去る1月13日から東京・六行会ホールにて、ドラマティック・レビュー『うたかたのオペラ』が上演中だ。

 この表題をきいてピンとくる音楽ファンも多いことだろう。2009年に亡くなった鬼才音楽家・加藤和彦が1980年に発表した名盤のタイトルでもある。この演劇は、その『うたかたのオペラ』に『パパ・ヘミングウェイ』(79年)、『ベル・エキセントリック』(81年)を加えた通称“ヨーロッパ3部作”にインスピレーションを受けて、演出家・劇作家の横内謙介がイメージした虚構の世界を三次元で立ち上げたもの。2009年に初演され、翌年再演されたものの、以来こんにちまで上演されていなかったという、一種幻の作品だ。筆者は初演も再演も見ていない。年頭から加藤和彦の音楽に浸れるなんて、と12年ぶりの復活上演に心を高まらせた。

 主な物語が展開される場所は、「シャトー ド レーヴ」なるレビュー小屋。“傀儡の国”に、とある権力者の後援を受けて建っており、いばりまくっている憲兵であろうとここでは好き勝手に振舞えない。このレビュー小屋で繰り広げられる、耽美的かつ刹那的すらあるレビュー(ショー)を、客席にいる我々は目と耳で味わうことになる。すると、そのうち、物語の奥へ奥へと案内されている自分に気づくという寸法である。

 中村誠治郎は、二重人格ともいえるキャラクターであるドクトル・ケスラー/アマカス役に扮し、歌やダンスもたっぷり披露。殺陣やアクションに才能を発揮する彼の、新たな一面に触れることができるといっていいはずだ。この傀儡の国で生まれた歌姫メイファ役は、元宝塚歌劇団星組トップスターの北翔海莉が担当。初演で宝塚の先輩・紫吹淳が演じた重要な役回りを、切れ味鋭いパフォーマンスで魅せてくれる。

 どんな曲が歌われているかについては、ぜひ現場でご確認いただきたいところだが、加藤和彦のスタイリッシュな楽曲だけではなく、戦時中の“国民歌”、さらには米国ではクリスマス・ソングとしても親しまれている「リトル・ドラマー・ボーイ」や、『メリー・ウイドウ』からの「ヴィリア」なども効果的に使われているのには唸らされた。ぼくは晩秋から年始にかけて、雑誌「ブルース&ソウル・レコーズ」の最新号に第二次大戦中のアメリカの軍歌に関する原稿を書いたり(スウィング・ジャズ=アメリカの軍歌であるという個人的仮説にさらに近づいた)、テレビドラマ「カムカムエヴリバディ」関連の取材のために第二次大戦前中後の大衆音楽を調べていたところだったので、個人的にも、すごくタイミングが合っていて、こういう偶然もあるんだなとしみじみした。

 公演は1月23日(日)まで。六行会ホールはちょっとしたすり鉢状になっていてどこからでも見やすいし、音響もいい。理想的な状態で、「シャトー ド レーヴ」の謎に迫る準備ができた、と断言したい。

ドラマティック・レビュー『うたかたのオペラ』

~2022年1月23日(日)まで六行会ホールにて上演中

【会場】六行会ホール(入場制限有)
【チケット】S席¥9,500 A席¥8,500(全席指定・税込)
【作】横内謙介
【音楽】加藤和彦
【演出・振付】菅原道則演出より KAZOO
【出演】北翔海莉、中村誠治郎、神里優希、佐伯亮、大隅勇太、鳳翔大、宮川安利、花陽みく ほか
【企画・製作】アーティストジャパン https://artistjapan.co.jp/
【公式サイト】https://artistjapan.co.jp/l_opera_fragile/
カメラマン:山副圭吾
(C)2022 ArtistJapan