シャープは今年6月の「第127期定時株主総会」で「miniLED 次世代ディスプレイ」の試作機を展示、技術発表を行った。4K/65インチのミニLED搭載機と従来モデルを並べ、それぞれの画質の違いを株主やマスコミの記者にアピールしていた。液晶テレビのリーディングメーカーとして数々の製品を送り出してきたシャープは、注目の新技術であるミニLEDをどのように捉え、どのように取り組んでいくのか? 今回は、同社幕張事業所の開発陣を訪ねた。(編集部)

麻倉 今日はよろしくお願いいたします。ミニLED搭載機の絵を拝見できるとのことで、楽しみにしていました。

上杉 スマートディスプレイシステム事業本部の上杉です。こちらこそ今日はおいでいただきありがとうございました。このモデルは6月に大阪で開催した株主総会で展示したもので、先日東京に持ってきたばかりです。取材でご覧いただくのは麻倉さんが初めてになりますので、お手柔らかにお願いいたします(笑)。

麻倉 それは光栄です。しかしこうして2台並んでいると、従来モデルとの違いが顕著ですね。色もクリアーでビビッド、何よりピーク輝度が違うので絵にたいそう力が感じられます。

 これだけ差があると、株主さんたちもさぞ驚いたことでしょう。株主総会でも評判がよかったんじゃないですか?

上杉 はい、特に輝度の違いがわかりやすかったようで、製品化が楽しみだと多くの方に言っていただきました。

取材では、「第127期定時株主総会」で展示された「mini LED 次世代ディスプレイ」そのものをチェックさせてもらった。右の従来モデルとの違いは一目瞭然

麻倉 では今回の展示モデルの特徴から改めて説明してください。

上杉 かしこまりました。液晶テレビはバックライトの光を液晶層でコントロールして映像を再現するというのが基本的な仕組みで、その際のバックライトをどうするかが重要になります。

 例えば直下型LEDの従来技術では、100個くらいのLEDを画面の真下に並べて、一斉に点灯して光らせているのがほとんどでした。

 次に直下型の部分駆動タイプでは、LEDを画面の真下に敷き詰めて、それをいくつかのエリアに分け、映像に合わせてエリアごとの明るさを変えることでより高いコントラスト再現を実現しました。この場合はLEDの数が数百個、分割エリア数は数十〜数百というケースが多かったですね。

 それに対してミニLEDではこのどちらも格段に増えて、LED数は数千〜数万個、分割エリアも千〜数千個を実現しています。

麻倉 それは極端な進歩ですね。それだけLED技術の進化が早いということですね。

上杉 そうですね、分割駆動はLEDだからこそ可能になった技術といっても間違いありません。

麻倉 ミニLEDを使うことで分割エリアがぐっと増えるわけですが、その目的はやはりコントラスト改善ということですね。

上杉 はい、面内輝度の制御が一番です。ピーク輝度の向上と黒の再現の両方に効いてきますので、最終的にはコントラスト比が改善されます。特に分割駆動では同じ画面内でピークと暗部を両立させることができますし、ミニLEDを使えばその制御の緻密さも格段に改善できますし、バックライトの明暗だけで元がどんな映像なのかわかるレベルまで追い込むことも可能だと思っています。

 またLEDの数が増えることで、ひとつのLEDが受け持つ範囲を狭くできます。これまでは1個のLEDが受け持つ範囲が広かったので、光を拡散させる必要がありました。そのためLEDと液晶パネルの距離を離して、さらにLEDの前にドーム型の拡散レンズを配置するといったことが必要でした。結果として液晶テレビの厚みが増していたという側面もあります。

 しかしミニLEDになると、1個1個の受け持ちエリアが狭くなるので、LEDと液晶パネルの間隔を近づけることができます。さらに光を拡散させるドームも必要なくなるので、テレビの薄型化も進みます。これもテレビとしては大きなメリットです。

右から従来LED搭載モデル、従来LED+部分駆動、ミニLED+部分駆動を搭載した液晶テレビの違い。バックライトがミニLEDになることで分割駆動数が格段に増え、コントラスト再現等が有利になることがわかる

麻倉 しかしLEDの数は数倍以上になるわけで、単純に考えても部品代はアップします。ミニLEDのコストダウンは進んでいるのでしょうか?

上杉 多少はありますが、LED自体はこなれた技術になっていますので、数が増えた分だけ価格もアップするという事にはならなくなってきました。その進歩があったからこそ、メーカーとしても製品に搭載できるようになったわけです。

麻倉 原価が数倍になってしまったらテレビとして成り立ちませんからね。そもそもシャープが最初にバックライトの部分駆動を搭載したのは2008年の「XS1」シリーズでしたが、その時は52インチが100万円ほどと、製品自体も高価でした。

上杉 そうでしたね。以来十数年で部品についても相当の進歩がありました。今回は、液晶パネル自体はこれまでの技術を活かして作られていて、バックライト部分の革新になるとご理解ください。その意味では、長く液晶テレビを手がけてきた弊社のメリットが活かせる技術でもあります。

麻倉 確かに、シャープこそミニLEDをやるべき会社です。もちろんこれまでにも研究開発は続けていたわけですね。

上杉 はい。液晶のコントラスト拡張技術はミニLED以外にもたくさんありますが、実現性、コスト、安定性といった面で今一番実用化に近い技術として取り組んでいます。

麻倉 確かに技術としてはこれまでの部分駆動の進化形で、まったく新しいものではありません。最近はシャープ以外にもLGやTCLがミニLEDを採用したテレビを発表していますが、そこにはこれまでもノウハウを活かしやすいといった側面もあるということですね。

上杉 弊社も部分駆動の制御については長い経験を持っており、そのコントロール技術はミニLEDで活用できます。その意味でも導入しやすいといえます。

試作機で使われたミニLEDバックライト。白いシートに並んでいるひとつひとつの粒がLEDそのもので、シートの裏にLEDを駆動するドライバーが並んでいる

麻倉 バックライトの部分駆動では、入力された映像を解析して各エリアの明るさを制御しているわけですが、その分割エリアが小さくなることで難しさは増すのか、それほど変わらないのか、いかがでしょう?

下田 8Kシステム開発部 主任技師の下田です。ミニLEDでの部分駆動制御は、ある意味難しくなります。これまでのバックライトではドーム型の拡散レンズで光を広げていましたが、ミニLEDでは直行性の高い光を直接入力するため、ハロー(漏れ光)も強くなる可能性はあります。そこをどう制御するかはノウハウが必要です。

麻倉 ミニLEDではハローを抑えやすいという話も聞きますが、やはり対策は必要になるのですね。

下田 はい。液晶の開き具合とバックライトをどれくらい光らせるか、ガンマをどう調整するかの合わせ込みが重要です。バックライトを強く光らせて液晶で閉じるか、信号処理で加減するかなどの組み合わせで絵を作っていきます。

麻倉 この制御もこれまでのモデルよりも細かくしている?

下田 ミニLEDの場合はより細かく制御しないと逆にハローが目立ってしまいます。基本的なダイナミックレンジが広がっていますので、同じステップ数では制御できる明るさが粗く感じられてしまうのです。今回、もっと細かくていねいに制御できるよう追い込んだ結果、ピーク輝度を伸ばすこともできました。

麻倉 それだけ難しいことをやるからには、メリットも大きくないといけません。ミニLED搭載によるメリットはコントラスト改善以外にどんなことがあるのでしょう?

下田 平均輝度、ピーク輝度がアップしますし、暗部再現性も改善できます。またユニフォミティもよくなります。従来のLEDでは画面の周辺部や四隅にはLEDを配置できなかったので周辺が暗くなっていたのですが、ミニLEDなら四隅まで敷き詰めることができるので、画面全体のユニフォミティが改善されました。

上の写真のバックライトシートが、液晶パネルの後ろに敷き詰められている。このサイズなので、画面の隅々までLEDを並べることができたわけだ

麻倉 試作機のコントラスト比は従来モデルからどれくらい増えたのですか?

上杉 コントラストの数値としてはどちらも100万:1です。しかし同一画面内の映像として観た場合はピークも分割エリア数も違いますので、大きな差が出てきます。

麻倉 分割エリアそれぞれが100万:1のコントラストを持っていると考えると、確かに分割数が多い方が画面全体としての再現力はいいはずですからね。

上杉 そのように考えていただければわかりやすいと思います。

麻倉 色再現については何か工夫しているのでしょうか?

上杉 クォンタムドット(量子ドット)フィルターを初搭載して、色再現性を向上させています。

麻倉 量子ドットフィルターでRGBを作っていると。

上杉 バックライトには青色LEDを使い、液晶の手前に入っている光学シートの中に量子ドットフィルターを内蔵しています。ここで白色光を作り出し、液晶パネル前面にあるカラーフィルターで色を再現するのです。

麻倉 量子ドットフィルターのあり/なしで色は違いますか?

下田 色域は従来モデル比で1.2倍になりました。

上杉 従来モデルは、青色LEDに黄色の蛍光体をかぶせて白色光を取り出していましたが、今回は波長変換したRGBを元にした白色光ですから、精度がまったく違います。結果としてカラーフィルターを通した後の色も純度が上がっています。

下田 ミニLEDと量子ドットをセットにした理由は、コントラストがよくなると色再現もしっかりしないといけない、コントラストに見合った色域が必要だという判断からです。

ミニLEDのサイズには明確な定義はないが、シャープでは拡散レンズ等を使わなくても済むような大きさを想定しているようだ。上は拡散レンズを使っていた従来モデルとの比較イメージ

麻倉 ところで、シャープとしてはどれくらいのサイズをミニLEDと呼んでいるのでしょう?

上杉 はっきりした定義はありませんが、個人的にはドーム型の拡散レンズ等を使わなくて済むくらいに敷き詰められるもの、それくらいのサイズならミニLEDと呼んでいいのではないかと思っています。イメージですが、従来モデルとの違いとしてはこのようになります(上写真参照)。

 それぞれで夜の月を再現した場合、従来のLEDでは月の輪郭や境界部分をどう再現するかについて、液晶パネルの制御や信号処理で苦労していたのですが、ミニLEDなら輪郭に近い形でバックライトを制御できますから、より綺麗な映像として再現できます。

麻倉 有機ELテレビと比べてどれくらいのクォリティになるとお考えですか?

上杉 有機ELは自発光デバイスなので、明るい部分と暗い部分を画素数分だけきちんと制御できます。ミニLEDも暗い部分は全面消灯することで、引き締まった黒が再現出来るという意味でかなり近づけることができます。

 一方の明るい部分では、ピーク輝度自体は液晶の方が有機ELよりも有利ですし、有機ELは平均輝度が高い場面では全体的に暗くなりますので、そのあたりがミニLED液晶のメリットになると考えています。

麻倉 シャープは有機ELテレビも出していますが、今回のミニLEDはどういった位置づけとしてお考えなのでしょう。

上杉 ミニLEDは有機ELテレビを邪魔するものではありません。これまでも、暗い環境が実現できるホームシアターで映画をじっくり吟味したい方は有機ELテレビを、明るいリビングでスポーツやテレビ放送も楽しみたいという場合は液晶を選んでいただくという提案をしてきました。ミニLED搭載機はそのいい所取りができる製品だと思います。

下田 これまでも有機ELテレビはリビング用には暗いという声をいただいていましたので、そういった方にもミニLEDなら安心してお使いいただけると思っています。

取材に協力いただいた、シャープ株式会社 スマートディスプレイシステム事業本部 国内TV事業部 8K推進部 部長 上杉俊介さん(左)と、同TV技術開発センター 8Kシステム開発部 主任技師 下田裕紀さん(右)

麻倉 ミニLED搭載機の開発で苦労した点はどこだったのでしょう?

下田 分割駆動エリア数が増えたところで、ハローとのトレードオフをどうするかが難しかったですね。また分割エリアが増えても処理能力を上げていかないと狙った効果は出せませんので、そこも苦労しました。

麻倉 映像検出の仕組みは従来と同じなのですか?

下田 ベースの映像解析アルゴリズムは同じで、それをミニLEDの分割エリア数に合わせて最適化しています。

麻倉 今回は試作機とのことですが、今後の商品化のスケジュールはどうなっているのでしょう。

下田 皆様にお見せできるレベルにまで形になってきましたので、なるべく早くユーザーの手元に届けたいと考えています。

麻倉 シャープの液晶テレビフラッグシップとなると、ユーザーは当然8Kを期待します。ミニLEDのメリットは8Kでも同様に活きてくると考えていいのでしょうか。

下田 8Kの場合、液晶パネルの開口率が下がりますので、ピーク輝度をどうするかといった問題も出てきます。また画面サイズも大きくなりますから、ミニLEDの数や分割エリア数もどれくらいが最適なのかなど検証が必要でしょう。

 ただ、8Kの高解像度にミニLEDのコントラストを組み合わせることができれば、画質も一皮むけると思います。コントラストがさらによくなった8K、誰が観てもわかるくらいの高画質を楽しんでいただけることでしょう。

麻倉 まさに8Kルネッサンス、液晶テレビの革新ですね。そこに量子ドットの色が加われば鬼に金棒です。ますます商品の登場が楽しみになりました。一日も早い、ミニLED搭載液晶テレビのリリースを期待しています。

ミニLEDは“液晶のシャープ”だからこそ取り組むべき技術だ。
すべてのデバイス、8Kまでの解像度を知るメーカーがどんな成果を生み出すか、興味深い

 私は液晶テレビが登場した当初から、「液晶には3つの欠点がある。それはコントラスト不足、視野角が狭い、動画が鈍い、だ。“液晶三悪”である」と、苦言を呈してきました。

 その後、技術者の努力もあって液晶3悪が徐々に対策されてきましたが、最後まで残っていたのがコントラスト不足でした。これまでメガコントラストパネルやバックライトの部分駆動などでこの問題を解決しようと各社とも努力してきましたが、ミニLEDの登場で大きく変化しそうです。

 最近はホームシアターの高級テレビは有機ELという流れになっています。しかし考えてみると、ひとつのデバイスですべてのコンテンツをカバーするというのは難しく、ニーズや時代に応じて最適なデバイスというものは変わっていかざるを得ないでしょう。

 その意味ではこのタイミングで液晶が新しい技術を手に入れて進化することで新たな高画質競争が促進されることは、ディスプレイシーン全体の活性化にはとてもいいことだと思います。

 液晶テレビの画質改善は細かい技術の積み重ねということもあり、大きな進歩を感じにくいという側面がありました。今回のミニLEDはその意味では大きな進化で、液晶だからこそできる画質、有機ELとも違うレベルに達成できる可能性を秘めています。

 今回は試作機のため準備されたデモ映像しかチェックできませんでしたが、それでもひじょうにクリアーでヌケがよく、純度の高い色彩が再現できていました。液晶らしい明るさとパワー感を持ちつつ、同時に液晶らしからぬ黒の安定性も備えている。とても新しい映像です。

 ミニLEDは液晶のシャープだからこそ、取り組むべき技術です。すべてのデバイス、すべての解像度を手がけてきたメーカーとして、この新技術をどんな製品に仕上げてくるのか、大いに期待しています。(麻倉)