近年、アナログレコード再生の人気上昇は、ターンテーブルやトーンアーム、カートリッジ、フォノイコライザーなどに目覚ましい進化をもたらしている。能力の高いアナログ機器が登場する中で、かつて熱中したレコード収集への情熱が再燃している人も多いのではないか。

 そんなアナログファンにぜひ注目していただきたいLPが登場した。タイトルは『NOBU'S POPULAR SELECTION』。そう、ステレオサウンドで鋭筆を振るう傅信幸さんが監修したSACDが、33回転2枚組のアナログレコードとして発売される。

 ベースとなったSACDは、ステレオサウンド社のリファレンスCD/SACDシリーズにおける初のポップス作品として2010年に登場した。アラン・パーソンズ・プロジェクト、TOTO、ボズ・スキャッグスなどの有名アーティストの曲が全15曲収められ、収録曲のうち10曲が初SACD化されたことでも話題となった。帯域バランスや音調など音にクセがなく、リファレンスにはもってこいの1枚で、筆者が取材でうかがったオーディオファイル宅でも、すぐに手に取れる目立つ場所に置かれている、そんなディスクだ。

 本ディスクは売れ行きもよく、現在も再販が繰り返されているそう。製品開発やイベントなどのデモンストレーションにSACDを使用している国内外のメーカーからアナログ化の要望もあったことから企画がスタートしたそうだ。

オーディオファイルが喜びそうなグルーヴに満ちたサウンドで
全編が楽しめるLP

 本作は、音質を最優先して、異例ともいえる手のかかるプロセスと日米のドリームチームのようなメンバーにより制作されている。カッティング作業を担当したのは、オーディオファイルでその名を知らぬものはいない伝説的エンジニアのバーニー・グランドマン氏。米国ハリウッドにあるBernie Grundman Masteringで、カッターヘッドやカッティングレースは日本ではほとんど稼動していないウェストレックス&スカーリー製をフルカスタマイズしたものが使用されているのが大きな特徴だ。

アナログ・レコードコレクション
『NOBU'S POPULAR SELECTION(LP)』
(ソニー・ミュージックダイレクト/ステレオサウンドSSAR-055-56)¥11,000(税込)
●仕様:33回転アナログレコード2枚組
●Cutting Engineer:バーニー・グランドマン(Bernie Grundman Mastering Hollywood)
●Master Source Engineered:鈴木浩二(ソニー・ミュージックスタジオ)

[Side A]
1 .狼星/アラン・パーソンズ・プロジェクト
2. アイ・イン・ザ・スカイ/アラン・パーソンズ・プロジェクト
3. ジョジョ/ボズ・スキャッグス
4. ロザーナ/TOTO
[Side B]
1. レッツ・グルーヴ/アース・ウインド&ファイヤー
2. 5:06AM ストレンジャーの瞳/ロジャー・ウォーターズ
3. スターダスト/ウィリー・ネルソン

[Side C]
1. 宵のひととき/アン・バートン
2. ウォーク・アウェイ/カーラ・ボノフ
3. ダーティー・リトル・シークレット/サラ・マクラクラン
4. アクロス・ザ・ユニバース/ジェイク・シマブクロ
[Side D]
1. ジッターブギ/マイケル・ヘッジス
2. 月の庭/松本俊明
3. ガブリエルのオーボエ/ヨーヨー・マ
4. 滝/ヨーヨー・マ

 ●ご購入はこちら→https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/4571177052742
 ●問合せ先:㈱ステレオサウンド 通販専用ダイヤル
       03(5716)3239(受付時間:9:30〜18:00 土日祝日を除く)

 マスターについては、SACD制作時に作成された、良質な音質を持つDSDマスターをベースに、ソニー・ミュージックスタジオの名エンジニアである鈴木浩二氏が96kHz/24bitのPCMファイルに変換、しかも「DSDフォーマットはそのままPCM変換するとあまり好ましい音にならない」との理由から、単純にPCM変換するのではなく、鈴木氏の経験に基づいた独自手法で変換作業を行ない、さらにプリマスタリング(PCMデータ作成)時には、バーニー氏の作業を熟知するソニー・ミュージックのアナログ専門レーベル「GREAT TRACKS」のプロデューサー、滝瀬茂氏も協力する形で作業が進められた。カッティングレベルに関しては、傅さんの希望をベースに収録曲ごとに調整が施されているなど徹底している。

 カッティング以降のマスター、原盤製作プロセス、テストプレスなどの作業は、日本にあるソニー・ミュージックソリューションズで実施。まずは、バーニー氏のセンスでテストカッティングしたのち、ソニー・ミュージックダイレクトのスタッフとステレオサウンド側の制作スタッフで音質を追い込んでいった。

 日本サイドからバーニー氏へ伝えられた要望は、「SACDが持っていたリファレンス的なバランスを保ちつつも、オーディオファイルが満足するように、レベル調整のマージンを削り音質面で妥協をしないこと」だけだった。そして最終的に傅さんが音質確認を行なったのだが、NGを出されたらやり直す覚悟で望んだテストプレス盤は仕上りもよく、正式プレスが決定したのだ。

 試聴はSACDと比較する形で行なった。SACDはオッポデジタルのUHDブルーレイプレーヤー UDP-205で再生。アナログ盤は、デノンのカートリッジ DL-103を取り付けた、スロヴェニアholboのターンテーブル、Airbearing Turntable Systemを用い、フォノEQにはソウルノートE-1を使った。

 傅さんは、私が生まれた1973年に執筆を始めている。ライナーノーツによると、楽曲ラインナップは、傅さんの「ここ30年位のオーディオの自分史」だという。「大先輩である傅さんの哲学に、私のシステムがどの程度シンクロできるのだろうか」と、いつも以上に身が引き締まる思いで試聴に臨む。

 リードグルーヴに針を乗せ、1曲目の「Sirius(狼星)」が始まった瞬間、「おお」と軽く後ろにのけぞった。一聴してわかる音のよさ。透明感ある高域、そして重く立体的なベース。「Sirius」はインストゥルメンタル楽曲だが、この時点で本盤の音のよさが直感的にわかる。基本的な帯域バランスと質感については、SACDを踏襲しつつも、ひとつひとつの音の彫りが深く、全帯域におけるメリハリと音色が若干増すといった具合で、オーディオファイルが喜びそうなグルーヴに満ちたサウンドである。

 気持ちが高鳴った僕は「万歳!このLPは間違いなくアナログの新たなリファレンスになる」と心の中で叫んだ。「Sirius」からつながる2曲目「Eye in The Sky」は、ポッとセンター定位するヴォーカルとコーラスの広がりなどのステレオイメージがSACDと同様で嬉しくなる。そして曲がよいので思わず試聴を忘れて、全編を通して傅さんのオーディオ史を音楽で楽しんでしまう。

 アナログレコードにはデジタルファイルにはないさまざまな製作工程が入るが、本盤はデジタルソースをベースにしたLPレコードとして、これ以上ない手法で製作されたディスクとなった。

 高品位なアナログ再生を志すすべてのオーディオファイル向けのリファレンスとして積極的に選択肢に入れていただきたい。そんな出来栄えだ。