松尾大輔の長編映画監督デビュー作となる『偽りのhappy end』が、いよいよ12月17日に公開となる。行方不明になった妹を探す2組の女性の姿を通して、隔絶しがちな家族の負の面をえぐるように映像化した注目作だ。

 ここでは、妹(ミヅキ)の失踪によって、ジェットコースターのような感情・行動を見せるヒヨリを演じた仲万美にインタビューした。

――出演おめでとうございます。まずは、決まった時のことを教えてください。
 製作の方からお話があったようで、当時のマネージャーから「万美さん映画やりませんか?」と言われて、はいやります、と答えたのが始まりですね。それから、トントントンって決まっちゃいました(笑)。

――初めて台本を読んだ印象は?
 一度読んだだけではまったく想像ができなくて、どういうことなんだろうって、かき乱されてしまって、何度も何度も、理解が進むまで読み直しました。

 それでやっと飲み込めるようになったというか、情景が浮かぶようにはなりましたけど、脚本には彼女たちの心情が書かれていないので、そこは想像力を働かせて、どういうことなんだろう、どうしてそうなるんだろうって、必死に考えました。最後には、役作りにワクワクした感情が湧き上がってきましたね。

――すると、役作りはかなり難しかった?
 はい、とても難しかったです。ヒヨリのバックボーン(背景)についての説明(記述)もなかったので、どういう感情を持っているのかという以前に、どういう人物なのかから作らないといけなかったので、台本の中の彼女のセリフや行動から推測して、自分なりのヒヨリ像を作っていきました。

――具体的には。
 破天荒で、常に感情をむき出しにしている子、という感じです。そこは私とは遠いというか違うところで、彼女の行動には寄り添えませんけど、(妹が行方不明になったら)まあそうなるよね、というのはなんとなく分かりました。

 さらに、(悩みや怒りを)ものすごくため込んじゃう性格なんだなって思ったし、誰にも相談できないので、それがどんどん大きくなって(溜まって)しまい、最後にはそれが爆発するような行動を取ってしまう、と。

――これまでは、ダンスをしている子を演じられてきましたが、今回はダンスの要素はありません。
 そうなんです。だから(役作りは)余計にたいへんで、どれだけヒヨリと向き合えるか!? が大事だったので、もう、全力で挑みました。

――少しネタバレしますが、そんなヒヨリは、鳴海さん演じるエイミとは違う行動を取ります。
 そうなんです。エイミも面白いぐらいに変わりますけど、それはそれで、そうなるなという理解はできました。破天荒さの中には、今に生きる人々が陥りがちな一面も隠されているので、想像しやすい部分もありました。

――仲さんの作った役について、監督から何か意見はありましたか?
 全然ありませんでしたね。すべて任せてもらったようで、現場では、「その感じでもう一回やってみようか」という感じでしたね。

――映画としては、本作で3本目になりますが、お芝居への自信は付きましたか?
 自信というか、掴んできたとは思います。役が感じる辛さとか悲しさを表現するには、自分がこれまで経験してきたこと(=自分の引き出し)を参考にするしかありませんけど、今回の作品で言えば、過去の辛いことを全部思い出してみたり、あの時の感情を当ててみようというのが、すんなりできるようになったのかなと感じています。その意味では、(役作りについては)成長はしているのかなと思います。

――ちなみに多少話が逸れてしまいますが、登場シーンではお化粧もばっちりだったヒヨリが、物語が進むにつれてすっぴんになっていきます。
 (妹が失踪して)追い込まれて、切羽詰まった状態では、やはり化粧をする気にもなれないだろうし、時間もないだろうと思って、劇中ではどんどん(化粧を)しなくなっていくようにしようと決めていました。

――話は変わりますが、とあるお店に突撃するシーンのヒヨリは凄かったです。
 ありがとうございます。これまでも役になり切っている時の記憶がないことはありましたけど、そのシーンについては(撮影時の)記憶ってほぼないんですよ。でも、完成した映像を観ると、破綻はしていないので、きちんとお芝居はできていたんだなと感じました。

 彼女の行動には寄り添えませんでしたけど、妹のためにっていう強い思いを演じるのは、結構楽しかったですね。ゾクゾクしちゃいました。

――演じているという意識はあるのですか?
 ある時とない時がありますけど、その時は(まったく)ありませんでした。

――アドリブとかには対応できるのものですか?
 役になり切っている分、できると思います。私の中にある(過去の)感情を再現しているので、悲しい時は本当に悲しくなるし、本物の感情を出しているので、お芝居にウソがない分、やりやすいと思います。ただ、撮影が終わっても役が抜けないことがあって、結構(役の性格を)引きずっちゃいます。だから、撮影中は私生活でヒヨリが出ないように、生活をガラッと変えてみたりしました。

――自分の中にないものはどうするのでしょう?
 やってみせます! その意味では、本作で演じたヒヨリは挑戦でした。私は普段、怒ったりしないんですよ(笑)。ストレスを溜めることもないですし。(作品には)ダンスの要素もないし、まったく自分とは違う役だったので、初めて1から役作りをしたと言える作品になりました。すごく勉強になりましたし、毎日が衝撃的でした。

――仲さんは、本作で描かれる人々の関係をどう感じましたか?
 かわいそうだなって思いました。ヒヨリと(妹の)ミヅキだけでなく、エイミと(その妹の)ユウなどほかの登場人物たちも、血はつながっていても、心に距離があるんだなって。ヒヨリは「ミヅキは自殺なんかしない」と言い張っていますけど、それも、自分(ヒヨリ)はしないから妹もしないでしょ、っていう一種の押し付けですから。

――ラストシーンを演じての感想はいかがでしたか?
 いろんな感情が湧き起ってきて、気持ちが重たくなっていました。上を向いて涙を流すというラストなんですけど、人っていざという時には、本当は涙が出ないんですね。カットがかかっても、しばらくは動けなくてぼーっとしていました。

――その後、完成版を見ての感想は?
 いろいろ考えさせられましたね。もちろん、台本を読んだときにも感じるものはありましたけど、映像で見るとまた別の感情も湧き上がってきて、いっぱい考えました。詳しくは、舞台挨拶で話しましょう(笑)。

――今後の、お芝居(女優)への意気込みは?
 今は、お芝居をしているのがすごく楽しいです。作品によって演じる役も設定も異なりますから、毎回新鮮な気持ちで臨めますし、初心でいられるところがいいですね。一生続けていきたいと思っています。

――ところで、やってみたい役はありますか?
 やったことのないことをしてみたいです。なので、どんな役というのは答えにくいんですけど、とにかく、知らないことを知りたいですね。知りたいという気持ちは強いし、なんでも追求したくなっちゃうので、どんどんいろんなことを吸収・追求していきたいです。

――憧れの俳優、あるいは俳優像はありますか?
 憧れているのは木村拓哉さんです。たくさんの映画やドラマに出演されていますけど、どの作品でも“木村拓哉”を感じるんですよ。何をしていても自分の存在感が勝つというのはすごくかっこいいなと思って。私もいろいろな役を演じながらも“仲万美”でいたいですし、この役はあなたのためにあります、と言われる俳優になりたいです。頑張ります。

映画『偽りのhappy end』

12月17日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

<あらすじ>
中学を卒業してすぐに地元滋賀を離れ、ずっと東京に住むエイミ(鳴海唯)は、母親が亡くなった後も一人で滋賀の田舎で暮らしている妹・ユウ(河合優実)に、「東京で新しい人生を始めない?」と誘う。はじめは拒んでいたユウだがなぜか急に東京に来ることを受け入れ、一緒に暮らし始めるが、引っ越してきて早々、ユウは行方不明に……。

そんな折、エイミは同じく妹が行方不明になっているヒヨリ(仲万美)と出会う。エイミに、地元の琵琶湖で若い女性の遺体が見つかったと警察から連絡がくるが、見つかった遺体はユウではなく、なぜかヒヨリの妹だった。再び巡り合ったエイミとヒヨリは、共に犯人を捜すことになるが思わぬ方向へ……。

<キャスト>
鳴海唯 仲万美 河合優実 田畑志真 小林竜樹 奥野瑛太 川島潤哉 三島あよな 見上愛 メドウズ舞良 藤井千帆 野村啓介 橋本一郎 谷風作 永井ちひろ 鈴木まりこ 
古賀勇希 安田博紀 原知也 宮倉佳也 笹川椛音 白石優愛 土屋直子 馬渕英里何 カトウシンスケ

<スタッフ>
監督・脚本:松尾大輔
撮影:川野由加里 照明:赤塚洋介 録音:阿部茂 衣裳:田口慧 ヘアメイク:佐々木弥生 美術:松塚隆史 装飾:徳田あゆみ 制作担当:興津香織 助監督:小泉宗仁 監督助手:石塚礼/安藤梓 監督補助:廣野博友 特別協力:匠司翔 キャスティング:杉山麻衣 バレエ振付・指導:吉野菜々子 音楽プロデューサー:菊地智敦 音楽:古屋沙樹 編集:和田剛 音響効果:伊藤進一 配給・宣伝:アルミード
2020年/日本/カラー/16:9/5.1ch/97分
(C)2020 daisuke matsuo

偽りのないhappyend 予告編

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