エアパルスA100 BT5.0(以下A100)は、ステレオサウンド誌の218号でレビューした際も印象のよかったスピーカーシステムで、さらに本誌前号でも伊藤隆剛氏のレビューで、本機の素晴らしい能力の一端が伝えられている。というわけで、今号では優れたパワードスピーカーという以上に機能豊富なA100のマルチパーパスな能力に着目、A100の魅力を多面的にディグしてみた。

 A100はかのフィル・ジョーンズが設計した、と書くとベテランのオーディオファイルなら、かつて氏が設計して世界的に大ヒットした小型スピーカーシステム、アコースティックエナジーAE1を思い出されるだろう。フルデジタル構成のアクティブスピーカーシステムに変貌したA100は、昨年夏に発売されて話題を呼んだアクティブ型スピーカー、A80を一回りサイズアップしたモデルである。

 A100は、ウーファーに127mmのアルミニウム合金コーンと磁気回路には強力なネオジウムマグネットを備え、高域も同じくネオジウムマグネット採用のホーンローデッド・リボントゥイーターを搭載している。アンプ部は、前段にXmosプロセッサーを搭載したフルデジタル構成で、TI製TAS5754クラスDステレオアンプをR側キャビネットに2基積んでいるが、1基がL/Rのトゥイーターを、もう1基がL/Rのウーファーをドライヴするというバイアンプ方式・ブリッジ接続となっている。

 入力端子はアナログRCAが2系統、デジタル入力はUSBタイプBと光に加えて、ブルートゥースにも対応。ちなみにモデル名の末尾にあるBT5.0とは、aptXデコーダーをサポートするブルートゥース5.0の搭載を意味するが、一般的なSBCコーデックよりもより進化したオーディオパフォーマンスが期待できるとのこと。

①薄型テレビを使ったAVシステム
映像作品の再生で活きる微細な環境音まで描く再現力

はじめに検討したのは、薄型テレビとA100 BT5.0の組合せ。ディスクプレーヤーとはアナログ、テレビとはデジタル(光)接続することで、音楽と映像ソースどちらにも対応できる。いずれの場合も音量調整はA100 BT5.0の付属リモコンで行なう。なお、図の破線で囲ったように、ミュージックサーバー(NAS)を足すことで、ハイレゾファイルの再生もこのシステムに導入できる。価格を考えれば、Soundgenic(サウンドジェニック)などが候補になるだろう

 視聴はHiVi視聴室にて。A100をしっかりしたスピーカースタンドに載せて、L/Rスピーカーは約1.4m離してセット、両スピーカーの間には50インチの液晶ディスプレイを置いている。R側スピーカーのリアパネルにあるバス/トレブル調整つまみはフラットとし、L側のスピーカーとは専用ケーブルで連結。アナログ/デジタル入力を備え、ブルートゥース接続が可能なA100の多機能ぶりをフル活用して、各パフォーマンスをチェックしてゆく。

 UHDブルーレイプレーヤーにパイオニアUDP-LX800を、A100とアナログ接続してCDを再生。ロバート・グラスパーをリーダーにブルーノートレーベルの精鋭が集結したR+R=NOWの「Respond」は、低域の伸びはサイズ相当だが力強さと弾みのよさに大いに感心。全域でバランスが整い、フォーカスのよさも3次元的ホログラフィックな音の拡散も予想以上だ。

 ステレオサウンド発売のSACD、バルバラ『私自身のためのシャンソン』から「ナントに雨が降る」を聴くと、デリケートで実体感溢れる彼女の声が両スピーカーの間にポッと浮かび、手を伸ばせば唇に触れられそうな生々しさ。

 続いてLX800でブルーレイを視聴。『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』から、音声は2.0chステレオ(DTS-HDマスターオーディオの96kHz/24ビット)を選んでアナログ接続にて「レイダース・マーチ」を再生。全体的に典雅で、音のエッジを強調することがなく帯域バランスの整った雰囲気のいい音。次いで光デジタル接続とするとアナログ接続に比べてこちらは若干音が薄くなる印象だ。これは96kHz/24ビット以上のハイスペックデジタル信号は光/同軸で出力すると48kHz/16ビット信号に変換出力されるからだろう。とは言えアナログ出力できないBDレコーダーもあるし、その場合でも充分楽しめる音だ。

 アナログ接続に戻して、UHDブルーレイ『地獄の黙示録 ファイナル・カット』を再生しよう。チャプター9のジャングルの川辺にプレイガールが舞い降りるシーンは、ロックバンドの演奏が実に生々しい音で収録されている。この演奏をA100で再生すると腰高にならない骨太のサウンドとなり、50インチの映像サイズに見合った大きめの音で再生しても、ヘリコプターのローター音やエンジン音も含めて予想した以上の迫力満点の音となった。

 Apple TV 4Kを利用したネットフリックス映画の再生は、BDで観てその画質音質の素晴らしさに感激した『ROMA/ローマ』をチョイス。Apple TV 4KからのHDMI出力をテレビに入力して音声は、そのテレビから光デジタルで出力、A100に入れている。これはテレビでネットフリックスを再生した場合も想定した接続方法だ。

 さて、本作品は環境音のサラウンドがまことに素晴らしいが、それは2ch再生でもかなり感じられ、フレームの外の環境音がこれでもかというほど細やかにたっぷり入っていることが分かる。A100は台詞の再生に優れたスピーカーシステムということはただちに理解できたが、リボントゥイーターの優秀性だろう、微細な環境音や暗騒音の表出も見事で、おかげでメキシコシティの市井雑踏のいささか薄汚れた空気感までがたっぷりと伝わってきた。

②PCとのデスクトップシステム
USBでつなぐだけでハイファイサウンドを得られる

続いて、PCと組み合わせてデスクトップシステムを模した構成を検討する。PCで再生できるストリーミングサービスをメインソースとするならば、A100 BT5.0とPCをUSBケーブルでつなぐだけでAVシステムが完成する。音楽再生には再生用ソフトAudirvana(オーディルヴァーナ)を使い、Netflixの再生はブラウザー(Safari)上で行なった

 次にMacBook AirとA100をUSB接続してオーディルヴァーナによるハイレゾ(今回はQobuzを使ったストリーミング)再生を行なう。これはPCを使ったデスクトップシステムの提案と考えていただきたい。

 メロディー・ガルドー『サンセット・イン・ザ・ブルー』(96kHz/24ビット/FLAC)では絹漉しのメロウサウンドにうっとり。同じ96kHz/24ビット/FLACのブルーノート・オールスターズ『アワー・ポイント・オブ・ビュー』からウェイン・ショーターとハービー・ハンコックがゲスト参加した「マスカレロ」は、聴けば誰もがきっと驚くに違いない見事なハイファイサウンド。デリック・ホッジのベースが豊かで逞しいのは、さすがベーシストでもあるフィル・ジョーンズの作ったスピーカーシステムと大いに納得である。

 15年以上も前のことだが、筆者は六本木時代のHiVi視聴室でフィル・ジョーンズが当時完成させたばかりの小型のエレクトリックベース用アンプ(Phil Jones Bass)のデモンストレーションに立ち会った。その時筆者の前でエレクトリックベースを弾いたのは何とフィル・ジョーンズその人で、話を聞くと「モータウンの伝説的なベーシスト、ジェームス・ジェマーソンに憧れて13歳でベースを始めた」そう。さらに現代の「ファーストコールベーシストの代表、ピノ・パラディーノは古くからの友人なんだよ」とも言っていた。ジェマーソンもパラディーノも筆者のフェイバリットベーシストである。と言うわけで、ベーシストで天才スピーカーデザイナーが作ったA100は、抜群の低域再生能力と全域にわたる鳴りっぷりのよさを兼ね備えることに大いに納得した次第。

 デスクトップでネットフリックスなどを利用して映画を観る場合も、A100のような本格的なパワードスピーカーがあるとないとでは大違いである。加えてUSB接続による音は本当に素晴らしい。ちなみに『ROMA/ローマ』のようなやや地味な映画でも、ノートPC内蔵スピーカーから出る音とはもう比較にならない、文字どおり雲泥の差である。けっこうノートPCで映画を見ているという人は少なくないと思うが、10万円の出費で(A100のこと)必ずや天国となる。今回はそれがつくづく分かったが、さらに『フォードVSフェラーリ』のような爆音ムービーなら、A100はもうマストであろう。

 最後にブルートゥース接続でスマホ(iPhone)のTIDALから、テナーサックス奏者ジョシュア・レッドマンのコンボが弦楽四重奏と共演した優秀録音盤『Sun on Sand』を再生。決してブルートゥースの音を軽んじていたわけではないが、元の録音が優れていればかなりいい音で聴くことができると理解した。無線送信のために、音源は圧縮されているわけだが、日本人パーカッショニスト武石聡のドラムの連打はスピード感があり、ジョシュアのテナーサックスもなかなかの迫力で楽しんで聴けた。

 在来型のAVシステムに組み込んで使う場合、今回は50インチの液晶テレビと組み合わせたが、もう少し大きな画面でもまったく問題はないと思う。さらにPCと組み合わせたデスクトップシステムとして使っても大満足の結果が得られることを約束しよう。本機を購入したほぼすべての人の環境やニーズに広く適応できるバーサタイル性、これがA100の大きな魅力である。

リファレンス機器
●UHDブルーレイ/SACD/CDプレーヤー:パイオニア UDP-LX800
●ストリーミングデバイス:Apple TV 4K
●PC:MacBook Air(2015)+ Audirvana

視聴したソフト
●BD
『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』
●UHDブルーレイ
『地獄の黙示録 ファイナル・カット』
●ハイブリッドSACD
『私自身のためのシャンソン/バルバラ』
●CD
『コーラジカリー・スピーキング/R+R=NOW』
●Netflix
『ROMA/ローマ』
●Qobuz
『サンセット・イン・ザ・ブルー/メロディー・ガルドー』(96kH/24ビット FLAC)
『アワー・ポイント・オブ・ビュー/ブルーノート・オールスターズ』(96kH/24ビット FLAC)
●TIDAL
『Sun on Sand / Josha Redman & Brooklyn Rider』(44.1kHz/16ビット FLAC)

エアパルス
A100 BT5.0
オープン価格(実勢価格BLACK ¥99,000+税/ペア、RED ¥105,000+税/ペア)

●型式:アンプ内蔵2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:リボン型トゥイーター、127mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:10W×2(トゥイーター)、40W×2(ウーファー)
●クロスオーバー周波数:2.4kHz
●接続端子:デジタル音声入力2系統(光、USBタイプB)、アナログ音声入力2系統(RCA)、サブウーファー用プリアウト1系統(RCA)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜192kHz/24ビット(PCM) 
●備考:Bluetooth 5.0、コーデックはapt X対応
●寸法/質量:W160×H255×D283mm/5.5kg 
●問合せ先:(株)ユキム TEL.03(5743)6202

接続端子や調整機能は本体R(右)側に集約されている。電源もR側のみに給電すればOK。L(左)側のスピーカーへは専用のスピーカーケーブルで接続する

付属のリモコンで入力切替え、音量調整を行なう。今回のテストでは、①②どちらのシステムでもA100 BT5.0の音量調整機能を利用した

A100 BT5.0(R側)の断面イメージ。本体背面にエレクトロニクス用の基板が備わる。内部に波状の吸音材で調整が施されるほか、バスレフポートの形状で風切り音を抑えるなど正当的手当てがされている

弟機A80でも好評だったホーンロード式のアルミリボントゥイーターを搭載。ネオジウム・マグネットで駆動される

A80とA100 BT 5.0の最大の違いがこのウーファーユニット。エンクロージャー自体もサイズアップしているが、ウーファー口径は115mmから127mmへ。振動板はアルマイト処理されたアルミニウム合金で、35mm系のアルミボイスコイルが組み合わされている

内部配線材のクォリティにもこだわるのがエアパルス製品の特徴。オーディオ用ケーブルメーカーとして知られるトランスペアレント製のケーブルを用いている。これは既発売のA80、A300 Proでも同様だ

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