TCLのテレビを視聴取材するのは、私自身2回目になる。今回の65C825は、前回チェックした55C825と同じ仕様のQLEDパネルを採用した大型機だ。同社は世界第2位の液晶テレビ出荷台数を誇る中国の大手家電メーカーで、QLED+Mini-LED機は今後の主力となるモデルである。

 パネル形式は前述の通り、量子ドット技術を採用したQLED/倍速駆動VA式で、4Kチューナー内蔵のAndroid TVとなる。ディスプレイ直下に配した数千個のMini-LEDバックライトをローカルディミング制御している点が見逃せない一大フィーチャー。HDR/HLG/ドルビービジョンなど、4Kコンテンツ対応力も抜かりない。デザインは極細ベゼルによる、ほぼフレームレスという印象で、実にすっきりシンプルにまとめられている。画面下部にサウンドバースタイルのスピーカーシステムを搭載し、ドルビーアトモスにも対応する。

 

4K LCD DISPLAY
TCL
65C825

オープン価格(実勢価格25万円前後)

● 型式:4K液晶パネル搭載ディスプレイ
● 搭載パネル:VA倍速液晶
● 解像度:水平3,840×垂直2,160画素
● バックライト:ローカルディミング対応直下型Mini-LED
● チューナー:地上デジタル×2、BS/CS110度×2、BS4K/CS4K×2
● 接続端子:HDMI入力3系統(eARC対応)ほか
● HDR対応:HDR10、HLG、ドルビービジョン
● サウンドシステム:ドルビーアトモス対応オンキヨー製サウンドバー
● 寸法/質量:W1,446×H905×D290mm/32.2kg
● 問合せ先:(株)TCLジャパンエレクトロニクス TEL 0120-955-517

TCLの2021年製品ラインナップの最高峰がC825シリーズ。量子化ドットシートを利用して色純度の高さと広色域を追求したQLED液晶と、Mini-LEDと呼ばれる極小のLEDを多数配置したローカルディミング(部分制御)付きバックライトシステムを組み合わせて、明るくダイナミックレンジに優れた映像を訴求している。サイズは65インチと55インチでの展開となる

  

 今回の視聴テストでは、話題のネット動画を存分に楽しむことをテーマとしているが、その前にリファレンス・コンテンツにて基本性能をチェックしてみたい。

 私がリファレンスとしている8K収録されたNHK BS4Kドラマ『浮世の画家』の冒頭シーンを「映画」モードで視聴。屋外の紅葉の様子など、色再現はなかなかヴィヴィッドで、肌色の質感もナチュラルだ。暗部階調でやや色の回り込み(赤系)とチラチラとしたわずかなノイズを確認したが、総じて好印象。他方、同シリーズの55インチ機同様にハイライトの伸びが著しく、眩しいほどだ。ローカルディミング処理の恩恵か、コントラストレンジが滅法高そうである。

 ラグビーW杯のエアチェック画質を「スポーツ」モードで視聴すると、明るい環境下で見る絵のチューニングと思われ、やや高めの色温度で色乗りは濃いめ。映像モード「スマート」では顔色にやや赤みが差すが、暗室環境で見る場合はグラデーションやメリハリがあってよろしい。

 同じくBS4Kエアチェック映画『アラビアのロレンス』のアカバ襲撃シーンを視聴。砂漠の砂煙の様子など、ディテイル再現は明快だ。遠近感もしっかりとしており、映像全体のパースペクティブが巧みな再現に思う。

 オンキヨーとの共同開発となるオーディオ系がなかなかいい感じで、2019年大晦日に放送された『NHK紅白歌合戦』から、Superflyの歌唱シーンを見たが、ヴォーカルのセンター定位も克明で、音声モード「標準」ではややナローレンジに聴こえたものの、「ミュージック」ではトーンバランスが整っていることが確認できた。

C825は、オンキヨー製サウンドバーを搭載、「音のいいテレビ」としても貴重な存在といえよう。ドルビーアトモス音声にも対応しており、ネット動画サービスで採用が相次いでいるドルビーアトモス音声作品の再生も万全だ。なおHDRは基本のHDR10やBS/CS4K放送で使われているHLGのほか、ドルビービジョンにもサポートしている。写真はNetflixの人気ドラマ『イカゲーム』の再生時の画面

 

音声設定メニュー。音質モードは「ダイナミック」「標準」「ミュージック」「ドラマ」「ゲーム」「スポーツ」が用意されている。今回は「ミュージック」を中心に用いている

 

 

ネットフリックスを再生。コントラストの広さに眼目

 今回はネットフリックスが配信する3本の動画を視聴した。同サイトのアカウントを所持していれば、65C825は内蔵のアプリで簡単に視聴が可能。他にもGYAO!やU-NEXT、ABEMAなど、日本独自のネット動画サービスにもきっちり対応していることがホーム画面から確認できる。

TCLの最新テレビは、OS(基本操作ソフト)に汎用性に優れたAndroid TV OSを採用し、ネット動画再生との親和性が高い点もセールスポイント。NetflixやAmazon Prime Video、Hulu、DAZNなど国際的サービスのみならず、TVerやABEMA、U-NEXTなど日本ローカルのサービスにも対応している

 

画質や音質設定などの各種設定は、消音ボタンの下にある「メニュー」ボタンから行なう。Android TVのホーム画面は、音声認識用Google Assistantボタンの右側のボタンを押す

 

 

 最初に観たのは、個人的にも今夏、大いに感銘を受けた日本制作のドラマ『全裸監督』のシーズン2だ。そのエピソード7、森田望智演じる準主役の黒木香が自殺未遂を起こし、入院する場面だ。ドルビービジョン対応の本機では、画質モードを、暗室視聴を想定した「薄暗い動画」を選択した。

 病院のシーンでは、ポロシャツの下にランニングシャツを着た主人公 村西とおるのシルエットの具合や白いソックスの質感がよくわかる。廊下を歩く逆光のシーンでは、体の動きがクッキリと浮かび上がった。Mini-LEDとそのローカルディミングが効いているので、明暗の調子はまったく危なげない。母親役の小雪の艶やかな黒髪も美しい。

 アンバー色の陽の光がブラインド越しに差し込む事務所に、マスターテープを強奪すべく村西が押し入るシーン。オレンジから黄色の光の中で掴み合う元仲間たち。シーンの悲哀感が画面から染み出すかのようで、重苦しさが観る者に伝わる。ビルの表に出ると画面は急にパッと明るくなった。村西が現実に引き戻されたことを暗示するかのようで、このようなシーンでも65C825のコントラストの余裕を感じる。

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話題の『イカゲーム』ではパステルカラーが強烈

 続いて視聴したのは、目下話題沸騰中の韓国制作ドラマ『イカゲーム』。全世界でもっとも多数の視聴者数を記録した、いわゆる「デスゲーム・ドラマ」である。こちらもドルビービジョン作品のため「薄暗い動画」モードでの視聴となる。

 エピソード1冒頭、陣取りゲームに興じる男子たちのモノクローム・シーン。ユニフォミティについて改善を望みたい部分が若干あるものの、やはり白ピークの伸びと暗部の引き込みが織り成すコントラストレンジの広さに目を見張る。

 現代のシーンに切り替わってカラー映像となってからは、ドルビービジョンならではの色再現範囲の広さと立体感に魅了させられる。ストーリー展開上、ゲームの舞台がハリボテというのがはっきりわかるが、なかなか大掛りなセットを組んでいることが確認できるし、そのセットの精巧な造りもよくわかる。特に参加者たちが控え室から移動する階段のポップでカラフルなパステルカラーの色合いが強烈に映った。

 グリーンの上下ジャージを着たゲーム参加者の表情は、不精ヒゲの様子やアザや傷の具合も克明に見て取れる。また、どちらかというと自然光での発色というよりも意識的に濃淡のハッキリとした色彩の演出をしていると思しきシーンが多いことにも気付く。特にゲームシーンではそれが顕著。このあたりはゲームの非現実性を明確にするための意図があるのかもしれない。いずれにせよ65C825が、物語にグーッと引き込むような色再現によってその世界観を表現していることに他ならない。

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独特の世界観『ケイト』のダークトーンに引き込まれた

 最後に観たのは、4K&ドルビービジョンで配信中の女スナイパーの復讐劇『ケイト』だ。これもドルビービジョン「薄暗い動画」モードでの視聴だが、日本を舞台にしたクールでダークなイメージに支配された映像が特色だ。

 大阪や六本木が舞台となっているが、メトロポリスの街並がシャープなイメージで浮かび上がる様子が独特の世界観を醸し出すことに成功している。65C825の細密描画とコントラストレンジの広さが絶妙にマッチしているのだ。主人公にフォーカスがビシッとあった被写界深度の浅い場面で、そうしたパネルの性格が活きているように思う。

 冒頭の仲間との対話シーン、トラックのカーゴ内での場面は、さまざまな計器類の文字盤やスイッチの照明、LED等の点灯が実に精密かつ細やかに映っているのがわかる。LEDの照度や色の数などにクールな光沢感が感じ取れるのだ。都会でのナイトシーンが多く、ダークなトーンが重要な作品だが、なかなか没入感もあって引き込まれた。

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 65インチという画面サイズも相まって、近付いて観れば視野いっぱいに物語の世界観が広がり(極細ベゼルもそれに一役買っている)、まさしく鑑賞に集中できるテレビ。TCL 65C825のネット動画適合力はすこぶる高いと感じた次第である。