「まさに5、6、7の悩みになりました」 4月下旬、田中要次さんから編集部にこんなメールが入った。昨年(2020年)からスタートした田中さんのホームシアターづくりは、ご本人の努力とDIY精神で、見事に完成。さらに一歩進んでフロントスピーカーのリニューアル計画も発動した(前回の記事参照)。そこでは田中さんに3機種のスピーカーを視聴してもらい、お気に入りモデルを導入してもらう予定だった。その結果を待っていたところに届いたのが先のメールだったわけだ。そこに書かれた「5、6、7」の意味とは?(取材・文:泉 哲也)

ブランドによるスピーカーの音の違いを体験し、さらに悩みが深くなった田中さん。ブランド違い、サイズ違いの「5」「6」「7」3モデルの中でどれが一番気に入るのでしょう?

 本連載の「その2」でホームシアターがひとまず完成し、パッケージや配信を楽しんでいた田中さん。しかしDisney+の『マンダロリアン』を見ていた時に、オープニングで低域の一部の鳴り方が気になったという。

 そんな相談を受けた編集部が、田中さんの希望に合いそうな製品として選んだのがダリ「OBERON 5」、KEF「Q550」、エラック「Debut F5.2」の3つ。

 結論からいうと、田中さんは本体のサイズ感やデザイン、迫力あるサウンドからOBERON 5が印象に残ったそうだ。それまでの愛機BOSE 55WERとも傾向が違い、コンパクトなサイズを超えた低音感が好印象につながった模様だ。

 こうして自分の好みの製品が見えてくると、それにつれて田中さんの中にさらなる好奇心が沸いてきた。OBERON 5がこれだけの迫力あるサウンドを聴かせてくれるのであれば、その上位モデルの「OBERON 7」だとどんなシアター体験ができるのか、というものだ。

 さらにネット上でモニターオーディオの「Bronze 200-6G」の評判がいいことを知り、その存在も気になり始めたそうだ。これが田中さんのメールにあった「5(OBERON 5)」「6(Bronze 200-6G)」「7(OBERON 7)」の悩みというわけだ。

●田中さんに体験してもらったお薦めスピーカー・追加編
ダリ OBERON 5 ¥141,900(ペア、税込)

(その3)の試聴で一番田中さんの好みだったという「OBERON 5」。同シリーズのトールボーイ型としては一番小型のモデルだ。前回はダークウォールナットを使ったが、今回は他の色も観てみたいという田中さんの希望でブラックアッシュを準備した

●型式:2ウェイ3スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ウーファー×2
●周波数特性(±3dB):39〜26,000Hz
●能率:88dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:2,400Hz
●寸法/質量:W162×H830×D283mm(スパイク含まず)/10.8kg

 そういうことであればもう一度田中さんに各スピーカーの音を聴いてもらい、「5」「6」「7」に決着を付けてもらうしかない! そう考えた編集部は、5月上旬に2度目の押しかけ視聴を実施することにした。

<今回の視聴モデル>
ダリ「OBERON 5」 ¥141,900(税込)
モニターオーディオ「Bronze 200-6G」 ¥154,000(ペア、税込)
ダリ「OBERON 7」 ¥171,600(ペア、税込)

 試聴機を搬入し、改めて視聴を開始。まずは価格順ということで、OBERON 5の音を確認してもらうと、田中さんから「なんだか前回と印象が違いますね」という言葉が。前回の取材時の記憶と比べて低音の迫力が出ていないように思ったそうなのだ。「そんなことありませんよね」と田中さんも不思議そうだ。

 そこで前回から変わった点がないかを確認してみると、「ラックの裏が混乱していたので、ケーブルを綺麗にしました。タップを追加して、電源ケーブルも整理しています」とのこと。確認してみると、壁コンセントには電源タップとWiFiルーターがつながれ、AVセンターやレコーダーなどはすべて電源タップから給電されている。

機械関係にも詳しい田中さんは、様々な工具もお持ち。スピーカースタンドの組み立ても率先して作業していただいた

 別にこれが間違いというわけではないけれど、せっかくホームシアターなのだから、AV機器を優先した給電にしたい。前回の視聴時にはAVセンターは壁コンセントにつないでいたはずなので、少なくともその状態には戻したい。

 田中さんの許可を得て、AVセンターを壁コンセントに、WiFiルーターはタップにつなぎなおして視聴を再開する。同時にAVセンターのコンセントの極性も入れ替えて音を聴いてもらった。

 ちなみに再生した2chソフトは前回同様のU2「Mofo」とフィッシュマンズの「SEASON」、そして今回はビョークの「Family」も加えている。なお田中さんはそれらの曲をWAVでリッピングしており、STR-DN1080にUSBメモリーを挿して再生した。5.1chは編集部が準備したドルビーアトモスのトレーラーを主に聴いてもらっている。

 「う〜ん、言われてみると音が変わっているような気がしますね。コンセントも2番目(STR-DN1080のコンセントで模様のある方を下に向けた状態)の挿し方が低音が出てきて、この前の音に近い印象です。でもこれホントなんですか? どこかでこれは気のせいだ、と思いたい自分もいるんですけど(笑)」と田中さんも困惑気味だ。

 ホームシアターの取材では、電源の極性によって音の印象が変化することはままある。これは、AVセンターのコンセントのアース(コールド)と壁コンセントのそれが合っている方が本来のパフォーマンスを発揮できるからだ。今回は2番目のつなぎ方がそうだったのだろう。この点については(費用もかからないことだし)製品の使いこなしのひとつとして、読者諸氏にも試していただきたい。

●田中さんに体験してもらったお薦めスピーカー・追加編
モニターオーディオ Bronze 200-6G ¥154,000(ペア、税込)

雑誌やウェブサイトで評判のいい製品として田中さんが気になっていたというモニターオーディオ「Bronze 200-6G」もラインナップ。独自のC-CAMトゥイーターと、クロスオーバー周波数の異なるふたつのウーファーという2.5ウェイ駆動でバランスのいいサウンドを聴かせてくれた

●型式:2.5ウェイ3スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:25mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ウーファー×2
●周波数特性(±3dB):35〜30,000Hz
●インピーダンス:8Ω
●能率:88dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:2,400Hz
●寸法/質量:W166×H886×D263mm(スパイク含まず)/12.8kg

 AVセンターの電源はこの状態にして、次にモニターオーディオBronze 200-6Gを視聴した。「このスピーカーは、あちこちでアワードを獲得しているのを見て気になりました。実際の音も新鮮味があって、ある意味で情報が聴こえすぎるくらい。クリアーで、虫の声の嫌な感じ、リアルな再現が凄かった。ただ、その分デジタルっぽさもあるというか……。こうして聴かせてもらうと、スピーカーにはそれぞれのメーカーによる音作りがあるということがわかります」と田中さん。

 ドルビーアトモス再生は「冷静なサウンドで、でも聴きやすかったです。映画を見るならこれもいいかなと思いました。こういった硬質な音にも惹かれますね」と、分析的な音として捉えているようだ。

 続いてOBERON 7を聴いてもらうと、「ウーファーが大きいこともあって、低音の出方が違いますね。凄く低い音まで出てきて、これは他のスピーカーでは聴けなかった。ちょっとウェット感があるけど、聴きやすいですね。サラウンド再生も全体の音場にゆとりが出てきて、いいと思います。ずっと聴いていても疲れない気がしますし、個人的にはダリの音作りが好みかもしれません」という感想。どうやら田中さん自身の好みも定まってきたようだ。

 残る問題はOBERON 5とOBERON 7のどっちが田中邸ホームシアターに相応しいか? ということになる。部屋の広さ的にもスクリーンから両側の壁までまだ余裕があるので、編集部としてはOBERON 7をお薦めしたところだが、さて田中さんの決断は?

●田中さんに体験してもらったお薦めスピーカー・追加編
ダリ OBERON 7 ¥195,800(ペア、税込)

110インチスクリーンに組み合わせるのならもっと大型モデルでもいいのでは、ということで「OBERON 7」の音も聴いていただいた。高さが101.5cm(OBERON 5は83cm)あるので大きすぎるかも、と田中さんは心配していたが、実際に設置してみると予想以上に収まりがよかった

●型式:2ウェイ3スピーカー、バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、180mmコーン型ウーファー×2
●周波数特性(±3dB):35〜26,000Hz
●能率:88.5dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:2,300Hz
●寸法/質量:W200×H1,015×D340mm(スパイク含まず)/14.8kg

 「画面サイズを考えると、スピーカーもOBERON 7くらいの大きさがあった方がいいような気もしてきました。55WERも背が高かったから、高さは気になりません。あとは横幅が大きくなることで変な存在感がでてきたら嫌だと思っていたんですが、案外馴染んでいますね。画面を110インチにしたのなら、『5』から『7』にしなさいということでしょうか(笑)。となると色をどうしようかな。木目も綺麗ですが、センタースピーカーやサブウーファーと揃えるならブラックがいいですよね」

 ということで、田中要次さんのホームシアター構築計画は、OBERON 7が加わることで一件落着となった。その最終システムは以下の通り。スクリーンサイズやフロントL/C/Rスピーカーなど、当初の予定を超えて本格的になってしまったが、ホームシアターは趣味の空間でもあり、実際に体験することで田中さんの夢が大きく(欲が深く?)なったと考えれば、当然の結果かもしれない。

 完成したホームシアターで田中さんがどんな作品を楽しんでくれるのか、また新しい夢が広がっていくのか、いつか機会があったら後日談も紹介させてもらいたいと思う。

<田中要次さんの主なシアターシステムFinal>
●プロジェクター:エプソンEH-TW8400
●スクリーン:キクチStylist/シャンティホワイト(110インチ/16:9)
●4Kレコーダー:パナソニックDMR-4W200
●カセットデッキ:ソニーTC-K222ESJ
●アナログレコードプレーヤー:アカイProfessional BT500
●AVセンター:ソニーSTR-DN1080
●スピーカーシステム:ダリOBERON 7(フロントL/R)、クリプシュR-34C(センター)、BOSE 101MMG(サラウンドL/R)、JBL C-6IC(トップL/R)
●サブウーファー:ヤマハYST-SW320