映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第51回をお送りします。今回取り上げるのは、アフガニスタンでの米兵の過酷な戦闘を描いた『アウトポスト』。迫りくる恐怖の連続を、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
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『アウトポスト』
3月12日(金)より新宿バルト9 ほか全国ロードショー
2009年10月3日の早朝6時前。アフガニスタンでアルカイダ掃討の不朽の自由作戦に参加していた米兵50人が300人以上のタリバン兵の奇襲攻撃を受ける。
アフガニスタン紛争で最も過酷な戦闘と呼ばれた“カムデシュの戦い”を凄まじい緊迫感と共に描いた戦争映画。この手の実録作品にはリドリー・スコット監督の『ブラックホーク・ダウン』があるが、あの力作にも負けてはいない。大迫力! 拾い物の一本である。
アウトポストというのは前哨基地のこと。線上に配置されたそれらは隣国パキスタンからのタリバン兵流入を防ぐためのものだったが、「三国志」の軍師・諸葛亮孔明がその施設を一瞥したらニヤリと笑っただろう。基地は谷底にあり、素人目に見ても四方から攻撃を受ける脆弱な構えなのだ。
主演はホント、お父さんに似てきたなあ。クリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッド(『フューリー』)。彼が演じるロメシャ二等軍曹は除隊後に「レッド・プラトゥーン」という戦争ドキュメンタリーを執筆しており、この小説は一時期『アルゴ』のベン・アフレックの演出で映画化という話があった。
こちらは新鋭ロッド・ルーリー監督の作品。ロバート・レッドフォード主演の軍刑務所映画『ラスト・キャッスル』など男が群れる作品が得意なアクション派であり、登場人物全員が実在の兵士という小隊映画を上手くさばいている。作品は全体が人名を冠した章立てになっており、メル・ギブソンの息子マイロ・ギブソンも新任の大尉役で助演している。
見ものはやはり、劇中約40分ノンストップでつづく戦闘シーンだろう(実際の戦いは14時間に渡った)。丘陵の向こうから敵兵がわらわらと押し寄せ、米兵は決死の覚悟でそれを迎撃する。
リ・レコーディングミキサーは『ランボー ラスト・ブラッド』のロバート・フェルナンデス。音響編集監修は『ハンター・キラー 潜航せよ』のクリス・カサヴァント。タリバン兵の猛烈な銃砲火にさらされる混乱、リアリティーが凄まじい。ちなみに撮影も『~ラスト・ブラッド』と同じヨーロッパ南東のブルガリア共和国で行なわれている。
ロメシャ二等軍曹と、傷ついた仲間を救うため死地に飛び出したカーター特技兵は、のちに軍人が受ける最高位である名誉勲章を受賞した。通常は死後に贈られるもので、生存者が受けるのは異例のことだという。それほど過酷な戦いだったわけだが、同時にこんな戦闘に若者たちを追い込んだ上層部の怠慢に憤りを覚えもする。戦争で倒れるのは敵も味方も弱者ばかりだ。
映画『アウトポスト』
3月12日(金)より、グランドシネマサンシャイン池袋、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
監督:ロッド・ルーリー
出演:スコット・イーストウッド、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、マイロ・ギブソン、オーランド・ブルーム
原題:THE OUTPOST
配給:クロックワークス
2020年/アメリカ/シネマスコープ/123分
(C)OUTPOST PRODUCTIONS, INC 2020
公式サイト https://klockworx-v.com/outpost/#smooth-scroll-top