映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第58回をお送りします。今回取り上げるのは、カナダからやってきた愛すべきB級映画『サイコ・ゴアマン』。80年代の怪獣映画の雰囲気に、最新のVFXを投入した注目作。あなたもサイコ沼に落ちてみませんか? とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『サイコ・ゴアマン』
7月30日(金)より、シネマート新宿ほかにて全国順次ロードショー

 ジャンル映画のなかでもとりわけホラー映画は、作り手と観客の両方が沼にはまることが多い。なぜだろう。ありえないものが目の前で動き出すことに開放感を覚えるからだろうか。見てはいけないもの、やってはいけないことが山盛りになっているホラー映画はいまも昔も子どもたちの好物だ。

 この作品はカナダの低予算ホラー映画専門プロダクション、アストロン6と、その中心人物であるスティーヴン・コスタンスキ監督が贈るSFホラー・コメディ。銀河を股にかけるスケールの大きなお話だが、描かれ方は裏山で撮ったようにみみっちく、着ぐるみのエイリアンたちが剣を振り回し、首を引っこ抜いたり、邪魔な警官をゾンビに変えたり、ドッヂボールをしたりしている。

 だはは。これでいいんだよ。万人にはお勧めできないけれど、B級ホラー映画ファンは打たれ強いので、ぜんぜんOK! 『エクストロ』『クリープス』『ガバリン』『チャド』『ナイト・オブ・ザ・コメット』あたりの80年代SFホラーに身体が反応してしまうファンは必見だろう。

 幽閉され、自宅の庭に埋まっていた全宇宙の破壊者にサイコ・ゴアマンというクールな名前をつけ、自由に操れるようになった8歳の女の子ミミが主人公。お兄ちゃんのルークを顎で使い、壁のキリスト像を役立たずとへし折ったりするこの子が最高のクソガキで、このキャラを思いついたのが最大の勝因だろう。

 「世界を血の海に変える。お前らに地獄の苦しみを与えてやる」とうそぶくサイコ・ゴアマンも、ミミが彼を操れる宝石を手にニヤニヤしているので、「ぐぬぬぬぬ?」と呼吸音のないダース・ベイダーみたいな声を出して家来として歩かないといけない。

 ミミを演じているのは、撮影時12歳だった新人女優のニタ・ジョゼ・ハンナ。クライヴ・バーカーの小説「血の本」を映像化したオムニバス映画『ブックス・オブ・ブラッド』(2020年/本邦未公開)に出演しており、歌もダンスもできる子のようなので、そのうちノーマルな作品で注目されて「あの子かぁ」になるかもしれない。

 演出作にSFアクション『マンボーグ』や物体Xタイプのクリーチャー・ホラー『ザ・ヴォイド 変異世界』などがあるコスタンスキは、特殊メイク・アーティストとして『クリムゾン・ピーク』や『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』『スター・トレック:ディスカバリー』などに参加してきた人物。メジャー作品でコツコツ資金を稼ぎ、これからも愛すべきホラー映画を作ってくれることだろう。

映画『サイコ・ゴアマン』

7月30日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

監督・脚本:スティーヴン・コスタンスキ
出演:ニタ=ジョゼ・ハンナ、オーウェン・マイヤー、アダム・ブルックス、アレクシス・ハンシー、マシュー・ニネバー、黒沢あすか、スティーヴン・ブラホス(サイコ・ゴアマンの声)
原題:PSYCHO GOREMAN
配給:アンプラグド
2020年/カナダ映画/シネマスコープ/95分/5.1ch/PG12
(C)2020 Crazy Ball Inc.

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