日本への本格参入を果たしたTCLの新モデル65C825は、なかなか力の入った4K液晶テレビだ。QLED方式のVA型液晶パネルは昨年のC815シリーズも採用していたが、バックライトに注目度の高いMini-LEDを採用したことが大きな特徴。このほかにも、BS/CS4Kチューナーの搭載や内蔵スピーカーとしてオンキヨー製サウンドバーを搭載。動画配信サービスについても、ネットフリックスやAmazon Prime Videoなどの国際的サービスのみならず、dTVやTVer、FOD、U-NEXT、GYAO!といった国内サービスにも対応するという充実ぶりだ。今回は、その65C825の画質・音質面での進化を確認するため、昨年モデルの65C815もお借りして比較しながらの視聴を行なった。

 

TCL
65C825

オープン価格(実勢価格25万円前後)

● 型式:4K液晶パネル搭載ディスプレイ
● 搭載パネル:VA倍速液晶
● 解像度:水平3,840×垂直2,160画素
● バックライト:ローカルディミング対応直下型Mini-LED
● チューナー:地上デジタル×2、BS/CS110度×2、BS4K/CS4K×2
● 接続端子:HDMI入力3系統(eARC対応)ほか
● HDR対応:HDR10、HLG、ドルビービジョン
● サウンドシステム:ドルビーアトモス対応オンキヨー製サウンドバー
● 寸法/質量:W1,446×H905×D290mm/32.2kg
● 問合せ先:(株)TCLジャパンエレクトロニクス TEL 0120-955-517

 

 

明るさ、鮮明さ、安定性が大違い。地デジ放送ですぐに進化を感じた

 まずは地デジ放送を見たが、この時点で大きな進歩を確認できた。映像の明るさ、鮮明さに大きな違いがある。直下型Mini-LEDのメリットが現れたものとも思うが、C815では暗部が潰れるだけでなく、画面全体が暗く色も濃厚というより重い感触で今ひとつ冴えない。それが、鮮明で見通しがよくなり、安心して見られるものに進化したのである。バックライトの大幅な進歩だけでなく、色乗りも自然で人肌も健康的な色になっているなど、QLED液晶パネルのポテンシャルの高さがわかるものになっている。おそらくは画質設計も大きく変わっているに違いない。それくらいの飛躍的な進歩を画質から感じた。

 4K放送チューナーの内蔵もC815から進歩した部分。その4K放送を観ても精細感がよく伝わる印象だ。部分駆動の動作もスムーズで、暗部をきちんと再現して黒の締まった映像にしつつ、画面の明るさの変化に対してもきちんと追従する。東京五輪のサッカーなどを見ると、カメラの素早い動きでディテイルが失われることがあった。S/N重視の絵づくりのようで、地デジ放送では少々気になったものの、画質調整でノイズリダクションを弱めると解消できた。ただノイズ感も増えるので、ここは好みで調整したい。BS4K放送は、「MPEGノイズリダクション」を「高」→「OFF」、「ノイズリダクション」を「自動」→「OFF」とすることで、動きによるぼやけ感を減らすことができた。スポーツ番組の視聴では有効な調整だ。

基本操作ソフト(OS)には、Android TV9.0を採用。TCLは国際的なテレビメーカーだが、dTV、U-NEXT、ABEMA、GYAO、TVerなどの国内向けサービスにもしっかり対応している

 

本機最大の特徴が、QLED液晶パネル+Mini-LEDを使っていること。QLEDとは量子化ドット(Quantum Dots)と呼ばれる粒子状素子をフィルムに塗布したシートと青色LEDを組み合わせて、光の波長変換によってRGBカラーを得る仕組み。白色LEDを用いた一般的な液晶に比べて、明るさや色域ともに有利になるという

 

液晶を含む映像表示ディスプレイでは、RGBそれぞれの純度の高さが、結果的にパネル自体の色再現性や表現できる色範囲の広さに直結する。その純度の高さを一般的な液晶(図左)とQLED液晶(図右)で比較したイメージ。全体に明るく、G(緑)とR(赤)の純度の高さに優れていることがわかる

 

「Mini-LED」とは明確な定義はないようだが、一般的には「数千個のLEDをシート状に配置した」バックライトシステムと理解してよいだろう。C825シリーズでは、そのLEDをエリア別にコントロール、絵柄に応じて部分点滅(ローカルディミング)方式で制御して高コントラストを得る構えだ

 

 

4Kらしい精細感はもちろん暗部や色再現に優れている

 UHDブルーレイの視聴では『ジャスティス・リーグ:ジャック・スナイダー・カット』を見た。今どき珍しいスタンダードサイズの画角で両側に黒帯が入るが、黒浮きはごくわずか。全暗環境で少し黒が浮いているとわかる程度で、液晶テレビとしてはかなり優秀だ。画質モードはHDRモードの「映画」で、ノイズリダクション関連を「OFF」にして観たが、4Kらしい精細感はもちろんのこと、色味を抑えた重厚なトーンをしっかりと描いた。明るいシーンでの色の鮮やかさも含め、暗部や色の再現性はなかなかの出来。細かなディテイルの再現はもう少し欲しい気もするが、映像が甘いというよりもフィルム的な柔らかい感触なので、不満は少ない。

 ドルビーアトモスに対応するサウンドバータイプのスピーカーも出来はよく、低音までしっかりと出しつつ、セリフが明瞭。サラウンドの音の広がりも良好だ。後方まで音が回り込むような派手な音響効果はないが画面を中心に包まれるような空間感がある。サラウンドを切った再生でも中域が充実して聴き応えがあり、音質の進歩は飛躍的。テレビ内蔵スピーカーとして優秀な実力と言える。

 パッケージソフトの視聴ではC815とは歴然の差があり、コントラストの高さ、暗部の再現性は比較するのが可哀想になるほどだ。高コントラストというだけでなく、暗いシーンで1箇所だけが光るようなシーンでも光のまわりがぼやっと浮いて見えることがないし、画面の明るさによって黒レベルが不安定になることもない。QLEDの色再現もあって、従来の液晶とは一線を画する出来映えだ。映画のような暗いシーンの多い作品を見ると、国内の高級液晶テレビと比べても遜色のない実力だとわかる。

 続いて4K/60 p収録のUHDブルーレイ『8K夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA』。こちらも暗部の再現性を求められるソースだが、ビルとビルの間の暗い路地、ぐっと沈んだ壁面、明るいビルの窓を鮮明に再現する。夕景から夜景へと徐々に変化していく空の様子も実に豊かに描いた。街灯や車のライト、窓の照明の微妙な光の色の違いも描き分け、色彩感あふれる映像をしっかりと楽しめた。特に完全に沈みきらないグレーの空とビルの谷間の沈んだ黒をきちんと描くなど、暗部の再現性のよさはここでも確認できる。鮮やかなネオンの色とりどりの光も眩く輝き、明暗のダイナミックレンジの広い映像もなんなく描写している。

C825はパネル表面に、外光や照明の映り込みを抑えた「低反射処理」を施した。明るいリビングでも快適に楽しめるテレビを目指している

 

 

アニメBDやネット動画も色彩豊かで、相性良好

 アニメではドルビーアトモス音声を収録した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』劇場販売版ブルーレイを観た。冒頭で前後左右のあちこちから時計の針の音が鳴り、次第に収斂して頭上で鳴るという演出がある。ここではドルビーアトモスらしい高さ感のある音をきちんと表現していたことに感心した。後方から音の再現は望むべくもないが「アトモスらしさ」はしっかり伝わってくる音だ。

 本作はアニメ作品としても、またガンダムシリーズとしても珍しく、暗いシーンが多く、夜間のモビルスーツ戦は色も含めてトーンを抑えた映像になる。そんな暗いシーンを見づらいとも感じさせず、暗さをしっかりと伝える再現は立派だ。劇場先行発売版のブルーレイは当然ながらSDR収録なのだが、ビームサーベルの眩い輝きなど、ドルビーシネマでのHDR上映を思わせる映像を再現したことにはちょっとびっくりした。明るいシーンでのホテルや海岸の鮮やかな色彩も豊かに描かれていて、C825はアニメとはかなり相性がよいと感じた。

 ネット動画は『アイリッシュマン』を観た。本機は、ドルビービジョン対応なので画質モードは暗室での視聴モード「薄暗い動画」を選択した。薄暗いシーンはやや黒が引き込みがちになるが見づらいほどではなく、リアルな感触ともいえる画調だ。白人の肌も本物らしい表現で、衣服の生地や革のジャケットの質感もリアル。SF作品『ミッドナイトスカイ』は、地球上の猛吹雪の中での場面を見たが、一面の白い世界の中で吹きすさぶ粉雪をていねいに再現する。眉や髭が凍りついたジョージ・クルーニー演じる老博士の表情も鮮明だ。

今回はQLED液晶搭載モデルとしての進化を正確に把握するため、昨年型の65C815(写真左)も用意して一対一で横並び視聴した

 

色再現や階調はトップクラス大画面液晶テレビの有力機だ

 TCLは液晶テレビの出荷台数が世界第2位のメーカーだが、日本での知名度はまだ充分ではなく、少し前までは格安テレビの代表格のような印象もあった。しかし、最新モデルの65C825を観ていると、そんなイメージはまったくなく、国内メーカーの同クラスの液晶テレビと並べてみても遜色のない実力を持っているとわかった。TCL側としても画質・音質に対して要求の厳しい日本市場で実力で勝負できるモデルを作りたいという意欲も感じられ、その成果がよく現れていると感じた。

 実際、前作のC815と比較でも、バックライトの進化だけでは説明がつかないほどの画質だったし、QLED液晶とMini-LEDバックライトのポテンシャルを引き出した色再現性や階調表現など、さまざまな点での大きな進化を果たしたことがわかる。もはや価格勝負のモデルではない。大画面の薄型テレビ導入を考える人にとって、有力な候補となるテレビのひとつだと言えよう。