デラはNAS(ネットワーク接続ストレージ)や光学ドライブをオーディオ目線で再設計する手法に先鞭をつけ、このカテゴリーを牽引してきた。フルサイズのN1AとN1Zの各シリーズに加え、ハーフサイズのN10、N100を相次いで導入して選択肢を拡大。さらにネットワークスイッチや光学ドライブなど関連機器をHiFi仕様で設計し、ネットワークオーディオに新風を送り込んでいる。

 そんなデラのオーディオ用NASに新たな製品がふたつ加わった。ひとつは標準グレードN100のSSDモデル。もうひとつは電源を独立させた上位シリーズN10 MELCO 45th Anniversary Limited Edition(以下、N10リミテッド)である。どちらもスリムなハーフサイズながら、SSDモデル最廉価とN10シリーズ最上位という対照的な位置付けで登場したことが興味深い。

Network Transport / Music Server
DELA
N100-S20
¥198,000(税込)

●型式:DLNA/UPnP互換メディアサーバー
●内蔵ストレージ:2TバイトSSD×1
●接続端子:USB2.0 タイプA 3系統(フロント×1、リア×2)、LAN2系統(Gigabit Ethernet対応RJ45×2)
●寸法/質量:W215×H61×D269mm/約3kg

2018年に登場したN10、N100はハーフラックサイズの筐体を採用したコンパクトシリーズで、既存のN1Aの約43cm、N1Zの35cm幅とは別コンセプトでの製品として位置付けられている。剛性を高めやすいという小型モデルの利点を活かし、制振性を追求した2mm厚の鋼板シャーシを用いるなど、強靭な筐体設計が施されている。HDDは2.5インチモデルとしマウント方法も独自のHS-S²(Highly Stable Storage System)を採用し、不要振動の抑制と高い放熱効果の両立を追求している。上位機N10は独立したリニア電源部からの給電になることやメイン基板の設計が異なり、同社のHDD搭載ミュージックライブラリーとしての最高品位を目指している。N100もファンレス仕様、USB DAC出力や各種バックアップなどの仕組み/機能、接続端子など、ミュージックライブラリーとしての根幹に違いはない。本機N100-S20は、既存のN100(¥151,800税込)が1Tバイト容量のHDD仕様に対し、2TバイトのSSD仕様になったことが最大の違いだ。(編集部)

 N100は2018年に登場したデラ初のハーフサイズ機で、ストレージには2.5インチのHDD(1Tバイト)を採用していた。10万円台半ばの購入しやすい価格ということもあり、人気モデルに成長したのだが、ハイレゾ音源を日常的にダウンロードする熱心な音楽ファンにとって1Tバイトはやや容量不足の印象が否めない。そんな声に応えて今回は容量を2Tバイトに拡大するとともに、ストレージをHDDからSSDに変更する大幅なリニューアルに踏み切った。以前のHDD仕様に比べると価格は若干上がるが、デラブランドが販売するSSD仕様のオーディオ用NASのなかではもっとも低価格だし、容量を倍増しつつSSD化したことを考えると実質的な値下げとみなすこともできる。

 ACアダプターを使用し、USBポートを3系統に集約するなど、上位シリーズに比べると簡略化されている点は変わらないが、前面パネルのディスプレイと4つのボタンで各種設定や基本操作ができるなど、デラのオーディオ用NASに共通する使い勝手のよさはそのまま受け継いでいる。SSDなのでもともと振動は無視できるほど小さいのだが、1.6mm鋼板を用いた新設計のリジッドなマウントが効いているのか、本体に耳をつけても動作音はまったく聞こえてこない。静音動作にこだわる音楽ファンならその価値を理解できるはずだ。

N100は電源はACアダプターからの供給を受ける仕様となっている。接続端子はN10と同様、機能もまったく同じだ

海外で先行展開していたメルコ45周年モデルを日本投入

 N10の限定仕様については少し説明が必要だろう。デラの母体であるバッファローの歴史をたどると、1975年創業のアンプメーカー「メルコ」にたどり着く。ハイエンドのターンテーブルで一世を風靡し、いまも語り継がれる存在だ。そのメルコの創業45周年に合わせて、オーディオ用NASのトップレンジに位置するN10の記念モデルが海外市場で昨年発売された。あえてメルコのブランド名を掲げ、外装をゴールド仕様にアップグレード。さらにストレージを増強しつつ回路の中身にまでメスを入れるなど、本質的なリファインを行なっている。その限定仕様がついに日本でも入手できるようになり、N10リミテッドとして登場したのだ。

Network Transport / Music Server
MELCO
N10 MELCO 45th Anniversary Limited Edition
¥850,000(税込)限定発売

●型式:DLNA/UPnP互換メディアサーバー
●内蔵ストレージ:5TバイトHDD×1
●接続端子:USB2.0 タイプA 3系統(フロント×1、リア×2)、LAN2系統(Gigabit Ethernet対応RJ45×2)
●寸法/質量:本体・W215×H61×D269mm/約3.5kg、電源部・W215×H61×D273mm/約5.0kg
●問合せ先:バッファローサポートセンター TEL. 0570-086-086

2013年にデジタルファイル再生の革命といえる「オーディオ用ミュージックサーバー」LS421Dを登場させたバッファロー。翌2014年には「ミュージックライブラリー」というコンセプトで本格的オーディオコンポーネントの製品づくりを専用設計のN1Z/N1Aシリーズから開始。2016年にバッファローのサブブランドから「メルコシンクレッツ」という独立会社を立ち上げ、いまに至る。サーバーにUSB DAC接続機能を組み込むなど数々の画期的な提案を行ない、オーディオ分野でのファイル再生になくてはならない存在となっているのはご承知の通りだ。バッファロー/メルコシンクレッツは、元々「メルコ」というオーディオブランドで1975年に創業している歴史があり、その設立45周年を記念して登場させたのが、N10をベースにした限定モデル「N10 MELCO 45th Anniversary Limited Edition」。ブランドもデラではなくメルコとしての位置付けである。(編集部)

 具体的なスペックの変更に注目すると、HDD容量を3Tバイトから5Tバイトに増強したことがまずは目を引く。新設計のクロック回路は位相雑音をさらに抑えることが眼目で、こちらは音質改善に直結するリファインだ。専用設計のトロイダルトランスとコンデンサーバンクを組み合わせた電源ユニットの設計は標準仕様と共通し、底板以外すべてアルミを導入した制振設計の筐体構造もオリジナルのN10から受け継ぐ。操作部の構成はN100と共通だが、重量級ケースを導入したN10はボタンを押したときの感触が異なり、クラスの違いを思い知らされる。コンパクトな製品とはいえ、操作感と存在感はハイエンドオーディオ機器の水準に達しているのだ。

ギガビット対応のLAN端子2系統と、USB2.0端子2系統を本体背面に装備(USB端子はフロント側にも1系統備わっている)。接続端子や各種機能はベースとなったN10と同じだ。電源部と本体がセパレート構成なのも同様だ

N100のSSD化の恩恵を見通しのよい音で実感した

 2台のオーディオ用NASを筆者の試聴室に持ち込み、リンのクライマックスDSと組み合わせて再生音を確認した。イーサネットはバッファローのスイッチングハブ(BS-GS2016A)とLAN端子とつなぎ、PLAYER端子でクライマックスDSを接続、それぞれオーディオグレードのLANケーブルでつないだ。

 最初にN100でジャズのライヴ録音を聴く。LPレコードで聴き慣れた録音だが、調整を追い込んだシステムで192kHz/24ビットのハイレゾを聴くと、鮮度の高さや高揚感など、アナログ録音の美味しい部分がレコードに近い音で体験できる。今回は筆者の常用システムのなかにN100を組み込んだだけなのに、サックスのリアルな息遣いやドラムのテンションの高さが曲の冒頭から一気に立ち昇り、周囲の温度が上がるような高揚感を引き出すことができた。

 オーケストラは素早く動き回る弦楽器群が細部まで正確に噛み合って、リズムの動きが実に力強い。ドライブがSSDになってどう音が変わるのか楽しみだったのだが、演奏の躍動感や動的な反応のよさはHDDモデルとほぼ同格で、質感と量感が両立した低音も好ましい。横並びで聴き比べたわけではないが、スケール感や見通しのよさでは前作を上回っている感触を得た。

既存モデルからの音の変化が想像より大きいN10限定仕様

 装い新たにシャンパンゴールド仕上げとなったN10リミテッドは、振動制御を徹底したHS-2S2マウントと堅固なケースが相乗効果を生み、動作は限りなく無音に近い。多機能なディスプレイと美しい外装は明らかに「見せる」ためのデザインだが、本体と電源ユニットを重ねる置き方はお薦めしない。横に並べてちょうどフルサイズ1台分なので、他のコンポーネントとのバランスも整う。

 オーケストラは、低音楽器が放つ空気の絶対量が大きく、しかも下に沈み込む重い低音ではなく、余韻が天井方向に広がるオープンな響きがなんとも心地いい。音量を上げても大太鼓が飽和しないし、金管楽器は打楽器や弦楽器に埋もれず、抜けのよい音色でまっすぐ浸透。演奏の高揚感が自然に湧き上がってくるし、空間を立体的に描き出す録音の水準の高さも忠実にに聴き取ることができた。

 N10の標準モデルとも共通する長所のひとつが、スタジオやホールの空気感を生々しく再現するリアルな描写力だ。ダイアナ・クラールのヴォーカルが目の前に浮かんだ瞬間、聴き手と彼女の間に介在する余分なものが消え去り、空気を共有している感覚が生まれるのだ。弾むようなベースの動きやピアノの鮮度の高い音色からは、専用設計のリニア電源が時間応答の改善にも貢献していることが想像できる。

 筐体構造や電源の吟味がデータの精度そのものに直接の影響を及ぼすわけではないと思うが、伝送系を共有するシステムのなかでノイズ源や不要振動などの音質劣化要因をていねいに排除していくと、ここで聴き取れるような音の変化につながることが多い。ネットワークオーディオが周辺機器やセッティングの変更に敏感に反応することは何度も経験しているが、N10リミテッドのように細部まで追い込んだ領域での変化は、私が想像していたよりもはるかに大きかった。

 高音質ストリーミングの流れが加速してきたが、まだハイレゾ音源の比率は小さいし、競争が激化するなかサービスを取り巻く環境が変わる可能性もある。そんな時代だからこそ、ダウンロード購入した音源やCDリッピングのデータを手元にライブラリー化しておく意味を見直すべきだと思う。

 今回試聴した2機種は価格の違いはあっても音質と使い勝手の両立を狙うコンセプトは共通し、どちらを選んでも高い満足が得られるはずだ。長く使い続けられるオーディオ用NASの候補として筆頭に挙がる存在だ。

取材は山之内さんのリスニングルームで実施した。N10は本体と電源を横並びで設置しても、幅43cmで一般的なオーディオ機器のサイズと変わらない

使用した主な機材は次の通り。ネットワークプレーヤー・リンKLIMAX DS/3、コントロールアンプ・アキュフェーズC-2850、パワーアンプ・アキュフェーズA-75、スピーカーシステム・ウィルソンオーディオSophia3

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