この記事は、ステレオサウンド別冊『モンキー・パンチさんが教えてくれた』から抜粋しました。誌面ではモンキー・パンチさんが20年に渡って楽しまれていた最高のホームシアターを紹介するとともに、モンキー・パンチさんがお気に入りだったブランドの最新モデルを紹介、これからホームシアターを始めようという方にも参考になる内容を満載しています。
 
『モンキー・パンチさんが教えてくれた』(¥2,530、税込)

モンキー・パンチさんが愛用した国産AVアンプ、ヤマハ。
作品世界に没入できる臨場感、自然な空間創生は他にない魅力

海外製オーディオ機器が並ぶモンキー・パンチシアター。その中核で長く使われていた国産ブランドが、ヤマハのAVアンプだ。1998年の初取材時から2018年まで、(海外製品も挟みながら)通算5台の製品が愛用されてきた。そんなヤマハ製AVアンプにはどんな特長があり、モンキー・パンチさんはどこを気に入っていたのか。今回はヤマハ東京事業所にお邪魔して、最新モデルの視聴を交えながらその魅力を探ってみた。対応いただいたのは、(株)ヤマハミュージックジャパン AV・流通営業部 マーケティング課 広報担当の安井信二さん、同 AV・流通営業部 マーケティング課 主事 AVコンポ・テレビオーディオ商品担当の手塚 忍さんのおふたりだ。(編集部)

――今日は、モンキー・パンチさんが愛用していたヤマハ製AVアンプについて振り返ってみたいと思います。

 モンキーさんはヤマハのAVアンプがお気に入りでしたね。初めて取材でご自宅にうかがった時も「DSP-A1」をお使いだったし、その後も一時期海外製品に変えたこともありましたが、国産AVアンプとしてはずっとヤマハ製品を愛用されていました。

安井 本当にありがたいお話です。

――さて、ヤマハのAVアンプといえば「シネマDSP」が特長だと思います。実際、モンキー・パンチさんも「サイファイ」「ドラマ」といったプログラムを愛用されていました。シネマDSPとはどんな機能なのか、改めて教えて下さい。

安井 シネマDSPは、1986年に発売した「DSP-1」に搭載した機能です。オーディオの臨場感再現を追求していく中で、音楽が演奏された現場に近い空間を家庭にも再現できないかという思いから開発がスタートしました。

モンキー・パンチさんが愛用していたヤマハの名機

 モンキー・パンチシアターでは、多くのヤマハAVアンプが愛用されてきた。具体的には「DSP-A1」(1998年8月頃)、「DSP-Z11」(2010年12月頃)、「RX-A3020」(2013年7月頃)、「CX-A5000」(2013年11月頃)、「CX-A5100」(2015年12月頃)といった具合で、各時代のトップモデルが並んでいる。一体型モデルもプリアンプとして使っていたのがモンキー・パンチ流だ。3D作品と組み合わせたシネマDSPの効果もお気に入りだった。

▲DSP-Z11(2010年12月頃から愛用)。写真は搬入時の様子

▲CX-A5000(2013年11月頃から愛用)

 当時は世界中のコンサートホールの残響を実測して、その測定結果をプログラムに反映していましたね。

安井 実際の測定結果を元に音場処理をすれば、家庭にコンサートホールを再現できるし、後々は映画にも応用していこうということで開発が進んでいきました。映画ではシーンに相応しい空間の広さを音で演出しています。家庭の限られた空間でその演出を強調すれば、もっと楽しめるようになるだろうと考えたのです。

 そもそも映画音響はクリエイティブなものですから、そこにヤマハが考える世界を加えてみせたのが革新的でした。

安井 その後ドルビーデジタルやDTSなどのデジタルフォーマットが登場し、さらにHDMI端子が出てきて非圧縮の音声信号が扱えるようになって、AVアンプの音質も格段によくなりました。シネマDSPも、音源が持っているクォリティを損なわない音場処理が行なえるように、様々な進化を続けていきました。

海外アンプと組み合わせても、十二分に力を発揮していた

――モンキー・パンチさんは2010年末に「DSP-Z11」を導入し、その後は「RX-A3020」「CX-A5000」「CX-A5100」とヤマハのトップモデルを使い続けてきました。

 CX-A5100の導入時には、安井さんや当時の開発陣と一緒にモンキー・パンチシアターにお邪魔して、チューニングの様子を取材させてもらいました。その時の音の印象はどうでした?

安井 凄まじかったですよね。スピーカーに埋め尽くされたような空間でしたし、パワーアンプもずらっと並んでいてその熱も凄かった。あそこまで徹底した空間も珍しいし、そこで弊社製品を使ってもらえたのは嬉しかったですね。

 CX-A5100は、あのシステムの中では値段がダントツに安かった(笑)。にも関わらず、モンキーさんの求める力強さを備えていたんです。海外製ハイエンドパワーアンプと互角に渡り合って、シネマDSPの効果を十二分に発揮していた。モンキーさんも聴いていて楽しかったんじゃないでしょうか。

安井 ありがとうございます。CX-A5100は、YPAOのイコライジング処理を64ビット化した最初の製品で、S/Nが改善されていたことも一因かもしれません。

ヤマハ製AVアンプで注目したい、ふたつの便利機能

●自動でセットアップが完了する「YPAO」
 AVアンプで一番面倒な初期設定を自動的に行う機能が、「YPAO(ヤマハ・パラメトリック・ルーム・アコースティック・オプティマイザー)」だ。付属マイクで測定すること
により、スピーカーが正しくつながれているかや、距離、レベル(音量)等を判別・設定してくれる。フロントとサラウンドでスピーカーのメーカーが異なる場合でも、音色を揃えるといった補正まで可能なので、ヤマハ製AVアンプを導入した際には必ず活用して欲しい。

モンキー・パンチシアターに「CX-A5000」を導入した際には、ヤマハの開発陣に同行してもらいセットアップを行った。写真はその時にYPAOの測定をしている様子

モンキー・パンチシアターのYPAO測定結果。スピーカー配置は7.1.4のドルビーアトモス用だった

――そのYPAOもヤマハ製AVアンプの重要な機能です。AVアンプの自動セットアップ機能として、スピーカーの数や配置、距離、レベルといった基本的な項目はもちろん、スピーカーごとの音色の違いまで補正してくれます。

手塚 処理も比較的早いですし、正確な測定ができます。「RX-A3040」からはドルビーアトモスのトップスピーカー用に高さも含めて測定しています。

安井 基本的な項目はすべてYPAOで設定できますので、一度測定してそのままお使いいただいている方も多いようです。もちろんそこからの使いこなしも可能です。例えば、フロント側にお気に入りスピーカーを使っている方は、メニューの「パラメトリックイコラ
イザー」で「フロント近似」を選んでみてください。音の印象が変わります。

 モンキーさんのシアターもフロントのJBLに合わせていましたね。

安井 フロアースピーカーがJBLで、ハイトはリンの小型モデルでしたが、つながりがとてもよかった覚えがあります。

――2018年発売モデルではシネマDSPに新しい機能が加わりました。

手塚 2018年から「SURROUND:AI」を搭載しました。これまでは、色々なコンテンツに対応するために多数のプログラムを準備していましたが、逆に多すぎてわかりにくいという声もありました。SURROUND:AIでは入力信号を解析して、シーンに合わせて自動的に音場処理の内容を変えています。

 この効果は素晴らしい。もう、SURROUND:AIがひとつあれば充分です。

手塚 先ほど申し上げた通り、映画はシーンによって音場の広さ、演出が変わります。今回はそれを分析し、4種類のプログラムを変化させています。その4つもSURROUND:AI用に調整しています。

安井 最近は、センターチャンネル以外からも台詞が再生されることが増えています。そういった場面で台詞に変な響きがついたら気持ち悪いので、パラメーターを細かく変更しています。

 モンキーさんは、シネマDSPで味わいを足した音が好きだったと思います。世界中探してもシネマDSPのような音場創生を提案しているメーカーはないわけで、その魅力を分かっていたんでしょうね。SURROUND:AIなら、AVアンプにお任せでその恩恵を享受できるわけで、とてもいい提案だと思います。

ヤマハ製AVアンプで注目したい、ふたつの便利機能

●ホールや劇場の空間を作り出す「シネマDSP」
 「シネマDSP(デジタル・サウンドフィールド・プロセッシング)」とは、入力信号に“場の響き”を加えることで、演奏された空間まで創出する機能を指す。音楽や映画向けに様々なプログラム(再生モード)が準備されており、自分のお気に入りを選んで豊かなサラウンド再現を楽しめる。最新世代機では入力信号をAIが解析し、最適なモードを選んでくれる「SURROUND:AI」も搭載。このモードにセットするだけで、いつでもベストなサラウンドが手に入るわけだ。

左はスマホ用アプリ「AV Controller」のサラウンドモード選択画面(CX-A5200につないだ場合)。ここからシネマDSPのプログラムを切り替え可能。右はCX-A5200の付属リモコンで「SURROUND:AI」のオン/オフは中央のボタンで行える

SURROUND:AIの機能イメージ。入力された信号を判別し、最適なプログラムを随時選んで再生してくれる

※5月10日公開の後篇に続く