ワレリー・ゲルギエフがキーロフ歌劇場管弦楽団(現・マリインスキー歌劇場管弦楽団)とともに1999年にフィリップス・レーベル(現デッカ)に録音した、ストラヴィンスキー「春の祭典」が世界で初めてアナログレコードとして登場しました。

 このゲルギエフの「春の祭典」は、ドイツのバーデン・バーデン祝祭劇場において、真空管式機材を用いてデジタル録音されたもので、初出は2001年7月発売のCDでした。日本盤CDの初回プレス分はゴールドCD仕様という力の入りようで、ライナーノートを執筆された故・宇野功芳先生、そしてCDの帯にコメントを寄せられた故・菅野沖彦先生の絶賛等もあり、発売されるやいなや、またたく間にオーディオファイルに名演奏・名録音として知れ渡りました。ステレオサウンド誌でも141号(2001年9月)の「ベストディスク~オーディオファイルのための優秀録音CD」において菅野沖彦先生をはじめとする6人の選者全員が推薦盤として挙げられたほか、以降オーディオ機器試聴時のリファレンス盤(チェックディスク)として度々登場することになるなど、まさに極め付きのオーディオ名盤と言っていいものです。

 ただ、不思議なことに、この作品は、これほど評価・人気の高い名録音・名演奏でありながら、今日まで一度もアナログレコード化されたことがありませんでした。「この録音に収められている巨大な音響エネルギーをあますことなくビニール盤の溝に刻み込むことが難しいから」と未LP化の理由を推測するオーディオ評論家もいらっしゃるほどでしたが、それがあながち間違いではないかもしれないと思わせるほど、この録音に封じ込められたエネルギーはすさまじく、とくにA面冒頭(第1部《春のきざしと乙女たちの踊り》~《誘拐の遊戯》)で聴くことのできるグランカッサの低音の響きは暴力的とも表現してもいいほどでしょう。

 今回、オリジナル・デジタル(PCM)マスターを用いて、その音をラッカー盤に刻み込んだのは、日本コロムビアの武沢茂エンジニアです。使用した機材はもはや氏の手足とも言うべき、ノイマンのカッターヘッド「SX74」+カッティングレース「VMS70」(モーターはDENON製に換装)+カッティングアンプ「SAL74B」の組合せ、スタンパーのメタライズおよびプレス作業は、ソニー・ミュージックソリューションズの静岡工場で実施し、試聴を繰り返した結果、本ディスクでは約140gのレギュラー盤を選択しています。