「機動戦士ガンダム40周年プロジェクト」の集大成、そして宇宙世紀の新たな100年を描く「UC NexT 0100」プロジェクトの第二弾となる『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が、いよいよ6月11日(金)より公開されることが決まった。

 物語の舞台は、アムロとシャアの最後の戦いを描いた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』から12年後のU.C.0105。反地球連邦政府運動「マフティー」のリーダー「マフティー・ナビーユ・エリン」こと、ハサウェイ・ノア(連邦軍大佐ブライト・ノアの息子)の活動を、最新の映像と音響で創り上げた注目の作品となる。ここでは、ドルビーアトモスを採用した同作の音作りについて、音響演出を担当した笠松広司氏にインタビューした。

――今日は、よろしくお願いします。まずは、音響演出就任の経緯を教えてください。

 村瀬修功監督からお誘いいただきました。監督とは面識はありませんでしたけど、僕の手掛けた作品をご覧になっていたようです。

――音響演出とは、音響監督とどのように違うのですか?

 確固たるものはないんですけど、通常国内のアニメ作品で音響監督という場合は、アフレコの際の現場監督、ダビングの現場監督を指しますが、僕はアフレコの部分の演出は担当していないので、数年前からは音響演出という名目になっているようです。

――ということは、セリフ部分以外の音作りをご担当されているということですか。

 そうですね。アフレコ以外の部分、いわゆる効果音、リレコーディング、楽曲の選曲、プランニングなどになります。

――すると、今回は人間目線のモビルスーツ戦など、これまでと違う音作りが求められることになりますから、結構大変だったのでは。

 ははは、概ね楽な作品はありませんよ(笑)。今回の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で言えば、絵の情報量が多くて細かい部分までものすごく描き込まれていたので、そのリアリティある絵に負けない、リアリティのある音を作ろうと思って臨みました。

――『閃光のハサウェイ』では、足音、服のこすれる音など、日常音というか環境音などの音が、とても細かく感じられました。そのあたりの再現にも留意されたということでしょうか。

 そんなに特別なことはしていなくて、僕としては割と通常営業なんですよ。

――往年の同録作品のような雰囲気を感じました。

 なるほど。僕は実写(映画)育ちなので、自然とそこを目指してしまうのかもしれませんね。(実写の音に)馴染みがありますから、おそらく通常営業しちゃうと、そこに着地してしまうのでしょう。

――さて、『閃光のハサウェイ』はドルビーシネマの同時公開を前提として、「ドルビーアトモス」サウンドフォーマットを採用した作品となります。

 採用を決めたのはプロデューサーの小形尚弘さんだと思いますが、音響の人間としては、ドルビーアトモスの利点って、すべてのチャンネルがイーブンになることだと感じているんです。まあ、オブジェクトオーディオなのでチャンネルという概念はないんですけどね(笑)。

 ドルビーアトモスというと、天井にスピーカーが付いていて、高さ方向のサラウンド感が充実していますよ、という部分にフィーチャーされがちですけど、やはり、すべてのチャンネルがイーブンになることで、ハサウェイで言えば、今まで使っていたようなベーシックな(音の)素材を単純にオブジェクトに置く(配置する)だけでも、こんなに気持ちいいんだっていう感覚になりました。

――すると、音の高さ方向も含めた移動感の再現性というよりも、リアルなサウンド空間の再現に主眼がある、と。

 そうですね。立体映像(3D)の時も、いかにも物体が飛び出してくるような仕掛けよりも、より奥行を感じるような表現の方が、リアルさが増した、ということがあったように覚えています。音についても同じなんじゃないでしょうか。

――アトモスでは、すべての音がイーブンということだと、その素材(音)の作り方は変わってくるのですか。

 デザイナー目線で見ると、アトモスだから何かが変わるというより、今までやってきた通りに、その延長線上でやればいい、という感じでした。とはいえ、反響のような後から足す音も重要になりますので、そのあたりのケアをきっちりすれば、あんまり細かいことを言わずに、ドーンとやっちゃえばいい、でした(笑)。

 一方でエンジニアリング目線では、今までの感覚でやっていると首の後ろの方向がものすごく重たくなってしまうので、そこだけは気を付けたほうがいいなと感じました。

――重たくなるというのは。

 今まで、例えば5.1chの場合、サラウンドチャンネルはバッフルライン(フロント)のスピーカーといかにつなげるかという命題があって、しかもXカーブ(※)という壁があったので、難しいんです。そこをうまく調整しないと気持ち悪い音になってしまうので、それを回避するべく、後ろ方面の音をいろいろいじったりするわけなんです。けど、それを今までの感覚でやると、過剰になってしまうので、その調整を行なうわけです。
(※ Xカーブ:映画館のような大空間での音響特性を、人間の聴覚特性に合わせるために行なう補正のこと。主に、中高域をフィルターする)

――ドルビーアトモスでは、そうした部分がより自然にできると。

 そうですね。逆に、余計なことを考えなくていいので、素材の音がそのままストンと出てきます。

――すると、音響エンジニアにとってドルビーアトモスは、いいフォーマットなんですね。

 エンジニアリング的には、いろいろと手数は多くなるので作業量は増えますけど、デザイナー的には楽しいフォーマットですね。

――本作では、まずドルビーアトモス版を作って、それを5.1chなどへ変換したということですか。

 そうです。まず第一原版をアトモスで作って、そこから5.1ch、ステレオを作りました。

――さて、『閃光のハサウェイ』は、『機動戦士ガンダム』の世界観を引き継いだ、ガンダムシリーズ最新作です。モビルスーツの機動音、ビーム・ライフルの音などはどのように創音したのでしょうか。

 それは、これまでガンダムシリーズを手掛けてこられた方々が皆、ぶつかった壁だと思うんです。僕もやはり、ガンダムと付くからには『機動戦士ガンダム』で聞いたアノ音であってほしいですから。当時のアニメを見ながら、アノ音を目指しつつ、それを2021年に再現したらどうなるのかを考えながら、モビルスーツの動く音から、ビーム・ライフル、そしてメガ粒子砲などなどの音を、コツコツ作っていきました。

――完成した音のチェックというのはあるのですか?

 もちろん、ダビングの時などに聴いてもらいますが、サンライズさんにはガンダムの銃器関係のスペシャリストの方がいて、その方に聴いていただきました。

――ところで、ペーネロペーとΞ(クスィー)ガンダムの機動音は微妙に違って聞こえました。

 ペーネロペーはペーネロペーとして完成されてはいるものの、やはり試作機ではあるので、まだいろいろな部分にピーキーさが残っているのではないか、そこが完成機Ξガンダムとの違いではないかと考え、機動音やビーム・ライフルの音も変わっているべきだろうということで、変えています。

――ちなみに、ペーネロペーの機動音には生物的というか不協和音的な音が入っていますが、それがピーキーさ(試作機)の表現ということなのでしょうか。

 そうですね。Ξガンダムに関しては完成機でもあるので、そうした音は付けていません。一方、ペーネロペーでは試作機感を出すように、トライ&エラーを繰り返しながら(ピーキーさを感じる音を)作っていきました。あと、ペーネロペーではミノフスキー・フライト・ユニットの部分がピカピカと光っているので、それに対する音もいろいろとトライしながら作り込みましたね。

――ファンとしては、Ξガンダムのビーム・ライフルの音の中に、アノ音を感じることができました。

 ありがとうございます。そうやって聴いてもらえたのであれば、ビーム・ライフルに関してはとてもうまく行ったのかなと思いますね。よかったです。

――話は飛びますが、物語の中盤、ケネスとギギのダンスシーンからメッサーF01型(モビルスーツ)の強襲シーンへの転換は、いよいよ始まるモビルスーツ戦への期待から胸が躍りました。

 ありがとうございます。そのシーンの音作りとしては、その前にハサウェイとケネスのシーンがあり、そこから強襲シーンまで音楽的には直結になることもあって、村瀬監督から演出プランをお願いされたんです。それで、どうすればうまいことつながるかなと考えて、あの形にしてみました。まあ、小形プロデューサーからも、どこかに歌を入れたいというリクエストをされていたので、入れるのならそこしかないかな、という感覚でしたね。

――最後に、本作で笠松さんがお気に入りのシーンを教えてください。

 これは僕の性格でもあるんですけど、作品自体は自信を持ってロールアウト(完成)させているんですけど、後から、もう少しこうしておけばよかったとか、もう一声行けたかもしれない、と考え込んでしまうタイプなので、ここを聴いてほしいというのは、正直言いにくい部分なんですよ。

 ただ、個人的に一番時間をかけたのは、ポッド(カーゴ・ピサ)に入ったΞガンダムが大気圏に再突入してくるところですね。そのポッドが段々と崩壊していくところに、テーマ曲のイントロを付けているんです。そこはもう、最大限うまくいった、気持ちよかったと思っています。小形さんは(その曲の)サビの部分がお気に入りらしいんですけど(笑)、僕はイントロが好きだったので、そこをフィーチャーしてみました。

映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

6月11日(金)全国ロードショー Dolby Cinema / 4D同時公開

<声のキャスト>
ハサウェイ・ノア:小野賢章
ギギ・アンダルシア:上田麗奈
ケネス・スレッグ:諏訪部順一
レーン・エイム:斉藤壮馬
アムロ・レイ:古谷 徹

<スタッフ>
企画・製作:サンライズ
原作:富野由悠季 矢立肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida 恩田尚之 工原しげき
メカニカルデザイン:カトキハジメ 山根公利 中谷誠一 玄馬宣彦
音楽:澤野弘之
主題歌:[Alexandros]「閃光」(UNIVERSAL J / RX-RECORDS)
配給:松竹ODS事業室
(C)創通・サンライズ

<ストーリー>
第二次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)から12年。
U.C.0105。地球連邦政府の腐敗は地球の汚染を加速させ、強制的に民間人を宇宙へと連行する非人道的な政策「人狩り」も行っていた。
そんな連邦政府高官を暗殺するという苛烈な行為で抵抗を開始したのが、反地球連邦政府運動「マフティー」だ。リーダーの名は「マフティー・ナビーユ・エリン」。その正体は、一年戦争も戦った連邦軍大佐ブライト・ノアの息子「ハサウェイ」であった。
アムロ・レイとシャア・アズナブルの理念と理想、意志を宿した戦士として道を切り拓こうとするハサウェイだが、連邦軍大佐ケネス・スレッグと謎の美少女ギギ・アンダルシアとの出会いがその運命を大きく変えていく。

<特報>
公開劇場にて劇場限定版Blu-ray、6月11日(金)より公開と同時発売!
劇場限定版特典として、小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』上巻(著者:富野由悠季/表紙イラスト:美樹本晴彦)と、録り下ろし朗読CD(小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』上巻/6枚組/総尺407分)が付属!
その他、澤野弘之による劇伴を収録したオリジナルサウンドトラックCD、 2020年3月24日に開催された「GUMDAM FAN GATHERING -『閃光のハサウェイ』Heirs to GUNDAM-」や、『機動戦士ガンダムUC』の音楽を大迫力で感じられる「Hiroyuki Sawano / Project【emU】 “MOBILE SUIT GUNDAM UNICORN”suite」を収録した特典ディスクなど、豪華特典満載! 本編ディスクには、ドルビーアトモス音声を収録!