●4Kデジタル修復版 新マスター完成までの道のり〜プリプロダクション編〜

 『犬神家の一族』4Kデジタル修復版。今回のこの新マスター制作のためのプロジェクトをKADOKAWAと共に推進する大役を担ったのはIMAGICAエンタテインメントメディアサービス メディア営業部の水戸遼平と土方崇弘だ。

 これまでも『炎上』『おとうと』『雪之丞変化』などの市川崑監督作品、最近では特撮ファンの間で大いに話題を呼んだ『平成ガメラ』や『大魔神』シリーズの4Kデジタル修復版も手掛けている。いわゆる“古い作品”を、スタジオの持つ最新の技術と熟練のスタッフたちの“技”によって現代に蘇らせることには既に定評がある。

4K修復後の画像より

 ポストプロダクション作業に入る準備段階として、まず両名が着手したのが「作品が公開当時(初号試写時)どうであったか」を調べるための資料を探し出すことだった。ここでは自身も『犬神家の一族』の大ファンであった土方の私的コレクションが大いに役立っている。手持ちにないものは中古市場やオークションサイトも使って現物のパッケージをなんとか入手したという。その甲斐あって1983年にリリースされた最初のVHSビデオから現在流通しているブルーレイに至るまで全種類のパッケージソフトが揃い、作品本来のあり方を検証するための材料として使えることになった。

 特に1991年以降にリリースされたLDやDVD、BDは独自の解釈でマスターが制作されたようだ。果たしてどこまで参考になるのか? 未知数だけれど少なからず重要な手掛かりにはなった、と水戸は言う。とりわけパッケージ化に際して、あまり “味付け” が施されていなかったであろう1983年版のVHSや1984年版のLDのマスターのほうが参考になったというのだから面白い。

『犬神家の一族』<4Kデジタル修復>ビフォーアフター映像

【角川映画祭】『犬神家の一族』<4Kデジタル修復>ビフォーアフター映像

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 この作品はとにかくパッケージごとに “画のトーン” が著しく変わってきた。いま4Kデジタル修復版完成のプロモーションの一環として、これまでのパッケージソフト版と最新の4Kデジタル修復版の映像を比較試聴することが出来るデモリール『犬神家の一族』<4Kデジタル修復>ビフォーアフター映像がYouTubeのKADOKAWA映画公式サイトにアップされている。VHSビデオやLDの映像を見るのはこれが初めて、という方もいらっしゃるのではないだろうか。

 ここでは、ビジュアルとともにサウンドも各パッケージ版の音声トラックに差し替えられている。各マスターのトーンの違いにあらためて驚かれるはずだ。グレーディングの差異もさることながら、映像の画郭も大きく分けて東宝ワイド(1:1.5)、スタンダード(1:1.33)の2種類が混在していることが見て取れる。より多くのカットをチェックすることが出来る<長尺版>もあるのでぜひご覧いただきたい。歴然とした差がYou Tube上の映像でも容易に実感出来るはずだ。

『犬神家の一族』<4Kデジタル修復>ビフォーアフター映像<長尺版>

【角川映画祭】『犬神家の一族』<4Kデジタル修復>ビフォーアフター映像<長尺版>

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 これまでのマスターの変遷を知ると、最新の4Kデジタル修復版のクォリティに思わず感嘆の声が漏れる。これまでのマスターとは一線を画している。フィルムの鮮度感や発色のよさ、徹底して修復されたレストア感。全体の色温度感も伝わってこよう。金田一耕助やおはるさんのフェイストーン、佐清のマスクの質感や色にも注目したい。

 那須ホテルの窓外に広がる風景のすがすがしさはどうだ。「国破れて山河在り」。思わず金田一さんがつぶやくのも納得の美しさ。初秋、九月の爽やかな空気感。これまでのマスターの印象を払拭する4Kデジタル修復版の象徴的なカットにもなっている。

 他にもタイトルが開けて金田一耕助が初めて登場するカット。石坂浩二の姿がやや甘く見えやしないか?4Kなのに? なぜ? と思われるかもしれない。実はこのカット、金田一さんにフォーカスが来ていないのだ。やや手前にある屋根瓦にピントが合っている。これは従来までのマスターでは判別できなかった。いやはや4Kデジタル修復版、恐るべしだ。

これまでに発売された『犬神家の一族』パッケージソフト

土方さんは、今回の作業用に『犬神家の一族』のパッケージソフトやフィルムの種類を整理していた。上はその中からパッケージソフトに関連した項目をピックアップしたもの。VHSからブルーレイまでほぼ全メディアで発売されていることからも、同作の人気の高さがうかがえる

右が1983年発売のVHSで、左は1984年発売のLD

映像メディアだけでなく、様々な文献もチェックして、どんな画づくりが行われたのかを探求している

 個人的な印象では、フィルムの解像度や鮮度感はまったく比較にはならないものの、グレーディングの方向性としては現段階で最新のマスター版『悪魔の手毬唄』『獄門島』『病院坂の首縊りの家』(先行してマスターが作られた『女王蜂』は除く)と似通った傾向になっているように思った。色の純度は飛躍的に向上し、発色はすこぶる素晴らしいが、意外と彩度そのものは抑えめのように感じられる。

 今回の4K修復版のグレーディングを担当した同社カラリストである阿部悦明曰く、この ”色を残しつつもあまり感じさせない表現” が作品本来の狙いだったという。

 市川崑監督がイメージした劇場公開時の姿を「限りなく忠実に再現する」。次回のポストプロダクション編では、このテーマのもとに4K修復版作成の実作業に携わった各パートのスペシャリストたちにその内幕を語っていただこうと思う。(本文敬称略)

インタビューの様子。写真右奥から株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービス 映像制作部 データイメージンググループ カラリストの阿部悦明さん、メディア営業部 フィルム・アーカイブ営業グループの水戸遼平さん(中央)と土方崇弘さん(左)

「角川映画祭」開催劇場
テアトル新宿(11/19~12/16)、EJアニメシアター新宿(11/19~12/9)、シネ・リーブル梅田(12月~)、ところざわサクラタウンジャパンパビリオンホールB(11/19~)

『犬神家の一族』4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】
(DAXA-5817 ¥16,280、税込)、2021年12月24日(金)発売
●発売・販売:KADOKAWA●本編146分/3層ディスク(UHD)+2層ディスク(BD)●カラー●東宝1.5ワイド(1:1.5)サイズ●1976年●日本●収録音声:日本語 リニアPCM 2.0chモノーラル●字幕:日本語、英語●同梱特典:『犬神家の一族』完全資料集成(A4サイズ/ソフトカバー/190P以上)