映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第52回をお送りします。今回取り上げるのは、永遠の追いかけっこを続けているトムとジェリーを実写映画化した『トムとジェリー』。実写映像に溶け込んだ2匹の存在感を、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『トムとジェリー』
3月19日(金)より全国公開

 トムとジェリーと言えば、“なかよく喧嘩しな♪”という主題歌を覚えている方も多いかもしれない。日本では1964年(昭和39年)の5月から放映されたTVアニメ・シリーズの映画化。

 このシリーズを作ったのはアニメーション製作会社ハンナ=バーベラを創立したアニメーターのウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラで(共に故人)、同社の人気作には「原始家族フリントストーン」や「チキチキマシン猛レース」などがあった。

 少年探偵のJ・Qが相棒の犬バンディを連れて怪奇現象に挑むSFアニメ「科学少年J・Q」(昭和40年から)もディズニーよりドタバタしていて面白かった。“JQ JQ JQ JQ ジョニー・クエスト~”という歌をいまでも歌える。昨日の夕食の献立は忘れたりするのに、なんでこんなこと覚えているかなぁ。

 さて、本作はニューヨークの一流ホテルを舞台に、いたずらネズミのジェリーといつも彼にしてやられるネコのトムの大騒動を描いたコメディー映画。いちばんの特徴は実写と2Dアニメーションを融合した作品になっていることで、もともとのアニメの色彩や質感、スピード感が見事に実写に溶け込んでいる。

 首がめり込んだり、感電したり、押しつぶされたり。毎回ひどい目にあうトムの破壊的なギャグは健在で、これが人気の理由だったと気づかされる。おとなが眉をひそめることがいっぱい入っているのだ。

 これに絡むのが都会での生活を夢見てニューヨークに出てきたヒロインのケイラで、演じるのは『キック・アス』のクロエ・グレース・モレッツ。もともと漫画顔なので、ネズミ(のジェリー)退治にホテルに雇われたトムと絡んでも違和感がない。

 先輩ホテルマンを演じるマイケル・ペーニャはマーベル映画『アントマン』で主人公スコットの相棒に扮していた傍役男優。育ちは悪いがひとのいい役柄が得意で、今回もホテルにインチキ就職したモレッツを怪しく思いながら最後には笑顔で場をまとめる。

 『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』などを作ってきた監督のティム・ストーリーがアフリカ系アメリカ人のせいか、ヒップホップ・サウンドがてんこ盛りになっており、音楽映画としても存分に楽しめる。ルー・リードの名曲「ワイルド・サイドを歩け」をサンプリングしてヒットを飛ばしたア・トライブ・コールド・クエストの「Can I Kick It」や、DJシャドウとデ・ラ・ソウルの「Cut Em In」など全部で40曲くらい流れるんじゃないかな。

 その一方で大騒ぎのあとのエンド・クレジットは、セル画風の静止画で動かないのが洒落ている。ぜひ音のいい劇場で! なんてことのない一作だが、思った以上に楽しめると思いますよ。

映画『トムとジェリー』

3月19日(金)より、TOHOシネマズ日比谷、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
監督:ティム・ストーリー
出演:クロエ・グレース・モレッツ、マイケル・ペーニャ、ケン・チョン、コリン・ジョスト、ロブ・ディレイニー
原題:TOM AND JERRY
配給:ワーナー・ブラザース映画
2021年/アメリカ/ビスタサイズ/101分
(C)2020 Warner Bros. All Rights Reserved.

公式サイト https://wwws.warnerbros.co.jp/tomandjerry-movie.jp/

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