●4Kデジタル修復版の制作は、今は亡き市川崑監督との対話である

 時は昭和51年。1976年。初めて耳にする“角川春樹事務所”が映画の製作を開始した。これがいわゆる“角川映画”の始まりだ。次々と繰り出される作品の面白さ、メディアを駆使したそれまで経験したことのなかったような展開によって瞬く間に映画界を、時代を、まさに席巻したのが角川映画である。もちろん当時の映画ファンにも大いなる驚きをもって熱狂的に迎えられた。詰めかけた観客たちでいつも膨れ上がった映画館の賑わいを昨日のことのようにご記憶の方も多いだろう。その角川映画の記念すべき第一回作品がご存知『犬神家の一族』である。

「角川映画祭」開催劇場
テアトル新宿(11/19~12/16)、EJアニメシアター新宿(11/19~12/9)、シネ・リーブル梅田(12月~)、ところざわサクラタウンジャパンパビリオンホールB(11/19~)

『犬神家の一族』4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】
(DAXA-5817 ¥16,280、税込)、2021年12月24日(金)発売
●発売・販売:KADOKAWA●本編146分/3層ディスク(UHD)+2層ディスク(BD)●カラー●東宝1.5ワイド(1:1.5)サイズ●1976年●日本●収録音声:日本語 リニアPCM 2.0chモノーラル●字幕:日本語、英語●同梱特典:『犬神家の一族』完全資料集成(A4サイズ/ソフトカバー/190P以上)

 そして2021年。今に続く角川映画の45周年を記念して、遂に、『犬神家の一族』が帰って来る。この日が来ることをどれだけ待ち続けていたことか。しかも待望の4Kデジタル修復版である。既にStereoSound ONLINEでもお伝えしている通り、この『犬神家の一族』の4Kデジタル修復版が再来月11月19日(金)から始まる「角川映画祭」において世界で初上映される。12月24日(金)には『4Kデジタル修復 Ultra HD Blu-ray【HDR版】』としてパッケージ盤のリリースも決定。劇場公開用の4K/SDRマスターだけでなくUHDブルーレイ用の4K/HDRマスターまでもが同時に制作されているわけである。市川崑監督の映像美の結晶、あの『犬神家の一族』が4K/HDRの世界で描かれる。これほど胸が高鳴るニュースもそうそうないだろう。

 日本映画史にその名を残し、いまだ語り継がれる『犬神家の一族』。この貴重な修復作業の開始と同時に筆者は“密着”して取材をさせて頂いている。権利元であるKADOKAWAのスタッフ、そして4K修復作業を一手に担うIMAGICAエンタテインメントメディアサービスのメンバーのこだわりたるや尋常ではない。ラボでは今夏から4K修復のための作業がスタート。現在は角川映画祭でお披露目になる4K/SDRマスターに続いて4K/HDRマスターの完成を目指してグレーディングの作業が粛々と進められている真っ最中だ。

4K修復作業に当たっては、様々な世代のフィルムや資料を徹底的に検証している。写真は今回の4K修復版の画調の参考として使われた、2000年版のプリント

 4K修復によって映像とサウンドはどのように甦っているのか? 検証のために“日本で一番いい映画館”といっても過言ではないIMAGICAエンタテインメントメディアサービスの第一試写室ではたびたび関係スタッフ内での試写が行われている。これはもう初めに言ってしまおう。4Kデジタル修復版は文字通り“驚愕”のクォリティに仕上がっている。

 どのようなプロセスを経て『犬神家の一族』の4Kデジタル修復版は制作されているのか。いわゆる往年の名作の4K修復物語はもうこれまで何度も語られてはいるが、本作ならではのスタッフの創意工夫が随所に詰まっている。その熱意に溢れた修復作業の舞台裏を連載企画としてお届けしていきたいと思う。

 他でもない『犬神家の一族』はビデオに始まりレーザーディスクからDVD、そして現在のブルーレイに至るまで、パッケージメディアによって画調や画角、作品の印象がどれも異なることで熱心なファンの間では物議を醸してきた“いわくつき”のタイトルだ。では市川崑監督がイメージしていた本来のルックスとはいったいどのようなものだったのだろう?4Kデジタル修復版の制作は、今は亡き市川崑監督との対話でもある。KADOKAWAの担当者は断言する。「これまでの決定版にしよう」、と。

(その2へ続く)

フィルムの状態を確認し、同時に4K修復版の方向性を確認するために、2000年版プリントを使った試写も行っている。酒井さんにはこの時点から密着取材をお願いした