映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第61回をお送りします。今回取り上げるのは、『サマー・オブ・ソウル（あるいは、革命がテレビ放映されなかった時）』。音楽ファン、ポップ・カルチャー・ファン必見のお宝映画と久保田さんが絶賛する本作を、とくとご賞味ください。（Stereo Sound ONLINE編集部）
【PICK UP MOVIE】
『サマー・オブ・ソウル（あるいは、革命がテレビ放映されなかった時）』
8月27日（金）より、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー
こりゃ、すごい。こりゃ貴重。音楽ファン、ポップ・カルチャー・ファン必見のお宝映画である。
ウッドストック・フェスティバルと同じ1969年の夏。6月29日から8月24日までの日曜日に、6回にわたってニューヨーク、ハーレム地区のド真ん中、マウント・モリス公園で開催されたブラック・ミュージックのフリー・コンサートの模様を収めたコンサート映画。
TVプロデューサーのハル・トゥルティンの指揮でビデオテープ収録、モノーラル録音されていたが、素材は50年近くブロンクスのトゥルティン家の地下室に眠り、世に出ることはなかった。
2017年にその存在を知ったプロデューサーのロバート・フィヴォレント（『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』などに製作弁護士として参加）が、演出をヒップホップ・グループ、ザ・ルーツのアミール “クエストラヴ” トンプソンに依頼。40時間分のテープをラボに持ち込み、そこに当時のニュース映像や参加した観客の現在のコメントなどを加えてブラッシュアップした。
ドルビービジョン、ドルビーアトモス採用で、とりわけ音質の向上がすばらしい。半世紀の時を越えて69年夏の大会場にタイムスリップしたよう。ブラック・パンサー党が白人警官にニラミを利かせ、観客の9割9分は黒人（ブラック・ピープル）。髪型もファッションも60年代末の臭さぷんぷんで、若い子には新鮮な風俗カタログになるのではないか。
「ハーレム・カルチュラル・フェスティバルにようこそ！ これから登場するのは、若きソウル・ブラザー、スティーヴィー…ワンダー！！」
MCのそんな口上で登場する当時19才のスティーヴィーを筆頭に、ステージに上がるミュージシャンたちはハーレムの同胞たちを前にみんな気合いが入りまくっている。B.B.キング、マヘリア・ジャクソン、スライ＆ザ・ファミリー・ストーン、そしてニーナ・シモン。どれも圧巻。
フィフス・ディメンションの「輝く星座」も懐かしい。メリー・ホプキンの「悲しき天使」とかを一緒に歌っていたEP盤を買ったっけなあ。
ぼくが言うのもおこがましいが、「HiVi」2021年8月号のこの映画の紹介で、大鷹俊一さんが書かれている “細かいジャンル分けのせいで不自由になった現在からすると、このおおらかさがうらやましい” という言葉は至言で、昔はカッコいい音楽、カッコ悪い音楽しかなかった。それを自分や友だち同士で決めていた。
この映画にはカッコいい音楽しかない。副題の「OR,WHEN THE REVOLUTION COULD NOT BE TELEVSED」は、声質も生き方もカッコよかった歌手・詩人の故ギル・スコット・ヘロンの詩から取られたもの。
マルコムXやキング牧師、ロバート・ケネディが暗殺され、ベトナム戦争が激化し、アポロ11号が月に向かった激動の時代。それから世界は、文化は、アメリカは果たして解放されているのか。
当時を知らない若いひとにこそ観てほしい。目からも耳からも発見があるだろう。
『サマー・オブ・ソウル（あるいは、革命がテレビ放映されなかった時）』
8月27日（金）より、TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー
監督：アミール “クエストラヴ” トンプソン
音楽監修：ランドール・ポスター
出演：スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、フィフス・ディメンション、ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、デイヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト＆ザ・ピップス、スライ＆ザ・ファミリー・ストーン、マックス・ローチ、ニーナ・シモン他
原題：SUMMER OF SOUL（…OR,WHEN THE REVOLUTION COULD NOT BE TELEVSED）
配給：ウォルト・ディズニー・ジャパン
2021年/アメリカ/ビスタサイズ/5.1ch&ドルビーシネマ/118分
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト
https://searchlightpictures.jp/movie/summerofsoul.html