オーディオ機器に不可欠なケーブル。たいていの場合つなげば音は出るので、ここに気を配っていないオーディオファンは意外と多いように感じる。電源ケーブルは、これがなければ機器が動かないので製品に添付されている(インレット型であれ直出し式であれ)。メーカーの標準品だから、ユーザーもこれで万全と思いがちだ。しかし付属品は、あくまでその機器の最低限の性能を担保するものであって、ベストな状態を引き出すものではない。

 システムが深化すればするほど、ケーブルはおろそかにできない大切なアイテムになる。ケーブルに配慮しないと、機器の実力が発揮されないばかりか残念な結果になってしまうこともある。そんなケーブルの開発に心血を注ぐアコースティックリバイブの最新製品を使ってみたので、そのポテンシャルについてリポートしたい。

※今回の取材に関する潮さんのコメントはこちら ↓ ↓

聴き比べてわかった電源ケーブルの大切さ。プロがそっと教えるオーディオアクセサリーの選び方 [ ACOUSTIC REVIVE]

【お知らせ】
この動画の最後で次回の予告を行なっていますが、内容が今回のものになっています。正しくは、
「改めて実感! ラインケーブルの大切さ」〜オーディオビジュアル評論家の麻倉怜士氏が、月刊HiVi視聴室を舞台にACOUSTIC REVIVEのラインケーブルによる音質改善効果をリポートします〜 です。どうぞお楽しみに!
※字幕表示をオンにしていただくと、正しい予告が表示されます。

www.youtube.com

 今から30年近く前になるだろうか、当時すでにラインケーブルやスピーカーケーブルで音が変わることは充分理解していたが、電源ケーブルにまでは気が回っていなかった。ある時アンプを入れ替え、米国製のケーブルで電源を供給したが、今ひとつ音の抜けがよくない。どこに問題があるのかと探っていくと、なんとこのケーブルが原因だった。この時ばかりは「随分もったいないことをしてきたな」と思った。同時に、僕が電源ケーブルの重要性を知るきっかけになったのである。

 以来いろいろな電源ケーブルを試用するたびに新しい発見があった。それらの長い経験から僕は、「アクセサリー(電源ケーブル)にかける予算は、本体価格の20%を目安にする」という法則を生み出した。せっかく高性能な機器を導入したのなら、ケーブルにも予算を割くくらいの心構えがなくては、本来のパフォーマンスを引き出すことはできないからである。これは読者諸氏にも、ぜひ覚えておいてもらいたい。

ブレーカーからコンセントプレートまで、しっかり配慮している、潮さんの”ニコタマシアター”

ニコタマシアターは、オーディオ用のコンセントそれぞれにブレーカーをあてがうという、通常ではありえない配線を採用している。メインブレーカーも潮さんが検討の末選んだとのこと

オーディオ機器用のコンセントプレートには、アコースティックリバイブ製のCB-1DB(¥19,715、税別)を取り付けている。これは数年前に試して導入したとか

主な試聴機器
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●UHD BDプレーヤー:パナソニックDP-UB9000
●CDトランスポート:アキュフェーズDP950
●D/Aコンバーター:dCS 955 DAC
●プリアンプ:マークレビンソンNo32L
●AVセンター:デノンAVC-A110
●パワーアンプ:パスXA-100(L/C/R用に3台)、他
●スピーカーシステム:ATC SCM100sl×3(フロント、センター)、アキュフェーズPX-600、他

 さて、アコースティックリバイブは1997年からオーディオアクセサリーの製品開発に着手したブランドだ。ケーブルのほかにも多様な製品をリリースしているので、読者の中にもユーザーは多いだろう。わが家でも電源ボックスやコンセントベース、オーディオボードなど、同社の製品を長く愛用してきた。

 今回の取材では、同ブランドの最上級電源ケーブル「POWERSENSUAL-MD-K」をメインに試聴しているが、このケーブルは見るからにインパクトがあって僕もちょっとたじろいだ。というのもケーブルの中間に筒状のユニットが付いているからだ。こうしたスタビライザーは正体不明なことが多く、今回も疑問に感じていたので、取材時に開発者の石黒謙さんに詳しい話を聞いてみた。

 POWER SENSUAL-MD-Kは、PCOCCに代わる新たな素材として注目を集める「PC-TripleC」を採用している。アコースティックリバイブではこの素材を活かすためにどのような作りこみをおこなっているのか、その点について石黒さんは以下のように語った。

 「PC-TripleCは、導体に鍛造という製法を加えることで銅の結晶を電気が流れる横方向に連続させて結晶粒界を取り除いた線材です。当社ではPC-TripleCの5.6スケア線材を採用し、天然のシルク緩衝材や銅箔シールド、トルマリン含浸シース、カーボンCSFチューブなどケーブルとして完璧な構造を用いることで、この線材の特性を最大限に引き出しています」(石黒氏)。

今回試聴した電源アクセサリー

●電源ケーブル
POWERSENSUAL-MD-K ¥318,000(税別、2m、左)
POWER STANDARD TripleC-FM ¥38,000(税別、2m、右)※価格はそれぞれ1本です

●電源ボックス
RTP-6absolute ¥280,000(税別、左)
RTP-4absolute ¥240,000(税別、右)

 これだけでも充分と思える作りなのだが、このケーブルにはさらに筒状のユニットが中央部に取り付けられている。このことについて問うと、「このユニットは製法特許を取得した出川式MDユニットと呼ばれるもので、極性を反発させた状態で複数のネオジムマグネットが、貴陽石やトルマリン、水晶などの天然鉱石と共に封入されています。これにより、電源ラインに乗って来るノイズやケーブル自体が発生する輻射ノイズを吸収・消滅させ、電源ケーブルから発生する磁界を打ち消してゼロ磁界状態とすることで、電源エネルギーの流れを加速させるという効果も備えています」(石黒氏)と詳細に解説してくれた。

 一見すると威圧的な外見だが、理論に裏打ちされた意味のある仕様だということがわかる。さらに彼は、「トルマリンの10倍のマイナスイオンを発生する貴陽石の塗料を導通率100%の純銅電極を採用した電源プラグやインレットコネクター内部などに塗布して静電気の発生も防いでいます」と付け加えた。

 僕自身、こうしたユニットに対しては、これまで中身が不明で煙にまかれることが多かったので、つい色眼鏡で見てしまっていた。しかし、今回詳しい説明を聞いて、謎が氷解した。貴陽石は群馬県でしか産出しない鉱石だということも分かった。地の利を活かした地産地消の素材をこんなところに使うアコースティックリバイブの探求心に改めて感心したのである。

比較試聴に際し、御自身でケーブルをつなぎ替えてもらった。パワーアンプ系とデジタル機器系を別々の電源ボックスにつないでいる

 そこでその効果を確かめるべく、試聴をスタート。まず2ch再生で、私がプロデュースしたウルトラアートレコードのCD『情家みえ/エトレーヌ』を聴いた。

 XA-100付属の電源ケーブルでは、締まった音の印象だが、タッチがやや粗く、情家さんの声も硬さを感じる。このCDを作った者としては、彼女の持つ情感や優しさをもっと引き出したい。XA-100の持ち味である、熱く語る部分もいくぶんドライになる傾向だ。

 そこで電源ケーブル一式をアコースティックリバイブ製品に交換してみた。まず電源ボックス「RTP-6 absolute」を追加し、ここからXA-100(フロントL/R)とプリアンプのマークレビンソン「No.32L」をつなぐ(ケーブルはPOWER SENSUAL-MD-K)。さらに「RTP-4 absolute」にCDトランスポートのアキュフェーズ「DP-950」とD/Aコンバーターのdcs「955 DAC」をつないでいる。こちらの電源ケーブルは導体に3.5スケアのPC-TripleCを採用した「POWER STANDARD TripleC-FM」を用いている(接続の詳細は下図を確認)。

 この状態で試聴すると、がぜん透明感が増してヴォーカルの切れがよくなる。ここまでの変化は予想していなかっただけに、大いに驚かされた。明らかに歪みが減少しているし、声にも艶がのる。

 続いてCD『アンドレア・バッティストーニ指揮/東京フィルハーモニー交響楽団 オーケストラ名曲集』では、音の広がりが立体的でディテイル描写に優れ、音の微粒子が見えるようだ。歪感が減っていることはこの楽曲でも感じるし、ローレベルでの再現力の高まりは、ノイズレベルが下がっている恩恵である。低域も引き締まっているが、適度な弾性を持ち、ベースラインの表現力も手堅い。

 2chの実力がわかったところで、映画ソフトを交えたマルチチャンネル再生に移る。RTP-6 absoluteにはXA-100×3台(フロントL/Rとセンター用)を、POWERSENSUAL-MD-Kで接続する。RTP-4 absoluteからは、POWER STANDARD TripleC-FMで、UHDブルーレイプレーヤーのパナソニック「DP-UB9000」とAVセンターのデノン「AVC-A110」に電源を供給した。

AVセンター、デノンAVC-A110の背面端子部。写真右上の電源ケーブルが今回つなぎ替えたPOWER STANDARD TripleC-FM

 この状態でUHDブルーレイを再生した時の、低音域の充実には感心した。サラウンドとサブウーファー用パワーアンプは電源ケーブルも含めて何も変わっていないのに、LFEレベルの再調整が必要なほど伸びやかにして量感たっぷりの重低音を再現してくれたのだ。フロントスピーカーの低域表現力が向上したことも相乗効果を生んだのだろう。

 UHDブルーレイ『ターミネーター:ニュー・フェイト』では、ダイナミックレンジの拡がりが銃撃に力強さを与え、滑舌のいいダイアローグを再現する。良質の電源ケーブルが映像のS/Nや輝度レンジを改善することはわかっていたが、POWER STANDARDTripleC-FMもそうした効用をもたらす。サラとダニーがカール(ターミネーター)の住処を訪ねた後に森の中で会話するシーンでは、木々の解像感が上がり、見通しがいっそうよくなった。

 また、ドルビービジョン収録の米国盤UHDブルーレイ『イン・ザ・ハイツ』では、ニーナとベニーが逆光の夕景の中でダンスを踊るが、このシーンではクリアーかつピーク感のある絵が楽しめた。

 SDR収録の音楽ソフト、TOTO『デビュー40周年記念ライヴ〜40ツアーズ・アラウンド・ザ・サン』も分解能の高いサウンドが空間の広さを伝え、見通しのいい映像とともにライブ会場の雰囲気をたっぷり味わうことができた。

POWER SENSUAL-MD-Kを身にまとう(?)潮さん。今回の取材でこのケーブルが気に入ったようで、何本導入するか悩んでいました

 これだけはっきりした違いが出るということは、これらのケーブルが各機器のポテンシャルを引き出す助けになっている証左だろう。とりわけPOWER SENSUAL-MD-Kは、音の立ち上がりが鋭くなり、曖昧さがなくなった。その効果には、オーディオもビジュアルも境はない。

 なお、テストに使用したケーブルはいずれも新品だったので、やや音に堅さもあった。そこで無理を言って、XA100に使うケーブルだけ借用期間を延長してもらったところ、3日目を過ぎたあたりから徐々にあたりが柔らかくなってきた。基本となる表現力が変わるわけではないが、ケーブルは時間経過とともに耳あたりがよくなることを改めて体感した次第だ。

 オーディオ趣味でのケーブルは、バックステージの役割に近い素材だと思う。ひけらかすのは野暮だが、凝った裏地がちらっと見えるのは“粋”ではないか。アコースティックリバイブのアクセサリーは、そうした粋の世界に通じるサウンドをもたらしてくれる、魅惑的な製品である。

オーディオ用のプリアンプ、マークレビンソン「No32L」(上段)とサラウンド用のデノン「AVC-A110」

CD再生用のD/AコンバーターにはdCSの955 DAC(写真の一番下)を使っている。2ch試聴時にはこの電源ゲーブルもつなぎかえた

提供:関口機械販売