今年の1月、オンライン開催となった世界最大級のデジタル見本市「CES 2021」において、韓国・LGディスプレイ社からお披露目された次世代の大型有機ELパネル「OLED evo」。主な改善ポイントは、新開発の発光素子の採用と、グリーンレイヤー追加のふたつだ。

 発光素子についてはR/G/B(赤/緑/青)、各波長のピークを高めつつ、波長の幅をよりシャープに収斂。さらにこれまでR/YG/B(赤/黄+緑/青)構成だった発光層にグリーン層が追加され、R/YG/B/Y構成に変わった。結果として発光効率は大幅に向上し、この高輝度化に加え、より高純度の発色が得られるようになったという。

 


OLED evoパネルの光の波長イメージ。RGBそれぞれの波長スペクトラムがシャープになり、結果的に色純度に優れた映像表現が可能になるとしている

 

 LGでは高級ラインとなるOLED G1シリーズ(65/55インチ)にこのOLED evoパネルを投入。さらに既存のパネルを搭載したスタンダードラインC1シリーズ(83/77/65/55/48インチ)と、有機ELテレビとしては初の標準駆動パネルを搭載したエントリーラインA1シリーズ(77/55/48インチ)が用意され、4K有機ELテレビの選択の幅を大きく広げている。

 もちろん8K有機ELテレビZXシリーズ(88/77インチ)も健在。有機ELテレビだけで4ラインナップを持つメーカーはLGだけ。同一グループにパネルメーカーを持つことのアドバンテージが、そのままラインナップの拡充として具現化されたというわけだ。

 

LGの4K有機ELテレビの2021年モデルは、OLED G1シリーズ(65インチ/55インチ)のみ「OLED evo」パネルを搭載。それ以外のシリーズは既存のOLEDパネルを採用している

 

HiViベストバイの激戦部門、有機ELテレビ61型以上で1位を獲得

 さて2021年の「HiVi夏のベストバイ」の激戦部門「直視型ディスプレイ部門6<有機ELテレビ61型以上」で、見事1位の栄誉を勝ち取ったLGのOLED 65G1PJA。パネルはもちろん「OLED evo」である。第四世代となるAI対応映像エンジン「α9 Gen4 AI Processor 4K」の組合せで、この「OLED evo」パネルの持ち味を積極的に引き出した意欲作だ。

 

映像エンジンに新規「α9 Gen4 AI Processor 4K」を搭載。従来のエンジンをベースに、「シーン検出」機能を追加、映像が表示されているシーンに最適な映像表示を行なう。さらに音響面の「オートボリュームレベリング」や5.1.2構成の「アップミックス」処理も本チップが司る

 

 最新のAI対応映像エンジンの最大の特徴は、地上波、BS、CSなどの放送、さらに昨今、注目度が高まっているネット配信動画も含めて、各コンテンツに合わせて最適な映像処理を行なう「AI映像プロ」の搭載にある。

 これまでも映画、スポーツ・アニメなど、映像ジャンルに則した自動画質調整は行なっていたが、今回はそこに「夜景」「街並み」「自然」「スタンダード(その他)」の4つの<シーン検出>を追加。ジャンルとシーンをそれぞれ分析し、最適な画質を自動的に適応するという考え方だ。さらに音声についてもそれぞれのジャンルに合わせたサウンド調整を行ない、バーチャルのサラウンド(5.1.2構成)再生も可能だという。

 

目を見張るばかりの高解像度映像と柔らかなボケ味の表現をしっかりと描き出す

 では実際の画質やいかに。映像表現の基礎となるダイナミックレンジが広く、とりわけ黒の締まりのよさ、素直な階調性が有機ELテレビの強みだが、OLED 65G1PJAの映像を見ると、その優位性がさらに明確になっているのが分かる。

 具体的には、ダイナミックレンジ(最暗部と最明部の幅)がいっそう拡張され、同時にリニアでスムーズな階調性を確保。しかも明るさによる発色が素直で、暗部/明部を問わず、色調の歪みもほとんど気にならない。

 

LGテレビの魅力のひとつは、プレゼンテーション時に使うレーザーポインターのような感覚で操作できるマジックリモコンが挙げられる。ユーザーインターフェイスも昨年の世代から変更され、下方向と右方向のスクロールを組み合わせて、スムーズな操作を実現したという

 

 まず第92回アカデミー賞で見事、外国語映画として史上初の作品賞を射止めた『パラサイト〜地下室の家族』(海外版UHDブルーレイ。4K&HDR10仕様)を再生。総じて高解像度の見通しの映像に仕上げられた作品だが、OLED 65G1PJAで観ると、微細なテクスチャー、柔らかなグラデーション、そして濁りのない色再現と、コンテンツのクォリティの高さをしっかり際立たせるように描く。

 世界的な建築家が手がけたという設定のパク氏の豪邸は、床、壁、天井と、素材から厳選された内装デザインが印象的。調度品のディテイルや本革ソファーの光沢、高級家具の深みのある色調まで生々しく再現され、その贅沢な暮らしぶりがより鮮明に浮かび上がった。

 目を見張るばかりの高解像度映像だが、反面、ピント送りによる被写体の切替えや、アウトフォーカス部分のボケ味の表現も巧妙だ。食事や音楽を楽しみながら、芝生の上で歓談が繰り広げられる屋外でのパーティシーンでは、強い日差しの中にも関わらず、フェイストーンが安定し、しかも芝生のグリーンが鮮やかで微妙な凹凸までしっかりと描き出す。

 NHK BS4Kでオンエアされたドラマ『8Kスペシャルドラマ 浮世の画家』(4K&HLG)の再生では、気持ちよく伸びるハイライト、抜けのよさに加えて、ノイズの粒子が細かく、明部/暗部を問わず、発色が安定している。輪郭を強調することなく、ディテイルを自然に浮かび上がらせる柔らかな画調で、品位が高い。

リモコン下部には「Netflix」「ディズニープラス」「Amazon Prime Video」「U-NEXT」サービスへのダイレクトボタンを装備している。「U-NEXT」ボタンの両隣には「Google Assistant」と「Amazon Alexa」ボタンが備わる

 

OLED evoパネルの恩恵を高輝度部分の自然な色表現と階調の緻密さに実感

 ここで私がもっとも感心させられたのは、ハイライトの自然な色付きと、グラデーションの緻密さだ。家庭用有機ELテレビのHDR表示は、高輝度部分の色乗りが浅くなったり、階調性が損なわれたりするケースが少なくなかったが、OLED 65G1PJAではそうしたクセっぽさがだいぶ軽減されている。これはOLED evoパネルの恩恵と見て間違いない。

 OLED 65G1PJAは、スピーディな操作でストレスなくネット動画が楽しめる「マジックリモコン」、壁面にぴったり密着させて設置できる「ギャラリーデザイン」、そして多彩なメディア/コンテンツに対して、一定の音声レベルが維持できる「オートボリュームレベリング」などなど、画質以外の部分でも、魅力的な独自の提案を、これでもかとばかりに搭載した注目のモデルだ。

まさにLGの渾身の1台である。

 

壁掛け金具がテレビ本体に収まる構造で、壁に隙間なくぴったりと密着する「ギャラリーデザイン」も特徴だ。大画面でも圧迫感の少ない設置が可能だ

別売りのギャラリースタンド(FS21GB。実勢価格4万4000円前後)を使えば、フリースタンディング設置ながら、テレビ画面だけが宙に浮いているかのようなイメージで使用できる

  

4K OLED Display
LG
OLED 65G1PJA
オープン価格(実勢価格48万円前後)

● 画面サイズ:65インチ
● 解像度:水平3840×垂直2160画素
● 内蔵チューナー:地上デジタル/BS/110度CSデジタル×3、BS4K/CS4K×2
● 接続端子:HDMI入力4系統(HDMI2.1対応、eARC/ALLM/VRR対応)、デジタル音声出力1系統(光)、USB3系統、LAN1系統、ヘッドホン出力1系統
● HDR対応:HDR10 Pro/HLG/ドルビービジョン IQ
● スピーカーシステム:トゥイーター×2、ミッドレンジ×2、ウーファー×2
● アンプ出力:60W(20W×3)
● Bluetooth対応:あり(送受信対応/LG PL5×2台との連携で、Bluetoothサランドにも対応)
● Wi-Fi対応:IEEE 802.11ac
● 録画機能:あり(外付けHDD裏番組録画対応)
● ゲーム対応:ゲームオプティマイザ、AIゲームサウンド、HGiGゲームモード、G-SYNC、FreeSync
● 寸法/質量:W1446×H888×D284mm/29.8kg

 

 

HiVi 2021年 夏のベストバイ ディスプレイ部門6(有機EL、61型以上)投票一覧

麻倉怜士

潮晴男

小原由夫

高津修

鳥居一豊

藤原陽祐

山本浩司

吉田伊織