去る8月13日から、Amazon Prime Videoで『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の配信がスタートしている。今夏の話題を集めた作品ということもあり、StereoSound ONLINE読者の中にも既にチェックしたという方も多いだろう。

 全世界で先行配信されていたこともあって31ヵ国語の字幕が用意されており、日本語字幕を使うことで劇場では聞き取れなかったセリフの内容がわかった、あるいは海外の字幕ではこのセリフはこんな風に翻訳されるのか、といった発見も話題になっているようだ。

 ということで、さっそくわが家でもスクリーン&サラウンドで『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見てみることにした。今回は上記の通りPrime Videoでのサブスクリプションで、最新劇場版が4作品配信されている。

Amazon Fire TV Stickで見る

Fire TV Stickの第3世代を使ってPrime Videoをチェックした。イーサネットアダプターを使って有線LANに接続し、電源も供給している

Fire TV Stickからの映像と音声信号をプロジェクター、AVセンターで確認した。映像は2K/24p、音声はドルビーデジタル・プラス5.1chで出力されていることが確認できた

Fire TV Stickはディスプレイの設定で「オリジナルのフレームレートに合わせる」をオンにしている。ここがオフだと24pでは出力されない

 わが家ではPrime Videoの再生には、AmazonFire TV Stick(第3世代)を使っている。これをAVセンターのヤマハ「CX-A5200」のHDMI入力につないで、映像はソニーの4K/SDRプロジェクター「VPL-VW1100ES」に、音声はヤマハのAVプリ、CX-A5200に入力する。ちなみにFire TVはイーサネットアダプターを使って有線LANに接続しているので、通信環境としては充分のはず。

 配信内容をチェックすると、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は2K/24p+ドルビーデジタル・プラス5.1chで出力可能。この場合わが家では、映像はVPL-VW1100ESで4Kにアップコンバートし、音声はCX-A5200でドルビーデジタル・プラスをデコード、「SURROUND:AI」で5.1→7.0.4に変換・再生することになる。

 この状態で本編をスタート。110インチに投写した4rKアップコンバート映像は緻密さとクリアーさを備えたもので、充分満足のいくレベル。冒頭のパリ市街での戦闘シーンも、下からエッフェル塔を見上げるカットではひとつひとつの鉄骨まで識別でき、よくここまで描き込んだものと感心する。

 一方の音声は力感重視、メリハリをつけた印象で、戦闘シーンのスピード感や爆破シーンの凄みがあるが、セリフが少し聴き取りにくいようにも感じる。まぁこの作品はセリフが難解で、しかも普通のアニメより早口なのは有名で、そういった演出ゆえかもしれないけど。

 ちょっと気になったのは、360度回転しながら敵を迎撃するシーンで、フロントサイドからリア側へのつながりが中抜け気味に感じる部分があったこと。右スピーカーから右サラウンドにスムーズにつながって欲しいんだけど、その間に音が薄くなる部分があって、ここが残念。でも、基本的な立体音場感はしっかり出ている。

 156分を見直して、内容的にやはりよくわからなかった所もあり、一方でとにかく無事終わってよかったという気持ちもあり。そして思ったのが、やっぱりこの作品は絵も音も高品位で見るに越したことはないということ。その方が絵の描き込み、特長的な音作りなど制作陣の想いがしっかりわかるはずだから。

Apple Tv 4Kで観る

わが家のApple TV 4Kは一昨年購入したもの。今回の取材では、iOS 14.5で採用されたカラーキャリブレーション機能はオフにセットした

出力信号は映像が4K/24p、音声はリニアPCM5.1chというもの。サンプリング周波数はオリジナルのまま48kHzだった

Apple TV 4Kも本体設定の「コンテンツに合わせる」から「フレームレートに合わせる」をオンにすると、24pで配信されている素材については24p出力が可能になる

 そこで気になったのが、そのためにはどのデバイスでPrime Videoを再生するのが一番いいかということ。改めて確認すると、わが家にはPrime Videoを再生できるデバイスが、Fire TV StickとPCを除いて4モデルあった。その4つとは「Echo Show8」「Apple TV 4K」「DP-UB9000」「DMR-4W300」。

 ということで、ここからはApple TV 4KとDP-UB9000を使って『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見比べてみることにした。視聴ポイントは作品の冒頭、パリ上空でのバトルシーン。

 Apple TV 4KはCX-A5200にHDMIでつないである。このつなぎ方の場合、映像はApple TV 4Kで2K→4Kにアップコンバートし、音声はApple TV 4KがデコードしたリニアPCM 5.1chで出力される。つまりVPL-VW1100ESは4K/24p信号をそのまま再生、CX-A5200はリニアPCM 5.1chにSURROUND:AI処理を加えていることになる。

 映像は、スクリーン全体が明るくなって、街並みを染める赤い色も透明感が増している。また砲撃の銃弾や陽電子砲のピーク感も高くなっている。それもあって画面の見通しが改善され、Fire TV Stickより緻密さが上がっているのは間違いない。ぱっと見ではネイティブ4Kといわれても信じてしまうかもしれない。

 音にも芯がついて、腰が据わる。またセリフが気持ち聞き取りやすくなり、(単語は理解不能なままではあるが)理解しやすくなった気がする。Fire TV Stickで気になった音の粗密感も埋まってきて、つながりも向上している。Apple TV 4Kでデコードしたことで、細かい情報量が増えてきた、ということだろうか。

 ちなみにApple TV 4KはソニーのハイスピードタイプHDMIケーブルでCX-A5200とつないでおり、電源ケーブルもオヤイデのオーディオ用メガネタイプに交換している。付属品と聴き比べて選んだというわけではなく、手元にあったものを流用しただけではあるが、これも少しは効果があったのかもしれない。

DP-UB9000で観る

パナソニックのUHD BDプレーヤー「DP-UB9000」はネット動画の再生機能も搭載済み。Prime Videoの再生用アプリもプリインストールされている

映像はUB9000側でアップコンバートして、4K/60pで出力されている。音声はドルビーデジタル・プラス5.1chのビットストリームだった

UB9000の本体設定メニュー。ここの24p出力はUHDブルーレイなどのパッケージメディアを再生する際に有効とのこと

 次はパナソニックDP-UB9000の「テレビでネット」機能を使ってPrime Videoに接続した。最近のレコーダー、プレーヤーはネット接続機能を備えた製品が増えているし、オーディオビジュアルマニア的にはシャーシや電源回路などへの信頼感もあって、安心。ちなみにCX-A5200にはスープラのHDMIケーブル「HD-8」でつなぎ、電源ケーブルもアコースティックリバイブのオーディオ用に交換している。

 まず音が変化した。ピラミッド型の音場になり、ディテイル再現がいっそう緻密になる。銃撃の音もキレがよく、低音が豊かになってずんと沈んだ爆音が楽しめた。セリフも聞きやすいし、音場のつながりも不満はない。

 映像は色が鮮やかで、細部の微妙なニュアンスまで見て取れる。画面のクリアーさや精細感はApple TV 4Kと同等で、きわめて4Kライクな映像が楽しめた。

 ただ、動きの速いシーンやパンニングでちょっと滑らかすぎる印象もあったので、VW1100ESで映像の内容を確認してみた。するとUB9000からは4K/60pとして出力されていた。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はもともと24p作品のはずなので、UB9000で60pに変換しているようだ。

 UB9000の説明書を読み直してみたが、このモデルは配信コンレテンツは60pで出力する仕様で、オリジナルのフレームレートのまま出力することはできないようだ。映画マニア的には24pで作られた作品は24pで見たいと単純に想ってしまうので、ここはちょっと残念。

 実は以前別の取材で、配信コンテンツの出力についてはプロバイダーの意向が大きいという話を聞いたことがある。今回の場合はAmazonがレコーダー/プレーヤーでの24p出力を認めていないのかもしれない。とはいえFire TV StickやApple TV 4Kでは24pで出力されているのだから、UB9000にも24p出力を早く認めて欲しいと願う次第だ。

 今回のチェックの結果、わが家でPrime Videoを楽しむのであれば、Apple TV 4Kが一番バランスがいいといえそうだ。ライブなどの60pコンテンツならUB9000も捨てがたい。Fire TV StickはPrime Video用というよりは、ブラウザ経由で再生する動画サービスとして使うことになるだろう(この3機種の中で唯一ブラウザアプリが準備されている)。

 同じ配信であっても、どんな環境、どんなプレーヤーを使うかで作品の印象は異なる。お気に入りの作品ならなおのこと大画面やサラウンドで楽しんで欲しい。昨今の配信サービスはそれだけのクォリティを備えているのだから。 (取材・文:泉 哲也)