映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第68回をお送りします。今回取り上げるのは、香港を舞台に往年のノワール作の雰囲気を色濃く再現した『レイジング・ファイア』。久保田さん絶賛の男たちの生きざまをその目で、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『レイジング・ファイア』
12月24日(金)TOHOシネマズ日比谷他 全国公開

 『イップ・マン』連作で味わいのあるアクション・スターとして頂点を極め、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などハリウッド映画にも進出したドニー・イェン。かたや十代で香港映画デビューし、『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』や『孫文の義士団』経て、近年は渋い大人の魅力を発揮するようにもなったニコラス・ツェー。

 香港映画界を代表するトップ・スターふたりが男の生きざまをかけて正面からぶつかり合うポリス・アクション。ジャッキー・チェン主演の『WHO AM I!?』やニコラス・ツェー共演の『香港国際警察/NEW POLICE STORY』、ラウ・チンワン、ルイス・クー、ニック・チョン共演のノワール・アクション『レクイエムー最後の銃弾-』など切れ味のあるアクション映画を作ってきたベニー・チャン監督の意欲作。

 最後に演出中のハイライト場面と謝辞がつけられているように、残念ながらこれが監督の遺作となった。

 中国当局の検閲でつるんとした作品がもてはやされるなか、この映画では警察上層部の腐敗によって、生き方を変えたふたりの警官の運命が描かれる。しかも舞台は香港。往年のノワール映画の匂いも強い一作だ。

 観客もこの手の力作、痛快作の登場を待っていたのだろう。中国で4週連続のナンバー・ワン・ヒット。220億円突破の興収を叩きだしたヒット作である。

 まぶたが火傷しそうになる激しい銃撃戦とカーチェイス。ヤクザVSヤクザの戦い。そのなかに浮かび上がる現代香港(中国)の闇。最後は教会を舞台にした1対1の、ドニーとニコラスの死力をつくした対決! エンジンを吹かしている静の場面も申し分なく、香港を舞台にするだけで、これほど面白い映画ができるのかと驚かされる。もちろんそれはベニー・チャン監督の力であるわけだが。

 負けは認める。だが運命には屈しないと倒れる男たち。ひさびさに香港映画の醍醐味を満喫した。ドルビー・アトモス仕様。切れ味満点の音響効果もいい。

映画『レイジング・ファイア』

12月24日(金)TOHOシネマズ日比谷他 全国公開

監督・脚本・プロデュース:ベニー・チャン
主演・アクション監督・プロデューサー:ドニー・イェン
出演:ドニー・イェン、ニコラス・ツェー、チン・ラン、パトリック・タム、ケニー・ウォン、サイモン・ヤム
スタント・コーディネーター:谷垣健治
原題:怒号・重案
配給:ギャガ
2021/香港・中国/カラー/シネスコ/5.1ch/126分/字幕翻訳:鈴木真理子/PG12
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