家庭用スピーカーシステムの主流はアンプを内蔵しないパッシブ型。アンプを内蔵するアクティブ型を選ぶ方はまだまだ少数というのが現状だ。しかし、そうした中で時宜を得た製品企画でヒットを飛ばし、アクティブ型スピーカーの魅力を広く知らしめたブランドがある。それがエアパルス。ここでは、アクティブスピーカーの代表として、改めて人気モデルの実力を確かめていく。(編集部)

 昨年(2020年)春に日本上陸を果たし、大旋風を巻き起こしたエアパルスのアクティブスピーカーA80。今般その白木(パインウッド)仕上げが登場したので、これを機に改めてエアパルス・ブランドの紹介と本機の魅力を詳らかにしてみたい。

SPEAKER SYSTEM
AIRPULSE
A80
オープン価格(実勢価格7万7千円前後、ペア)

●型式:D/Aコンバーター/パワーアンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:リボン型トゥイーター、115mmコーン型ウーファー
●アンプ出力: 40W(LF)、10W(HF)
●接続端子:デジタル音声入力2系統(光、USBタイプB)、アナログ音声入力2系統(RCA)、サブウーファー出力1系統(RCA)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜192kHz/24ビット
●寸法/重量:W140×H255×D240mm/4.8kg
●備考:Bluetooth(aptX)対応
●カラリング:ウォルナット、パインウッド
●問合せ先:(株)ユキム TEL. 03(5743)6202

 エアパルスのチーフ・エンジニアは、英国ウェールズ出身のフィル・ジョーンズ氏。彼には2度インタビューしたことがあるが、そのキャリアがじつに興味深い。1954年生まれの彼はこどものころから機械いじりとソウル・ミュージックが好きで、まずベーシストとしてウェールズ最大の都市カーディフのロック・サークルで腕を磨き、プロのミュージシャンを目指していたという。そのころ好敵手だったのが、ディアンジェロやジョン・メイヤーとの活動で知られるロック/ソウル界のナンバーワン・ベーシスト、ピノ・パラディーノだった。

 そのうち自身で録音スタジオを持つようになり、請われるままに各種レコーディング・イクイップメントの修理や改造を手がけ、段々とそちらが本業化していく。その後、1980年に劇場用スピーカーなどで名高い英国ヴァイタボックスに入社、高感度スピーカー設計のノウハウを学んだそうだ。ヴァイタボックスを経て1987年に参画したアコースティックエナジーでは、小型2ウェイ機のAE1を開発、小口径アルミコーン・ウーファーを積んだこの2ウェイ機は、そのハイスピードなサウンドで我が国をはじめ世界で瞬く間に受け入れられ、オーディオ界に新たな潮流を生み出すことになった。

 アコースティックエナジー離職後は米国に渡り、1990年にボストンアコースティックに入社、AE1コンセプトを踏襲したリンフィールド・シリーズを発表して健在ぶりを示す。その後、プラチナム・オーディオ社を設立、90年代半ばにはオールホーン型のエアパルス3.1を発表、その考え抜かれた大がかりなシステム設計とダイナミックなサウンドで世界中のオーディオファイルの度肝を抜くことになるのだった。

 経営上の問題からプラチナム・オーディオ社を辞した彼は中国に渡り(奥様が中国出身)、AAD(American Acoustic Development)で家庭用スピーカーの開発に勤しむと同時にPJB(Phil Jones Bass)ブランドを興し、ベースアンプを開発、楽器業界でも成功を収めた。

 彼のベースアンプは6インチ半クラスの小口径ドライバーを複数個用いたもので、AE1以来のコンセプトが貫かれていて、これまた興味深い。PJBにつないだフィルのベースプレイを一度聴かせてもらったことがあるが、じつにクリーンなサウンドで、なるほど彼が希求している音は、オーディオでも楽器でも変わらないんだナと深く納得させられたのだった。

ポイント①これひとつでOK!の多機能性

 A80の人気は、これを購入さえすれば音のいいひとつのシステムが完成できる多機能性に支えられている。

 アナログ/デジタルの各種音声入力を備えるため、テレビを含むAVシステムとの親和性が高く、USB DAC機能を使えば、すぐにハイレゾ再生も叶う。

 さらに、A80には入力端子に合わせた一通りのケーブルが付属していることもポイント。あえて追加ケーブルを購入せずとも、ひとまず外部機器との接続が担保されているのだ。(編集部)

テストでの接続イメージは図の通り。UHDブルーレイプレーヤーからの接続は一度テレビを経由し、テレビからの光デジタル出力をA80へ入力した。ハイレゾの再生はPCをつなぎ、ストリーミング音源を再生。ここにDELAやfidataなどのミュージックサーバー/ネットワークトランスポートを使えば、ネットワークオーディオ再生もスムーズに対応できる

デスクトップで利用する場合などに角度を調整できるよう、ウレタン製の「アングルベース」が付属する

こちらがA80の付属ケーブル一式とリモコン。デジタル、アナログ各種ケーブルのほか、電源ケーブル、左右のスピーカーをつなぐための専用ケーブルが用意される

アクティブバイアンプ方式を採るクォリティ志向の多機能モデル

 2004年にエアパルス・ブランドに参画したフィルは、A80のほかにA100 BT5.0、A300 Proという同一コンセプトのアクティブスピーカーを発表している。また、この8月にはレトロ・デザインのワイヤレス一体型システムP100Xが発表された。

 A80は115mmアルミコーン・ウーファーにホーンロード型リボン・トゥイーターを組み合わせた小型2ウェイ・アクティブスピーカー。エレクトロニクス部と入力端子は右チャンネル用スピーカーに内蔵/搭載されている。アンプ部は前段にXMOSプロセッサーを配したフルデジタル構成。TI製のクラスDステレオアンプが2基搭載されていて、エレクトロニック・クロスオーバーを経て1基がL/Rのウーファーを、もう1基がトゥイーターを駆動するバイアンプ接続が採られている。

 A80と同一のエレクトロニクスが採用されたのがA100。ウーファー・サイズが127mmと大きくなり、キャビネットもそれに合わせて大容量化されている。160mmアルミコーン・ウーファー搭載機のA300は、A80/A100とはエレクトロニクスの構成が異なり、TI製DAC素子が採用され、同社製アナログ入力限定クラスDアンプでバイアンプ駆動される仕組みだ。

 A80はV5.0ブルートゥースレシーバーを搭載しており、スマホやDAPの音源をワイヤレスで楽しむことができる。有線接続はUSB/光デジタル/アナログRCA。サブウーファー出力が用意されているので、システムを2.1chに発展させることも可能。右チャンネル背面にはバス/トレブル調整ダイアルが設けられている。

 また興味深いのは、付属品としてL/Rスピーカーの接続ケーブルと電源ケーブル、ウレタン製アングルベースの他、USB/光/RCAの各ケーブルが同梱されていること。届いたA80のハコを開ければ、何かを買い足す必要なくすぐにその音が聴けるわけである。こういう親切な心遣いもA80大ヒットの一因かもしれない。

ポイント②拡大するエアパルス製品群

 今回のテスト機であるA80のパインウッド仕様のほか、エアパルスからはカラーバリエーションモデルを含む新製品が続々登場している。

 A80の上位モデルA100 BT5.0からは既存のブラック、レッドに加えて写真のホワイト・ハイグロスがリリースされたばかり。

 さらに、A80の技術を転用したBluetoothスピーカーP100Xも登場。115mmコーン型ウーファー1基と「Air-Blade Tweeter」と呼ぶ楕円形のトゥイーターを2基搭載したパッシブラジエーター方式をとる。各ユニットにアンプを充てて駆動するほか、内部配線にトランスペアレント製のケーブルを使用するなど、ワイヤレス再生が基本の製品ながら音質にこだわったモデルと言える。(編集部)

A300 Pro
エアパルスにおける目下の最上位モデルがA300 Pro。左右のスピーカー間での信号伝送はロスレスの無線方式となり、利便性がさらに高まっている。実勢価格は25万円前後

A100 BT5.0
接続性はA80と同様で、エンクロージャーとウーファーユニットがひと回り大きなモデルがA100 BT5.0。新発売のホワイト仕上げは実勢価格10万5,000円前後(ブラック仕上げのみ9万9,000円前後)

P100X
古いラジオをイメージしたという外観に最新技術を詰め込んだBluetoothスピーカー。RCAアナログ音声入力も備える。実勢価格は8万9,000円前後

非力なサウンドバーとは別世界の真っ当なエネルギーバランス

 HiVi視聴室常備の金属製スタンドにA80を載せ、L/R間に東芝の48型有機ELテレビ48X9400Sを置いてテストを開始した。パインウッド仕上げは従来のウォルナット以上に高級感があり、とても好ましい。部屋を明るくしてくれそうで、ぼくならこっちを選びたい。

  MacBookAirと本機をUSB接続し、CDスペック以上の音質を担保した定額制音楽ストリーミングサービスAmazon Music HDで、シェルビィ・リンの『Just a Little Lovin'』(96kHz/24ビット/FLAC)とプリンスの『ウェルカム・2・アメリカ(96kHz/24ビット/FLAC)を聴いてみた(再生には専用アプリを使用)。背面にバスレフポートを持つ本機を後ろの壁から1mほど離したセッティングだが、低音は充分な量感があり、115mmウーファーの小型2ウェイ機とは思えない真っ当なエネルギーバランスを訴求する。まずはここにこのスピーカーの魅力の源泉があると言っていいだろう。

 シェルビィ・リンのアルバムは、フィル・ラモーンがプロデュースし、アル・シュミットが録音・ミキシングを手がけたテッパンの高音質作品だが、リヴァーブのかかり方が手にとるようにわかり、その高音質の秘密がわかる。他のスピーカーと比べて興味深いのは、ヴォーカル音像がL/Rスピーカーを結んだ線よりも前方に張り出してくるイメージが得られ、聴き応えが増すこと。リボン・トゥイーターにホーンを組み合わせているがゆえの特長だろう。

 プリンスの『ウェルカム・2・アメリカ』のファンク・チューンは抜群のグルーヴ感。野太いベース、パルシヴなキックがいささかも緩むことなく、タイトに鮮烈に描写される。ベース弾きでもあるフィルの面目躍如と思わせるすばらしいサウンドだ。ヴォーカルも生々しい。

 パナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP–UB9000とHDMI接続した48X9400Sの光デジタル出力を本機につないで、オノセイゲンさんが音声修復したブルーレイ『真夏の夜のジャズ』を再生してみる。

 初期反射音を巧みにアレンジした5.1ch音声を2chにダウンミックスした音を聴いてみたが、アート・ファーマーのトランペットやジェリー・マリガンのバリトンサックスなどがふっくらと柔らかいトーンでぐっと前に張り出してきて、その聴き味は最高だ。もう二度とテレビ内蔵スピーカーや非力なサウンドバーでは聴きたくないと思わせるハイクォリティなサウンドなのである。アニタ・オデイやルイ・アームストロングのヴォーカルも真に迫り、1958年のニューポートにワープしたかのような臨場感が得られた。本機の音像定位のシャープさ、中低域から中域にかけてのリニアリティのよさは、AV再生にきわめてマッチした素質と言っていいだろう。

 A/D変換されるアナログ入力の音はどうだろうか。デノンの高級SACD/CDプレーヤーDSD–SX1リミテッドでお気に入りのSACDやCDを再生し、そのアナログ出力を本機につないでみたが、SX1リミテッドの重心の低い力感に満ちたサウンドの魅力を充分にわからせてくれる鳴りのよさが実感できた。本機内蔵のA/Dコンバーターの質も問題なさそうだ。

 最後に手持ちのiPhone SEと本機をブルートゥース接続してワイヤレスでラジオ聴取アプリ「らじるらじる」「radiko」でピーター・バラカン、大友良英両氏のDJ番組を聴いてみたが、これまた自室の聴取環境をはるかに上回る音のよさに感心させられた。この音質でこれだけの機能を備えたスピーカーをペア7万円台でつくれるメーカーがわが国にあるだろうか、とふと思う。今回組み合わせた48型ディスプレイの両脇に置くのにこれほど相応しいマルチパーパス・アクティブスピーカーは他にない。改めてそんなことを確信した取材だった。

A80に搭載されるユニットはホーンロード仕様のリボン型トゥイーターと、115mm径のアルミコーン型ウーファー。これらがアクティブバイアンプで駆動される

各種接続端子はRch側にまとめられている。使用環境に応じて、ベース/トレブル±3dBのイコライジングも可能だ

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