ゼンハイザーから、新製品「AMBEO Soundbar」(アンビオサウンドバー)が登場、7月27日に発売される。同ブランド初のサウンドバーで、独自の3Dオーディオ再生技術「AMBEO」(アンビオ)が搭載されているのがポイント。実はこのAMBEOは数年前に技術発表されており、すでに世界市場では売られている。その意味では待望の日本デビューだ。今回は技術発表当時からAMBEO技術に注目していた麻倉怜士さんと一緒に、ゼンハイザージャパンにお邪魔してAMBEO Soundbarについて詳しくうかがった。対応いただいたのはコンシューマー セールスリーダーの柴田義紀さんと、コンシューマー マーケティングマネージャーの伊藤涼太さんだ。(編集部)

麻倉 やっとAMBEOを搭載した製品が登場しましたね。私の記憶では、2018年のIFAで、AMBEOについての発表がありました。様々なソースを3Dオーディオとして再生するテクノロジーで、ゼンハイザーがこれを使って音の入り口から出口まで一気通貫で360度の音場を作っていくと発表されました。

 私はStereoSound ONLINEの2018IFAリポートでこう書きました。

 「ゼンハイザーブースで体験したが、サウンドバー1本から発せられているとは、俄に信じがたいような高密度な立体音響ではないか。MPEG-H信号のサッカー中継では、アナウンサーはきちんと前方中央に定位し、観客の歓声が左上、右上に拡がる。ドルビーアトモスのポップ歌手のライブでは、歌声は見事にセンターから発せられ、アンビエントは垂直方向に拡大する。アクション映画では、オブジェクトの移動感がダイナミックに再生されていた。価格は2500ユーロ以上、2019年初頭にヨーロッパで発売予定。ぜひ日本での展開を期待したい」

「AMBEO Soundbar」 市場想定価格¥357,500(税込、7/27発売)

●再生チャンネル:5.1.4
●使用ユニット:フロント部(ウーファー×6、トゥイーター×3)、サイド部(トゥイーター×2)、トップ部(フルレンジ×2)
●内蔵アンプ:500W
●周波数特性:30Hz〜20kHz(-3dB)
●対応サラウンドフォーマット:Dolby Atmos、DTS:X、MPEG-H、Sony 360 Reality Audio
●接続端子:HDMI入力(V2.0a)×3系統、光デジタル入力、AUX-IN×1系統、HDMI出力(eARC, v2.1)、サブウーファープリアウト
●Bluetooth:Ver4.2(A2DP,AVRCP)●コーデック:AAC、SBC
●寸法/質量:約W1265×H135×D171mm/約18.5kg
※付属品:本体部、リモコン、HDMIケーブル、キャリブレーションマイク、電源ケーブル

伊藤 AMBEOは、3Dオーディオの技術とノウハウを研究し、製品提供するための立体音響プロジェクトの名称で、欧州最大の研究機関であるフラウンフォーファーと共同で開発しています。フラウンフォーファーも3Dオーディオについて多くのノウハウを持っていますので、内容的にはかなり先進的なものだと思います。

柴田 AMBEO Soundbarは、ゼンハイザーとして初のコンシューマー向けスピーカーです。これまで弊社にはこのカテゴリーの製品はありませんでしたが、AMBEOで技術が蓄積できましたので、今回コンシューマー向けとして発売することになりました。

 初めてのカテゴリーということもあり、安価な製品を出すよりも、持っている技術を盛り込んだ一番いいモデルを作ろうという考えでしたので、結果として日本の市場ではかなりの高級機になってしまいました。

麻倉 そもそもサウンドバーは、テレビの音が悪いから、それを何とかしましょうというところから生まれた製品で、本当にいい音、ハイファイを指向したカテゴリーではありませんでした。しかし今回ゼンハイザーは敢えてそこに参入した。これは何故なのでしょう?

柴田 サラウンドを楽しみたい場合、5.1.4などのフルシステムを揃える方が、ある意味では手っ取り早いし、いい音になるでしょう。しかしフルシステムはスピーカーの設置や調整の手間がかかります。特にリビングルームなどの場合、スペース的にもリアルスピーカーを導入するのは難しいケースも多いと思います。

 それに対し、サウンドバーであれば配線もすっきりしますし、簡単にいい音を出せる点が一番のメリットではないかと思います。さらにAMBEO Soundbarは、ワンボディで5.1.4のイマーシブオーディオが再生できます。これも大きな魅力だと考えています。

伊藤 ひとつには、色々な技術を研究開発してきたという経緯があります。弊社ではプロ用途として360度で収録できるマイクやダミーヘッドも開発しており、それにまつわる技術も持っていました。今回はそこで得た3D音場のノウハウをサウンドバーに転用しています。

ゼンハイザージャパンのデモルームで、55インチテレビとの組み合わせで視聴を行った

麻倉 確かに、ワンボディでいい音が実現できれば、サラウンドシステムとしては理想的です。では今回のAMBEO Soundbarにどんな技術が入っているのか、具体的に教えてください。

柴田 申し訳ありません。AMBEOについての詳細はわれわれにも公表されていないのです。入力された信号に独自の処理を加えて、サウンドバーで包囲感のある音場を再現する、その際にはビームフォーミングテクノロジーも使っているとお考えください。

 ドルビーアトモスやDTS:Xのストレート再生も可能で、その状態でもサラウンド体験を楽しめますが、そこにAMBEOの音場処理を加えることで3D音場の空間表現がぐっと広がって、映画館で聴いているようなスペシャルなサウンドを体験いただけます。サブウーファーなしで厚みのある音が再現できるのもメリットです。

麻倉 なるほど、信号処理とそれを再生するための音響技術の組み合わせということですね。そのためにはスピーカー配置、ビームテクノロジーの使い方、AMBEOの信号処理の中身がポイントになりそうです。物理的なスピーカー配置はどうなっているのでしょう?

伊藤 ユニットは全部で13基内蔵しています。トゥイーターは本体正面両端とセンター部、さらに両側面に合計5基、同じく本体正面に
ロングスローウーファーが6基、そして天面の両端に上向きのフルレンジが2基という構成です。

麻倉 ウーファーは、センターのトゥイーターを挟んで左右に3基ずつ並んでいますが、この両端をフロント用に使っているのですか?

伊藤 各ユニットがどんな機能を受け持っているかについても公表されていません。分かっているのはサラウンド再生時には全部のユニットを使って5.1.4信号を再現していることぐらいです。

本体左側の様子。本体端には、主にフロントチャンネルを受け持つトゥイーターとウーファーが並ぶ。写真左端、本体側面にあるのがサラウンド信号を再生するトゥイーター

麻倉 どれがフロントスピーカーで、どれがセンタースピーカーという分け方ではないということですね。すべてのユニットでビームフォーミングテクノロジーを使って、イマーシブオーディオを再現している。

柴田 おっしゃる通りで、13基のユニットはそれぞれ異なる音を受け持っています。全部のユニット用の信号を作り出しているのがAMBEOの特長になりますが、残念ながら信号処理の内容も非公開で、本国に問い合わせても、われわれにも教えてくれないのです(笑)。

麻倉 かなり複雑な信号処理をしているのでしょうね。IFAのデモンストレーションでも、音像の定位や動きがきちんと再現されていた覚えがあります。ところで、AMBEO Soundbarの端子の仕様と、どんな音声信号を再生できるかについても教えてください。

伊藤 接続端子はHDMI入力が3系統と出力が1系統、光デジタル入力が1系統です。音声信号はリニアPCM、さらにドルビーアトモスやDTS:Xのイマーシブオーディオもデコードできます。MPEG-Hにも対応済みで、ソニーの360 Reality Audioも基本的に再生できます。ただし360 Reality Audioについては、インターフェイスをどうするかなどの問題がありますので、弊社でも検証したいと思っています。

柴田 初期状態では、入力された信号をすべてAMBEOでアップミックスして5.1.4の状態で再現します。

麻倉 ドルビーアトモスをそのまま再生するよりも、AMBEOを組み合わせた方がいいという考えですね。AMBEOのアップミックスはオン/オフできるんですか?

柴田 ばい、オン/オフ可能です。AMBEOをオフにした場合は、オリジナルの信号のチャンネル数になるようにビームフォーミングテクノロジーを組み合わせているようです。

しっかりとした測定用マイクも付属する(写真左)。マイクのケーブルを本体正面につないでメニューから操作すると、設置環境を測定し、最適な反射特性などを調整してくれる。写真右は測定中の表示部

麻倉 ビームフォーミングは天井や壁の反射を使うわけですが、そのためには設置環境がわからないと駄目ですよね。

柴田 音場補正用マイクが付いていますので、最初に部屋の測定をしていただきます。マイクを本体につないで、リモコンで操作できます。セットアップ自体は数分で終了します。

麻倉 かなりしっかりしたマイクが付いているんですね。ところで、AMBEOは技術発表から製品化までにかなり時間がかかりましたが、何か理由があったのでしょうか?

柴田 先ほど申し上げた通り、初めてのサウンドバーということで、かなりしっかりした製品に仕上げました。仕様をどうするかもじっくり検討しましたし、お店での展示方法など悩ましい問題もありました。

麻倉 質にこだわったサウンドバーということですね。日本での評判はどうなのでしょうか?

柴田 今回の日本発売にあたって量販店のスタッフなどにも体験していただきましたが、反応は上々です。価格の問題もありますので、限られたお店での展示になると思いますが、チャンスがあったらぜひAMBEO Soundbarの音を聴いてみてください。「まるで魔法」というキャッチフレーズの意味をおわかりいただけると思います。

取材に協力いただいた方々。左はゼンハイザージャパン株式会社 コンシューマー セールスリーダー 柴田義紀さんで、右はコンシューマー マーケティングマネージャー 伊藤涼太さん

基本的な音質を保ちつつ、部屋中を豊かな音場で満たしてくれる。
待ちに待ったサウンドバーが遂に出てきた! …… 麻倉怜士

 今回、ゼンハイザージャパンのデモルームで、AMBEO Soundbarを55インチ液晶テレビと組み合わせて体験しました。再生機器はソニーのUHDブルーレイプレーヤーで、そのHDMI出力をAMBEO Soundbarにつなぎ、モニターアウトを液晶テレビに入力しています。

 IFAでも感心しましたが、製品版の音もやはり凄いですね。なにより“志”がいい。サウンドバーはテレビの音が悪いから、それをなんとかしようという発想の製品が多いのですが、音質という点では物足りなかった。でもAMBEO Soundbarは、サウンドバーという形を採っているけれど、3Dオーディオのためのハイファイスピーカーなのです。

 まず情家みえさんのCD『エトレーヌ』を2chストレート再生で聴きました。1曲目の「チーク・トゥ・チーク」は、低音から高音までワイドレンジな演奏で、録音ではもともと余計なイコライジングは加えていません。AMBEO Soundbarは素直な低音感とヴォーカル感があり、音の流れも流麗でした。このように、2chがナチュラルに聴けるのは好印象ですね。

 AMBEOのアップミックスを掛け合わせると、意外といっては失礼ですが、不自然にならずに楽しめました。音場感は変化するけれど、変な印象ではない。何より素晴らしいのはセンター音像がしっかりしていることです。2chでもAMBEOでもセンターの表現に変化がなく、かつAMBEOではそれなりの広がりと奥行が出てきます。これなら2chソースでも使えるのではないかと感じました。

 次にUHDブルーレイ『ラ・ラ・ランド』の冒頭を、ドルビーアトモスで再生しました。映画作品では、セリフ、音楽、効果音の3要素がどう再現されるかがポイントです。しかも映画はアフレコですから、ライブとは空間感も違う。そこがAMBEOでどう再現されるかにも注目しました。

 まずドルビーアトモスのストレート再生では、音質のナチュラルさ、冒頭のコーラスの低音感が自然でした。今回はサブウーファーを使っていないので、重低音というわけではありませんが、質のいい低音感が再現できています。

 セリフも聴きやすいし、画面への収斂度、一体感も優れています。AMBEO Soundbarは画面下側に置くように指定されているそうですが、音場を少し持ち上げるような処理があらかじめ入っているのでしょう。

 AMBEOをオンにすると、空間がぐっと広くなります。ただし、そこでもセリフの定位感は維持されています。コーラスも無闇に広がらないんだけど、効果音や空気感はふわっと広くなって、臨場感が増します。映画館で観ているような音場感を楽しむことができました。

 チャプター5の丘の上でのデュエットシーンも、ドルビーアトモスのストレート再生では、声のよさがしっかりわかります。さらにAMBEOをオンにすると、ユーザーを劇場に連れて行ってくれるかのような印象に変化しました。ストレート再生では、テレビの周りに音が集まる印象ですが、AMBEOではひじょうに広い空間での音場体験になるのです。その場合でもセリフが中央にフォーカスし、効果音とオケがバックに広がるという具合で、イマーシブオーディオの基本を押さえていたのには感心しました。

 次に、トニー・ベネットとレディ・ガガ『チーク・トゥ・チーク・ライヴ!』のブルーレイから、「エニシング・ゴーズ」をDTS HD-MA5.0chで再生しました。ヴォーカルのしっかりした帯域、低音の充実感は、並のサウンドバーでは再現できないクォリティです。

 AMBEOをオンにするとびっくりするくらい音場が広がって、ライブ会場の客席の一番前で聴いているようです。自分がステージにいるかのような感覚、オケが広がって、その中で聴いているような感覚になりました。ここでもヴォーカルもセンターに定位して、なおかつボディ感がある。本当に目の前で歌っているかのような実体感があって、そこが面白かったですね。

 クラシックでは、ダニエレ・ガッティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の2017年ライブブルーレイから、『ストラヴィンスキー:春の祭典』を聴きました。このディスクはAURO-3D収録ですが、AMBEO SoundbarはAURO-3Dには対応していないので、DTS HD-MA5.0chを選びました。ここは残念な点で、せっかくならAURO-3Dにも対応して欲しかったですね。

 ここまでにも感じたことですが、ストレート再生の音がいい。オーボエ、フルートなどの楽器の音色が自然です。AMBEOオンでは、オケが部屋全体に広がります。大袈裟でなく部屋がコンサート会場になる、自分がその場にいてライブを聴いているような印象が得られるのは、希有な体験だと思います。位相的にも変な加工をしていないからでしょう。

AMBEOのアップミックスをオンにすると、写真のロゴマークが点灯する

 最後に映画ブルーレイ『マッドマックス』から、Ch6をドルビーアトモスで再生しました。静かな場面から音数が増えていき、最期は爆発シーンで頭上から岩が落ちてくる! そのダイナミックレンジの変化をどう聴き取れるかがポイントです。

 ストレート再生では、テレビの周りで音が鳴っている感じですが、セリフや効果音の質はやはり優れています。切れはいいけど、広がり感はもう少し欲しい。そこでAMBEOを入れると、部屋全体を音場として体験できました。

 この作品には、衝撃的な効果音が多く入っています。その衝撃が素早く広がる点と、セリフのエコー感が気持ちいい。セリフがセンターに定位しつつ、エコーが上方向に拡散していくのが、作品の臨場感につながっています。爆破シーンはドルビーアトモスでは前方から音が来ます。でもAMBEOでは高さ方向の情報も出てくるようになって、岩が上から崩れてくる様子も明瞭にわかりました。

 AMBEO Soundbarは一体型の形をしていますが、出てくる音場は本当に広い。テレビ周りだけではなく、空間全体をひとつの音場に仕上げて、そこに自分がいるという体験をさせてくれました。

 サウンドバーでは、音場を付加すると音質が悪くなって、音質を重視すると音場が広がらないというジレンマに陥りがちです。しかしAMBEO Soundbarは、基本的な音質を保ちながら空間を広げてくれます。またもうひとつ大切なのが、セリフやヴォーカルがふくらまず、ちゃんとセンターに定位することです。技術的な革新性をもちつつ、音楽や映画の成り立ちをよく知っている人が音作りをしているということがよく分かりました。

 AMBEO Soundbarは、ハイファイ2chとの相性もいいし、AMBEOのアップミックスも充分な効果がある。リビングルームで音楽を再生しても楽しめるし、映画やライブなら視聴者を劇場やコンサート会場に連れていってくれる、ハイクォリティにしてオールラウンダーな製品だと言えるでしょう。