TAXI DRIVER with DOLBY VISION/4K DIGITAL RESTORATION

TAXI DRIVER remains one of the finest cinematic achievements of the 1970s and even now, four decades plus since it was made, the film has lost none of its power or relevancy.

Release Dates (Theater):February 7, 1976 (Domestic)
Domestic Total Gross:$28,262,574
(Worldwide: $28,570,902)

Limited Edition gif set includes fully remastered 4K UHD disc debuts for Anatomy of a Murder, Oliver!, Taxi Driver, Stripes, Sense and Sensibility and the Social Network

Over 30 hours of special features: a mix of rare archival materials and exciting new content, including cast & filmmaker anniversary reunions for Stripes and Sense and Sensibility. Also includes an extra disc featuring 20 acclaimed short films from the studio's library - exclusive to this set

Slipcover in original pressing

Gift set also includes an exclusive 80 page full color collectible book with rare photos and insightful history of the included films

COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC

コロンビア映画(コロンビア・ピクチャーズ・インダストリーズ)の創立は1924年。ユニバーサル創立者カール・リームルに仕えていた、ハリー・コーンとジャック・コーンの兄弟、ジョー・ブラントの3人が率いる配給会社C.B.Cフィルム・セール(20年創立)が前身となる。30年代に招いた監督フランク・キャプラの活躍によって一流スタジオの地位を確立していくわけだが、30年代の規模的評価では、パラマウント、FOX、MGM、ワーナー、RKOの「ビッグ5」に対し、コロンビアはユニバーサル、ユナイテッド・アーティスツとともに「リトル3」と言われていた。1940年代は娯楽路線に徹して収益を上げたものの、芸術路線に転じたことで50年代は業績不振に陥ってしまう。だが当時台頭してきたテレビ業界にいち早く目を向け、テレビ部門(スクリーン・ジェムズが番組を提供)を始動。その収益の大半を映画製作に注ぎ込んでいく。

63年には撮影所を売却、68年にスクリーン・ジェムズと合併、70年代半ばまで倒産の危機に追い込まれる低迷期が続いている。82年にはコカ・コーラがコロンビアを買収。翌83年、コロンビアはHBO、CBSと共同出資、トライスター・ピクチャーズが創設された。1989年にはソニーが巨額で買収。現在ではソニー・ピクチャーズ モーション ピクチャー グループの傘下に属している。

Columbia Classics Volume 2 4K Ultra HD Collection - Official Trailer | Available 10/12!

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COLUMBIA CLASSICS 4K ULTRA HD COLLECTION

昨年6月にコロンビア映画の代表作を収めた、ゴージャスなUHD BLU-RAY/BLU-RAY BOXセット『COLUMBIA CLASSICS 4K ULTRA HD COLLECTION VOL-1』(LIMITED EDITION)が登場したが、いよいよその第2弾がリリースとなった(第1弾は『スミス都へ行く』(1939)『アラビアのロレンス』(1962)『博士の異常な愛情』(1964)『ガンジー』(1982)『プリティ・リーグ』(1992)『ザ・エージェント』(1996)を所収)

10月リリースの第2弾『COLUMBIA CLASSICS 4K ULTRA HD COLLECTION VOL-2』(LIMITED EDITION)では、オットー・プレミンジャー監督作『或る殺人』(1959)、キャロル・リード監督作『オリバー!』(1968)、マーティン・スコセッシ監督作『タクシードライバー』(1976)、アイヴァン・ライトマン監督作『パラダイス・アーミー』(1981)、アン・リー監督作『いつか晴れた日に』(1995)、デヴィッド・フィンチャー監督作『ソーシャル・ネットワーク』(2010)が所収されている。第1弾同様に、各UHD BLU-RAYはスリップカバーに黒のUHD BLU-RAYケースが収納。またこちらも同様に80ページに及ぶハードカバー・ブックを同梱(作品解説とレストレーション解説)。総重量は1.6kgに及ぶ重量級BOXセットだ。『タクシードライバー』『ソーシャル・ネットワーク』はドルビービジョン、『或る殺人』『オリバー!』『パラダイス・アーミー』『いつか晴れた日に』『ソーシャル・ネットワーク』はドルビーアトモス・サウンドトラック採用。日本語字幕/日本語吹替音声は『タクシードライバー』のみに収録されている。

今回の世界4K-Hakken伝では『タクシードライバー』をピックアップ。HiVi/2021年12月号(発売中)では他所収タイトルを紹介しており、併せてご一読願いたい。

タクシードライバー
監督 マーティン・スコセッシ
製作 マイケル・フィリップス, ジュリア・フィリップス
脚本 ポール・シュレイダー
撮影 マイケル・チャップマン
音楽 バーナード・ハーマン
出演 ロバート・デ・ニーロ, シビル・シェパード, ピーター・ボイル, ジョディ・フォスター,
アルバート・ブルックス, ハーヴェイ・カイテル, ジョー・スピネル, マーティン・スコセッシ

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SCREEN CAPTURE

FILM

アメリカン・ニューシネマの終焉に生まれし、もはや説明不要の大傑作。1976年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞(当時は海外での評価の方が高かった)。主人公の名はトラヴィス・ビックル。元海兵隊員でベトナム戦争の古参兵。ドストエフスキーの『地下室の手記(地下生活者の手記)』を思わせる日記の作曲家。ニューヨークという街の、土着の病原菌に感染しているかのようなタクシー運転手だ。PTSDと不眠症を病むトラヴィスは、タクシーで夜の街を流し、「ニューヨークはゴミ溜めだ」と呟いてみせる。画面には猥雑で、活気にあふれた都会の姿が映し出され、乗客を含めて彼に関わる者たちもさまざま、当時のアメリカ社会のモザイクが描き出されていく。

脚本はポール・シュレイダー。本作から2年後、『ブルー・カラー/怒りのはみだし労働者ども』で長編映画監督デビューを果たし、代表作には(以下脚本作)『ザ・ヤクザ』『レイジング・ブル』(以下監督作)『キャット・ピープル』『MISHIMA』等がある。当初、本作の脚本は映画スタジオにまったく相手にされなかった。精神を病んだベトナム帰還兵。少女売春婦。クライマックスの暴力描写。映画スタジオが尻込みする理由は多々あったものの、ようやく『スティング』をヒットさせた新鋭プロデューサー、マイケル&ジュリア・フィリップス夫妻の目に留まり、監督ロバート・マリガン、主演ジェフ・ブリッジスでテイクオフすることになる。その後、監督・主演は二転三転。監督候補でもあったブライアン・デ・パルマがシュレイダーにマーティン・スコセッシを紹介、シュレイダーも『ミーン・ストリート』のシャープな演出を気に入っており、フィリップス夫妻に強硬に推薦した。実はフィリップス夫妻も『ミーン・ストリート』を高く評価しており、映画は監督スコセッシで始動することになる。主演は同じく『ミーン・ストリート』に出演していたロバート・デ・ニーロ。与えられた製作費は190万ドル。インディーズ作品と変わらぬローバジェットであった。

Martin Scorsese and Brian De Palma

脚本契約を失い、結婚にも失敗して、ガールフレンドからも拒絶されて、私は躁うつ病の状態に陥った。そのころレストランの配達員の仕事もしていたが、仕事がない時はひとりで車の中で過ごし、仕事が入ると車で移動する。自分がタクシーの運転手のように思えたよ。冷蔵庫の食料がなくなると、夜のロサンゼルスをさまよって、ポルノ劇場を訪れ、酒に溺れていた。不摂生な生活が続き、ついに不眠と胃潰瘍で入院した。病院でも落ち着かず、ベッドで寝ていると、とつぜんタクシーの運転手たちの幻覚をみた。彼らは下水道を走るネズミのように街を移動する。つねに人に囲まれているが、心を許せる友達がいない、都会の孤独で絶対的なシンボルのように思えた。それは私でもあった。だから都会の孤独の象徴である、金属の棺のようなタクシーを題材にしようと思ったんだ。(ポール・シュレイダー)

(LINK:PDF)TAXI DRIVER SCRIPT:written by Paul Schrader

SCREEN CAPTURE

脚本を書き始める前、サルトルの『嘔吐』、グリフィスの『見知らぬ人』、ドストエフスキーの『地下室の手記』、ドリュ=ラ=ロシェルの『鬼火』、ドゥヴィニの『抵抗-死刑囚の手記より-』を読み直した。大学で研究したロベール・ブレッソンの脚本も参考にした。細部へのこだわり。単調な日常。その日常の些細なこと。日記。ナレーション。こうしたブレッソンの脚本の手法を生かして、トラビスの目を通して見た世界を単眼視させようとした。私たちは彼の頭の中に住んでいて、彼の現実​​を受け入れなければならないように。(ポール・シュレイダー)

Robert De Niro’s copy of the Taxi Driver script includes his handwritten notes and provides insight into how he constructed his performance and how improvisation is incorporated into the filmmaking process. This page shows Travis Bickle, the film’s main character, alone in his apartment, rehearsing for an impending violent confrontation. “You talkin’ to me?” is recorded only as a note — “Mirror thing here?” — at the bottom of the page.

ロバート・デニーロの脚本のコピー。アパートの自室での有名なシークエンス。脚本にはデ・ニーロの手書きのメモが記されており、彼がどのようにパフォーマンスを構築したか、そして即興がどのように映画製作プロセスに組み込まれているかについての洞察を提供している

SCREEN CAPTURE

デ・ニーロは役作りの準備をしつつ、ベルナルド・ベルトリッチ監督作『1900年』の撮影も行っている。『1900』年は1974年7月から1975年5月にかけてイタリア/ローマで長期撮影が行われており、デ・ニーロは撮影オフを利用してニューヨークに戻り、役作りのためにタクシーの運転免許証を取得。ニューヨークで数週間、運転手の仕事をした後、ふたたびローマに戻って『1900年』の撮影に挑んでいる。またイタリア北部の米軍基地を訪れ、アメリカ中西部出身の兵士たちとの会話を録音、トラビスの性格に相応しいと考えたアクセントを構築している。そのアクセントで繰り返し読み上げていたのは、シュレイダーに勧められた『暗殺者の日記』であった(アラバマ州知事ジョージ・ウォレスの暗殺未遂を企てたアーサー・ブレマーの日記/1973年に日記の一部が出版された)。さらにこの準備期間、デ・ニーロは『ゴッドファーザーPartⅡ』でオスカーを受賞、彼のプロフィールは急上昇している。当初契約した出演料は3万5000ドルであったが、デ・ニーロは異議を唱えることなく、契約の変更を一切申し立てていない。

ニューヨーク市発行 タクシードライバー・ライセンス。『1900年』の撮影中だったため、演じたアルフレードの髪型のままの写真が使用されている

関係者全員が多大な経済的犠牲を払い、価値あるものを生み出すことにこだわり、固執し続けた映画だ。スコセッシ、デ・ニーロ、マイケル、ジュリア、トニー・ビル、ハーヴェイ・カイテル、ピーター・ボイル、ジョディ・フォスター、そして私自身を含めてギャランティの全体的なコストは、15万ドルほどだったと思う。デ・ニーロは、この映画が金を稼ぐかどうかなど問題じゃない、これは50年後に人びとが観る映画だ、公開後に誰が映画を観るかどうかは重要ではない、と言っていたよ。それが私たちが目指した方法であり、私たちが妥協しなかった理由だ。(ポール・シュレイダー)

SCREEN CAPTURE

VIDEO

撮影監督は『さらば冬のかもめ』『ワンダラーズ』『レイジング・ブル』のマイケル・チャップマン。昨年9月、惜しくも他界(享年84歳/ここでは彼のインタビュー記事からコメントを抜粋、後述する)。アリフレックス 35 BL/35mm撮影。ポルノショットはアリフレックス16/16mm撮影。『タクシードライバー』が撮影された75年(6月~8月)には後継機35BLⅡ/16SRがリリースされたが、本作では35BL(Ⅰ)が使用されている。35BLは1972年にリリースされた、軽量で静音能力を高めた反射型35mmカメラで、35BLの登場でカメラの活動領域は格段と広がることになった。『タクシードライバー』ではあらゆる種類のドリー(台車)ショットが試みられているが、懐の深い優秀な撮影クルーが揃ったこと、そして35 BLを使用した成果である。主軸として使用されたレンズは、カール・ツァイスのスーパースピードレンズMK1(18、25、35、50、85mm/1975年にアリフレックスと共同開発)。開放F値が小さく、T1.4(後のT1.3)の最大絞りで、アヴェイラブルライト(その場にある灯り)と利用可能な街灯のみで、ナイトシーンや室内シーンを撮影可能にした。35BLとスーパースピードレンズのセットは、『タクシードライバー』で初めて使用されたものである。

有名なクライマックスのドリー・ショット (取り壊し予定のビルの天井を抜いて撮影)

私もマーティ(スコセッシ)もニューヨークそのものを表現したかった。リアルを極めた映画ではないが、ニューヨークの姿、ニューヨークの持つビジョンをとらえることが出来たと思う。映像スタイルといったもの以上に目指したのはニューヨークに対する視点、ビジョンだった。私たちは、ニューヨークについてなにかを表現したい、という欲求を分かち合っていたんだ。(マイケル・チャップマン)

本格的なレストアの開始は1996年。これは製作20周年を記念した劇場リリースのために、ニューヨーク近代美術館が作業を担当、オリジナルネガの傷痕、破損、退色等の修復が行われている。その15年後、製作35周年リリース(劇場&BLU-RAY)では、2010年初頭に1996年レストア・ネガを修復ラボのシネリック(本社ニューヨーク)が、4K解像度でスキャニング。ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント傘下カラーワークス(2015年にデラックス社に譲渡/SP施設内に現存)のグローバー・クリスプ主導のもと、4K解像度でカラーグレードが行われている。監修はマイケル・チャップマン。当時のLUT(ルックアップテーブル)は明らかにされていないが、想定されるのは撮影フィルムであるコダック100T 5254であろう。だがチャップマンは「メトロカラーの色調の再現に調査とシミュレーションが必要で、多くの時間を費やした」と述べている。

メトロカラーは、MGMがラボで処理するフィルムに使用する登録商品名であり、コダック(イーストマンカラー)のフィルムが使用されたものの、コダックのすべてのプロセスを使用したわけではない。MGMスタジオ内に独自にラボを設けて処理を行っており、イーストマンカラーの表記を使うことが出来なかった(86年スタジオ売却まで続く)。『タクシードライバー』では光学エフェクトをMGMで行っており、最終プリントもMGMで現像されている。こうした複雑なグレーディングプロセス中に、4KファイルはMTIフィルム(本社ロサンゼルス)に転送され、大規模なデジタルクリーンアップを実行。残存していた乳剤の汚れが除去され、破損フレームや傷痕が細心の注意を払って修復されている。MTI フィルムで修復された4Kファイルは、ふたたびカラーワークスに転送された。

SCREEN CAPTURE

この段階でクリスプは、スコセッシと(彼の作品には欠かせない)編集のセルマ・スクーンメーカーのために試写を実施。当時(2010年8月)、ふたりは『ヒューゴの不思議な発明』の編集作業のためにロンドンにいたが、ロンドンで数少ない4Kプロジェクター完備の試写室(ソニー欧州本社)で確認が行われている。試写後に提案された変更を含む指示書が渡され、クリスプとカラリストのスコット・オストロフスキーによって映像修正変更、ふたたびロンドンでの試写を行い、スコセッシの承認を得ている。レストレーションは2011年1月に完了、10ヶ月に及んだフル4Kワークフローは『博士の異常な愛情』『戦場にかける橋』に続く第3弾となった。2011年リリースのBLU-RAYの映像平均転送レートは24Mbps、同マスターを使用して2年後にリリースされたMastered in 4K BLU-RAY(広色域情報を保持しながら高ビットレートで収録/特典映像未収録)は34.9Mbpsを記録する。

1996年からマーティとともに修復作業にかかわってきた。最新技術の豊かさを歓迎しているし、今風に新しく見せることも容易にできる。だが復元された映像は「その映画が作られた時代と場所の産物」として見えるべきである、というのがマーティの一貫した考え方だ。最後の銃撃シーンの外観や色調に関しても、修正を加えるつもりはないと主張していた。あれは暴力描写によるX指定を避けるため、ニューヨークのTVCラボ(閉鎖)が開発したChemtoneプロセスを使用したものだ。Chemtoneは密度を高めてコントラストや彩度を下げる化学処理なのだが、オリジナルのコントラストと発色を記録したネガやプリントは失われており、現存する最良の素材はChemtoneで処理されたデュープネガだけだった。Chemtone処理のデュープネガからは、オリジナルの外観や色調を復活させることはできない。こうした理由もあって、あのシーンをそのままにしておくのが最善だと、マーティは感じていたのだと思う。(マイケル・チャップマン)

SCREEN CAPTURE

そして今回のUHD BLU-RAY化においても2011年4Kファイルが採用されており、グローバー・クリスプ、SPE副社長リタ・ベルダ、ロサンゼルスのポストプロダクション施設/ラウンドアバウト・エンターテインメントのシェリー・エイゼンバーグが共同でUHD BLU-RAY化を実現している。エイゼンバーグは、『未知との遭遇』『イージー・ライダー』『ガンジー』や、今回リリースの『オリバー!』『いつか晴れた日』のHDRマスタリング・カラリストである。「デジタル画像技術はあらゆる問題に対処するための多くの新しいツールを提供してきたが、今日の高解像度画像形式の品質により、レストア作業はより要求が厳しくなっている」と語るエイゼンバーグは「HDRでコントラストを拡張するということは、以前のSDRバージョンでは認識できなかった汚れや傷などの詳細が、より見えることを意味する。つまり2011年のレストア作業では確認できなかった汚れや摩耗に対処するために、追加の修復時間が必要となった」と語っている。

映像平均転送レートは64.3Mbps(HDR10)/2.1Mbps(ドルビービジョン=DV/比率3.16%。2011年BLU-RAYのおよそ3倍、Mastered in 4K BLU-RAY、さらにiTunes(4K/DV)の2倍弱のビットレートを有している。HDR10のMax CLL(コンテンツ最大輝度/Maximum Content Light Level)=3242nit、MaxFALL(フレーム毎平均最大輝度/Maximum Frame Average Light Level)=146nit。

SCREEN CAPTURE:BLU-RAY(MASTERED IN 4K)

SCREEN CAPTURE:UHD BLU-RAY

Mastered in 4K BLU-RAYの完成度が高かったため、本コレクションに収められた『或る殺人』や『いつか晴れた日に』にみるような、大幅な映像のアップグレードという印象はない。だが細部を見つめ直していくと、通好みの絶品画質となっていることがわかる。シネマヴェリテ感覚のビジョンに精細感を宿しながら、フィルムとレンズと現像がもたらす独特の柔らかさが再現されており、とんでもなくフィルムルックなのだ。スコセッシやチャップマンがDNR処理を嫌い、粒子感を生かしたおかげで再現される映像の迫真性は、UHD BLU-RAYで観られることを意図していたかのように完璧に保持されている。前述した多用されるドリー・ショットによるモーションブラーの安定感や信頼性を含めて、これより見映えのよい『タクシードライバー』を想像するのは難しい。

「ニューヨークそのものを表現したかった」というスコセッシとチャップマンのビジョンどおり、ニューヨークの昼と夜の姿が、これほどまで描き分けられている作品は滅多にお目にかかれない。これはHDR操演による光彩陰影の構築性の高さを物語っており、とりわけ画面の隅に邪悪が潜んでいそうな、不吉なナイト・ショットは必見中の必見となろう。アリフレックス35 BLとツァイスのスーパースピードレンズがもたらしたフィルムの感光性(人工光源を排除した、自然光やアヴェイラブルライト撮影)への、チャップマンの熟知がうかがえるあたり、まこと見事。個人的にはパンフォーカスと確信犯的な平面構図、その映像表現がもたらす深度描画へのこだわりにぐいぐい引き込まれ、心を揺り動かされてしまった。HDR同様にWCG(広色域)による発色の素晴らしさは本盤のハイライト。色彩再現は細心の注意が払われており、タクシーの黄色い車体色ひとつをとっても、場面ごとに微妙な色合いを魅せ、トラヴィスの感情の修辞技法として全編を彩っていく。

ナイトショットを彩る発光のボケ味は、スーパースピードレンズの開放F値操演の賜物。たんまりの愛情を込めた赤、黄、とりわけグリーン(色階調が増幅)の発色光。その色味と光彩、明部と暗部、被写体とカメラワークがお互いを照らし出し、際立たせ、響き合う。その中で丹念に選り分けられ、吟味されていく、トラヴィスの心のひと襞ひと襞。圧巻のキアロスクーロ (明暗法)である。

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AUDIO

音響エンジニアは、プロダクション・サウンドミキサー(撮影現場での音響最高責任者)に『サタデー・ナイト・フィーバー』『ビッグ』やオスカー候補となった『レイジング・ブル』『トッツィー』で知られるレス・ラザロウィッツ。リレコーディング監修は『砂漠の流れ者』『バディ・ホリー・ストーリー(オスカー・ノミネート)』『ウォリアーズ』のテックス・ルドロフ(兼音響編集監修)、リレコーディング・ミキサーに『大統領の陰謀』『バード』でオスカーに輝き『バック・トゥ・ザ・フューチャー(2&3)』『許されざる者』で知られるリック・アレクサンダー。サウンドトラックは2011年レストア5.1chマスター(同 Mastered in 4K BLU-RAY)をリユース。レストアはロサンゼルスのオーディオ・ポスト施設チェイス・オーディオ by デラックスが実施。オリジナル・モノラル磁気トラック・マスター(ダイアローグ、エフェクト、音楽にわかれた3つのマスター)と、バーナード・ハーマンのスコアの4トラック・オリジナル・ステレオ・マスターが使用されており、スコセッシ監修を経た各レストア・マスターからディスクリート5.1chサウンドトラックを作成している。音声平均転送レートは2.14Mbps(48kHz/16ビット/2011年BLU-RAY、Mastered in 4K BLU-RAYもほぼ同数値)。

ちなみにハーマンは、1975年12月22日と12月23日、カリフォルニア州バーバンクですべての楽曲のレコーディングを行っている。だが末期の心臓病を患っており、オーケストラを自分で指揮することができなかった。ベテランの編曲家で指揮者のジャック・ヘイズが指揮にあたり、ハーマンは録音をコントロールブースから指示。セッションが終了してから数時間後、12月24日の朝、ハーマンはシェラトンユニバーサルホテルで静かに永眠した。享年64歳。

ノンクレジットのロニー・ラングは、ハーマンのスコアを完璧に理解して、支配的で心に残るアルトサックスのソロモチーフを提供した。レス・ブラウンのバンドと共演したラングは、ハリー・ジェイムス、スタン・ケントン、デイブ・ペル・オクテット、ヘンリー・マンシーニ、そして数えきれないほどの映画、テレビ、レコードスタジオのセッションで記録された歴史の中で、もっとも美しくメロディックなサックスソロを提供したんだ。ジャズサックス奏者のトム・スコットは、オリジナル・サウンドトラック・アルバムにクレジットされているが、音楽監督だったデビッド・ブルームが編曲したアルバム曲のみでの演奏だ。『タクシードライバー』の作品テーマを決定したのは、ラングのサックスの滑らかでジャジーな音色なんだ。(マーティン・スコセッシ)

SCREEN CAPTURE

5.1ch音声はフロントヘビーなサウンドトラック。ドラマに二重の視点を作りだすモノローグは、肺に膿が溜まったような声の響き、その魂の震えが直截に伝わってくる。主要なキャラクターの発声は大半のシーンでシンクロサウンド(撮影中に同時録音されたサウンド)を使用しているが、モノローグに比べてダイナミズムという点で年代を感じさせる。とはいえ、ニューヨークの土着の病原菌に侵された声の存在感や音楽性は健在であり、言語やアクセント、言い回しや言葉に隠されたニュアンスを理解することは容易だ。効果音に関してもシンクロサウンドが多用されているが、ポスト・シンクロサウンド(撮影後にスタジオでミックスされるサウンド)とのバランスも優秀だ。「お金のかからないところに時間をかけた(スコセッシ)」という効果音編集は、『スパルタカス 』『未知との遭遇(オスカー受賞)』『レイジング・ブル』のフランク・ワーナーと、彼が選抜したメンバー(『スター・ウォーズ』のゴードン・デヴィッドソン、『ディア・ハンター 』のジェームズ・フリッチ、『逃亡者』のサム・ゲメット、『ダイ・ハード2 』のデヴィッド・ホートン)によるもので、ニューヨークが奏でる負のエネルギーを見事に再現している。

シネソニックのハイライトは、なんといっても金管楽器と弦楽器をまとめたクラスターによる、物憂い息づかいであるかのようなバーナード・ハーマンの楽曲となろう。スコセッシのビジョンの重要点のひとつは、トラヴィスを社会から乖離、孤立させるために、可能な限りトラヴィスひとりをフレーミングすることであった。社会環境に順応することができず、大都市の雑踏の中にいても彼の孤立は明確で、ことに被写界深度の浅いレンズ操演やカメラワークは、トラヴィスの心理や行動と直接相関して機能している。こうしたショットにハーマンの楽曲がかぶさり、トラヴィスの孤独がより深められていくのだ。トップスピーカーを設置している環境ならば、是非ともアップミックス再生で鑑賞されたい。粘性の液体化した調べが映像を包み込むさまは、まさに必聴である。

最後に本盤ではオリジナル・モノーラル音声が、初めてロスレス収録されている(2.0モノーラル/1.6Mbps/16ビット)。オリジナル重視のシネフィルには朗報となろう。

SCREEN CAPTURE

FINAL THOUGHTS

 『監督、撮らずに観る』(篠田正浩著/ステレオサウンド刊)の3章『タクシードライバー/ニューヨークの哀歓』に、興味深い一節がある。スコッセッシの自宅に招かれた篠田監督は、当時の夫人イザベラ・ロッセリーニの手料理で歓待を受けた。『タクシードライバー』の公開から3年後の深夜のことだ。「(スコセッシは)ほとんど私の耳では解読不能な早口で語り続ける。その話の間中も一刻もイザベラから視線をはずすことはなかった。私は、その眼差しの中に『ドライバー』がジョディ・フォスターが演じた12歳の売春婦を見つめていたのと同じ、ひたむきさと優しさを発見した」と綴っている。抑圧された環境で育った、病弱のイタリア移民の子供と、巨匠ロッセリーニと名女優イングリッド・バーグマンの愛娘で、イタリア系の上流階級の名花。対して『タクシードライバー』では、中西部出の人種差別者で、名誉除隊でありながら故郷に錦を飾れぬ孤独なベトナム帰還兵と、南西部の中産階級の家出少女で、酸化したニューヨークの一部と化した売春婦。ここで篠田監督は、「スコセッシの内部に燃えさかっている炎」が「ひたむきさ」「優しさ」に繋がっていると説いているわけだが、篠田流『タクシードライバー』論で楽しむのも一興かもしれない。いずれにせよ、本盤をより身近なものとするために、スタンドアローンでのリリースを切に望むところである。

SPECIAL FEATURES(TAXI DRIVER)

4K UHD BLU-RAY Includes:
・Feature presented in 4K resolution with Dolby Vision, restored from the original camera negative
・5.1 DTS-HD Master Audio
・Mono DTS-HD Master Audio
NEW: 20th Anniversary Re-Release Trailer
・Making Taxi Driver Documentary
・Storyboard to Film Comparisons with Martin Scorsese Introduction
・Animated Photo Galleries

BLU-RAY Includes:
・Feature presented in high definition, sourced from the 4K master
・5.1 DTS-HD Master Audio
・ 40-Minute Taxi Driver Q&A featuring Martin Scorsese, Robert De Niro, Jodie Foster and Many More Recorded Live at the Beacon Theatre in New York City at the 2016 Tribeca Film Festival
・Commentary with Martin Scorsese and Writer Paul Schrader Recorded by the Criterion Collection
・Commentaries by Writer Paul Schrader and by Professor Robert Kolker
・Martin Scorsese on Taxi Driver
・Influence and Appreciation: A Martin Scorsese Tribute
・Producing Taxi Driver
・God’s Lonely Man
・Taxi Driver Stories
・Travis’ New York
・Travis’ New York Locations
・Theatrical Trailer

SCREEN CAPTURES

DISC SPECS

TitleTAXI DRIVER
COLUMBIA CLASSICS 4K ULTRA HD COLLECTION VOL-2
ReleasedOct 12, 2021 ( from Sony Pictures )
SRP$164.99
Run Time1:53:47.820 ( h:m:s.ms )
CodecHEVC / H.265 ( Resolution: 4K / DOLBY VISION / HDR10 compatible )
Aspect Ratio1.85:1
Audio FormatsEnglish DTS-HD Master Audio 5.1 ( 48kHz / 16bit )
English DTS-HD Master Audio 2.0 ( 48kHz / 16bit )
French DTS-HD Master Audio 5.1
German DTS-HD Master Audio 5.1
Spanish DTS-HD Master Audio 5.1
Japanese DTS-HD Master Audio 5.1
Italian DTS-HD Master Audio 5.1
Spanish Dolby Digital 5.1
Czech Dolby Digital 5.1
Hungarian Dolby Digital 5.1
Polish Dolby Digital 5.1
Russian Dolby Digital 5.1
SubtitlesEnglish, English SDH, French, German, Italian, Japanese, Spanish,
Arabic, Bulgarian, Cantonese

4K画質評価

解像感★★★★★★★★★★ 10
S/N感★★★★★★★★★  9
HDR効果★★★★★★★★★★ 10
色調★★★★★★★★★★ 10
階調★★★★★★★★★  8

音質評価

解像感★★★★★★★★   8
S/N感★★★★★★★★   8
サラウンド効果★★★★★★★    7
低音の迫力★★★★★★     6

SCORE

Film★★★★★★★★★★ 10
Image★★★★★★★★★★ 10
Sound★★★★★★★★   8
Overall★★★★★★★★★★ 10