クラウドファンディングで話題となった「SOUND SPHERE」。ワイヤレス伝送技術のWiSA(Wireless Speaker and Audio)を搭載したアイテムで、5.1chシステムが一番多くの支持を集めたという。前篇では、オンキヨーがWiSAを採用したいきさつについて企画担当者にインタビューを実施した。後篇ではより具体的な製品の仕様や、実際の音を聞いた麻倉さんのインプレッションをお届けする。(編集部)

麻倉 さて、クラウドファンディングの具体的な内容もうかがいたいと思います。まず今回のSOUND SPHEREはいくらで募集を開始したのでしょう?

渡邉 スタート時は5.1chシステムで税込¥89,800、2.1chは¥54,800、3.1chは¥69,800でした。どれも安いとはいえませんが、皆さん音を聴かないうちにご購入いただいたんです。有り難いことです。

土田 製品版になったら定価10万円は超えてしまいますので、当初支援してくれた皆さんはお得だったと思います。また今回は、体験会を含めて多くのユーザーさんの声を聞けたのもよかったですね。われわれの勝手な思い込みも確認できて、新鮮な驚きがありました。

麻倉 たとえばどんな事ですか?

渡邉 SOUND SPHEREはテレビとの組み合わせを前提にしていますが、プロジェクターで使いたいから、どうにかできないかといった質問もありました。これについては社内で検証し、HDMI分離機を使ってもらうことで解決できました。またPCをつなぎたいとか、Bluetooth機器も使いたいといったお問い合わせも多かったですね。

麻倉 オンキヨーとしては、今後AVセンターにもWiSAを内蔵していくことを考えているはずですから、そういった拡張機能にも対応していくといいですね。SOUND SPHEREとの差別化にもなります。

今回の取材はオンキヨー本社にお邪魔して、デモルームでSOUNDSPHERE5.1chの音も体験させていただいた

渡邉 はい、WiSAをうまく活用すれば、AVセンターの新しい世界が広がるかもしれないと考えています。これは、まだどのメーカーもやったことがありませんので、オンキヨーが最初に手がけたいですね。

麻倉 それは必ずやるべきでしょう。ところでSOUND SPHEREとしての操作や設定はどのようにして行うのですか?

渡邉 CEC機能を使えばテレビのリモコンで音量調整は可能です。それ以外のセットアップは基本的にアプリで行います。既にアプリの日本語対応も終わっていて、チャンネルレベルの変更やテストトーンの再生、再生している信号フォーマットの確認もできます。再生チャンネル数もアプリ画面から変更可能です。

 他にもリスニングモードとして「DIRECT」「MOVIE」「MUSIC」「NIGHT」を準備していています。「DIRECT」はダイレクト再生ですが、その他を選ぶと、5.1chシステムなら5.1chモードにアップミックスします。さらにドルビーアトモスのハイトバーチャライザー機能も付いていますので、5.1chでイマーシブ音場を楽しんでいただけます。

麻倉 使い勝手も考えられているんですね。

SOUNDSENDアプリをインストールしたタブレットで操作が可能になる

渡邉 製品コンセプトは、eARCを使ってロスレス信号を伝送し、ワイヤレスのいい音でサラウンドを楽しんでいただこうというものです。そのため、最大8ch再生や低遅延、非圧縮で伝送できるという点は重要でした。

 こういった技術詳細をビギナーユーザーに分かってもらえるのか不安だったんですが、体験会でデモをしたところ、特に低遅延の効果に驚いていました。やはりリップシンクのずれはみんな気になるようですね。

 またロスレス伝送が可能な点もユーザーさんの関心は高かったですね。ただお客さんは自宅のテレビがeARC対応なのかARC対応なのかわからない方も多く、それについての質問もありました。

麻倉 そこはSOUND SPHEREではいかんともしがたい(笑)。

渡邉 そうなんです。SOUND SPHEREの送信機はWiSAのSoundSendに準拠していますが、ここに搭載したDSPで圧縮信号をデコードします。現状はドルビーとリニアPCMに対応済みで、DTS圧縮については検討中です。また日本独自の仕様として、放送のMPEG-2 AACは対応しています。4K8K放送のMPEG-4 AACはユーザーさんの声を聞きながら考えたいと思っています。

 また現状は5.1chまでの対応で、7.1chやアトモスの5.1.2はバーチャライザーを使った再生になります。ただし、SoundSendは最大8chまで対応していますので、ファームウェアのアップデートで5.1.2のリアル再生にも対応を予定しております。

麻倉 SOUND SPHEREについては、同様なスピーカーが海外で発売されていますが、使っているユニットは同じなのでしょうか。

渡邉 弊社も共同開発したものになります。ユニットは76mmウーファーと20mmトゥイーターで、フロントとリアスピーカーは2ウェイ2スピーカーです。これらはシャーシを含めて同じスピーカーです。センターはダブルウーファータイプですが、ユニットは同じものを使っています。サブウーファーは165mmユニット搭載機です。サブウーファーもワイヤレスで薄型なので、ソファの下などに置いてくださいと説明しています。

麻倉 ところで、先日TVS REGZAのテレビがWiSAの「SoundSend CERTIFIED」認証を受けたという発表がありました。今日は同社のスタッフも同席してくれていますので、その点についても教えていただきたいと思います。

久保田 TVS REGZAで商品企画を担当している久保田です。今回は弊社のアンドロイドOSを搭載した有機ELテレビ「X8900K」と、液晶テレビ「Z670K」シリーズでSoundSend CERTIFIEDの認証を獲得しました。

麻倉 ということは、レグザとしてeARCを搭載したのはこの2モデルからということになるわけですね。

久保田 はい、これまでのモデルはARC対応でした。このシリーズから製品コンセプトも変えていますし、録画機能やクラウド技術も新規開発しています。それに伴ってeARCを搭載したのです。

麻倉 eARCに対応したことはとても大切です。音声信号をビットストリームで伝送できるのは重要で、これによりコンテンツの持っている情報が正しく再現できますから。しかもテレビのリモコンで音量操作もできるなど、操作性も改善されます。その便利さはリビングで喜ばれるでしょう。

 では今回、eARCに加えてSoundSend CERTIFIEDにも対応したいきさつを教えてください。

久保田 私は以前オーディオの企画を担当していましたので、WiSAについては話を聞いていました。ハイレゾとワイヤレス、低遅延というスペックにはユーザーニーズもあるはずだから、早めにSoundSend CERTIFIEDに対応しようと思っていたのです。結果としてテレビでは初めての対応を謳うことができました。今後はeARCもトレンドになるはずですから、これを使ってオーディオ機器と連携を深めていきたいですね。

eARCに対応したレグザ新製品「65X8900K」を使って、SOUND SPHEREの視聴を行っている。写真右は実際の接続の様子

麻倉 テレビ側ではeARCがきちんと伝送できればいいので、特に新しい仕様を加えるわけではありませんよね。

久保田 そうです。テレビとしては、ソース機器から決まったフォーマットを入力して、それがeARC経由できちんと出力できるかを確認してもらいます。また再生アプリでフォーマットが間違いなく識別できているかなどのチェックも行いました。きちんとテストしていることが重要で、これによってユーザーにも互換性を保証できるのです。

麻倉 レグザはもともと音質にこだわっていたテレビですが、それでも今回SoundSend CERTIFIEDを取得した。ここにはどんな意味があるのでしょう?

久保田 以前、社内で各メーカーのテレビトップモデルの音を聴き比べたことがあります。手前味噌ではありますが、その中でもレグザはかなり頑張っていたと思っています。開発者にもオーディオ好きがいますし、メタルドームドライバーを使って音の抜けをよくするなど、細部にもこだわっているからです。

 テレビ本体でもいい音を楽しんでいただけるのですが、さらにWiSAに対応することで、マルチチャンネルというステップに進んでもらうことができます。しかもWiSAならワイヤレス、低遅延という優れたパフォーマンスを持っています。ここがとても大切だと思ったのです。

 レグザは昔から画質についてはかなり突っ込んだ研究をしてきていますが、今後は音に対してもぬかりはないということをアピールしたいと思っています。

麻倉 なるほど、WiSAを通じてオンキヨーとTVS REGZAという強力なタッグが実現できたわけですね。リビングのホームエンタテインメントがどこまで手軽で高品質に楽しめるようになるか、両社にはぜひこの市場を引っ張っていってもらいたいと思います。今日はありがとうございました。

SOUND SPHEREは、ホームシアター第二発展期を開拓する可能性を感じるアイテムだ。
これをベースに、様々な新展開を期待する …… 麻倉怜士

 SOUND SPHEREは、まず、目の付け所がいいですね。社会的な背景もあってホームシアターを求めるユーザーが増えているようですが、私はもともと手軽にサラウンドを楽しみたいという潜在需要はあったと考えています。今回はそこに対して、ワイヤレスという解決策を見つけたことが素晴らしい。

 5.1chは80年代からあったわけですが、これまで一般家庭には受け入れてもらえませんでした。今回オンキヨーが偉いのは、WiSAを採用することで、その潜在需要を掘り起こしたことでしょう。本当の普及はこれからでしょうが、少なくとも5.1chは日本では普及が難しいと言われていたことを覆しています。

 何より明るく、楽しく、元気のいい音が楽しめます。オーディオマニア向けというよりは、5.1chの入門として最適なまとまりです。そもそもサウンドバーは音がよくない。あくまでもテレビの音の延長で、どんしゃり、派手を志向しているものが多い。SOUND SPHERはそれとはまったく違います。

 またサウンドバーではいくらバーチャル効果を効かせても、リアルスピーカーのサラウンド感にはなかいません。これまでリアスピーカーはケーブルが邪魔で置きたくないと言われてきましたが、WiSAではそこをワイヤレスで解決してくれるのだから、画期的です。

 ドルビーアトモスのデモトレーラーの『AMAZE』や『LEAF』では、音の粒がはっきり見えます。音像イメージが明瞭で、ひじょうに音場の解像感、明瞭度が高い。初めて聴く人はきっとびっくりするでしょう。

 UHDブルーレイ『ラ・ラ・ランド』冒頭のコーラスも、はっきりしたハーモニーで、ヴォーカルの伸び、前に出てくる感じもよかったです。センタースピーカーがダブルウーファーで音圧もでるので、そのメリットもあるでしょう。

 音楽作品の『チーク・トゥ・チーク・ライヴ!』も、レディー・ガガとトニー・ベネットの特長のある声、シャープさと渋さの違いも出ていると感じました。空間性、つながりのよさがしっかりわかります。

 今後は、AVセンターにWiSAの機能を入れるとか、低遅延を活かして有線とワイヤレスを混合して楽しめるようにするといった展開を期待します。また、今はスピーカーが1種類だけですが、後々はラインナップを増やして、上位モデルを加えると言った展開をして欲しいですね。

 そうなると、ホームシアター革命が起きると思うんです。これまでのホームシアターはマニアの世界でしたが、テレビがこれだけ大型化して、配信サービスも充実していますから、マニアでない人も、もっと本格的な映像と音を楽しみたいと思うはずです。

 そういったテレビユーザー、リビングユーザーのニーズに応える製品がこれまでなかったわけで、SOUND SPHEREはそこにリーチする可能性を持っています。これが出発点となって、ホームシアター第二発展期を開拓してもらいたいと熱望します。