだけ録っていたんですが、レッド・ワンに切り替わったことで音声も同録(同時録音)になりました。

薄井 音のこだわりとして、『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』は歴史があるので、ファンの方が聴き馴染んだ音をあえて変えないというのが、ひとつのポイントかもしれません。今は同録でセリフを録っていますが、変身後の特撮部分はアフレコです。現場での同録とスタジオで録っているアフレコでは声の質感が変わってしまうので、ほかのドラマに比べると苦労しているところかもしれません。

日笠 音は確かにたいへんですね。現場のセリフ、現場の音、アフレコの声、SE、特にSEはこの世に存在しない音もたくさんあります。欲しい音がない場合は、それこそ昭和の時代に作った音を6mm(磁気)テープから持ってくることもあります。

薄井 『スーパー戦隊』のあの音が欲しいという話がたまにあるのですが、それを探すのがたいへんなこともあります。先達から引き継いだ音もありますが、まだアーカイブ化されていなくて、もし6mmテープが見つからなかったら、残っていないということになってしまいます。その時は欲しい音に近づけて作るしかないのです。

日笠 過去のビデオからその音だけ抜き出して、使ったこともありました。

―― 時代が昭和から平成へ、そして令和へと変わっていったように、『仮面ライダー』も『スーパー戦隊』も変わっていく。

川崎 昔ですと『仮面ライダー』は孤高のヒーローでしたが、今は複数のライダーが登場して仲間と一緒に戦うヒーローに変わっていきました。あと令和版『仮面ライダー』は職業にも就いていますね。『ゼロワン』は大企業の社長、『セイバー』は作家、現在放送中の『リバイス』は銭湯の跡継ぎです。それから女性のライダーも登場するようになりましたし、仮面ライダーであることを隠していないライダーもいます。仮面ライダーも時代に沿って変わっていきますね。

日笠 今は高画質、高音質の時代になってきましたが、そこを求めつつも、毎週、毎週1本ずつ途切れることなく放送していくのが、我々作る側にとってもっとも大事なことだと思っています。東映の代表作として、ファンの皆さんの期待を裏切らない番組作りを続けていきます。