米国のカリフォルニア州のブエラ市でパソコンのディスプレイ事業からスタートしたビューソニックは1999年、テキサスインスツルメンツ(TI)のDMDを採用したDLPプロジェクターを発売し、積極的に製品を送り出してきた。米国をはじめ海外における動きは活発だが、残念ながら日本国内での知名度はまだまだ。というのも1999年に一度国内でも発売されたが、売れ行きが思わしくなく撤退したという経緯があるからだ。2015年再参入を果たすものの、廉価なモデルが多く、オーディオビジュアルファンに広く認知されるまでには至ってなかったように思う。
4Kプロジェクターを身近にする注目モデル
この度リリースされた新製品のX100-K+は、こうした過去のイメージからの脱却を図ったホームシアター用のプロジェクターとして入門層には注目のモデルである。本体重量は7.7kg、サイズは幅416×高さ183×奥行き463㎜という比較的コンパクトでスタイリッシュな外観にまとめられていることもポイントだが、入出力端子や電源のコンセントを横位置に配し、後面吸気、前面排気というクーリングシステムを採用して、壁面に近い設置でも安心して使うことができるよう設計されているからだ。
DLPプロジェクターのキーデバイスにはTI社製の0.47インチDMDを用いているが、デバイスの解像度は1920×1080画素なので、内部で分割的な画素ずらしをおこない、4K映像を生成している。レンズのF値は1.8。短焦点設計なので、2.65mの投写距離で100インチのスクリーンに投影することができる。フォーカス調整も電動で行なえるほか、レンズシフト機能を備え、水平方向に25%、垂直方向に60%の範囲で画面をシフトすることができる。
光源にはプロジェクター本体の小型化を実現するためLEDが使われているが、この光源を使うことで、省電力化と起動時のスピードアップ、そして光源の長寿命化によりランプ交換の必要性がなくなることもユーザーにとってのメリットである。本機の場合3万時間を保証していることからも、充分にそうしたことを実感できる。
反面、LED方式は輝度出力を稼ぐことが難しいため、こうした特性をどのようにコントロールするかがつくり手の腕の見せ所だ。本機においては、視聴環境との親和性を高める画質設計を行なうことで、無理のない絵づくりがなされているように感じた。また光源出力レベルを「フル」、「エコ」、「ダイナミックブラック1」、「ダイナミックブラック2」へと切り替えが可能だが、ハイライト感を望むなら「フル」が最適。映像モードは、「明るい」、「テレビ」、「映画」、「ゲーム」、「ユーザー1」、「ユーザー2」の6つに加え、米国のISFが認定した技術者が調整する「ユーザー昼間」「ユーザー夜間」モードが用意されている。
ほんの少しの調整でHDRらしさがグンと伸びた
最初に「映画」モードのデフォルト値でUHDブルーレイ『ムーラン』を視聴してみた。UHDブルーレイソフトらしい解像感はあまり感じられないがS/N感は高く、チリチリとしたノイズもよく抑えられている。しかし暗部に至る階調表現やコントラストレンジをもう少し高めたい。また全体にイエローが被っており、赤系統の色味が強く出るフェイストーンも調整したいと感じた。
本来は画質調整項目からカラーマネジメントで手を加えるべきだが、RGB/CMYそれぞれの色相/彩度/ゲインを追い込むのは入門層では至難の業と思えるので、この値はデフォルトのままにしておいて、メインの画質調整項目から「輝度」と「コントラスト」と「シャープネス」を呼び出し、この3項目に的を絞って調整することをお勧めする。
今回は「映画」モードで「輝度」+43(デフォルトは+47)、「コントラスト」+39(デフォルトは±0)、「シャープネス」を上げ過ぎるとカラーブレイキングが出やすくなるので、ここは控えめな+1~3にとどめた。これだけでずいぶん再現性が変化しバランスの取れた映像になる。他のプリセットモードで再生しても大体同じような傾向で、輝度を多少落としコントラストをアップさせることでHDR感のある映像が楽しめると思う。TOTOのライヴBDでも映像を確認してみたが、控えめで柔和な再現性という点はUHDブルーレイと似ているので、同様の画質調整を施すといいだろう。
全暗環境における視聴では暗部が詰まった印象で、こうした条件下での使用にはあまり向いていない。しかしリビングルームで照明を暗くした100ルクス程度では相対的なコントラスト感がアップするので、このモデル本来の持ち味が活きてくると思う。こうしたプロジェクターメーカーが国内市場に参入することによってホームシアターファンの裾野が広がるならそれはとても喜ばしいことであり、今後とも継続的に新製品の投入を図ってほしい。