業務用8K機器を手がけるアストロデザインが音頭を取って、YouTubeチャンネル「8K Video Album」が8月に開局した。構成メンバーはアズプロ株式会社、メ〜テレ、株式会社ジョイ・アート、株式会社ヨネ・プロダクション、株式会社ブライセン、MADD.そしてアストロデザイン株式会社の7社(団体)で、8Kコンテンツを配信することを目的としたチャンネルだ。

 日本では2018年12月に8K放送がスタートしているが、まだまだテレビの普及はこれからで、一般の人が手軽に8K映像を楽しめる機会は少ない。そんな状況を踏まえてこの7社は、幅広いジャンルの8Kコンテンツをより多くの人が体験できるようにYouTubeチャンネルを立ち上げたのだ。

 では8K Video Albumではどんなコンテンツが楽しめるのか? また視聴に必要な環境はどういったものなのか? StereoSound ONLINEではそれらの疑問についてアストロデザインにインタビューを申し込んだ。するとせっかくの機会だからと、それぞれの代表者にお話を聞くチャンスを作ってくれた。今回はリモートを含めて、全7社(団体)の取り組みの内容と狙いを聞いた。(編集部)

ネイティブ8Kの魅力に触れてもらう場を提供する「アストロデザイン」

●インタビューに対応いただいた方:アストロデザイン株式会社 取締役 事業本部長 眞鍋吉仁さん

麻倉 今日は東京・雪が谷のアストロデザイン本社にお邪魔し、YouTubeチャンネル「8K Video Album」への取り組みや、各メンバーがどんな会社なのか、また提供しているコンテンツの見どころについてお話をうかがいたいと思います。まず、このYouTubeを8Kで観るにはどんな環境が必要なのでしょうか?

眞鍋 アストロデザインの眞鍋です。「8K Video Album」は、8Kを処理できるグラフィックボードを搭載したPCと8Kモニターをお使いいただくことで、8Kネイティブの映像としてご覧いただけます。その他は各テレビメーカーさんの8K YouTube対応テレビなどで再生可能です。

麻倉 8Kクォリティとなると、それなりのスペックが求められそうですね。ちなみに圧縮のコーデックは何を使っているのでしょうか?

眞鍋 HEVCで圧縮してアップロードしています。

麻倉 さてここからはコンテンツについてうかがいます。まずは、今回なぜ「8KVideo Album」を立ち上げたのか、その狙いからお聞かせ下さい。

佐藤 アストロデザインの佐藤です。そのご質問には私からお答えしたいと思います。そもそもは、8Kを普及させたいという思いから企画が始まっています。

 私は現在、MADD(Movie for Art, Design and Data、詳細は後述)の活動もサポートしています。そこでの活動の一貫として、全国の地方自治体などに8Kで地元の風景などを撮影しませんかと提案しています。しかしその時によく言われるのが、8Kで撮影しても見せる場所がないということです。確かにそこが問題だと思っていて、手軽に8Kを視聴できる環境を作らないと駄目だと考えました。

麻倉 そこでYouTubeというのが、いかにも現代風です。

眞鍋 YouTubeが8Kに対応したことは知っていました。それを観ていて、海外の投稿で8Kで空撮した映像が人気で、登録者数も多いことに気がついたのです。さらにYouTubeで8Kを再生できるテレビも発売されましたし、放送以外でも8Kを楽しめる窓口を広げるためにも、YouTubeで8Kを展開していこうと考えました。

 ただ、アストロデザイン単独では、持っている8Kコンテンツの数が少ないし、ジャンルも偏ってしまいます。1社では無理だろうということで、色々な会社さんに声をかけました。

麻倉 メンバーは7社(団体)とのことですが、それぞれ個性が強いですよね。これまでわれわれ視聴者が目にできる8K映像はNHKのBS8K、つまり放送コンテンツだけでした。8Kとはこういうものなんだというイメージだったのですが、でも実はそうではない。8Kはもっと自由なもの、開かれたコンテンツなんだということが「8K Video Album」の画面からも伝わってきます。

ミクロの世界での8K活用を探る「ヨネ・プロダクション」

●インタビューに対応いただいた方:株式会社ヨネ・プロダクション 代表取締役CEO  藤枝愛優美さん

麻倉 今日は7社の皆さんに集まっていただきましたので、それぞれの思いもうかがいたいと思います。まずはヨネ・プロダクションさんからお願いしましょう。ヨネ・プロダクションとはどんな会社で、どんなことを専門にされているのかについて教えていただきたいと思います。

藤枝 ヨネ・プロダクションの藤枝です。弊社は1967年の創業時から顕微鏡映像を扱ってきた会社で、35mmのシネカメラを使ったタイムラプスによる微速度撮影などを手がけています。

 今回は8K映像ということですが、弊社は昔から35mmで撮影しており、そのライブラリーも多くありますので、アストロデザインさんに強力いただいて8Kに変換するようなアプローチも今後、行っていきます。8Kの解像度を活かした微小な世界をご覧いただければと思っています。

麻倉 最初はフィルムで撮影していて、その後ビデオで撮るようになったのですね。

藤枝 2017年にまだ日本に8Kカメラが数台しかなかった頃に、NHKさんと一緒に8Kの作品を作らせていただいたのです。その時もアストロデザインさんにモニターや編集、試写室などでお世話になりました。この作品は、今年の1月にBS8Kで『からだの中の宇宙〜超高精細映像が解き明かす〜』というタイトルで放送されました。

麻倉 微細な世界を撮影するのであれば、8Kの威力はもの凄いと思います。藤枝さん自身、8Kを扱ってみた感想はいかがでしたか?

藤枝 分解能の高さや解像力の凄さに驚きました。特に大画面で観ると、細かい所まで本当によくわかるのが印象的でした。プロジェクターで上映した時には、ミクロな世界をこれほどの大きなサイズで見られるということに感動したのです。

麻倉 通常の生活では絶対見えないものが、ここまで拡大されて大きな映像になるのですから、普通は想像できませんよね。

藤枝 去年の12月には、新型コロナウィルスに感染した細胞を8Kで微速度撮影しました。これまで、光学顕微鏡ではウィルスは見えないだろうといわれていました。今回もウィルスそのものではありませんでしたが、感染したからこうなるだろうという、細胞の中の微小な反応を8Kで捉えることができました。

麻倉 ウィルスに感染したから起こった細胞の変化までわかるんですか、それは凄いことですね。

藤枝 専門家の方々にも観ていただきましたが、細胞膜の動きや、細胞内小器官がこんなに動いていることまで分かるんだと、驚かれていました。

麻倉 「8K Video Album」にもミクロの世界の映像を公開しているのですか?

藤枝 今回はミドリムシ(ユーグレナ)を撮影した『Euglena』をアップしています。ミドリムシは水棲の微生物で、体内に葉緑体を持っている、植物と動物の中間のような生き物なのです。

麻倉 今日はアストロデザインさんのシアターに「8K Video Album」を視聴できる環境を準備してもらいましたので、さっそく拝見しましょう。

藤枝 ミドリムシは大きいもので10〜20μmくらいなのですが、スクリーンで観るとそうは思えないかもしれません。元気に動きすぎるので、その動きをいい具合に抑えて撮影するのが弊社の研究部の腕の見せ所です。動かないように、しかもピントがぼけないように軽く押さえているのです。

麻倉 そんなテクニックも必要なんですね。まずはお得意のコンテンツを公開したわけですが、今後はどんな被写体を8Kでアップされる予定でしょう?

藤枝 これまでは、短い時間で被写体がどんどん切り替わっていく素材が多かったのですが、「8K Video Album」ではずっと見ていられるような映像に取り組んでみたいと思います。今までやったことのない、8K環境映像のような分野を手がけることで、社としての新しいテーマ、梃子入れにつながればと思っています。

取材は東京・雪が谷のアストロデザイン本社内シアターで行った。左から麻倉さん、株式会社ヨネ・プロダクション 代表取締役CEO の藤枝愛優美さん、アストロデザイン株式会社 取締役 事業本部長 眞鍋吉仁さん。みんなで8Kの“8”をアピール

8Kという新しい映像表現にチャレンジする場を提供する「MADD」

●インタビューに対応いただいた方:アストロデザイン株式会社 事業本部室 事業担当部長 佐藤 仁さん

麻倉 続いては、MADDさんの取り組みをうかがいたいと思います。

佐藤 MADDは次世代映像を考える場として、2018年からアストロデザインと、慶應義塾大学SFC 研究所 次世代映像コンソーシアムで運営している団体になります。

 主な活動としては、“Movie for Art,Design and Data”をコンセプトに、新しい映像表現にチャレンジする場を提供しています。映像を作るエンジニアと映像を作りたいアーティスト、エッジの効いた人たちが交わる瞬間を作っていこうというのが使命だと思って活動しています。

 そのひとつとして「MADD. Award」を開催しています。2018年頃から、当時のビジネスではなかなか手を出しにくかった8K映像フォーマットをコンペの対象にして、それはどうやって作るんだろう、どんな考え方で作るのが観る人にとってもいいんだろう、ということを数回のワークショップを開くことによって、エンジニアとアーティストの方々の時間と頭の共有をしてもらうことを進めてきました。

 「MADD. Award」の大型映像カテゴリーでは、8Kフォーマットの作品を毎年募集しています。昨年は8K作品が数十本集まりましたので、東京都現代美術館で展示してもらい、5万人以上の方にご覧いただきました。

 今年は8Kの大型映像と、映像による空間創出というテーマでドーム映像も募集しています。12月に有楽町で開催される「シーグラフ アジア 2021」のアートギャラリープログラムとして、一般向け上映回も開催する予定です。その中で皆さんと次世代映像について考えていければと思っています。

麻倉 「8K Video Album」ではどんな作品を公開されているのでしょうか?

佐藤 MADDとしては、まだコンテンツは提供しておりません。というのも、MADD.Awardで募集した作品は非圧縮フォーマットです。作品自体の公開は可能ですから、これから公開用に圧縮作業を行いたいと思っています。その際にアーティストさんに圧縮後の作品をご覧いただき、作った人がどう思うか、作家の意図が伝わるかどうかをディスカッションしながら作業を進めていこうと思っています。

麻倉 「8K Video Album」は、どれくらいのビットレートで配信しているのでしょう?

佐藤 正確なところはわかりませんが、およそ200Mbps前後だと思っています。

麻倉 ということは、放送よりもビットレート的には有利なんですね。作家さんがこの品質を認めてくれればコンテンツの増加も期待できるということで、楽しみです。作品数はどれくらいあるのでしょうか?

佐藤 50作品ほどだと思います。MADDは次世代映像とはどんなものなのかをみんなで考える場ですから、全部の作品を公開していきたいと思っています。

●HDMI2.1ケーブルテスター
CT-1860(ケーブルテスター)
CT-1860-HDMI(HDMIチェッカー)

 アストロデザインでは、8K信号の伝送性能をテストできる測定器として、HDMI2.1ケーブルテスター「CT-1860」とHDMIチェッカーの「CT-1860-HDMI」を発売する。

 CT-1860の本体左下にあるスロット部にCT-1860-HDMIを取り付けて使うもので、テストをしたいHDMIケーブルをCT-1860-HDMIのイン/アウト端子(写真参照)につなぐだけで簡単に測定ができる仕組みだ。

 測定結果はCT-1860のディスプレイ部に表示され(PC画面にも出力可能)、伝送時にどの帯域で信号がロスしているかなどもひとめでわかるように配慮差されている。今後8K信号をHDMIケーブル1本で再生する機器が増えてくることも想定されるので、ケーブルメーカーには必須のアイテムになりそうだ。

手法や撮り方がちょっと違う8K映像を送り出す「アズプロ」

●インタビューに対応いただいた方:アズプロ株式会社 取締役 エグゼクティブ・プロデューサー 比屋根 勇さん

麻倉 続いてはリモートインタビューに応じていただいた皆様にお話をうかがいましょう。まずはアズプロさんです。アズプロさんは「8K Video Album」にグラビア映像を出されており、視聴回数がナンバーワンとのことです。

比屋根 アズプロの比屋根です。弊社はアズラボというソフトウェア会社のグループ会社です。アズラボは2003年の設立で、展示会等でのデモ関連業務を手がけており、そこで表示するための高精細映像が必要でした。そこで2018年に、高精細映像会社としてアズプロを設立したのです。

 今回の「8K Video Album」では、各社さんも色々な提案をされていますが、弊社は一般ユーザーが観て面白い、興味を示すような取り組みをしていきたいと思っています。

 それもあって、今回はグラビアやモーション映像、タイムラプス撮影など、手法や撮り方がちょっと違う8K映像を楽しんでいただこうと考えました。また最近弊社ではVR、360度映像にも取り組んでいますので、16対9画角にとらわれずに、映像空間を作るコンテンツも発表していきたいですね。

麻倉 高精細というと、まず風景映像が浮かびますが、楽しさとかエンタテインメント性がそこに加わってこそ、初めて次の次元に進めると思います。その意味では8Kグラビアという企画は王道とも言えるでしょう。

比屋根 この映像は真面目なグラビアとして撮影しています。8Kならこういったところまで撮れますよという提案ができればと思ったのです。

麻倉 モデルさんの肌やボディの美しさは8Kならではで、素材美がとてもよく再現されています。確かに8Kに相応しい内容かもしれません。

比屋根 世の中には色々な趣味嗜好の方がいらっしゃいますから、それぞれについて高精細を極めたらどうなるか考えてみるのも面白いかもしれません。固着した視点ではない、色々な形での高精細映像に取り組んでいけたらと思います。

麻倉 8Kが持っている解像感、描写力、生々しさといった要素は、被写体が人間でも物体でも共通ですし、それを高精細で楽しむ価値はあると思います。今回のグラビア撮影で、8Kならではの工夫をした点はあったのでしょうか?

比屋根 8Kはレンズの性能にも依存しますので、レンズの選定には悩みました。肌の質感を出したかったので、ズームの性能にも注意しています。

麻倉 唇のふくらみやぷるぷる感、頬のグラデーションなどがとてもよく再現されていると思います。では、グラビア以外にどんなコンテンツをお考えなのでしょうか?

比屋根 野菜をモチーフにしたストップモーションアニメも公開しています。このシリーズは12本制作して、時期に応じて公開していこうと考えています。アニメーションには日本ならではの演出技法がありますので、8Kアニメとはどんなものかも探っていきたいと思っています。

 タイムラプス撮影を工夫することで新しい演出もできます。8Kなら一枚一枚の絵の解像度が高いので、これまでにない映像が再現できるはずです。時間軸と解像度の両方を追えるのはタイムラプスならではだと個人的には考えています。

麻倉 8Kらしい素材感と独得の動きの面白さがあって、とても面白い映像でした。8Kを活かした色々な方向に展開されていくのが楽しみです。ありがとうございました。

※11月8日公開の後編に続く