俳優・田中要次さんのホームシアター構築計画がスタートしたのは2019年のこと。ご自宅を新築するにあたり、客間にホームシアターを併設しようと考えたそうだ。その頃に縁あって田中さんと知り合いになったStereoSound ONLINE編集部は、さっそく応援(という名の背中押し)を買って出た。その結果、サラウンドシステムは当初の5.1chからドルビーアトモスに対応することになってしまった。さらに田中さん自身の思いも膨らんできて……。(取材・文:泉 哲也)

田中要次さんのホームシアターフロントサイド。正面天井のボックス内に110インチのスクリーンが取り付けられており、リモコン操作で降りてくる仕組みだ

 田中要次さんのホームシアターは、客間を活かした趣味の空間を作ろうという思いからスタートした。それを壊さない範囲で最新のオーディオビジュアルにどう対応するかについて編集部からも提案をさせてもらい、最終的には以下のようなイメージに落ち着いた。

・4Kプロジェクターはエプソン「EH-TW8400」で、スクリーンサイズは100インチを想定
・サラウンドシステムは愛用の5.1chを流用して、ドルビーアトモスの5.1.2システムを構築する
・AVセンターはソニー「STR−DN1080」を新規に導入
・4Kレコーダーとしてパナソニック「DMR-4W200」も導入
・スクリーンの両サイドにカーテンを設置し、調音に活用する

 ホームシアターの機器もほぼ決まり、ここまでは比較的順調に進んでいるかと思っていたところに、前回書いた「予想外の展開」が待っていたわけだ。

 2019年6月末の田中さんからのメールに、「床の間の奥行きを削減し、スクリーンとの距離を3.3mにして、110インチのスクリーンが導入出来るように設計変更することにしました」という一文が。なんと、田中さんは自身の判断で、画面サイズをひとまわり大きくしていたのだ。

 編集部では、自身の経験から、ホームシアターの画面サイズはできるだけ大きくすることをお薦めしている。というのも、人間は大画面にすぐに慣れてしまうようで、設置場所に余裕があるのに画面サイズを抑えたケースでは、多くの人がもっと大きくしておけばよかったと後悔しているから。なので、田中さんが100インチから110インチにアップグレードするのは大賛成。

シアタールームは正方形の客間を活用した。当初はスクリーンサイズも100インチでサラウンドは5.1chの予定だったが、編集部の強い後押しもあってか(?)、110インチ&5.1.2システムになったのです

 田中さんによると、「スクリーン裏の壁面に配管スペースを作る必要があったので、どうしても出っ張りができてしまうんです。端に寄せるとかえって部屋のバランスが悪くなるように思ったので、敢えて内側に寄せて、シンメトリーにしてもらいました。

 最初はここにレコードをディスプレイする棚を作る予定だったんですが、そうするとあと5cmくらい前に出てきてしまうんです。そうなると投写距離の関係から110インチは無理。だったら棚を諦めますということで、すべて取っ払ってしまいました」という経緯だったそうで、この英断には拍手を送りたい。

 そして建物が完成し、引っ越しを終えた2020年10月、田中さんからスクリーンを取り付けたいとの連絡が。それまでは引っ越し荷物の片付けに追われて、ホームシアター機器の設置もままならなかったけど、それも落ち着いてきたのでしょう。

 さらに奥様から、『アラフェス2020 at 国立競技場』のライブ(2020年11月3日に配信された)をスクリーンで見てみたいというリクエストがあったとかで、急いで環境を整えたいとのこと。ホームシアターを円満に活用していくには、奥様の理解はとてもとても大切。さっそく編集部もお手伝いしてスクリーンを取り付けることにした。

 事前の相談で、導入するスクリーンはキクチ「Stylist」で、幕面はシャンティホワイトに決まっていた。ゲイン1弱と決して明るい生地ではないけれど、田中さんのホームシアターはスクリーン両サイドにカーテンがあり、比較的反射光の影響が少ないと思われるので、せっかくなら色の再現性のいい幕面を使ってもらいたいという狙いから選んだもの。もちろん4K対応を謳っている点にも配慮している。

 なお今回の取り付けは、キクチ科学研究所 システムソリューション部 開発営業課の上野健一さんにお願いしている。上野さんは数多くの現場に立ち会っている方なので、田中邸のように厳密な調整が必要な場合でも任せて安心。

投写サイズいっぱいの画面を実現するために、厳密な取り付けを

まずはスクリーンのセンターをチェックし、部屋の中央に合わせて取り付け位置を決めていく。今回は110インチの投写距離がぎりぎりだったので、奥行方向はできるだけ壁面に寄せている

スクリーンを取り付ける予定の場所には下地を入れてもらったのだが、右側は若干下地の長さが足りなかった。今回はモーリーアンカーで取り付けているが、これからスクリーンを使いたいと思っている方は下地の位置や大きさにも注意していただきたい

 迎えた設置当日、田中さんのホームシアターにうかがうと、既にスクリーン以外の機材がすべてセットされており、プロジェクターも天吊設置済み。なんと田中さんは通販でプロジェクターと天吊金具を購入し、自分で取り付けてしまったとのこと。機械に詳しいとは聞いていたけれど、プロジェクターの天吊りまで自分でやってしまうとは、恐れ入りました。

 まずはプロジェクターを基準にセンター位置を合わせて、スクリーンの取り付け場所をマーキングすることに。左右は余裕があるので問題ないけど、先述の通り投写距離がシビアなので、できるだけ背後の壁に近づけたいところ。

 スクリーン裏の壁面1cm手前にスクリーンボックスが来るように位置決めし、いざ作業開始。田中さんは事前に天井裏に下地を入れてくれていたので取り付け自体は比較的順調に進めることができた(下地の足りない部分もあったけど、上野さんがモーリーアンカーを使って対処してくれた)。

 が、ここで問題発覚。今回は電動式スクリーンを選んだのだが、そのためのコンセントがない! 打ち合わせ図面ではコンセントを天井に設置するよう指示していたのに、電気屋が勘違いして床側の壁面に設置していたのだ。とりあえず延長コードでつないで動作確認をし、コンセントは後日位置を変更してもらうようお願いした。

 こういった勘違いは、ホームシアターの施工ではよくあること。確かに天井にコンセントを付けるなんて普通の家庭ではありえないので、電気屋が勘違いするのも無理はない。ご自身でホームシアターの打ち合わせをすることがあったら、このあたりは充分念押ししておいた方がいいでしょう。

無事110インチスクリーンの取り付けが完了。期待を裏切らない迫力に田中さんも嬉しそうでした

 こうして110インチスクリーンの設置が完了。さっそく映像を投写してみると、見事にスクリーン全面に映像が再現された! TW8400側はほぼワイド端で、スクリーンがあと数cm前に出ていたらここまでぴったりとはいかなかったかもしれない。素晴らしい収まりだ。

 田中さんもスクリーンいっぱいに投写されたBS 4Kの映像を見ながら、「4Kだと自然の風景がこんなに細かく再現されるんですね。これは綺麗だ」と驚いた様子。こうして念願の110インチ大画面ホームシアターが、ひとまず完成した。

 ということで、この日の作業は無事終了。懸案の『アラフェス〜』はもちろん、じっくりホームシアターを使いこなしてもらい、後日感想を聞かせて下さいとお願いして失礼した。

 するとその後しばらくして、より深みにはまった田中さんから、次の展開が……。

※9月17日公開の(その3)へ続く